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87.悪役令嬢の婦人会と受洗式

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—



エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。

ルイスとの新生活としては、これで26歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。



「初めまして。エヴルー公爵閣下。

騎士団長ウォルフ・ゲールの妻でございます」


「本日は騎士団参謀を務めますルイスの妻、エリザベスとして出席いたします。

どうかエリーとお呼びください」


「まあ、エリー様。お心が広くていらっしゃいますこと。

私はエヴァンゼリンと申します。エヴァとお呼びください。

本日はよろしくお願いします」


「こちらこそ、ようやく参加が叶いまして、嬉しゅうございます。エヴァ様。

ご指導ご鞭撻(べんたつ)のほど、よろしくお願いいたします」


 私は深めのお辞儀(カーテシー)をして、すぐに姿勢を正す。




 ここは騎士団本部の集会所—


 30人ほどの女性が集まる予定だ。

 全員騎士団員の妻、つまり騎士団婦人会の会合である。


 私は6月末の結婚以来、初めての参加だ。

 婦人会に入会していない奥様も中にはいらっしゃる。


 しかし、ルイスが小姓として入団し、ウォルフ様付きになって以降、常に上官だった。

 この騎士団長との関係上、入会しないという選択肢はない。


 元々エヴルーの領地経営もあった上、結婚後、色々ありすぎて、やっと日程調整がついて参加できた。


 タンド公爵家の“お義姉様”の一人、従兄弟ピエールの奥様を通じ、不義理のお()びと差入れは続けてきた。


 が、挨拶(あいさつ)から、騎士団長夫人エヴァンゼリン様の圧がすごい、圧が。


 ルイスから、ご家庭では奥様が連戦連勝と聞いてはいた。

 とてもよくわかる気がする。



 口調からも、決して私の味方ではないことは分かる。

 お立場上、中立を取るのは当然だろう。

 女性の集まりは、本当に大変だ。

 王妃教育の後宮運営で嫌というほど学んだ。



「私のお隣りにどうぞ。

皆様が(そろ)ったら、ご挨拶(あいさつ)と自己紹介をお願いしますね」


「かしこまりました。エヴァ様。

こちらは、エヴルーの焼き菓子なのですが、お席にお配りしていても、よろしいでしょうか」


「まあ、皆様、お喜びになると思いますよ」


「ありがとうございます。少し失礼します」


 私はティーマットが敷かれた席に、紙袋に入れた焼き菓子セットを順々に配っていく。

 もうすでに着席していた場合は、丁寧に挨拶(あいさつ)し手渡す。

 ほとんどが笑顔で受け取っていたが、中には無表情な方もいた。


 ルイスも全員に可愛がられた訳ではない。

 15歳の騎士叙任は、興味と嫉妬と羨望を集めた。

 今でも好意を持っていない人間もいると話していた。覚悟はしていたので、さほどではない。


 全ての席に配り終え、神妙に席に着く。


 こうして始まった始めての騎士団婦人会の会合で、さまざまな洗礼を浴びたが、最後はまとめられ、私にとっては、“無事に”終わったのだった。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜



「エリー様。少しこちらへ」



 後片付けを手伝っていると、婦人会会長のエヴァンゼリン様から呼ばれる。


 先ほどまでとは違った笑顔だ。

 今は私人として、接してくださっているのだろう。



「ふふっ…。最後にあそこまで仰るとは思いませんでしたわ。

夫から色々話を(うかが)っておりましたのに」



 確かに、ウォルフ騎士団長には、10回以上は会っているだろう。

 私がエヴルーの女領主であり、王国の第一王女だからこそだ。


 今回の会合の目的は、会員の親睦を深めるためと、警備などが増える、社交シーズンの冬季に、夫を支える工夫の共有などだった。


 私は挨拶(あいさつ)の後、出席者の発言をノートを真面目に取ったが、これも驚きの目を向けられていた。

 その間も、私の脳内では、婦人会名簿の氏名と顔、貴族年鑑、騎士爵ノートの内容と照らし合わせていた。


 当てこすりも多く、私がおとなしく拝聴していることに、気を大きくしたのか、ルイスへの侮辱発言まで飛び出した。

 さすがにエヴァンゼリン様が(たしな)めていらしたが、私は逃す気はない。


 私のターンを待っていただけだ。


 最後に挨拶させていただきたいと、貴族的な微笑みで、会長のエヴァンゼリン様にお願いした後は、反撃が必要なものには、全て反論させていただいた。



「本日はさまざまなご意見をお聞かせいただき、ありがとうございました。

騎士団にもさまざまなお役目がある通り、支える奥様方も十人十色、実に“さまざまだ”と実感いたしました」


 玉石混淆(ぎょくせきこんこう)と言いたいが、あまりに角が立つので、()めておく。


「最後に……。

夫のルイスについて、彼の名誉にかけて、申し上げます。


私の夫のルイスは、“腰掛け参謀”などではございません」


 堂々と胸を張り、凛とした声が隅々まで届くように伝える。コソコソ(ささや)き、笑ってた方、しっかり聞こえてますわよ。


「公爵家に許された私設騎士団を発足させ、騎士達を鍛え、エヴルー公爵領を、帝都最終防衛線の拠点にしようと、結婚当初から努力を始め、今も続けています。

そして、帝国騎士団と連携し、力を合わせ、帝国を護ろうとしています。

その必要性を認められ、騎士団での参謀職を続けています。

先日の領内の教諭募集も、あくまでもご本人の自由意志を基に募ったのみ。

人気取りをしている暇なぞ、ございません」


 あの先生募集まで、『いやらしい』とか言ってたのだ。

 騎士団では使いこなせない人材を活用して、どこが悪い。


「なぜなら臣籍降下した皇族として、藩屏(はんぺい)として、彼には、エヴルー公爵領家には、帝室と帝国を護る義務があるからです。

だからこそ、序列第一位を頂戴しているのです。


またエヴルーからどうやって駆けつけるのかと仰せでしたが、最大限の努力はしています。

緊急招集の狼煙(のろし)を見逃さないよう、公爵邸屋上には“監視小屋”を作り、ルイスと騎士団専用の“緊急道路”を、領内に帝都へ向けて最短距離で敷設しました。

これで、帝都まで5、6時間かかるところを、約2、3時間で到着いたします」


 えぇ、エヴルーについても、言いたい放題でしたわよ。

 だったらあなた方が使ってる、化粧下地の日焼け止め、さっさと使用停止なさってはいかが?


「しかし、私設騎士団を維持するには費用がかかります。

私はその面で、ルイスを支えています。

誇りを持って、エヴルー公爵領の領地運営をしております。


この会合に出て、支える方々も十人十色と分かり、大変安堵いたしました。

また、皆様のお知恵もノートに(したた)めさせていただきました。

日程が合えば、再び参加したく存じます。

その時はどうか、よろしくお願いいたします」


 お付き合いすべき方とそうでない方を、はっきりと認識できた。

 それだけでも大収穫だ。


 最後には優雅なお辞儀(カーテシー)で締め、嫌味や侮蔑を散々言った方には、黙っていただいた。

 “お義姉様”を始めとした数人から始まった拍手は、最終的には多数に及んだので良しとしよう。


 ルイスの昼行灯(ひるあんどん)化には失敗したが、あれほど侮蔑されるくらいなら『爪を隠した能ある鷹』をはっきり知らしめた方がいい。

 最終的には騎士団の一参謀でありつつも、エヴルー騎士団を率いる団長となるのだ。



 私はエヴァンゼリン様に口角を上げ微笑みつつも、前をしっかり向いて答える。

 ルイスを守るためなら(ひる)んだりはしない。


「驚かせてしまい申し訳ありません。

ただ参謀の妻として、エヴルー“両公爵”の一人として、言葉の石礫(いしつぶて)が投げられる、夫の背中を守るのは、妻の役目と存じました」


「まあ、雄々しいこと。王立騎士団の訓練に参加なさっていただけのことは、おありなのね」


「はい。とても良い経験をしたと思っています」


「実は、私、エリー様に、前からお礼を申し上げたかったのです。

蜂蜜塩オレンジは、夏場の訓練で倒れる者を減らし、日焼け止めクリームは、肌が弱い方を助けてくれました。

汗をかいた後、涼やかにしてくれるミントウォーターは、夏場の常備品になっています。

冬場のハーブティーも、身体が温まると好評ですのよ。

ありがとうございます」


 エヴァンゼリン様は私にお辞儀(カーテシー)をなさる。慌てて()めていただく。


「とんでもないことでございます、エヴァ様。帝国を護る騎士団のために、できる事をしたまで。

訓練と任務に打ち込んでくだされば、礼など必要ございません」


「……本当にウォルフが言った通り。

下手な騎士よりも、“騎士気質”ですのね」


 へっ?“騎士気質”?キツツキじゃなく?

 騎士って、『忠誠、勇気、武勇、正義、礼節、守護、高潔、誠実、寛大、博愛』を、一応守る者よね?

 あ、ひょっとして、“滅私奉公癖”がまた出た?


 『別室で待機してくれてるマーサに知られたらマズい』と思いつつ、私はエヴァンゼリン様に、今さら遅い、貴族的微笑みを向けたのだった。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 11月末—


 カトリーヌ皇孫皇女殿下と、マルガレーテ第一皇女殿下の受洗式が、帝都大聖堂で、(おごそ)かに()り行われた。


 本来、生誕から100日前後に行う受洗式だが、皇太子の喪が明けてから、という皇妃陛下と皇女母殿下を、皇帝陛下が説得し実現したものだ。


 ただし、参列者は、肉親などに限られていた。

 喪中を考え、私とルイスは黒の正装だ。

 ドレスはマダム・サラが、すっとしたラインのエンパイアドレスにドレープを多めで優雅なラインに仕上げてくれた。

 デコルテには、二連の真珠のネックレスの中央に、ルイスの瞳にそっくりなサファイアが輝き、宝飾はこれのみだ。



 受洗式は、神の恵みである、天よりの水を、銀のスプーンで飲ませ、頭、手、足を浸し、恩寵と無事な成長を願う儀式だ。


 二人の皇女殿下の水色のベビードレスはお(そろ)いで、お二人の紋章である、鈴蘭と蘭のレース模様だった。

 受洗式のベビードレスは、水にちなんだ水色が一般的だ。

 皇女母殿下と皇妃陛下に抱かれたお姿は、本当に愛らしかった。


 私とルイスは、カトリーヌ皇孫皇女殿下には、叔父と叔母として、マルガレーテ第一皇女殿下には、兄とその妻として、参列した。


 当然、二人にも挨拶(あいさつ)に行く。


 貸し切られた大聖堂には、第四皇子と第五皇子、第四皇子母の側室様もいらしていた。

 本当の帝室内の身内だけだ。


 うるさそうな外戚、皇女母殿下や皇妃陛下のご実家は、いなかった。

 皇帝陛下が珍しくいい仕事してるなあ、と思う。

 きっと皇妃陛下に、『受洗式を行う条件』で出されたのだろう。



「うっわ〜、可愛い。とっても可愛い。僕達の姪御ちゃんと妹なんだよね」


「本当に天使みたいだ。手を触ってもいいですか?」


 私達よりも先に駆けつけた、二人の皇女殿下に興味津々の、第四皇子と第五皇子も可愛い。

 四人(そろ)って天使かな、と思える。


『ルイスも可愛かったんだろうなあ、ルイスにそっくりの赤ちゃんが生まれたら、すっごく可愛いんだろうなあ』とつい考えてしまい、頬がぽんっと紅く染まる。


 そんな私をルイスが気遣う。


「エリー、大丈夫か。紅くなってるよ。熱とか出た?」


「ううん、大丈夫。ルイスの受洗式も見てみたかったなあって思って、想像したらあまりの可愛さにちょっとほてっちゃっただけなの」


「エリーの方が、百倍可愛いよ。肖像画が残ってるじゃないか」


 そう。お父さまはしっかり、誕生直後から、生後100日の受洗式も、肖像画に残していた。


「俺達に子供ができたら、ラッセル公爵には、同じように肖像画を送って差し上げよう」


 ルイスの言葉に、ジンとしていると、大きな天使の二人が、私達を呼びに来る。


「ルイス兄様、エリー義姉様。すっごく可愛いから、見てあげて」


「兄様、義姉様。二人ともそっくりなんだよ。びっくりしちゃった」


 ルイスも身内だけの時に、“兄様呼び”をわざわざ注意せず、頭をポンポンと叩くに留める。

 それがまた嬉しくて、二人はルイスにまとわりつくのだ。

 天使、訂正、『ワンコだ。ワンコ』と思ってしまう。

 どっちにしろ、可愛いに変わりはない。

 皇妃陛下が勢力争いから、距離を置かせたためか、二人の仲は以前と変わり無いように見えた。



 私とルイスは、各々の母君に抱かれている、マルガレーテ第一皇女殿下と、カトリーヌ皇孫皇女殿下に、拝謁する。


「帝国の麗しい月である皇妃陛下。

この度は、帝国の愛らしき蘭のつぼみであるマルガレーテ第一皇女殿下の受洗式を、無事に()り行われ、誠におめでとうございます。

帝国の愛らしき蘭のつぼみであるマルガレーテ第一皇女殿下。

天より降るような神の恩寵の下、ご無事な成長を心よりお祈り申し上げます」


「帝国の(かぐわ)しい薔薇(ばら)である皇女母殿下。

この度は、帝国の愛らしき鈴蘭のつぼみであるカトリーヌ嫡孫皇女殿下の受洗式を、無事に()り行われ、誠におめでとうございます。

帝国の愛らしき鈴蘭のつぼみであるカトリーヌ嫡孫皇女殿下。

天より降るような神の恩寵の下、ご無事な成長を心よりお祈り申し上げます」


 ルイスと私がそれぞれお祝いを申し上げ、ルイスは騎士礼を取り、私はお辞儀(カーテシー)を行う。


 そうすると、皇帝陛下に(じゃ)れていた第四皇子と第五皇子が、私達に近寄り、ルイスの騎士礼の真似をする。

 本当に可愛さを振りまいていると思ったら、皇帝陛下の元に戻る。

 大聖堂も貸切りで、少し興奮しているのかもしれない。


「ルイス、エリー閣下。楽にして。どうか堅苦しさは抜きにして。身内だけなのだもの」


「さようでございます。ルイス様、エリー様。

本日はご臨席いただいて、とても嬉しゅうございます」


 皇妃陛下と皇女母殿下は、白いエンパイアドレスで、デザインもほぼ同じだ。

 皇妃陛下が皇女母殿下のために、あつらえたのかもしれない。

 皇女母殿下の心が心配されていたが、今日見たところ、感じたところでは、少し弱々しいものの、お元気そうだった。

 しかし受洗式で気が張ってるのかもしれず、見守りが大切だと思う。



 お二人のお言葉に甘えて、可愛らしい二人の皇女殿下を堪能する。

 皇妃陛下も皇女母殿下も、私には抱かせてくれた。


 本当に二人とも面立ちがよく似ている。

 別々に会っていたので気づかなかったが、そっくりだ。

 元々、血は繋がる叔母と姪なのだから、当たり前なのかもしれないが、双子の姉妹のようで、愛らしさが二倍だ。


 ルイスも幸せそうに、優しい眼差しで、皇女殿下達を抱く私を見守ってくれている。


 第四皇子母の側室様も、お祝いを述べられ、お二人を抱いてらした。


 一人の父親と、三人の母親、四人の子どもに、二人の妻、一人の孫。


 今の帝室の家族が(そろ)い、二人の小さな生命の未来を祝った、温かな式だった。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。


誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

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悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
[一言]  第四皇子も第五皇子も父親を反面教師に、まっすぐ育って欲しいな。
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