94.悪役令嬢の新年
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
※※※※※※※更新についてのお知らせ※※※※※※※
ご覧いただいてる皆さまへ
ご愛読いただき、誠にありがとうございます。
この度、作者の実生活の都合により、更新の頻度を変更させていただくこととなりました。
今までは、通常1日2回、話の流れ上から、まれに3回とさせていただきました。
これを、『基本は1日1回、不定期に休みあり』とさせていただきます。
楽しみにしていただいている中、大変恐縮ですが、よろしくお願いいたします。
皆さまのお声に背中を押され、連載を始めたスタンスを変えず、題名通り、『エリザベスの幸せ』を描くため、今後とも、執筆していきたいと思います。
感想欄などで、このキャラの小話を読んでみたい、というお声もちらほら、お聞きしますので、機会を改め、募集してみるのもよいかな、とふわっと考えております。
また、作者自身で何度か読み返しても残っていて申し訳ない、誤字の報告も参考にさせていただき、感謝しています。
そして、★、ブックマーク、いいね、感想など、とても励みになり、非常に大きな執筆の原動力になっています。
この場を借りて、改めて深く御礼申し上げます。
引き続きのゆるふわ設定で、気軽に楽しんで読んでいただければ、幸いです。
これからも、どうかよろしくお願いします。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。
ルイスとの新生活としては、これで32歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
『今年も色々、あったなあ』
私はルイスと二人、公爵家の控え室にいた。
“新年の儀”を行う大広間への入場を待つためだ。
去年の今ごろは、臣籍降下前のルイスの婚約内定者として、皇族控え室にいた。
ルイスが私のために、“不敬の許し”を得ようと頑張ってくれてたんだよね、と思い出すと、胸が温かくなってくる。
入場するまでの待ち時間を利用して、公爵家や控え室が近くの侯爵家へ、一家ずつ、礼儀正しく、今年の感謝と来年を祝う挨拶をしていった。
中立派、第五皇子派、第四皇子派、と入り乱れているが、相手がどういう態度を取ろうとも、若輩者でも、序列第一位だ。
見逃せない失礼は穏やかに窘め、それ以外は、泰然としていよう、と二人で決めていた。
序列第二位で第五皇子派の、自称・ルイスの伯父公爵家とも、表面上は穏やかにさらっとすませた。
ただし娘達のルイスを見つめる視線が、相変わらずしつこくねばっこい。
あからさま過ぎましてよ、と余裕をもって微笑んでおいた。
まあ、見とれる程度なら、許して差し上げよう。
今日のルイスは、エヴルー“両公爵”の一人らしく、黒い夜会服を見事に着こなし、爽やかな男の色気も充分だ。
ポケットチーフは私の瞳の緑、ピアスとカフリンクス、スタッドボタンは、エヴルー公爵家紋章の金細工で、私の髪の色を身につけている。
真紅のサッシュでガーディアン三等勲章と、胸には星章を付け、これもかっこいい。
私もルイスの瞳の色に夜空を映したような、濃い青のAラインのドレスだ。
ボートネックのトップスには、ビーズサイズのオニキスで、エヴルー公爵家紋章を、黒い描線で刺繍している。
この刺繍はエヴルー公爵領で刺された。
何を描いているか、すぐには分からない。
一面の星の煌めきにも見えるが、シャンデリアの光に当てればよく分かる、“隠れ豪華”なドレスなのだ。
公爵家紋章を一見隠した、オニキス使用のアイディアは、マダム・サラだ。
服喪明け前の、最後の大きな催し物に、素晴らしいものを、よくぞ思いついてくださった。
今年もお世話になりました。
ガーディアン三等勲章と星章以外、宝飾はエヴルー公爵家紋章のピアスと、ルイスが結婚式に贈ってくれたパリュールの中のティアラだ。
大粒のサファイアとオニキスの連なりを、繊細な金細工が支え、その中央に大粒のイエローダイヤモンドが輝いている。
ルイスに護られた私のようなデザインで、私のお気に入りの一つだ。
「服喪でなければ、“隠れ豪華”なドレスに合わせ、ダングリング(吊り下げ式)イヤリングに変えて、指輪も付けられましたのに」
とは、マダム・サラの言葉だ。
マーサも隣りで、うんうんと頷いていた。
服喪明けが恐くもあるが、ドレスをまとった私はエヴルー公爵領の広告塔だ。
堂々と優雅に着こなしておこう。
〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜
入場する扉の前で、ルイスが私の手の甲に接吻した後、優しく青い瞳を細める。
「エリー、今夜も本当に綺麗だ。
結婚して初めて迎える新年だ。
今年はありがとう。来年もよろしく。二人で幸せになろう」
「ルー様はとても素敵でしてよ。
えぇ、初めての新年ね。こうして一年ずつ、重ねて参りましょう。
今年はありがとう。来年もよろしく。二人で幸せになりましょう」
簡易な言葉に想いを込めて、二人で見つめ合った後、担当の侍従に咳払いで促され、入場の姿勢を取った。
〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜
「エヴルー“両公爵”、ルイス閣下、エリザベス閣下、ご入場です!」
いくつものシャンデリアが高い天井に吊るされた、豪華な大広間の真紅の絨毯の上を、私とルイスは、胸を張って前を向き、凛として歩いていく。
マダム・サラの思惑通り、シャンデリアの光にオニキスビーズの刺繍は輝き、令嬢やご婦人方の目を引いていた。
「エリザベス閣下は、今夜も素敵なドレスですこと」
「あのトップスの輝きは、エヴルー公爵家の紋章ではありませんこと?
布地から輝いて、浮かび上がってますわ」
「ルイス閣下も貫禄がついていらした。責任ある立場になるとご成長されるとは、本当だな」
ルイスへの品評も混じる中、エスコートを受け優雅に公爵家の定められた場所に立つ。
その後は、皇城舞踏会の時と同様、皇女母殿下とご実家の侯爵家当主のお兄様、皇帝皇妃両陛下が入場なさる。
皇女母殿下は、1ヶ月前の受洗式の時に見えた弱々しさは感じられず、足取りもしっかりと進み、壇上では優雅に振る舞っていらした。
周囲には、皇太子の死から約半年ということで、落ち着きを取り戻しているように見えるだろう。
しかし、私には本当に回復途上なのか、臣下が揃う新年の儀で、一時的に気を張ってらっしゃるのかは分からない。
共通の友人、中立七家の一家、ノックス侯爵夫人アンナ様とのお手紙のやり取りでは、ほとんど話題が、娘・カトリーヌ嫡孫皇女殿下のことらしい。
心の支えになっているようだった。
皇城舞踏会での出仕のお誘いは、新しい帝都邸の準備の関係で、来月末まで伸ばしていただいている。
訪問前に、皇妃陛下を通して、皇女母殿下の侍医に、心身の状態を確認しておこうと思った。
今すぐ後ろ盾にはなれないが、無用に傷つけたくはない、私にとっては大切なお方なのだ。
最後は、皇帝皇妃両陛下だ。
儀礼官が入場を告げ、お姿が現れた途端、ぱあっと雰囲気が華やぐ。
さすが、のひと言だ。
皇妃陛下の回復も順調のようで、今日のお召し物も黒のドレスだが、華やかに着こなしていらっしゃる。
エスコートなさる皇帝陛下も自慢げだ。
お二人が壇上に立つと、新年の儀の始まりが、儀礼官により告げられる。
それと同時に、皇城内にある聖堂から、鐘の音が鳴り始める。
喪中ということで、帝都内では大聖堂のみだが、却って、高らかな鐘の音が荘厳にさえ聞こえていた。
その響きの中、大広間の貴族達は、一斉に礼をとる。
心臓の上に右手を当て、神へ祈り、帝室への忠誠を誓う。
鐘の音の静まりを見計らった儀礼官が、祈りの終わりを告げ、臣下は皇帝陛下のお言葉を賜る。
帝国の象徴である存在を感じさせる声音で、新年の無事な訪れを祝い、臣下の忠誠心に感謝を示される。
そして昨年の皇太子の薨去、それを乗り越えるかのような、二人の皇女殿下がたのお誕生について語り、帝国のさらなる発展を願い、お言葉を終えた。
「皇帝陛下、万歳!帝室、万歳!帝国、万歳!」
『皇帝陛下、万歳!帝室、万歳!帝国、万歳!』
儀礼官が先んじた、万歳三唱が鳴り響く。
皇帝陛下が手を挙げると、またもや静まり、乾杯のご挨拶は、皇妃陛下だ。
最後に高らかにグラスを掲げる。
「帝国の繁栄を願って!乾杯!」
『乾杯!』
例年の赤ワインではなく、白ワインで帝室・臣下一同、祝杯を上げた後は、臣下から皇族へのご挨拶だ。
〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜
当然、序列第一位、エヴルー“両公爵”家の私とルイスからである。
ルイスは騎士礼を、私は深くお辞儀を行い、主君への敬意を表す。
これも臣下のお手本で、手抜きは絶対にできません。
ただでさえ、次の序列第二位の、ルイスの伯父公爵家が、ケチをつけようと目を光らせてるんだもの。
「帝国を遍く照らす太陽たる皇帝陛下。
帝国の麗しい月である皇妃陛下。
この清々しき日に新しき年を迎えた慶びを申し上げます。
帝国の愛らしき蘭のつぼみである第一皇女殿下の清祥なご成長をお祈り申し上げます」
ルイスもすらすらと、帝室儀礼に則った挨拶ができるようになったなあ、と感慨深い。
最初は一緒に練習してた。懐かしい。
「おう、よくぞ参った。ルイス、エリー閣下。楽にせよ。
マルガレーテは元気だ。安心するが良い。
新しき1年も、今まで同様、よろしく頼むぞ。
本年は変革の年だ。臣下筆頭として、頼りにしておる」
え?!『変革の年』なんて、聞いてないんですけど?!
後で、側近の方々や皇妃陛下に叱られなきゃいいな、と思っていたら皇妃陛下も同調する。
これは伯父様達、側近も込みだ。
不意打ちで、臣下の反応を見てるんだろう。
実際、耳にしたらしい貴族達から、ざわつく気配を感じる。
「ルイス閣下、エリー閣下。
今年は昨年を受け、色々と変わっていくでしょう。
喜ぶべき方向へ導く助けとなってくださいね。
乳母として、教育係として、いつもありがとう。マルガレーテの顔も、また見にいらして。
二人とも待ってるわ」
これは、エヴルー“両公爵”家と、帝室は切っても切れない、良好な仲で、固く結ばれている、と仰りたいのでしょう。
「はっ、第一の臣下として、帝室を守護し奉る藩屏として、皇帝皇妃両陛下を誠実にお支え申し上げます」
「はい。エヴルー“両公爵”の名に恥じぬよう、お支えする努力をいたします。
マルガレーテ第一皇女殿下の愛らしい御尊顔、心待ちにしております」
乗せられて、『粉骨砕身』とかは、絶対に言わない。
できない空手形は見せない方がいい。
だけど、しっかり仲良しアピールはしておく。
「おう、頼りにしておるぞ」
「ルイスもエリー閣下と一緒に、ぜひマルガレーテに会いに来てちょうだいね」
後ろが詰まっている中、最後の声掛けも明るかった。
これは合格というところだろう。
次は、皇女母殿下へのご挨拶だ。
礼の姿勢も儀礼通り行う。
大広間中の視線を浴びているのだ。
臣下のお手本として、皇女母殿下へも、もちろん礼儀正しく振る舞わなければいけない。
皇太子妃殿下でなくなったため、軽んずる貴族もいる。
そういうところで品性が分かるのに。
「帝国の芳しい薔薇である皇女母殿下。新しき年のお祝いを申し上げます。
帝国の愛らしき鈴蘭のつぼみである嫡孫皇女殿下のご健勝なご成長を、お祈り申し上げます」
「ルイス閣下、エリー閣下。どうかお楽になさってね。
受洗式ではありがとう。
とうとう喪も明けます。またお会いできることを楽しみにしてますね。
カトリーヌもだいぶ大きくなったのよ。
ぜひ、お二人で会いにいらしてね」
皇女母殿下もカトリーヌ皇女殿下の後ろ盾探しに、乗り出したらしい。
子どものために、母は強くなれる。
「はっ、カトリーヌ嫡孫皇女殿下のご無事なご成長を願っております」
「カトリーヌ嫡孫皇女殿下、さぞや愛らしいご成長ぶりでございましょう。次のご出仕の際のお目もじ、楽しみにしています」
私とルイスは言質を与えないよう、ていねいに答えると次に譲り、壇を降りた。
〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜
公爵エリアに降りてくると、今度は私達がお付き合いのある下級貴族の方々の挨拶回りを受ける番だ。
その前に、ルイスが給仕からシャンパンを受け取り、二人で乾杯する。
「エリー、お疲れ様。新しき年の恩寵が、昨年よりも弥増すように」
「ルー様、お疲れ様です。新しき年の恩寵が、昨年よりも弥増すように。
この後、騎士団にも行かれるんでしょう。
飲み過ぎて、ピエールと二人、晩餐会に遅刻しないでね」
今夜は、新年の儀が終われば、家族で過ごす貴族家がほとんどだが、中には皇城の職場で飲み明かすところもある。
その代表格が騎士団だった。
「いや、早めに帰ってくるよ。
タンド公爵家での新年の晩餐は、最初で最後だ。楽しみにしてるんだ」
新年の夕食、晩餐は、家族で楽しむ習慣だ。
帝国では、各々の誕生日は別個で祝わず、新年で皆、一斉に一つ歳を重ねる。
私は二十歳、ルイスは二十二歳だ。
家族みんなで、家族一人ひとりを祝う。
そのための、新年の晩餐だ。
ルイスが最初で最後と言ったのは、昨年までは、“一応”、帝室の晩餐に出席しており、来年はエヴルー公爵家帝都邸が竣工しており、私と二人で祝うためだった。
『ん?ひょっとしたら、二人だけじゃないかもしれない?』と、つい先走って考えてしまい、頬が薄紅色に染まっていく。
やだ、少し恥ずかしい。
「エリー。どうした?シャンパンが強かったか?
果実水にしようか?」
「ルー様。大丈夫。
来年の晩餐は、新しいエヴルーの帝都邸で、二人っきりなんだなあって思ってたら、ちょっと照れくさくなっちゃったの」
その先まで考えてました、なんて、この場では絶対に言えない。
ルイスが早とちりして大騒ぎになりそうだ。
「ああ、今から楽しみだ。引越しも本格的になる。
エリーも働き過ぎないよう、気をつけて」
「はい、ルー様。したくても、『“滅私奉公”癖、抑制チーム』がさせてくれないもの」
「確かにそうだ。っと」
ルイスが少しかがんで、私の耳元に囁く。
「エリー。運が良かったら、二人だけじゃないかもしれないよ」
「え?」
少し横を向いたルイスの耳が、みるみる赤くなっていく。
もう、照れるくらいなら、言わなきゃいいのに。
『同じ事があったらいいなあ』と思っていた事も言い出せず、嬉し恥ずかし、逞しく頼り甲斐のある背中を、今だけはぽかぽか叩きたい気分だった。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
★、ブックマーク、いいね、感想など励みになります。
よかったらお願いします(*´人`*)