60,悪役令嬢の結婚式
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
※このお話の前に、通常2話更新のところ、昨夜は3話目を更新しています。わかりにくくて申し訳ありませんが、飛ばし読みにご注意ください。
エリザベスが幸せになってほしくて書いている連載版です。
これで60歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
やっとこの日が迎えられた—
王国から帝国に来て、まさかまた皇子様と婚約、そして結婚するなんて、誰が思っただろう。
あの、馬を駆っての三日三晩の“移動”中の自分に、この未来を告げたら、『何の悪い冗談を?』と思いっきり白い目を食らうに違いない。
私は今、皇城内にあるタンド家の部屋にいて、出発時刻を待っていた。
花嫁衣装は、ルイスの瞳の色、青いスレンダーラインのドレスを纏っている。
スカートは青く透けるソフトチュールレースで、Aラインのふわりとした曲線を描く。
さらに腰周り、ヒップ丈、太もも丈、膝丈と段ごとに、チュールレースを重ね、短いトレーンを引いていた。
トップスはシンプルな右肩のワンショルダーで、黒と青い花の刺繍が一面に咲き誇る。
花に宿る朝露のように、サファイアとオニキスのビーズが縫い止められ、煌めいていた。
右肩から左腰へ、真紅のサッシュ(太い布)を襷掛けし、腰の部分にガーディアン三等勲章を付ける。
ルイスから贈られたパリュールの内、大粒のサファイアとオニキスが連なるネックレスが、白いデコルテを彩る。
その胸元の金細工は、まるで雪の結晶を張り巡らせたようで、小粒のダイヤモンドを散りばめられ、中央に大粒のイエローダイヤモンドが輝く。
金髪は美しく結い上げられ、ルイスに護られた私を象徴するようなネックレスと同じデザインのティアラを冠る。
淡い青いレースのヴェールが、ティアラに付けられていて、顔を淡く透ける青色で隠し、背中は腰まで流れている。
マダム・サラと伯母様、マーサが、丁寧に花嫁にふさわしく、髪を結い、着付けてくれた。
鏡の中のお化粧している私は、なぜか別人に見えて落ち着かない。
「エリー、本当に美しい花嫁さんよ。おめでとう。
素晴らしき日になりますように」
「よくお似合いでございます。エリー様。
本日は、誠におめでとうございます。
ルイス殿下とどうかお幸せになりますように」
伯母様とマダム・サラとが、いち早く祝ってくれて、少しずつ実感も湧いてくる。
伯母様と互いに軽く抱擁し、遠慮するマダム・サラを捕まえて、両腕で囲う。
すると、「お衣装が乱れます」と優しく叱られた。
さすが、マダム・サラだ。
「エリー様。ルイス殿下がお迎えにいらっしゃいました」
マーサが呼びかける声が、遠くから響く。
ルイスが殿下呼びされるのも、あと少しなんだなぁ、などと、感慨深く思いつつ立ち上がる。
「エリー、とっても綺麗だ。
私の瞳、そのものの色のドレスで、照れくさいくらいだよ」
「ルイスもとっても素敵よ。モーニングもかっこいいわ。似合ってる」
「そうかな。エリーに言われると、自信がつくよ」
いつもの癖で、セットした頭を掻きそうになり、マダム・サラに、「ルイス殿下!」と注意され、「つい……。もうやりません」と謝る。
とても可愛らしく、きゅんきゅんしてしまう。
照れるルイスのトップスは、白シャツにベストを重ね、太ももまである、裾がRカットで長めの黒いモーニングコートを羽織っている。
ネクタイは、白地に金のストライプだ。
ボトムスはグレー縦縞のコールパンツをすっきり着用し、黒い胸ポケットには私の瞳の色である緑色のポケットチーフを挿す。
そして、私と同じく、真紅のサッシュ(太い布)を、右肩から左腰への襷に掛け、腰の部分にガーディアン三等勲章を付ける。
黒と真紅の色合いは、勇敢なルイスによく似合う。
白シャツの袖には、エヴルー公爵家の紋章を用いた金細工と、宝石や貴石で描かれたカフス、そしてネクタイピン、スタッドボタンが隠れたお洒落だ。
ルイスの髪の色である黒、私の髪の金色、瞳の緑、そしてエヴルー公爵家を表す、花婿衣装と宝飾だ。
いつもの黒や白の騎士服も似合っているが、久しぶりに見た正装の、モーニングコートもはっとするほど、かっこいい。
『この人が今日から私の夫になるんだ』と改めて思う。
「自信満々でいてね。今から緊張してきちゃった」
「俺もだよ。さあ、行こうか」
「はい、ルイス殿下」
ルイスの目が少し見開く。殿下呼びしたからだろう。
最後くらい、そう呼んでみたかった。
「お手をどうぞ、エリザベス殿下。
あなたをエスコートする名誉を私に授けてくださいますか」
「喜んでこの身をお預けいたしますわ」
ルイスも右手を差し出し、殿下呼びと貴族的物言いに合わせてくる。
互いに視線を交わし、小さな笑いを洩らす。
サファイアとオニキスを周囲に縁取る、イエローダイヤモンドの指輪が、薬指にはまった左手を重ねた。
〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜
控え室から馬車への足取りは、ふわふわしていて、夢のようで、現実感がない。
これは、本当に、現実なんだ—
そう、思ったのは、オープン型の馬車に乗り込んで、皇城を出た私とルイスを祝福する、沿道の帝都民達の歓声だった。
沿道沿いには、帝国と王国の国旗、エヴルー公爵家の紋章旗、花籠が、これでもか、と飾り付けられていた。
「馬車が来たぞ!」
「きゃ〜!ルイス殿下〜!」
「エリザベス殿下、なんてお綺麗なの!」
「ルイス殿下とエリザベス殿下だ!お幸せに!」
「ルイス殿下!ご結婚、おめでとうございます!」
私とルイスは、笑顔で手を振りながら、耳元で囁き合う。
そうしないと、互いの声が聞こえないのだ。
「たくさんの人達ね。こんなに集まるなんて、思わなかったわ」
「今朝の新聞が全部、トップニュースだっただろう?
馬車の進行ルートまで載ってたんだ。
警備が心配だよ」
「どれだけの集客効果かしら。
お祝い品も飛ぶように売れてるんですって。
エヴルー公爵家紋章のグッズまであるそうよ」
「私の新婦さま。今日くらいはお仕事のことをお忘れください」
「私の新郎さま。今日くらいは警備は同僚の方々にお任せください」
思わず互いを見つめあった後、微笑み合うと、歓声がさらにたかまる。
それに応えるように、また沿道の人々に手を振った。
壮麗な大聖堂の前にも、多くの人々が詰めかけ、祝福を呼びかけてくれる。
そんな中、笑顔のルイスが馬車からエスコートして、降ろしてくれる。
それだけでも、どっと一際大きい歓声が上がる。
馬車列で風を受け、動いて乱れた、青いドレスのトレーンとヴェールなどを、マーサがここでも整えてくれた。
「お嬢様、お綺麗です。どうかお幸せに」
帝国に来てから、ほぼ毎日を共に過ごしてきたマーサ。
優しく囁いてくれ、私は抱きしめそうになるが読まれていて、「エリー様、後ほど」と小声で制止される。
いつでもどこでも、マーサはマーサだ。
これからも、どうかよろしくね。
〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜
降り立ったここからは、父・ラッセル公爵のエスコートだ。
真紅の絨毯に導かれ、大聖堂の正面入り口を通り、閉じられた重厚な扉の前で佇む。
「我が愛娘、エリザベス。
どうか幸せに。アンジェラと私の願いだ」
優しい言葉と微笑みに、思わず涙ぐみそうになるが、ぐっと耐える。
「大好きなお父さま。天にいらっしゃるお母さま。
幸せになります。もう今でも夢みたいなの」
「夢では無い。現実だよ。
さあ、ルイス殿下が待っている」
扉がゆっくりと開き、聖歌隊と列席者の歌が大聖堂の高い天井に響いて、降ってくる。
私は深いお辞儀をすると、しばし、目を閉じ、聞き入る。
「エリー、あなた。しあわせにね。
あなた、エリーを、エリ、ザベスを、よろしく、たのみます……」
お父さまと二人で手を握っていた、お母さまの最期のお言葉が、共に降ってきた。
「エリザベス……」
優しいお父さまの呼びかけに、そっと瞼を開き、姿勢を正し、凛として前へ歩み出す。
『神の恩寵よ。陽の如く、雨の如く、天より、人々へ、降りそそぎ、賜う。
日々の暮らしを営む者よ、安寧の眠りに就く者よ。
神は全ての者に、天使を遣わし、慈愛なる手を差し伸べ、天に招き、共ににあらん……』
最も馴染み深い聖歌が流れる中、一歩ずつ、確実に、トレーンを美しく引きながら、歩いていく。
王国での日々、帝国での日々が、過去が、一歩ずつ、遠ざかっていく。
凛として前を見つめる私に、ヴェール超しの未来に、一歩ずつ、近づいていく。
「ルイス殿下。エリザベスを頼みます」
「承知しました、ラッセル公爵閣下」
エスコートがルイスに引き継がれる。
ルイスとお父さまが、しばし見つめ合い、小さく頷き合う。
〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜
数段上がり、エスコートを解くと、壇上で待っていた、帝都の大教区長である司教様の前に二人で立つ。
ルイスからごくりと小さな音が聞こえた。少し緊張しているようだ。
左手をわずかに動かし、ルイスの右手の甲とそっと触れ合うと、私を向く。
小さく頷く私を見て、静かに深呼吸をしている。
司教様が手を胸元に掲げると、聖歌が徐々に小さくなり、余韻となって、消えていく。
しんと静まり返った、荘厳な雰囲気の中、朗々とした声が響いた。
「これより、ルイス第三皇子殿下とエリザベス第一王女殿下の、婚姻の儀を執り行なう」
堂々たる宣言を受け、私は姿勢を正し、司教様のお言葉を待つ。
「新郎ルイスよ。あなたはこのエリザベスを妻とし、
喜びの時も、悲しみの時も、
幸せな時も、苦難の時も、
エリザベスを愛し、敬い、共に護り合い、共に歩み、
その命が天に召されるまで、誠実に尽くすことを、神に誓いますか」
「はい、誓います」
「新婦エリザベスよ。あなたはこのルイスを夫とし、
喜びの時も、悲しみの時も、
幸せな時も、苦難の時も、
ルイスを愛し、敬い、共に護り合い、共に歩み、
その命が天に召されるまで、誠実に尽くすことを、神に誓いますか」
「はい、誓います」
「神の名の下、新郎ルイスと新婦エリザベスの婚姻をここに認め、大いなる祝福を授ける。
共に、結婚誓約書にサインを」
壇上に用意されていた、二枚の結婚誓約書に、ルイス・エヴルーとサインする。
次は私だ。
ルイスの新しい名前の隣りに、エリザベス・エヴルーとペンで記す。
「ルイスとエリザベスよ。
二人が夫婦となり、共にその名を刻んだことを、神の代理として、確かに見届けた。
では、互いへ記念品の贈呈を行う」
私が深くお辞儀をすると、ルイスがヴェールを持ち、ふわりと上げる。
淡い青色越しの透明がかった視界が、美しく色に満ちあふれる。
緑の瞳で見上げると、微笑んだルイスの姿があった。
「エリー、とても綺麗だ」
「ルイス、あなたも素敵よ」
「ん、んんっ」という司教様の咳払いに、私は姿勢を正すと、ピアスが付けやすいように、顔をやや傾ける。
司教様が持つ、ビロードが張られた箱から、ルイスがピアスを持ち上げ、私の耳に通す。
騎士団での長い年月で鍛えられた太い指が、私の耳に触れた時、わずかに震えていた。
「がんばって、ルイス」と心で応援しながら、両耳に付けてもらう。
次は私の番だ。
練習もしたし、普段から慣れているはずなのに、私の手も小さく震えていた。
何度か静かに深呼吸し、震えが収まると、かがんでくれたルイスの両耳に、ピアスを付ける。
いざとなれば、度胸がついたようだ。
「結婚の記しを、その身に付けた二人を、神は天より、嘉したもう。
神と互いに捧げる、誓いの接吻を」
緑と青の瞳が眼差しを交わす。
ルイスの瞳は少し潤んでいるようだった。
私は改めて思い出す。
初めての接吻が、大聖堂で、列席の皆の前でなんて—
ここに来て、胸が高鳴り、心臓の音が大聖堂中に響きそうだ。
静かに深呼吸し、丹田に力を込めて、眼差しを交わした姿勢で、そっと瞼を閉じ、ルイスを待つ。
すると近づく気配と共に、熱と引き締まった感触が、私の唇にふわりと落ち、離れていく。
「これにて、婚姻の儀を神の身許に捧げた二人に、恩寵を与えたもう。
おめでとう、ルイスよ、エリザベスよ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
私は優雅に深いお辞儀をすると、姿勢をまっすぐ正し、ルイスと見つめ合う。
そして、私とルイスが壇上で振り返ると、列席者から万雷の拍手が贈られる。
お父さま、伯父様、伯母様、お祖父さま、お祖母さま、従兄弟達、お義姉様達。王国大使夫妻、院長様、アーサー、マーサを始めとしたエヴルーの人達。
皇帝陛下、皇妃陛下、皇太子妃殿下、側室様、見かけない少年達は、第四皇子と第五皇子だろう。
そして、ウォルフ騎士団長を始めとした騎士団の方々。
「エリー。夫婦となって、初めてのエスコートをする栄誉を私にください」
「はい、あなた。これからずっとですわ」
皆の拍手の中、ルイスのエスコートを受け、私は壇上から降りると、列席者に感謝を込めて微笑みながら、前へ一歩ずつ進んでいく。
その凛と伸ばした背に、浴びる拍手は、
『これまでよくぞやった。これからはルイスと共に前を向いて歩んでまいれ。そしていつか我が元に』
という、天からの声にも聞こえた。
祝福の鐘が鳴り響く大聖堂の正面の扉を、二人で出ていく。
階段の上で観衆の拍手と祝福の声を浴びながら、ルイスの隣りに立つ私に、清らかな薫風が、「エリー、幸せに」と囁いた気がした。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書きたい、と思った拙作が、やっと結婚式まで辿り着きました。
╰(*´︶`*)╯
最後の「エリー、幸せに」という言葉は、連載を始めるきっかけとなった、エリザベスが幸せになってほしいという、読者の皆様のお気持ちのつもりで記しました(もちろん、読者お一人おひとり、解釈はお任せします)。
この後、披露宴プラスαもあります。
よろしければ、お付き合いください(*´ー`*) ゞ
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
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