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プロローグ

ドカンッ


やや小さめの爆発が高級中華料理屋で起きた。

爆発自体の被害は少ないものの、燃えやすい高級布をふんだんに使った店内はあっという間に炎に包まれた。

その様子を、やせ細った男性は薄い笑みを浮かべながら眺め、部下に横眼でため息をつかれていた。


「止めてください、シロタさん。事件現場で笑うだなんてー」


「俺がもうここにいる時点で、サカガワの連中はいい顔してねぇさ。ほら見ろ、サカガワの厄介事の奴らが来たぞ。」


「サカガワ?ってあの大きな会社のですか?」


数年前に急に町の中心に大きなビルが建ち、そのビルはサカガワグループという会社となった。

荒れ地・古い街並みだったこの『町』を大きく近代的な『街』にしてしまった。

しかし未だに古い型の人間たちは古く汚い街に住み、このグループの介入を拒んでいる。

その拒んでいる人たちが立ち退かない限りは、サカガワグループはその土地に手出しができない。

この中華料理店はその許可が出ていない地区に出来ていた。

逆に警察も下手にサカガワの所有地には手を出せない。

じりじりとした対立が数年前から続いているのだ。


シロタと部下のすぐ後ろで高級車が二台、きゅっと止まって中から黒ずくめの男が数名出てきた。

うっすら笑みを浮かべるシロタに嫌そうな目を向け、料理店の関係者のほうへとふらふら歩み寄っていく。


「全くもう。シロタさん!刑事なんだから現場をにやけながら眺めないでください!聴取!」


それに比べ部下はせかせかと、周りに聞き込みなどなんだのとやりながらシロタをせかせるが、急にタバコを吸い始める始末。

この破天荒・めちゃくちゃな性格のせいでついていける部下が中々いないとの評判。

なので、今連れている部下も先日顔を合わせたばかりなのだ。


「どぉせ、また『犬』の仕業だぃ。聞き込みなんざ無駄だぜ…それに、こんなところに店を構えていちゃあな…」

「…犬?あのぅ、シロタさん。俺未だに犬ってなんなのか・・・・・・っう?」


安い煙草の匂いがしばらく漂っていたが、急に強くきつい煙草の匂いがした。

シロタはゆっくりと振り返ると、その場所には似合わないきらびやかなスーツを着た男性が屈強なボディーガードに囲まれて突っ立っていた。

その男性の葉巻が強い匂いを放っている。

シロタを見かけると、不気味な笑みを浮かべてボディーガードをぞろぞろと引き連れて近づいてきた。

サカガワグループという会社の頂点、サカガワ。


「いつもどうも、シロタ刑事」


微妙に空気が張り詰める。

二人とも笑っているのに、ぴりぴりしてよくわからない汗がふく。


「おぅ、今回はこっちに落ち度はないぞ。許容範囲じゃねえ処に店を置くからだよ。」

「えぇそうでしょう。しかし、これは立派な犯罪でしょう?放火なんて。」

「そりゃそうだ。俺だって奴らの肩を持つつもりはねぇよ。犬は捕まえたら保健所だ。」

「そうですか。」


まだそんなに吸っていない葉巻を地面に投げ捨て、火を消すようなことはしなかった。


「シロタ刑事。あなた方に失望したわけではありませんが、こちらも自衛対策をしようと思いましてね。」

「犬対策でもするのかぃ?」

「はい。野良犬は思ったほど凶暴でした。」


にっこりと笑ったサカガワの顔はとても穏やかではなかった。

闇に染まりきった、ぞわっとするような笑み。


先程からこの場所に見かけない顔がちらちら見えているのは分かっていた。

警察でもない、ヤクザでもない、野次馬でもない。

殺伐とした空気をまとった輩がこの現場を取り囲むように『犬』を探している。

まるで餌を追う獣のような、飢えたような表情。


「それでは。あなたも出過ぎた真似をしないようにしてください。」

「あぁ、できるだけな。」


ぷっつん、と空気の緊張がとれた瞬間だった。

何をしに来たのか、と思うほど短い間ここにいただけで退場したサカガワの高級車は、やや荒い運転で闇夜に消えた。


「シロタさん…あの、犬って?」


部下はおずおずと聞く。


「なんだ、お前知らないでここに就いたのか。…野良犬がいるんだよ、この街に。」

「野良犬?犬が爆発でも起こしたって言うんですか?」


物陰から視線を感じ、ふっとその場に顔を向けると赤髪の少年がこちらをそっと眺めていた。


「そうさ。だが証拠がいつも見あたらねぇ…証拠がない限りは、無理やりあのガキたちを引きづり回すきことはできないからな。」


煙草の火を消し、大きく深い溜息をした後にその赤髪の少年にふらふらとシロタは近づいた。

少年は逃げる様子もなく、シロタをじっと眺めていた。


「よう、野良犬…」


赤髪の少年の横には小柄な少年が満面の笑みでシロタを見つめた。

ごうごう燃える中華店の炎は少年たちの顔をよく照らし映す。


「証拠はいつも通り見つからないだろう」

「そうだな、見つからない。」


赤髪の少年の頬にはナイフで切られたような傷が生々しく炎に照らし出されていて、赤い髪も火事現場の空気に溶けていきそうなほどサラサラと靡く。


「あんま派手にするなよ。証拠がいつも掴めないとはいえ、俺はいつでもお前を捕まえることが出来るんだ。」

「あんたには迷惑かけない。じゃあ、騒がしくなってきたから行く。行くぞ、ユースケ。」


小柄な少年と共に赤髪の少年は路地裏へと消えていった。

その様子はまるで野良犬。

シロタは疲れたように笑い、その場を離れた。

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