62.悪役令嬢の新婚生活
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
※※※※※※※※※※ご案内※※※※※※※※※※※※※
ご覧いただいてる皆さまへ
ご愛読いただき、誠にありがとうございます。
この作品を、結婚式と披露宴、そして娘を育ててきた父の想い、を描いて、お仕舞いにすべきか、まだ描くべきか、しばらく前から、悩みに悩んでいました。
ただ、この先も読みたい、という方々のお声を感想などで伺い、またブックマークも現時点で約8700という、信じられないほどの評価をいただいていることから、続行することと決めました。
これからは、『エリザベスの幸せ』を描いていこうと思います。
引き続きのゆるふわ設定で、気軽に楽しんで読んでいただければ、幸いです。
これからも、どうかよろしくお願いします。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※前半はかなり甘いです(^^;; 閲覧にはご注意ください。
エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。
ルイスとの新生活としては、まずは1歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
「お帰りなさいませ、ルイス様、エリー様」
二度あることは三度ある。
古代帝国時代、古くから伝わる諺だ。
私はルイスにまたもやお姫様抱っこされ、エヴルー公爵領新邸の正面玄関を越える。
宝物のように、そっと下ろしてくれたのは嬉しかった。
「ただいま みんな」
「ただいま。お出迎え、ありがとう」
先触れのおかげか、アーサーを初めとした、使用人全員が迎えに出てくれる。
「お疲れでございましょう。まずはお休みください。お部屋の用意はできております」
「ありがとう、アーサー」
「俺は少し身体を動かしてから休む。稽古したい者は何人か来るがいい」
「はっ、ありがとうございます」
「エリーはゆっくり休むんだよ。愛してる、可愛い奥様」
「ありがとう、ルー様もね。愛してます。素敵な旦那様」
ルイスは私の側を離れ、中央棟の裏手に作った鍛錬所に向かう。
マーサに言われたためだ。
ルイスは騎士団の休暇をかなり長期に取得していた。
タンド公爵邸で5日間、エヴルー公爵領新邸で10日間の予定である。
そのタンド公爵邸で、ルイスは私に付きっきりだった。
そして、何かしようとすれば、してくれるのだ。
たとえば、食事中でも、フルーツジュースがもう少し飲みたいな、と思い給仕に頼もうとすれば先んじて頼んでくれる。
私の私室に着いてきて、書類を確認しようとすれば、取ってくれるし、本や刺繍道具もそうだ。
私の動きを読むのが、何より早い。
おそらくは剣の修行で、相手の動きを読む技能が身につき、自然にこなせているのだろう。
でも、こんなところで、無駄に発揮しなくてもいい。
また、着替えのワンピースを選ぼうとする時も付いてきて、「今日のエリーにはこれが似合うと思う」と選んでくれた。
さすがに着替えの時は、出て行ってもらう。
しかし、ただでは出ていかず、その直前に、私の耳元で、「全部知ってるのに」と囁き、私を真っ赤にし、クッションまでお見舞いされた。
悔しいことに、いい笑顔で受け取り、優しく置いて出ていく。
いくら事実でも、淑女の嗜みまで、失いたくない。
さらには、三日目にはお風呂にまで入れてくれようとした。
これに、マーサが怒ったのだ。
「ルイス様!私の仕事を奪わないでくださいませ!
第一に、奥様にくっつきすぎでございます!
いくら新婚とはいえ、公爵夫人様も苦笑なさっておいででした。
少しは自重してくださいませ!」
「…………わかった。マーサにはすまなかった」
見るからにしゅんとして、ピンとしていた見えない尻尾が、ふにゃあと垂れてしまってる。
可哀想なくらいだが、私もそろそろ、一人の時間が欲しかった。
第一、大好きなルイスに見つめられていると、書類を見るにしても、落ち着かない。ドキドキしてしまう。
そんな時に、「エリー、書類仕事だと甘いものが欲しくなるだろう、はい」と、ひと口サイズと小ぶりで、気軽につまめるメレンゲクッキーを『あーん』と口に運んでくれる。
サクッとした軽やかな食感と、しゅわっとした口溶けの良さが美味しくて、つい頬を緩めてしまうと、もう、この上もなく嬉しい笑顔を向けてくれる。
青い瞳がとろけそうに優しい。
「エリー、美味しいか。もう一ついる?」
「ううん、一つでいいわ。ルイスも食べて。とても美味しいの」
「じゃあ」
口を小さく開けて待っているので、仕方なく口へ運ぶと、指ごとパクッとされる。
「うん、うまい。エリーの指も」
とか言って、頬を赤く染めた私の指を、濡れタオルでていねいに優しく拭いてくれる。
マーサは仕事がなければ、壁と同化するしかない状態だった。
その上での、お風呂のお世話である。
私もさすがに抵抗感がある。
「ウォルフは、一緒に入る時もあるって言ってたのにな……」
それでも立ち直り、私に余計な情報を小声で囁いて出ていく。
ウォルフ騎士団長は愛妻家で有名だが、そんな情報はいらない。
次に会う時、思い出して、気まずいこと、この上ない。
そして、団長夫人にもだ。
結婚したからには、『騎士団婦人会』に入会し、婦人会会長として定期的に会う方なのに、勘弁してほしい。
さては、騎士団でからかい半分、色んな情報を仕込まれたな、と思い、エヴルーへ向かう馬車の中、鎌をかけたら、案の定だった。
『人の旦那様で遊ぶな!』と思ったのは秘密だ。
私に代わり、マーサが懇々と、“お説教”という名の、一般的な新婚期間の過ごし方を伝授してくれていた。
ありがとう、マーサ。
それでも恥ずかしかったけど。
という訳で、『“たぶん”心を入れ替えてくれたな』と思い、私は移動の疲れを取るために、長めのハーバルバスと、マーサのマッサージで、久しぶりの癒やしの時間を満喫していた。
そこに、おそらく稽古での汗を流した、風呂上がりのルイスが、髪を濡らした、余計な色気全開の姿で現れる。
「まもなくお夕食で、お着替えなさいます!
ルイス様もご用意を!」
と、またもやマーサに撃退されて、キューンという目で部屋に戻って行った。
『ものすごく可愛い』と思ったのも秘密である。
何せ嗅ぎつけて甘えてくるのだ。
油断してはいけない、と思いつつ、マーサと共にドレスを選んだ。
〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜
そんな甘すぎるルイスでも、翌日のお披露目パーティーでは、“両公爵”の公爵閣下として、堂々と振る舞い、毅然とした態度で、領民代表者や、近隣の貴族に接していた。
さすが私の旦那様である。
凛々しさ3倍増しで、『いつもそれでいてくれないかな。いや可愛いルイスも捨て難いよね』と思いつつ、立食形式で、招待客と親交を深める。
私に対し、見えない壁があった、新公爵領の代表者達も、態度が変わっていた。
アーサーが不在時にやってくれた、新しいタイプの農機具の導入は好評を得ていてためだ。
ぐんと話がしやすくなっていた。
貴族達には、“馬車溜まり”についても尋ねられ、私の発案だと知ると、興味津々で話しかけてくる。
うまい話の蜜には人が寄ってくるものだ。
今後の人付き合いをする上で、人材の見極めには、とても役に立ってくれた。
ルイスと二人、招待客をいつもの“新殖産品”を手土産に渡し見送ると、各々着替え、夫婦の寝室で互いの成果を語らい、情報交換をする。
しばらくすると、『今日も疲れただろう』と労ろうとしてくれたルイスに、甘い夢をねだったのは、恥ずかしながらの私だった。
〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜
三日目になると、アーサーも通常営業で、遠慮しなくなる。
私も新鮮な気持ちで、執務を行い、必要な場合はルイスを呼んで討議する。
ルイスの決済印も必要なため、エヴルー公爵領運営の、基礎知識、そして大まかな把握をするのにちょうどいい。
そういう時の理知的な姿も、右頬の傷痕とのギャップで、何とも言えずかっこいい。
隠れてのチラ見は、見つかっていたようで、その夜の寝室でのネタにされた。
全く、騎士団の参謀様に抜けはない。
〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜
そんな中、帝都からお父さまが、馬でいらっしゃった。
今回は数名の“影”を連れてみえた。
何かあったのか、と思うが、私としては安心だ。
またもや、外交団の皆様とは別行動で、二日ほど滞在してくれる。
この後はしばらく会えないのだ。
お父さまを満喫していようと思っていた私に、しっかりと現実を突きつけてくださる。
私の執務室に、ルイスを呼んで、三人での密談だ。
最初に、『“両公爵”と“私人”と使い分けて聞くように』と釘を刺される。
「ピンクダイヤモンドは、皇帝陛下にお譲りしてきた。
お顔を少し怪我をされていたので、お見舞いを申し上げたがね」
たぶん皇妃陛下にやられたのだ。
下手にご機嫌を取ろうとした結果だろう。
次の出仕の時に、把握しておかないと、と思う。
“新・鉄壁の布陣”に、綻びがあってはならない。
本当なら中心人物でいなくてはならないのに、皇妃陛下が絡むと、とたんにダメダメに変化してしまうのは、臣下としてどうにかしてほしい。
帝都に戻ったら、引き締めなければ。
「ピンクダイヤモンドで、大きな魚は釣れましたか?」
「ああ、見事な魚が釣れたよ。まもなく発表される。王国に我らが到着し、“鳩”を飛ばしてからだから、少し先だろうけどね」
「他にもいろいろ、ありそうですが?」
「そこは、第一王女でもご下問にはお答え出来ないね。できるものなら、皇帝陛下から聞き出すといい。
エリーとして、大きな貸しがあるだろう?
せっかく“両公爵”になったんだ。あれは使い方次第では、一生有効活用できるだろう」
あ、これは毒殺未遂の件をどこかで知ったな、と思う。
「こんな、タチの悪い“異物”も隠していたとはね。
まあ、どちらも諸々のタイミングを見てからだろうが、刷新した方が我々もやりやすいのだよ。
帝国のためでもある。
帝国も、ぶくぶく太った牛どもに、屠殺場へ行きたいか、真面目に草を喰み、健康的に過ごして、美味しいチーズを提供したいか、どちらか選ばせないといけない時期だ。
“いろいろ”おありになって、時間はかかるだろうが、今度は可愛い子牛を選んで、自国で育成する方がいいだろう。
きちんと育てれば、充分に役にたつ。
まあ、これも条件の一つとしたからには、実行するしかあるまいて…」
クククッと、最後に小さく笑うお父さまは、“氷の補佐官”と呼ばれた時期の面影を宿していた。
いや、私のお父さまの核はこれなのだ。
国王陛下との二人三脚で、“慈愛深く”演じているに過ぎない。
私はどちらのお父さまも、さまざまな意味で尊敬しているので問題はない。
「エリー。本当に、後遺症や変な影響は残っていないんだね」
父として、心配そうに尋ねてくださる。
やっぱりだ。
本当に“地獄耳の宰相”だ。
王城では、国王陛下のくしゃみから、ランドリーメイドの噂話まで把握しているという評価は本物だ。
まあ、彼女達の話は、玉石混交で、“玉”を選び抜く目と知識と判断力がある者しか、有効活用は無理なのだが。
「はい。手当が早かったため、一切ありません」
「そうか。不幸中の幸いだったのか。
八つ裂きにしたかったが、利用しながら八つ裂きにした方がいいと思えてね。
私の“業”だ。すまない……」
「お父さまは、私人であり、公人ですもの。
私はどちらのお父さまも大好きで、尊敬しています」
お父さまは立ち上がると、私を優雅にエスコートするように立たせ、優しく抱きしめてくださる。
「もしも私の愛娘エリーに、後遺症でも残っていたら、どんな手を尽くしても、この国を滅ぼしていただろう。
ああ、やはり心配だ。王国から人を寄越すから、必ず診察を受けておくれ」
ここで断っても、絶対に実行なさるのが、お父さまだ。
「ありがとうございます、お父さま」
私は優美な微笑みで、お父さまの愛情を受け入れる。
ルイスはこの間、黙っていたが、両方の拳を握りしめていた。
あの時、ルイスは警備担当だった。
責任感の強い彼にとって、あの事案は痛恨の極みだ。
ルイスのせいではない。後でフォローしておこうと思った瞬間、私の中で何かが繋がった。
私はお父さまの元ネタがどこか、分かったような気がした。
なるほど。『エンペラー・ハイシルク』だけにしておけばよかったものを、欲をかこうとしたらしい。
お父さまは、0.1を聞いて、下手をすると、百まで探し出してくる方なのに。
バカなことをしたものだ。
「そういえば、『エンペラー・ハイシルク』のご用命はありましたか?」
「ああ。数年待ちだが、受けてはおいた。
そうそう、着られる国情ではなくなるだろう。
しばらく経って落ち着いたころ、それを晴らすためにも、国民の前で、帝国の繁栄と王国との友好の証として披露すれば、ちょうどいいのではないのかな。
まずは、王国の王族とタンド公爵夫人に献上が先だ。
しかし、ピンクダイヤモンドと合わせれば、相乗効果だろう。
国民は美しい権威に弱い。
そのころにはご機嫌も斜めから変化はしているといいね。
女性はとても執念深い時がある。女王虎の尻尾を踏み抜かれたようだったよ。
まあ、男でも執念深い者はいる」
やはりそうだ。
“裏打ち”の布について、匂わせでもしたのだろう。
そこから、あっという間に探られた。
帝国の驕りが垣間見える。
“両公爵”としても、警告を受けた訳だ。
『足をすくわれる者に巻き込まれるな』と、『自分達の足元も気をつけるように』だ。
百を知るには、遠い道のりだ。
この後も寛ぎながら食事をし、公私共にさまざまなお話をしてくださった。
ルイスと私には何よりの宝だったろう。
お父さまは、新邸に設けた、お母さまのお部屋に似せた、お父さまのお部屋と、ギャラリー、公爵領の美味しい料理、ハーバルバスを満喫した。
そして、お母さまの墓参をゆっくりされてから、院長先生に何事か頼み、私達に見送られ、来た時と同様、“影”を連れ、王国へ馬を駆って行かれた。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
いいね、ブックマーク、★、感想など励みになります。
よかったらお願いします(*´人`*)