小話1.お父さまの小夜曲(セレナーデ)
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
※本日3話目の更新です。読み飛ばしにお気をつけください。
連載を続けるかどうか、まだ悩んでいるのですが、どうしてもこれだけは、今夜投稿したかったので、お許しください
m(_ _)m
本編の番外編です。
※※※※※※※※※※※注意※※※※※※※※※※※※※
精神的に追い詰められた方の、デリケートな描写があります。
閲覧には充分にご注意ください。
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引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
カラン、とグラスの中の氷が鳴った。
今夜は少し過ごしたようだ。
下地は、“義兄上”タンド公爵との祝杯だ。
二人で思う存分、重ねていたところを、夫人の「もうそろそろ」を機に、客室へ戻った。
そして、今—
喜び、そして少しの寂しさと侘しさを肴に、独り、いや、アンジェラと二人、酌み交わしている。
目の前のテーブルに琥珀色の酒精を、ワンフィンガー注いだロックのグラスがある。
エリーを産む前に、好きだった酒だ。
美味しそうに、「幸せな心地よ」と、はにかんで味わっていた。
思い出の中のアンジェラに、エリーはもうすぐ追いつく。
それが母にとって、どれだけ嬉しいことか—
エリーも、もう少し経てば、気づくだろう。
今日、愛娘が結婚した。
相手はいい漢だ、と思う。
娘を託せる、いや、共に手を取り歩いていける相手だろう。
結婚式の誓いの言葉は、帝国でも王国でも、神の教えに従った聖句の中の言葉なら、希望し司教に認められれば、変更できる。
エリーとルイス殿はこうだった。
『新婦エリザベスよ。あなたはこのルイスを夫とし
喜びの時も、悲しみの時も
幸せな時も、苦難の時も、
ルイスを愛し、敬い、共に護り合い、
その命が天に召されるまで、誠実に尽くすことを、神に誓いますか』
実に娘らしい、誓いの言葉だ。
ルイス殿と共に考えたのだろう。
私とアンジェラの誓いの言葉は、今でも覚えている。
『新郎レオポルトよ。あなたはこのアンジェラを妻とし
全ての時に、その身と心を、夫婦の信頼に委ね
アンジェラを敬い、慈しみ、共に平穏を望み
その命が尽き果てるまで、勇気を讃え心を合わせ、いかなることにも立ち向かうと、神に誓いますか』
『聖句集』と首っ引きで、かき集めた言葉だ。
『愛』という言葉は用いなかった。
アンジェラにとっては、心酔者に散々伝えられ、押し付けられ、要求された象徴だった。
それでも、故国で精神的にぼろぼろとなり、生きていること自体が、懸命な努力の結果だった、アンジェラには、酷な誓いだったろう。
あの時、言った言葉も賭けだった。
「あなたは私の側で生きているだけでいい。
それがどんなに困難なことなのか、私にはなぜか伝わってくる。
あなたは神に祈る時、『私をお救いください。私は罪深い人間です』と自分を責めるが、それは『私を早くあなたの身許にお召しください』と祈っているからではないのですか」と。
アンジェラの美しい空色の瞳が見開かれ、白珠のような涙がはらはらと頬を辿る。
そして、美しくも、傷ついた猛獣のようにも聞こえる声で、泣き始めた。
あれを号泣というのだろう。
生きてきた中で、初めて見る光景だった。
私はアンジェラが泣きつくすまで、黙って側にいて、泣き止んだ時に、温かいタオルと飲み物を与えた。
「レオポルト様は、どうしてここまでしてくださるのです?」
「さあ、どうしてでしょうね。自分でもよく分からないのですよ」
アンジェラはきょとんとした表情を浮かべた。
幼なげで無垢で愛らしい。
「よくわからないのに、ですか?」
「ええ、したいから、勝手にやってるのです。
もちろん貴女の同意が必須です。無理強いは決してしません。
これは私の自由です。
それをどう思うかは、あなたの自由です」
「私の自由……」
「私はあなたの自由を守りたいのです。と同時に、傷つけたくもない。
本当に好きにしていいのです。
人が恐いならあの小さな離れで、専属侍女と暮らしてください。
彼女はあなたを、深く感謝し尊敬しているが、心酔はしていない。そうでしょう?
望んでいた清貧の暮らしを送れるでしょう。
食事は私が一日分をまとめて運びましょう。
温めなおすことや、お洗濯やお掃除はできるのでしょう?」
「はい、マーサも私も、修道院でお手伝いいたしました」
「では、そうなさってみてください。
欲しいものがあれば、たとえば本や刺繍、衣服、楽器、なんでもメモに書いて、渡してください。
なるべく早く、食事を運ぶ際に届けましょう」
「本当に、そんな、贅沢な暮らしを、してもいいのでしょうか……」
人に会わずに、“心酔者”かと疑わずにすみ、“心酔者”に怯えず、平穏に暮らせる。
アンジェラにとっては、“夢”のような時間だろう。
「あなたにとっては、とても贅沢なことだとはわかります。私はあなたの平穏を守りたいのです」
そして、半年が過ぎたころ、食事のメモには、こう書かれていた。
『レオポルト様に会って、お話がしてみたいです』
アンジェラの心が、私に対し、ほんのわずか、一筋の糸ほど、開いた瞬間だった。
カラン。
氷の音がまた響く。
美しい音が玉響となり、夜の間に消えていく。
私はゆっくりと、アンジェラのグラスの酒も味わう。
「レーオ、レオ。ね、起きて。風邪を引くわ」
いつも優しく気遣ってくれた。
最愛の声の記憶に包まれ、ベッドに身を沈めた。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書きたい、と思った拙作(連載版)です。
前書きでも書きましたが、この小話は、どうしても今夜投稿したかったので、お許しくださいm(_ _)m
連載を続ける際、終了させていただく際、前書きか活動報告で、改めてご挨拶しますので、その時はどうかよろしくお願いします。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
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