7.悪役令嬢の社交
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
エリザベスが幸せになってほしくて書いた連載版です。
まずは8歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
今回の紛争は戦闘終了したが、外交折衝が長引いているらしい—
そんな新聞記事を、修道院の販売所で見た数日後、タンド公爵家から手紙が届いた。
こちらからの返信ではなく、あちらから届くのは珍しい。
読んでみると、今回の紛争勝利記念の皇城祝賀会で、功労者に叙勲や叙爵があるらしい。
その方達と同じタイミングで、謁見をしてくださる、とのお知らせだ。
正直、とてもありがたい。
メインは紛争の功労者。交ざれば目立たない。
単独での謁見などで、極力目立ちたくなかった。
用件はこれだけではなく、お母さまの絵を拝見したい、とある。
また私の謁見のドレスは、帝国でのデビュタントと見なされるため、社交においては重要で、デザイナーを連れていく、との内容だ。
こちらが同意するか尋ねず、決定事項だ。
この件もあるので、いらっしゃるのは公爵夫人だ。
候補日を知らせてくれたので、至急アーサーと打ち合わせて、無理のない日程で決定。
失礼のない丁重な返事を認めた。
何せタンド公爵家は私の後見役だ。
ここでしっかり足場を固めないと、他へのアクセスなんてとんでもない。
第一印象は非常に大切だ。
今回の公爵夫人へのおもてなしに、私の未来がかかっていると言っても過言ではない。
アーサーやマーサ、シェフと何度も打合せをし、領地を活かしたおもてなしプランを考える。
この緊張感が伝わったのか、公爵夫人の訪問日程が決まると、使用人達のやる気が目に見えて高まる。
屋敷は柱の1本、ガラス窓1枚に至るまで磨き上げられる。
そして、私もだ。
マーサと侍女達により、美容プランが組まれ、庭園や修道院のハーブで作られた、入浴剤や、化粧水やクリームもふんだんに用いられる。
「いらっしゃるデザイナーは、帝都で一、二を争う方です。そんなお方に見せるお肌や髪に、曇りがあってはいけません」
気合の入ったマーサにより、日焼け防止のため、庭園でのハーブの手入れは禁止され、庭園の散歩も日傘が必携となった。
さすがにお母さまの墓参の際は、独りにしてもらえるが、なるべく日傘を手放さないように、と真面目に言われる。
そういえば、王妃陛下が派遣した侍女達も似たようなことを言ってたなあ、と思わず笑いが零れそうになる。
しかし、マーサとあの侍女達は全く違う。
私への忠義故の言動だ。
公爵夫人を迎える時の服装も、マーサから「帝都にお出かけし、既製品のお直しでもなさいませんか」と聞かれたが、「今のままで充分」と答える。
ドレスや宝飾品は、王太子との婚約時代に一生分、身につけたと思う。今はそういった贅沢に興味を失っていた。
それに、どんなに背伸びしようが、今回のお客様二人にファッションで敵うはずがない。
だったら、失礼のない服装で、できる範囲の装いの方が、かえって上品に見えるものだ。
それに私の領地到着時、数枚のドレスと、それに合わせた宝飾品が用意されていた。
お父さまの送金を用いて、事前に帝都で購入した品だ。
サイズはお父さまが知らせてくれていた。
父親にサイズを知られていたのは微妙だったが、王宮の服飾関係者には全員把握されていたのだ。今さらだ。
それも改めて、手直しされた。
「エリー様。公爵夫人のご訪問まで、サイズが変わらないよう、お願いします」
マーサの気合いがすごい。
迫力に押され、こくこく頷くしかない。
親戚とはいえ、私が女主人としてもてなす、最初のお客様だ。私以上に成功したい気持ちが伝わってくる。
ただし、私にも日常的な業務がある。
邸内で美容グループから逃げるには、執務室が一番だ。
それでも追ってきて、ハーブティーを用意され、目元のパックが施される。
「目が疲れる書類もできれば控えて」とのお願いに、「領主のお仕事です」と返したら、目元の温パックが待っていた。
これはこれで気持ちいいが、執務室にいるアーサーの眼差しが微妙に遠い気がする。
私以上に書類を見ているので、いっそのこと、パック仲間に引き込もうか、などと思ってしまう。
「はい、お疲れ様でした。引き続き、書類お仕事中は、20分ごとに20秒、おやすみください。
また参ります」
美容グループはとてもいい笑顔で、下がっていった。
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タンド公爵夫人、到着の日—
「タンド公爵夫人様、お客様、いらっしゃいませ」
私の時と同様、清潔なお仕着せを着た使用人達が揃って、お客様を出迎える。
彼らを背に、淡いオレンジ色に、スカートは薄いオーガンジーを重ねた、マーサ渾身のデイドレス姿の私が、お辞儀し挨拶する。
「お初にお目にかかります。
タンド公爵夫人様、マダム・サラ様。
遠いところ、エヴルー邸にようこそお越しくださいました。
いまだ拝謁ならぬ身ではございますが、エリザベート・エヴルーと申します。
ご無礼がございましたら、ご寛恕願います」
「お出迎え、ありがとうございます。
エリザベート・エヴルー卿。
タンド公爵夫人です。
堅苦しいご挨拶はここまでにしましょう」
「ありがとうございます。まずはお部屋へどうぞ」
久しぶりのお客様対応の出だしは上々で、王妃教育の復習気分だ。
二人を客室に案内した後、サロンに移りお茶でもてなす。
紅茶も何種類か用意したが、ハーブティーを希望される。
公爵夫人は、私に『伯母様』と呼ぶように命じる。
血縁上、事実なので受け入れるのみだ。
私はエリーと呼んでくれるようお願いする。
「このところ、帝都ではハーブティーが好まれてますのよ。
特に『天使の聖女修道院』様で調製されたお品が格別だとか」
「公爵夫人、私も飲みましたが、青臭くなく美味しゅうございました。あれで美肌の効能があるなら、言う事ございません」
「伯母様、サラ様。
こちらは我が家のオリジナルのレシピです。
『天使の聖女修道院』様とは少し異なりますが、どうぞお試しください」
いつも通りにハーブティーを入れ、お二方に勧め、自分も味わう。
うん、変わらぬ味で安心だ。
「まあ、美味しいこと。爽やかで後口もいいわ。香りも清々しいこと」
「本当に。『天使の聖女修道院』様と甲乙つけ難いですが、私はこちらが好みですわ。
柑橘の風味が効いているような……」
「実はお母さまのレシピのハーブティーなんです。オレンジピールだけではなく、オレンジフラワーも加えています。香りが優しく上品で、リラックスすると言われています」
「アンジェラが、こんなに美味しいものを……」
「まあ、そうでしたの。できましたら、茶葉を分けていただけませんか?」
「エリー。私もお願いしますわ。夫が喜ぶでしょう」
「かしこまりました。申しつけておきます」
帝都の流行を調べたシェフが用意してくれた、一口サンドウィッチやケーキもおいしい。
焼き菓子には、修道院のガレットも用意していた。
二人の口に、本当に合ったようで、嬉しく思っていたら、公爵夫人がカップを置いて、優しく微笑む。
「エリー様。美味しいものに後ろ髪を引かれてしまいますが、善は急げと申します。
早速、ドレス選びをいたしましょう」
ドレスは社交における甲冑、武具だ。
ここからは、王太子の婚約者として、何度も体験してきた。
まずはデザインを選定する。
流行を取り入れつつも、上品さを醸し出すように、と、公爵夫人とサラ様の熱のこもった討論が交わされる。
おおよそが決まったところで、次は、布布布。
布の洪水。
瞳に合わせるか、いえ、肌に映えるものを、とこちらも白熱する。
結論は瞳に合わせた緑系の布地に決まった。
濃い緑から明るい緑へのグラデーションで、デコルテや腕にレースを用いる。
ウエストには真珠が縫い付けられ、トップスにはカモミールの花の刺繍を立体的に、スカートの裾回りには麦の穂の刺繍を金糸で刺す。
今の領地を表したような素敵なデザインだ。
カモミールの花言葉は、『逆境に耐える』『逆境で生まれる力』『清楚』『あなたを癒す』『仲直り』。
麦の穂は、『豊穣』と『幸運』の象徴。
紛争勝利の祝賀会には、ぴったりだと、夫人とサラ様は話してくれた。
宝飾品はエメラルドで統一する。
ネックレスとイヤリング、髪留めは、大粒のエメラルドと、小粒のダイヤモンドを金細工に配している。
お父さまから贈られた見事な品だった。
「当日の衣装はこれでいいわ。公爵家に滞在中は……」
やっと終わったと思っていた私は、その後もお二人のドレス選びに、夕食までお付き合いしたのだった。
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領地の新鮮な食材でもてなした、夕食も朝食も好評だった。シェフに感謝だ。
マダム・サラは、翌日の朝食後、すぐに帝都へ帰った。
忙しい合間に来てくれて、ありがたかった。
私は執務室で、タンド公爵夫人に、領地の運営状況をアーサーと共に簡易に報告する。
まとめたものを公爵へ渡すようお願いすると、快く引き受けてくれる。
サボらずに、領主のお仕事をやってますアピールだ。
夫人は執務室にイーゼルを置いて、飾っているお母さまの絵を見て、「本当なのね」と呟いていた。
その後、サロンで紅茶を味わっていると、公爵夫人から切り出した。
「エリー様は顔立ちがアニーにそっくり。
ラッセル公爵様が肖像画を送ってくれていたから、初めて会う気はしないのだけど。
実際会ってみたら、髪と瞳のせいかしら。
雰囲気は全く違うのね」
アニーはアンジェラの愛称で、公爵夫人や家族はずっとそう呼んでいたと話す。
母は大人しいが、芯が通った性格で、物静かだった。
一方、不言実行で頑固な面もあり、領地に移り住むこと、王国への外交団に加わることも、父公爵が了承した後は、周囲がどんなに反対しても、言を翻さなかった。
そういうところは、似ていると言われそうだ。
「母は私が3歳の時に亡くなりました。
産後の肥立ちが悪く、ずっとベッドの上でしたが、優しかったことは覚えています」
公爵夫人はお母さまの性格や言動、幼い時のエピソードや帝国学園での生活を話してくれた。
夫人はお母さまの幼馴染で、元侯爵令嬢だ。
繰り上げた学園卒業後とほぼ同時に、タンド公爵家の従属爵位の一つ、エヴルー伯爵を継ぎ、領地に移り住んだ友人を心配していたと話す。
夫人は卒業後、半年で現公爵と結婚。
翌年、お母さまが王国に訪問し、お父さまと結婚。
非常に驚いたという。
「アニーは、“例の事情”で、親しい人以外は、人間不信になっていたから、結婚には本当に驚いたの。
でもラッセル公爵は、アニーをずっと守ってくれた。深く感謝しているわ。
公爵家の皆は、アニーと貴女の味方よ。安心して
帝 都 邸に来てね」
公爵夫人の言葉に嘘は無いと感じた。
帝都滞在中、迷惑にならないかと思っていたので、心中ホッとする。
昼食をすませ、もう一つの目的である、お母さまの絵画を見に、修道院へ案内する。
お母さまの“天使効果”は小さな時からあり、使用人に誘拐されそうになったこともあったそうだ。
肖像画を注文しても、画家のふさわしくない言動で中止となり、残せなかったと話す。
「だから、そっくりな貴女の幼い時からの絵画に、先代の公爵夫妻や旦那様は、とても喜んでいたの。
今回アニーの絵が見つかったと報せが届いた時、すぐには信じられないくらいだったわ。
本当にありがたいこと」
会話の内に、修道院へ到着し、院長様と挨拶を交わした後は、そのまま、絵画を保管している部屋に案内される。
3枚の油絵を見て、公爵夫人は驚きを隠さなかった。
「本当にあったのね。こちらの2枚は幸せそうに笑ってる。この肖像画も立派で……」
肖像画に近づいた夫人が、黙って凝視している。
「嘘でしょう」と小さく洩らし、頭を横に振る。
「エリー様。このネックレスは、タンド公爵家の公爵夫人に代々伝わる品なの。
母から娘に貸すことはあっても、今は私が持っているわ。どういうことなのかしら」
私は見つけていたデッサン帳の、宝飾の下書きを見せる。
「私も不思議に思っていました。
マーサによると、伯爵領に来た時は、宝飾品は最低限しかなく、こういった豪華なものはなかったと。
恐らくは、画家のシスターが、お母さまからデザインを聞き出し、それを元にデッサン帳で確認し、肖像画に加えたんだと思います」
「なるほどね……」
しばらく考え込んだ公爵夫人は、おもむろに切り出す。
「院長様。私どもにこの肖像画をお譲りいただいてもよろしいでしょうか」
「もちろんでございます。ただいま、包装いたしましょう」
院長様が部屋を出ていくと、夫人は私を振り返る。
「エリー様。本当にありがとう。貴女がここに来なかったら、この絵は私達の元には来なかった。
家族を代表して、深く感謝します」
お辞儀をする夫人を押し留める。
「私も色々あって、この領地に辿り着きました。
この絵がタンド公爵家に譲られ、伝わるだけでも、意味があったと思います。
どうか、皆さまによろしくお伝えください」
絵の代金は私がすでに払っている旨を伝えると、公爵家が持つと譲らない。
「でしたら、この修道院に寄附をお願いします。
お母さまも喜ぶと思います」
夫人は渋々了承すると、買取り価格より多めに加えた額の小切手を院長様に渡す。
「今日中に見せてあげたいから、お暇しますね。おもてなし、ありがとう。嬉しかったわ。
エリー、帝都で楽しみに待っているわね」
「伯母様、私も皆様とお会いできること、楽しみにしています」
私をそっと抱いた後、公爵夫人はもう1泊する予定を変更し、すぐに旅立っていった。
私の帝国における初めての社交は、こうして終わった。
アーサーとマーサによれば、無事に成功との評価だ。
緊張感から解放されて、夕食も摂らずに眠ったのだった。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書きたい、と思った拙作です。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
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