表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/207

63.悪役令嬢の怒り

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


※最後は皇太子視点です。


※※※※※※※※※※※注意※※※※※※※※※※※※※

妊娠、出産などのデリケートな描写があります。

閲覧には充分にご注意ください。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。

ルイスとの新生活としては、まずは2歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。



「何が起こったのです?伯父様」



 私とルイスは10日間のエヴルー滞在を7日で切り上げ、タンド公爵邸へ戻ってきた。

 手紙には、『極力、普段通りに行動するように』と依頼があったので、その指示に従った。


 遅めの昼食も食べ、満を持して、伯父様の執務室を訪れた。

 表面上は、新公爵領の運営手法の相談だ。

 当然長くなる。



「呼びつけてすまんな。エリー、ルイス様。

実は大変な事が判明したのだ……」



 始まりは、ウォルフ騎士団長の疑問だった。

 あの10日間に渡る嫡孫生誕祝賀行事についてだ。


「皇太子の周囲はバカばっかりか?

これを今から実施するとしたら、かなりの無理がある。

どうして誰も止めない?

皇太子が一人で調べるはずもない。

資料集めは命じられているはずだろう?」


 この疑問に基づき、補佐官や秘書達を調査したところ、恐ろしいことにほぼ全員、この祝賀日程を当然と受け入れていたのだ。

 次世代の皇帝を支える人間達だ。

 優秀な人材もかなり(そろ)っている。



—何かおかしい。



 ウォルフ騎士団長は、皇帝陛下に相談の上、侍医長に依頼した。

 何か強い薬物か、もしくは暗示を疑ったのだ。


 答えは比較的早く出た。

 禁断症状に近い状態になった者が、現れたためだ。


 侍医の調査によると、第二皇子母の側室が飲まされていたものとタイプは違うが、暗示にかかりやすくなり、指示に従順になるとのことだった。



「薬物はどこから?」


「皇太子殿下の執務室や居室を、秘密裡に捜索した。

人の出入りが多い場所で、目立つからな。

当座の分と思われる量は出てきたが、入手ルートは掴めていない」


 まただ。

 トカゲの尻尾切りのように、プツンと切れてしまう。


 とりあえずは、彼らも『悪性の風邪』に罹患したことにして、禁断症状から離脱するまで、隔離されると説明を受ける。



「エリー。ルイス様。

この薬の恐いところは、指示に従順になるという点だ。

罪悪感などを弱め、人間を操り人形のようにできる、可能性が非常に高い」


「つまりは、身の危険がある、ということですね」


 私の言葉に、伯父様の顔が微妙に歪む。


「ああ、エリー。その通りだ。

皇太子殿下はルイス様を憎み、その婚約者であるエリーにも悪感情を持っていた。

ルイス様もしばらく、常に帯剣されていた方がいいでしょう」


「公爵。俺は咄嗟(とっさ)に反応できるが、エリーは難しい。タンド公爵家の警護を手厚くしてもらえないか?」


「ちょうどこちらから申し上げるところでした。

それと、念のため、第二皇子の時のように、使用人の後追い調査も実施した結果も、ある程度は出ました。

死んではいませんが、禁断症状らしき状態になり、まともに暮らせず、救貧院の世話になっている者達が数名います。

会話が成立せず、本人の聴取はままなりません。

一家の働き手がほとんどだったため、家族が離散してるケースが多く、報告によると調査は難航中ですな」


「なんて、ひどい……」


 私は怒りに震える。

 第二皇子も酷かったが、皇太子も酷すぎる。

 人を、人間を、なんと思っているのだ。


「言うことを聞く人形を作りたかったんだろう。

戦争に使えば、どうなるか……。

恐ろしいことだ」


「ルイス様はウォルフ騎士団長に合流してくだされ。

エリーにもやってほしい事がある。

妃殿下のことだ。出産もあとわずかと迫っており、情緒不安定になってらっしゃるそうだ。

なるべく早く出仕してくれないかと、矢の催促だったのだ」


「わかりました。明日にでも(うかが)います」


「ちょっと待ってくれ、タンド公爵。

妃殿下自身や周辺に、“薬”が使われている可能性はないのか?」


「妃殿下はありません。そういった症状もなく、泣いたり、不安になったりとの差が激しいそうです」


 ああ、この前、『あるものねだり』で前向きになりましょうって話したからなあ。

 やりすぎて無理して、辛くなったのかもしれない。


 妃殿下は賢く、真面目で誠実なご性格なのだ。

 だから人望があるとも言える。

 普段は明るいが、出産の恐怖とプレッシャーや夫不在の不安、皇太子妃殿下として要求される振る舞いなど、不安定になる要素は山ほどある。


「ルー様。妃殿下のお近くには必ず警備の者がいます。威嚇にはなっているかと」


「エリーなら知ってるだろう?

警護は“対象者”を第一に守る。周囲はその他大勢で切り捨てられるんだ。

タンド公爵。エリーに専属の警護申請をお願いします。俺はついていけなくなるかもしれない」


「わかりました。今からでも通しておきましょう。

せっかくの新婚の休暇をこんなことで短くしてしまい、申し訳ありませんな」


「伯父様。“こんなこと”ではありませんわ。

知らせてくださって、ありがとうございます」


「エリーの言う通りだ。タンド公爵。俺は早速騎士団へ行く。

エリー。帰りの時間は読めない。小姓を使いに出す。遅くなる時は、先に休んでいてほしい」


「はい、ルー様。明日に備えて、早めに休みますわ」


 こうして騎士団本部に向かったルイスは、一晩経っても戻ってこなかった。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 翌日—


 皇太子妃殿下の元に、マーサと警護を連れて出仕すると、やつれた表情で迎えられた。

 体調の記録書を速読し、問診で(うかが)うと、ほとんど眠れていないらしい。


「皇太子妃殿下。おそらくですが、睡眠不足が全ての原因かと拝察します」


「睡眠不足で……」


「生きるためには、睡眠と飲食は、どちらも必須です。

眠れないと、誰でもイライラしますし、泣きたくもなります。

ただ今は、中々眠れなくても当たり前なのです。

大きなお腹は重たく寝苦しく、そこに西瓜(すいか)サイズの赤ちゃんの胎動があります。

『これで充分眠れます』という方がいたら、よほどの“睡眠の強者(つわもの)”でしょう」


「“睡眠の強者(つわもの)”、どういった意味ですか?」


「どこでも眠れると言う意味で用いました。

たとえば、こういった妃殿下や皇帝陛下といった帝室の方々の前でも、ぐうぐう眠れてしまう。

この帝都の大聖堂の尖塔の天辺で、風がビュービュー吹いていても、です。

普通の人が到底眠れない場所でも、眠れてしまう。そういう意味です」


 妃殿下は少しクスッと笑われた後、本音を洩らす。


「なるほど。滅多にいないでしょうね。うらやましい……」


「では、打合せして参ります。眠気が来たら、ご遠慮なく眠ってください」


「ありがとう、エリー殿下」


 侍医と侍女長に話を聞くと、臨月間近の妊婦の悩みがほとんどだった。

 子宮に圧迫されお手洗いが近く、足がよくつるので、さらに眠れない。足もかなりむくんでいる。

 それでも皇太子妃の品格を保とうと、衣服はドレスを選ばれる。


 私は、まずはマッサージ師の手配と、水分補給、また、『蜂蜜塩オレンジ』の提案をする。



「マッサージは足のむくみを改善し、全体の血流を良くします。

また、騎士団でも、訓練による汗で水分や塩分が失われて、服に白い塩がふくと、手足をよくつるそうです。

血圧を確認しながら、召し上がっていただいてもいいでしょうか」


「なるほど。そういった運動時の手足のつりに効くなら、いいかもしれません」


 提案は了承され、ハーブティーは、心が落ち着き明るくなり、眠気を催す効能のものにする。

 ()しくも、皇太子とほぼ一緒だ。


 侍医の承認を経て、複雑になりつつも調合し、試飲していただくと、気に入られたらしい。

 マッサージと『蜂蜜塩オレンジ』も試していただけるそうだ。


 残るは皇太子妃としての振る舞いだ。


「妃殿下。今はとにかく睡眠優先で、必要な体操と散歩をなさったら、とにかく休んでいることです。

私はドレスでなくても、大丈夫かと思います」


「しかし、それでは、皇太子妃として……」


「妃殿下。出産経験者の侍女の方々に聞いてみてください。

ドレスでいることが、どれほど大変だったか。

足のつりも、おそらくドレスが原因です」


「え?ドレスが?」


「はい、今、お手洗いが近くて、“失敗”されたくなくて、水分を減らしてらっしゃいますね?」


「どうして、そんなことまでご存じで……」


「侍女長殿からのお話と、皇太子妃殿下のご性格から考えてみました。

身体の水分量が減ると、手足がつりやすいのは、騎士団の訓練で証明されています」


「騎士団の訓練と、今の私が?」


「同じでございます。水分が足りず、必要な栄養が手足にまで届いていない。

そのため、約3kgのお子様と、妊婦として適正な範囲で増えた体重を支えている、大きな負担がかかった足がつるのだろう。というのが侍医の見解です。

私もそうだと思います。

足が『今、とっても大変なのよ』と悲鳴をあげて、サインを必死で送ってるのかと。

足は話せませんから……」


「…………とっても、大変…」


皇太子妃殿下は、太ももの辺りを、ドレスの上から少し触れる。


「痛みは身体からのサインです。耳を傾けてくださいませ。

皇太子妃殿下としての品格は、皇城内に、『訪問の際は必ず1時間前に先触れを出すこと』と通知しておくのはいかがでしょうか?

そもそも、臨月の皇太子妃殿下の手をわずらわせる用事など、あるのか疑問です」


「…………その、見舞いなどが多くて……」


「とても大変な時の見舞いなど、本当に会いたい方以外は、百害あって一利なしです」



そこに、侍女長が恐る恐る言葉をはさむ。


「エリザベス閣下。それが、皇帝陛下、なのです」


あっの〜〜!皇妃陛下に寄せ付けられなくなって、今度は孫可愛さに、妃殿下訪問だと〜〜!


「…………そうですか。さようでございましたか。

皇妃陛下にご報告・ご相談するために、滞在時間と具体的なご用件を教えてください」


「ほぼ毎日、だいたい10分ほどで、『顔を見に来た。元気そうでよかった。いい子を産めよ』と仰り、退室されます。

訪問時刻もバラバラで、先触れも、間にさほどお時間がなく……」


 私は怒りに震える。

 陛下のせいで、元気でなくなってるのよ!

 それに、毎日毎日、『いい子を産め』って、ただでさえ責任感の強い妃殿下に何、仰ってるの!!


「妃殿下、侍女長。事情はよぉおく分かりました。

今日はもういらしたのですか?」


「はい……」


「では、すぐに皇妃陛下にお手紙を出し、明日からご出産まで、ご訪問ではなく、お手紙でのお見舞いに切り替えていただきます。

ご安心なさって、部屋着でお過ごしください」


 妃殿下はポロポロと涙を(こぼ)される。

 すかさず、侍女長がハンカチを手渡した。


「……エリー閣下。ありがとうございます……」


「とんでもないことでございます。

さあ、もうおやすみください。

侍女長。皇妃陛下からのお返事は、貴女宛てに来るようにお願いしておきます。

妃殿下のことをよろしくお願いします」


「はい、生命に代えましても……」


 いや、そこまでは妃殿下も望んでないと思うけど、と思わず目が遠くなりそうになったが、呼び戻す。

 私は妃殿下の前から退出し、マーサが控えていた調合室で、さっさと手紙を書き、侍従に皇妃陛下へ持って行ってもらう。


 この夜、皇帝陛下は皇妃陛下に呼び出され、嬉しさにほいほい訪問したところ、2時間コースのお説教が待っていたのだった。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 次は正直気が進まないが、引き受けた仕事だ。

やるしかない。

 侍医長と打合せし、気持ちを明るく落ち着かせ、眠気をもたらす効能のものだ。

 全てハーブの種類を変えた調合にする。

 皇太子は“毒慣らし”の体のため、慣れると効き目が弱くなってくる。

 私は教えてくれれば、という思いで、瀬踏(せぶ)みだけはしてみる。


「侍医長。例の皇太子殿下の部下たちのことですが……」


「申し訳ありません。たとえエリザベス閣下であっても、その件はお控えください」


 うん。さすがプロ中のプロだ。口を割った方が心配だった。


「いえ、私も安心しました。

妃殿下のご様子からすると、いつ生まれてもおかしくはないと思います。長くてもあと10日ほど。

どうかよろしくお願いします」


「かしこまりました」


 侍医長にレシピを渡すと、マーサと護衛を連れ、皇城より退出した。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


【皇太子視点】


 夢が 来る


 ここのところは コイツばかりだ

 恨めしそうな顔で 俺を見て

 自分のいる泥沼に ひっぱり込もうとする

 お前が失敗したんだ


 それに あそこまで やれって言ってない

 おどすだけで 充分だったのに

 誰がやったか 分からないように してみせる 

 任せてください とか豪語してたくせに—



 ”塔”まで蹴り飛ばして 目が覚める。

 頼んだハーブティーの味が変わっていた。

 妻の頼みで、飽きが来ないようにという思いやりだそうだ。

 喉がすうっと爽やかになる。

 同時に眠くなってくる。

 布団に刺繍の入ったタオルを巻き込んで眠る。

 妻と同じ香水の匂いがして、今のお気に入りだ。



 ゆめが、きた……。


 妻だ。妻だ、妻だ、私だけの妻だ。

 愛しさのかたまりよ。

 どうか、抱きしめてくれ。

 どうか、またその声で歌っておくれ。

 私だけに、私だけに、歌を。


 ところが、歌いかけているのは、俺ではない。

 お腹を撫でながら、子どもに『聞こえる?』など言っている。

 私だけが、聞いていたいのに。


 こちらを向かせて、歌をねだる。

 途中まで歌って、また子どもだ。

 子どもは可愛いが、久しぶりに逢えたのだ。

 私だけに、その美しい鈴が鳴るような声で、歌ってほしい……。


 そう頼むと、私を憐れむような目で見て、去っていく。

 待ってくれ!と追っていくと、霧の中だ。

 どこにいる、どこだ、どこだ、どこだ!

 自分の叫ぶ声で、目が覚めた。



 ゆめが、くる。


 また、霧の中だ。

 鈴振る声の、美しい歌声が聞こえてくる。

 今日こそは、抱きしめたい。

 私だけの最愛。


 そう思って声を頼りに進むと、妻がいた。

 私がこれだけ必死になって探していたのに

 赤ん坊に歌って聞かせていた。

 私だけを見てほしい、と声をかけようとした時、

 また霧が濃くなり、見えなくなる。


 私はどこからともなく聞こえる、美しい歌声を頼りに、

また歩き始めた。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。


誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

いいね、ブックマーク、★、感想など励みになります。

よかったらお願いします(*´人`*)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★ 書籍、電子書籍と共に12月7日発売★書籍版公式HPはこちらです★

悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
[一言] 起こり得る恐怖の未来〜!! 出産後の母子べったり期に夫がジェラって夫婦仲決裂、あるあるすぎて……!! それで離婚した話、30年前に自分の従姉妹から聞いたこと同じ話が姪の友達の話として聞いたり…
[一言]  諌めろよ、側近…!<皇帝来訪  こうてい「久しぶり、マイハn「そこになおれ…(ゴゴゴゴ)」ひゅッ!?」
[一言] 睡眠の強者……の○太のことかな?(笑) 横になって3秒で寝られるというのは、大人になった今だと凄い能力だと改めて思いましたよ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ