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82.悪役令嬢の外出

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


※日常回です。


エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。

ルイスとの新生活としては、これで21歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。



 エヴルーに帰る準備をしていて、はた、と気が付いた。



 すっかり浮かれていたが、“パールグレー”の件に、大きな“穴”があったのだ。

 私は帝国の貴族が必ず通う帝立学園で学んでいない。

 王国で同等の王立学園では学んだが、ここを突かれると面倒だ。

 エヴルーへの帰還は遅らせ、ルイスと一緒の予定にする。


 同時に、エヴルー公爵領の問題にも、大きな意味では関連することでもあった。

 以前から懸案事項だった領内の教育問題だ。

 帝国の最高教育機関を知るには、ちょうどいい機会だと思い、早速取り掛かることにする。


 帝立学園へ紹介していただくには、最高の方がいた。

 理事でもある皇妃陛下だ。

 大変申し訳ないがお手紙でお願いすると、お返事に推薦状が同封されていた。

 ご理解もお仕事も早く、本当にありがたい。


 それからしばらく、特別な短期留学生として、集中的に帝立学園に通った。

 ちなみに、通常の王国からの留学生も受け入れている。

 今はいないが、主に外交関係の子女達だ。

 王立学園もそうだったな、と懐かしく思い返す。


 他の生徒とは別カリキュラムだったので、バレてはいないと思う。

 伯母様とお義姉様達には説明し、アドバイスも受けたが、科も違うルイスや他のタンド公爵家の皆様には、何となく内緒にしておく。


 ここはルイスから聞いた思い出もある、興味深い場所でもあった。

 『これがよく食べてたっていうメニューなんだ』とか、『お昼寝していた裏庭ってここかしら』などと、大好きな人の秘密を、ちょっぴり覗いた気分になった、貴重な時間だった。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


「エリー。このところ、毎日外出してるんだって?」



 ルイスが仕事から遅く帰ってきて、なぜか私の部屋で夜食を食べている。このところ毎日だ。

 食べてる姿も好きで、隣りでお世話をしながら見ているのも楽しい。


 それに遅くまで勤務しているのは、騎士団で割り当てられた仕事をなるべく早く仕上げて、エヴルーに帰るためだ。

 書類仕事が苦手な人が多く、ルイスを始めとした参謀部に回ってくるのだと愚痴を言っていた。

 

 質問には少しドキッとしたが、場所は聞かれていない。場所は。



「えぇ。ちょっと用事があって。護衛はきちんと連れてるわ。安心してね。

前からエヴルー公爵領の教育問題、気になってるって言ってたでしょ。集中的に調べてたの」


 昼休みや放課後に行った、帝立学園の図書館は中々充実していました。

 帝国における教育行政と法令は、だいたい把握できたかな。

 こういう時、王妃教育で身につけた速読は役に立ちます。


「ああ、言ってたね。地元の事情をまず把握してからだって」


「そう。ただそろそろ、対応する仕組みを考えなきゃいけないと思って。それで調べてるの」


「なるほど。福祉・教育分野は、エリーの担当にしたけど、俺にもよかったら相談してほしい。

決裁印は二人分いるんだ」


「ありがとう、ルー様。

もう少しまとまってから、お話しするわ。

後は、蔵書選びなの。

エヴルー新邸の中央棟の図書室、とりあえずのものだけど、かなりのスペースがあるでしょう?」


「ああ。確かに。それで出歩いてるのか?」


「それもあるわ。

どんな本を(そろ)えようか楽しみなの。

領地経営は絶対に必要だけど、品種改良についても勉強したいし、子供たちが生まれたら、絵本だって、語学だって、数学、社会、理科とか、色々必要でしょう?」


「子供たちって、すでに複数形だけど?」


 ルイスが青い瞳に悪戯っぽい輝きを宿す。

 キラキラしてて、綺麗だなあ。

 右頬の傷痕もうっすら染まる。私は美しいと思う。


「大は小を兼ねるでしょう。だから、子供部屋にスペースも広く取ったんだもの。

蔵書分野をまずはリストアップしたいから、ルー様も希望があったら、どんどん書いておいてね。

軍事関係ももちろんよ」


「え?いいのか?血なまぐさくて嫌だ、とかは……」


 ルイスの声が少し不安の色を帯びる。

 昔、そういうことを言われたんだろうか。

 安心してもらいたくて、微笑みかけながら答える。


「嫌とかある訳ないわ。

私の旦那様の大切なお仕事だし、第一、国を守るためには必要不可欠な分野よ。

帝室の藩屏(はんぺい)となる、エヴルー“両公爵”邸の図書室に、国防や軍事の分野が無いなんて、忠誠心を疑われちゃうわ」


「エリー……」


 夜食を食べ終わったルイスが、私の腰に両手を回し、後ろから抱きしめる。

 背中にルイス全体を感じられて嬉しいのだが、恥ずかしくもある。

 上半身だが、ルイスをおんぶしてるみたいなんだもの。


 髪に顔を埋められて、くんくん匂いを嗅がれているのも落ち着かない。

 そういえば、ソフィア様は猫が大好きで、愛猫の匂いを嗅いでる時が至福のひと時っていう持論だったなあと、ふと思い出す。



「ルー様。私、顔が見たいなあ。ダメ?」


「ダメじゃないけど、今はちょっと……。

俺、嬉しくて、真っ赤になってそうだ……」


「照れ屋のルー様?私、そのお顔が大好きなんだけど……」


「………エリー。ますます、見られるとまずい顔になってるよ。俺」


「もう、くすぐったい。そんなに匂いを嗅がれてると、私が恥ずかしいわ」


「いい匂いがするエリーが悪い」


「え、ルー様の方がずっといい匂いしてるのに。

ミントのハーバルバス、使い始めてから特に」


「え?そうか?」


 自分の匂いを嗅ごうと、両腕の力が緩んだところで、私は念願のルイスの照れた顔を見られたが、キスで反撃され、目をつぶらざるを得なかった。


 さすが、参謀殿。

 私の旦那様は知能犯だった。



 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜



 目的は無事に達成され、皇妃陛下にお礼状もしっかり送る。

 礼儀は基本だ。

 領地に帰る前に、伯母様に色々とお願いをしておく。

 同じく“パールグレー”対策だ。

 また、産後1ヶ月を目処に、伯母様か私が付き添い、一人ひとりお目通りする予定だ。

 大人数のおしかけは良くないし、それぞれとの相性も分かる。



「育児読本なんていったい何年ぶりかしら。懐かしいわ」


「喜んでいただけて嬉しいです。簡単な乳幼児教育の問題集も作ってみました。

育児の知識も更新されているので、お気軽にやっていただけたら」


「わかったわ。確かにこれなら楽しそう。

ありがとう、エリー。私も気づいてなかったわ」


「絶対、言ってくると思うんです。意地悪なんですもの」


「うふふ。確かにそうね。備えあれば、憂いなしですものね」


「これとは別に、こんなものも考えていて……」


「まあ、気が早いこと。でもこの時期はあっという間ですものね」


「そうなんです。詰め込みって言われない程度に、遊びながらがいいなって。

タンド公爵領の特産品で、木工細工がありましたよね。よかったら、試作品をお願いしたいんです」


「私も他の方を誘って、考えてみましょう。

ちょっとうきうきしてきちゃうわ」


 伯母様との楽しい打合せを終え、丸っと午後の空いた時間、帝立図書館に散歩がてら、徒歩で出かけてみる。


 服装はお忍び用、商家の娘さん風ワンピースだ。

 タンド公爵邸からは、さほどの距離ではなく、マーサも渋々ながら、許してくれた。

 ガイド役はすでに常連のクレーオス先生だ。


「外で姫君はなしですよ。エリーでお願いします」

「ではエリーちゃんじゃな」

「ちゃん付きって。これでも人妻なんですが」

「まあまあ。エリーちゃんも似合っておるよ」

「じゃあ、マーサもマーサちゃんで」

「お嬢様。マーサはマーサでございます」


 三人での街歩きも新鮮で楽しい。

 帝立図書館は、皇城に接して建てられ、皇城内からも出入りができる。

 私達は今回、市街地側の一般市民も利用できるカウンターで、利用登録する。

 身分証明書は、持ち歩きしやすいパスポートだ。

 カウンターで少しドキドキしたが、すぐに利用許可証を作り渡してくれて嬉しい。

 ただそれぞれ色が違った。


「分かりやすく、身分で色分けしとるんじゃ。

つまりお忍びはできんの」


「なるほど。知ってれば分かっちゃうんですね。

帝立図書館は、恋愛小説の舞台にはどうなるのかしら。図書館って意外と多いんですよ」


「お嬢様にはもう不要でございましょう?」


「あら、お話としては面白いでしょう。

あくまでも、お話としてはね。それに、もう読んではいないわ」


 大切なことなので、繰り返させていただく。

 現実に持ち込んだ方々を知ってるし、巻き込まれ、もしくは巻き込まれかけたので、強く言っておきたい。


「さようでございますね」


 さらっと流してくれるマーサが、大好きだ。


 開架スペースは、まさに本の海、本の森だ。

 分類をざっと全部見て回るだけで、3日はかかると、クレーオス先生はガイドしてくれる。



 私は館内見取り図を頼りに、まっすぐ教育関連の書棚を探し、本の山にしばらく埋もれる。

 必要そうな本、興味のある本を、片っ端から速読していく。

 マーサは、美容関係の書棚をクレーオス先生に案内され、読み始めていた。


 クレーオス先生は、広い館内を散歩するように、ひょいひょい歩きながら、護衛の人達とは別に、私達を見守ってくれていた。



「エリーちゃん。そろそろ、目も疲れんか?

帰り支度をした方がよいと思うがの」


 はっと気づくと、一つのテーブルにかなりの本を積んでいた。


「ありがとうございます、先生」


 私は借りるほど必要なものだけ選別し、あとは書棚に戻していく。先生もマーサも手伝ってくれる。二人とも優しい。ありがとう。


 お目当ての本を借りられた帰り道は、本を入れたバッグが多少重くてもご機嫌だ。


「エリー様。お持ちしましょう」


 マーサも護衛の人達も言ってくれるが、遠慮しておく。肩にかけておけば充分運べる重さだ。


「大丈夫よ、マーサ。

そうだわ。ルー様にお土産を買って帰りましょう。書類仕事で甘いものが恋しいだろうから……」



 少し遠回りすると、ルイスが好きなパティスリーがある。

 夕方近かったためか、行列もない。

 スイーツも種類が少なくなっていたが、お目当ては残っていた。

 ルイスが好きな金箔が載ったオペラだ。

 甘すぎず、ビターチョコレートが効いてる。



 あとは、タンド公爵邸の皆が好きそうなものを多めに注文して包んでもらう。

 お店の人がなぜか私を知っていて、公爵邸に届けてくれるという。

 美味しくて、親切なお店は大好きだ。


 お会計時に、色紙にサインを求められた。

 ふと見ると、お店の奥にずらりと、いろんな方々の名前の色紙が並んでいた。

 マダム・サラの色紙もある。

 これくらいならいいか、と思い、サラサラと書いて渡すと、喜んでもらえる。

 親切にしてもらったお礼を喜んでもらえるのは素直に嬉しい。


「美味しくて、接客もいいお店は最高ね」

「お嬢様は広告塔がお上手でございます」

「ゔ、否定できないのが複雑だわ」

「ご夫人にふさわしいお声を出されませ」

「はい、気をつけます」


 クレーオス先生はさっきのお店の焼き菓子を、美味しそうに食べ歩きしている。

 実に自由だ。

 少しうらやましいが、商家のお嬢様、もしくは奥様のお出かけだと無理だろう。

 今度、ルイスを誘ってみようと思う。

 そういえば、このごろ、デートっぽいのって、外でしたことないかもしれない。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 ぐるっと回って帰った玄関ホールで、そのルイスとちょうどばったり鉢合わせる。

 今日の帰邸は早めだったようだ。


「エリー。今日も出かけてたのか?」


「ルー様。お帰りなさい。

お散歩がてら、帝立図書館に行ってきたの。

すっごく楽しかったわ」


「重そうな荷物、自分で持って」


「私が持つって言ったの。マーサや護衛の人達を叱らないで。

護衛の人が持ったら、私を守る時、不便でしょ?

護衛役は護衛役。荷物持ちではありません」


「俺がいたら、持たせなかったのに。

手だってこんなに赤くなって」


 本を入れたバッグを玄関ホールの椅子に置くと、ルイスが優しく撫でてくれるが、『それはどちらかの部屋でやらない?』と言いたくなってしまう。


「奥様、ルイス様。そろそろ、皆様、お帰りの時刻です。お部屋へ……」


 マーサ、ありがとう。

 本当に私の声を読んでくれるんじゃないかと思う時があるわ。


「ルー様。お部屋に戻りましょう。

お土産もあるのよ?」


 互いにゆったりした部屋着に着替えると、今日はルイスの部屋で少し遅めのティータイムだ。

 私はリラックスが効能のハーブティーに、ルイスは近ごろ、職場でよく出てくるという珈琲だ。

 お行儀はよくないが、試しにひと口飲ませてもらう。

 香りが良く酸味と苦味が癖になりそうな味だ。


「これはこれでありね。好みは分かれそう」


「眠気覚ましの効果があるって、ウォルフが持ち込んだんだ。

興奮しやすくなるそうだから、飲んでも1日1杯にしてる」


 お土産のパティスリーのオペラも喜んで食べてくれる。

 私もお気に入りになった飴細工が載ったレモンタルトだ。



これを初めてルイスと食べてから、1年と少し—


「ね、これを初めて食べた時のこと、覚えてる?」


「ああ。確かエリーとの婚約内定をもぎ取って、婚約式や結婚式の日程が決まった後だ。

打合せを兼ねたお茶会の時に、小姓に買いに行かせたんだ」


「ルイスも覚えてくれてて、嬉しい」


「当たり前だろう。エリーとの時間は毎日が宝物なんだ。

忙しいけど、また二人で出かけよう。

エリーだけで出かけるのを見てて、ちょっと寂しくなってたんだ」


 うん。ホントにきゅんきゅんしちゃうなあ。

 ルイスの頭を優しく撫でる。


「うん。また二人で行こうね。楽しみにしてる」


 こうして一日一日、大切に時間を重ねて行けたらいい。

 ルイスの青い瞳が、とろけるように甘くなる。

 想いが通じたのか、私の手にルイスの大きな手とそっと重なり、手の甲にふわっと温もりが落ちた。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。


誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

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悪役令嬢エリザベスの幸せ
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