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Оолива Смирнов1

夜の街、空に花火のような輝き

違うのは彩が寂しく白一色しか無いこと

空よりも派手に地上が燃えて

爆発音と人々の絶叫が聞こえること


オリビア・スミノフはビルの屋上から

陰鬱な表情でそれを眺めていた

彼女には叫びも歓声も変わらないのだろう

夜風に長い銀髪をなびかせ

右手のナイフに視線を移した


早く……装甲したい……


某政府から支給されたこのナイフはВаджра (ヴァジュラ)あるいは金剛杵と呼ばれ

生命、正確には精神と引き換えに人体を強化する

具体的には血液にナノマシンを混入し

空気に触れ酸化させることで作動する仕組みらしい

赤い血液が黒く変色し

体内の臓器や筋骨を補強・再構築する


皮膚は直接黒い血液が全身をまとい硬質化して装甲になる

まるでオートバイレースの皮ツナギのように見えなくもないが

違いは過剰なプロテクター

ヘルメットのような頭部装甲も相まって、SWATか何かの特殊部隊か

あるいは80年代の第三京浜に集ったバイク乗りのような様相である


オリビア・スミノフはため息を吐く

こんな東洋の辺境の街で

知らない人が何人死のうが興味はない

どうせなら祖国の街を焼いてくれないかしら

優しいПекарьや

物乞いのбабушкаが

理不尽に焼かれる様はどんなに面白いことか


ああ……

そんなことより……

早く装甲したい……


幾許かのやる気を戻したオリビアは状況を観察する

眼下の都市中央で飛行する発光体はТат твам аси(駆除目標対象物)であると確認


それは最近、主にこの国で繰り広げられている現象で

強いストレスを抱える人間がサートリを開いてジョブツするとか

詳細は知らないし興味も無いが

要は突如人体が発光、翼を持ち空に浮かび

高熱を発し周辺を溶解・破壊する


現在確認されている唯一の駆除方法は

人体にВаджра (ヴァジュラ)でナノマシンを注入し

黒い血で装甲、及び付加された能力で対象を殲滅する

なお、駆除が遅れた場合、対象は……


もういい……

我慢できない……

連邦保安庁の要請により秘匿任務を遂行する



オリビアはビルの屋上で

自らの白い首にナイフを添えて


切った


赤い血飛沫が舞い

血臭が彼女の鼻につく

薔薇のようないい香り

でも、まだよ


更にオリビアは心臓を目がけ

胸にナイフを突き立てる

頸動脈からの大量出血は数秒で死に至る

首から心臓へ

この時間差が彼女にとって最もスリリングで耽美な瞬間だった


素敵……

でも忙しないわ……

Polkaポルカを踊る暇もない……

でも楽しまないと……

三年限りの命だから……


彼女の白いフリルブラウスが真っ黒に染まるとき

首から噴き出す血飛沫が屋上の床に黒い文字を描く



Ни пуха ни пера



オリビアが待望する時間が訪れた

彼女は感謝の嬌声を黒い血に捧げる


「К черту」 (地獄に落ちろ)


勿体ないと言わんばかりに

散らばった血液がオリビアの体に収束する

体内にナノマシンが循環し、肉体を内側から作り変える

全身を黒い血が覆い、硬質化して装甲を形成する

首と胸の痛みに耐えた彼女にご褒美として強い鎮痛成分が分泌される


「Ух ты………Здорово…Ой……Ой……Вай………Чёрт!」


覚醒成分も分泌されているため気を失うことも許されないオリビア

全身を硬直させより多くの鎮痛成分の分泌を要求するが

黒い血は冷徹に肉体の再構築を進め

彼女は人外の外観と能力を得た黒い戦士に成り果てた


オリビアは装甲した体をそっと撫で

一言呟いて任務を遂行する


「Я вас очень люблю」(愛してるわ)


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