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64.悪役令嬢の立ち会い

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


※※※※※※※※※※※注意※※※※※※※※※※※※※

妊娠、出産などのデリケートな描写があります。

閲覧には充分にご注意ください。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。

ルイスとの新生活としては、まずは3歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。



「お帰りなさい、ルー様」


「ただいま、エリー」



 妃殿下への出仕翌日、ルイスがタンド公爵邸へ帰還した。

 ウォルフ騎士団長から、「お前まで泊まり込みされてると、勘繰られて面倒だ。おまけに新婚で目立つ。帰れ」と言われ、帰ってきたらしい。


 「少し話して、気分転換したい」と言うので、ルイスの私室でソファーに座る。

 隣りで疲労回復とリラックスが効能のハーブティーを入れた後、ひょいっと抱えられ、膝の間に抱っこされる。


 『私は熊のぬいぐるみか』と思ったが、「何よりもエリーに癒される」と言われながら、頭頂部にキスされたり、頬ずりをされると、「やめて」と言いにくい。


 その内、またひょいっと隣りに移され、二人でハーブティーを飲む。


「ごめん、勝手なことして」


「それはいいけど、何かあったの」


「……救貧院へ行った。顔合わせで何か思い出さないかって、ウォルフの命令で。

俺、一人は覚えていたんだ。向こうも覚えてたみたいで、飛びかかってきた」


 私は思わずルイスを見上げる。


「え?!大丈夫だったの?」


「もちろん。大丈夫だったから、ここにいるんだろう?素人相手に引けは取らない。

だが、ここまで攻撃できるように仕込めるんだと、ゾッとした。

同時に、そんな忠誠心を持ってる人間を切り捨てられるんだと、改めてヤツを帝位に付けるのは危険だ、と考えてた……」


「一昨日、話してたね。『戦争に使えば恐ろしいことになる』って」


「ああ。昨日は一人だったから、何事もなく済んだ。

だが、これが10人だったら?

剣を向けるに躊躇(ちゅうちょ)するような少年少女だったら?

おそらく、痛みがあっても動ける間は攻撃し続けるだろう。ゾッとするよ」


 私もルイスの説明を聞いて、背筋がゾワゾワした。何を考えていたんだろう。

 騎士団内部ではルイスを好ましく思う人間が多数派で、自分の思う通りにはなる見込みがないウォルフが、騎士団長だ。

 ただ、皇帝となれば、首のすげ替えは自由自在だ。

 士気がどうなるかは不鮮明だが。


「ルイスも充分気をつけて。私も気をつけるわ」


「ああ。外出する時は絶対にだ。護衛も二人にして、エリー自身も気配は常に探っておくように。

“ヤツら”は違う。こう、人間らしさがないんだ。

上手く言えずにすまない。

だが強い違和感は(いだ)くと思う。自分の感覚を信じてくれ」


「わかったわ。ありがとう、ルイス」


 ルイスがここまで言うんだ。

 あとは自分の感覚を信じるのみ。


 そう思うと、私からルイスを優しく抱きしめた。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 三日後—


 今日は皇太子妃殿下と皇妃陛下への出仕だ。

 ルイスとの約束通り、護衛は2名とし、マーサも連れていく。

 念のため、妃殿下の周囲も気をつけていたが、自分へ向けられる感情で、違和感は感じ取れなかった。


 妃殿下は少しは眠れるようになったと嬉しそうだ。

 皇帝陛下の“突撃妃殿下お見舞い”も無くなり、皇妃陛下から、お()びと気遣いのお手紙が届いたとか。


 その中で、『臨月は私も公務を外れ、部屋では楽な格好をしていました』とあり、ほっとしたと仰っていた。


 胃の不調も取れてきたと話し、お花摘みが増えたから、部屋着のまま過ごせるのは助かるとのことだ。


 ただ『いつ陣痛が始まってもおかしくない』『お腹の子は無事に産めるのか』『自分の命は?』といった不安感は増えていた。

 どれも当たり前の感情だ。


 今までよりも、気持ちが落ち着く効能を中心とした調合で、試飲が問題なかったため、今回はそのまま下がる。

 前回から、3日間と短期間だったため、皇太子の分は侍医に会って、変化があれば、とお伝えしておく。


 侍医長によると、皇太子は眠る時間は増えたが、うなされて目覚めることが多く、その度に妃殿下の安否を(たず)ねると言う。


「調合を変えてみますか?」


「いえ、『安全です』とお答えすれば治ります。

ただ、『お腹のお子様と共に』と付けると、『子どもは聞いていない!』と激昂(げきこう)されたため、妃殿下のみ答えれば、すむことです」


「皇太子殿下は、出産予定日などは把握してますか?」


「はい、妃殿下の身を案じる時もあり、『順調です』とだけ答えています」


 これも『母子共に』など答えると、興奮される可能性を考えてのことだろう。

 先日までは、『母子共に』と子どもも気にしていたのに、と変化に戸惑うが、元々、皇妃陛下と妃殿下に執着していた人だ。

 通常モードに戻ったと考えるべきだろう。


「警護は隙なく、(ゆる)みなく、お願いします」


「はい。騎士団長の指示で、厳格に行われています」


「承知しました。よろしくお願いします」



 次は皇妃陛下の元だ。

 マーサは調合室で待機させ、タンド公爵家の警護2名を連れて、皇妃陛下の前に現れると、早速からかわれる。


「あら、まあ。ルイスも心配性になったものね」


「はい。自分が来れない時は特に、のようです」


「エリー閣下。嫌ならきちんと断るようにね。キリがないのだもの。

それはそうと、皇太子妃殿下には申し訳ないことをしました。

きっちり注意したから、安心してね。

『産後も、もちろんですよ』と釘を刺しておきました。

私からも手紙で皇太子妃殿下に謝ったけれど、エリー閣下からも、お会いした時にはよろしくお伝えしてね」


「はい、かしこまりました」


 皇妃陛下の元でも、いつもの出仕通り、段取りを踏み、侍医や侍女長と相談する。

 妊娠後期に入るので、前もってマッサージや、水分補給を侍医と侍女長に依頼し、心身の調子に合わせ、調合した。



 何事もなく、出仕を終えた数日後—


 いよいよ、妃殿下の陣痛が始まったとの一報が入った。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 私は陣痛が始まった際、出仕するお約束をしていた。

 ハーブティーもあるが、友人として側にいてほしいとの、妃殿下からのお願いだった。

 初産(ういざん)らしく、予定日よりも遅れているが、正常範囲だ。


 私がマーサや警護と出仕した時には、すでに陣痛と陣痛の間隔がかなり短くなっていた。


 ベッドの周囲が白い布で囲われ、出産専用の白い寝衣を着た皇太子妃殿下が、侍女長の手を握り、痛みに耐えている。


 私は妃殿下の希望で、侍女長と交代し、汗を拭ったり、腰をさすり、陣痛が和らいだ時に、飲み物を飲ませ、ほんの少し言葉を交わす。


 妃殿下は陣痛が来た時は、口にタオルを噛んでいた。悲鳴や叫び声を上げたくないための措置らしい。


 手には妃殿下の爪が食い込んでいたが、気にする余裕はなかった。

 痛みが和らぐように感じるよう調合したサッシェ(乾燥させた花やハーブ入り香り袋)を、妃殿下の側に置く。

 やはり薔薇(ばら)の花が多めのものがお気に入りで、ほっと表情を緩める。



 そうして痛みに耐えた十数時間後—



 無事にお子様が産まれた。

 女の子だ。

 帝国も王国も、王位継承権に男女の違いはない。

 何事もなければ、数十年後には女帝となる方の誕生だった。


 すぐに乳児専門の侍医に委ねられ、産科専門の侍医が妃殿下の処置をする。

 多少出血は多かったものの、命に別状はなく、母子共にご無事な出産だった。


 各所に知らせが送られ、皇城のあちこちで、喜びの声が()く。

 皇城の聖堂の鐘も鳴り始め、次々と帝都中の鐘が鳴り響く。

 帝都民も今か今かと待ちわびていたようで、各所で祝杯をあげていた。


 母子共に処置も済み、前もって決めていた乳母が、お子様の顔を妃殿下にお見せする。


 妃殿下は少しだけ身体を起こすとお子様を抱き受け、涙ながらに優しく撫でる。

 嬉しくて可愛くて仕方ない、出産直後の子どもを愛する母親の姿だった。

 そして私に見せてくださる。


「エリー閣下。私の娘よ」


優雅な深いお辞儀(カーテシー)で尊敬を表した後、姿勢を正し、臣下として祝福する。


「おめでとうございます。妃殿下もお辛い中、ご立派でございました。

お子様もご無事で、何よりでございます。

皇太子殿下も、皇帝陛下も皇妃陛下も、さぞかしお喜びでございましょう。

皇女殿下。お誕生、おめでとうございます。健やかなご成長を願っております」


「エリー閣下。ありがとう。この子もよろしくお願いします」


 私は微笑むに留まる。申し訳ないが、皇太子の派閥に入る気は全くなかった。


 私は側に控え、周囲を観察する。

 浮き足だった今こそ危険だが、害しようとする者はいないようだった。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 ちょうどそのころ—


 皇太子の病室に訪問客がいた。

 皇帝だ。

 もちろん、全身を予防衣で包み、髪も白い布で覆い、マスクをするという厳重装備だ。


 帝都中で鳴らされる鐘の音に、皇太子も起きていた。

 そこに皇帝が、先触れ無しに現れる。


「父上?!父上ではありませんか?!

いったい、何があったのです?

まさか、妻に何か……」


「安心せよ。皇太子妃も子どもも無事だ」


 『多少、出血が多い』などとは言わない。

 侍医長から、また皇太子妃への執着が強まる傾向にある、との報告を受けていたためだ。


「よかった。本当によかった。

それで、妻にはいつ会えるんですか?

子どもが産まれたので、もう私に会ってもいいんですよね?」


 執着はするが、愛情ではない。

 その証拠に、産後まもない相手への感染などの配慮は無い。

 エリザベス閣下の話は本当だったのか。


「まあ、そう、()くな。

そなたにとっても初めての子、(わし)にも初孫だ。

そなたと祝杯をあげたくて、来たのだ。

ああ、安心せよ。お前が幼いころ、好んでおったブドウジュースだ。

ワインに近い風味で、好きだったであろう?」


「え?あの……」


 皇太子が戸惑いを見せる中、皇帝は侍従にテーブルと椅子を一脚を用意させる。

 皇太子はベッドに腰掛けさせたまま、1つのボトルから2つのグラスに赤紫色の液体を注いだ。

 ラベルを見た皇帝が思い出話を語る。


「おお、そうじゃ、モスートというのだったな。

懐かしい。おませなお前は、『ワインです』などと言って飲んでいたものだ。

そんなお前ももう人の親か。感慨深いのお。

さあ、祝杯だ。飲もうかの」


 皇帝がグラスを取ると、皇太子ももう一つのグラスを持つ。

 皇帝が掲げようとした時、皇太子が声をかけた。


「父上。そちらの方が美味しそうに見えるので、替えてもらってもよろしいですか?」


「ん?ああ、構わんぞ。そなたはいつまで経っても、子どものようなところがあるのだな」


 皇帝は快活に笑うと、グラスを取り替える。

 皇太子はほっとした様子で、皇帝に合わせ、グラスを掲げた。


「我が孫の誕生に乾杯!」


「愛する我が妻の、快挙に乾杯!」


 皇帝が口をつけ、飲んでいく様子を見てから、皇太子も口を付ける。

 久しぶりに飲んだ赤紫色の液体は、懐かしい味がした。

 喉も乾いていたこともあり、ごくごくと全て飲み干す。


「ふむ。確かにワインの風味が少しするの。

もう一杯、行くか」


「そうでしょう?父上。

これは、母上も、お気に、いり、で……」


 皇太子が『あれ?』という表情を浮かべ、ベッドにトスッと倒れる。

 皇帝は冷静な眼差しでしばらく見守り、呼吸が止まっていく姿をじっと眺めていた。

 侍従が近寄り、手首と喉で脈拍を取り、皇帝に宣告する。


「天に召されましてございます」


「そうか……」


 皇帝は静かに立ち上がると、開いたままだった(まぶた)をそっと閉じてやる。


「陛下、念のために解毒剤をお飲みください」


「わかった」


 今度は水で、何がしかの薬を、皇帝は服用した。


「この後は手筈通りにいたせ。祝事が終わった、翌々日に発表だったの」


「はっ、それまでは、氷室の奥の隠し部屋に安置させていただきます」


「そうしてくれ。さほど苦しまずに逝ったが、せめてもの親心だ。

ただ、最後の最後まで、疑っておったの」


「今まで服用されていたお薬と反応するものですので、他の方が飲まれても、さほどには……」


「まあ、いい。よろしく頼む。

()しくも、最初に手をかけた者と同じ手法だ。自業自得。

知らぬだろうが、遺族にはせめてものであろう。では、よろしく頼む」


「はっ」


 喜びの鐘は、まだ鳴り響き、止むことはない。

 皇帝は病室から出ると、控え室で全て着替える。

 そして、喜びに沸き立つ家臣達が待つ広間へ、しっかりとした足取りで向かった。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。


誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

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悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
[一言] 手早い…!でも禍根はすばやく断て、ですよね…。 出産後の母体に病気の人を面会させるとかありえないものな〜。
[一言]  こういうところは立派なのにな…。  天使効果持ちって帝国でしか生まれないのかな。
[一言] やっと始末できてよかったです。子供も危なかったですから。個人的には何一つ知らずにぬけぬけ生きている皇太子妃には何一つ同情できないです。真面目で優しいけど、状況把握ができなすぎる。正直、妃とし…
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