48.悪役令嬢のくじ引き
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
エリザベスが幸せになってほしくて書いている連載版です。
これで48歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
陞爵の儀まで、2ヶ月を切った。
相変わらず、エヴルーや帝都を往復しながら、領主としての職務や、二つの式典に伴う諸々の仕事をこなす日々—
そんな中の癒しは、マーサの花嫁美容ケアと、完全防備による乗馬、やはり多忙となったルイスから、送られてくる花やお菓子、可愛い小物たちだった。
既婚者や婚約者持ちの騎士団員の意見を参考にしてるとはいえ、あの大きな手で「これを」と選んでいる姿を想像するだけで、胸がきゅんきゅんする。
婚約期間の甘い思い出だ。
私もルイスに、リラックスできるハーブティーに添えて、チョコ味のお菓子を送った。
他にも、強くなってきた日差しのために、改良した日焼け止めクリームや、ミントウォーター、刺繍したタオル、それにマーサの勧める花婿健康グッズなどもだ。
最後の中身は、「私にぜひお任せを」と言われ、マーサに任せた。
ルイスからは、「エリーの手作りや選んだものだと本当にうれしい」といった返事が来て、二重に嬉しい。
おかげさまで、よく聞く喧嘩は、ほぼ職務状態のためか無かった。
お互いにただ忙しく、6月初旬の陞爵の儀に向けて、1ヶ月前の秒読み状態に入った、ちょうどその日に—
皇城の侍従がタンド公爵家に、“召喚状”を届けに来た。
“アレ”、すなわち皇太子殿下からの呼び出しだ。
内容は、『ルイスと共に、明日、皇城内の指定された会議室に来るように』と命じられただけだ。
何の目的か、他に人がいるのかも、書かれていない。
タンド公爵である伯父様も皇城にいて不在で、公爵夫人である伯母様と相談し、伯父様が帰邸し相談するまで、受け取りのサインはせず、侍従は別室にてもてなす。
礼は失しているが、向こうも同様だ。
事前に調整もしない、この召喚状の出し方は、罪人に出すようなもので、自国の皇族や他国の王族を呼ぶものではない。
皇太子は度々忘れるようだが、私は王国の第一王女なのだ。
伯父様とルイス、王国の大使には、至急、使いを出し、緊急の会議となった。
三人とも額に汗をかき、集まってくれた。
本当にありがたい。
伯父様と大使に、私への召喚状を見せる。
騎士団本部にいたルイスにも届いており、内容は同一だ。
「大まかには嫌がらせですけれど、目的の予想はつきますか?
伯父様、ルー様。“アレ”の動きはいかがですか?」
私は前置きなしに、討議を始める。
「んんっ。エリー。今は皇太子殿下とするように。
大使閣下の御前だよ。
それに明日の会議中、癖が出てはつけ込まれる」
「ごめんあそばせ、大使閣下。
あまりの失礼さに、つい本音が……。
伯父様、皇太子殿下の目的と動きはいかがでしょう?」
「目的は儂も、予想がつかない。
動きも特段の報告は、見当たらない。
『スペア論』の時のような根回しはしていない。
通常職務の間に、時間ができれば足繁く、妃殿下の元へ通ってらっしゃる。
ああ、そういえば…。
『我が帝国は、近年、稀に見る祝事続きで、実にめでたい』と、妃殿下の様子を聞かれる度に、答えの最後に付けてるそうだ。
実際、紛争勝利や、お前とルイス殿下の婚姻もあり、聞かされた方も、『さようですな』『実にめでたい』くらいしか答えていないが……」
伯父様も思案顔だ。
表情が固いルイスも、首を傾げるばかりだ。
「騎士団の近衛役で、俺と近しい者から情報を集めているが、タンド公爵とほぼ同じだ。
ただ微妙にニュアンスが違う点がある。
『祝い事続きでめでたいけど、警備続きで君たちも大変じゃない?ルイスから労ってもらってる?』とかだな」
「相変わらず、姑息にルー様を下げにきてるわね。
いえ、きてらっしゃること」
「ふむ。警備続きで大変……か。
ルイス殿下。警備に何がしかの負担で、騎士団内に不満があったりいたしますかな?」
「いえ。ずいぶん前から決まっている日程ですし、陞爵の儀に関しては、大広間の警備のみ。
エリーの願いで、立ち会いも、血縁者のタンド公爵家の方々と、俺。大使殿くらいです。
あとは、大臣が職務として立ち会い、陞爵の儀が、儀礼として終了すれば、そのまま皇城からも下がります。
披露宴はここタンド公爵邸。
騎士団の警備は、陞爵の儀の前後数時間、厚くなるくらいです」
そう。エヴルー伯爵位叙爵に列席者が多かったのは、顔見せの意味と、紛争勝利祝賀会の最後だったためだ。
希望すれば最低限に絞れるし、本当にご挨拶したい方は、タンド公爵邸へご招待すればいい。
20日後に結婚式もある。
二重に参列させられるのが、親交のない貴族には負担だろう、と伯父様と相談して決めた。
「大使館には、何か皇太子殿下からの接触は、ありましたかな?」
「いえ、特段はございません。
ただ、明日は私も同行させていただきます。
この召喚状は、まるで罪人の扱いです。
我が国の第一王女殿下宛てに、行っていいものではございません」
「そうなのよね。宛名はエヴルー卿でも、私は王国の王族だもの。
ルー様だって、儀礼官に知らせたら顔が真っ青になるんじゃない?
たぶん、知らないでしょうけど?」
「ふむ。今からでも回しておくか。
二人に帝室儀礼に反した召喚状が送られたとな」
「皇帝陛下のお耳に入れるのが、一番早いと思うけど?」
「それだと恨みを買いすぎて、結婚式までの時間が、また面倒になる。
皇太子皇太子妃両殿下も出席なさるからな」
ルイスの顔から、表情が抜け落ち、ぽつんと呟く。
「…………招きたくなくなってきた」
「ルー様。それ、絶対言っちゃいけないわ」
小さく頭を振り、こちらへ戻ってきてくれる。
「悪い。つい現実逃避したくなった。
ただ、騎士団の警護と祝い事に関しては、妃殿下と皇妃陛下の御出産の方が、大変と言えば大変なんだ」
騎士団の仕事の時は、普段の3倍増しで、きりっとすると思う。こんな時だけどカッコいい。
「ああ。出産予定日とは言っても、予定日ではありませんからな」
「はい。かなり前後するので、1ヶ月前から、祝砲の用意と、陣痛開始後の特別警戒プランは立案済みで、もうすぐ訓練開始です」
私は何かが、頭の片隅に引っかかり、つい口に出てしまう。
「警備が大変、警備が大変、警備が大変……」
「エリー、どうした?」
心配そうに覗き込んできたルイスに、私はぱっと顔を向け、問いかける。
ルイスの顔色が少し赤い。大丈夫かしら。
「……ルー様。増えた警備に付き物なものって、何かしら?」
「え?…………まず人手だな。それと警備費用だ。人件費、もろもろの」
やっぱり。そう、費用。お金だ。
「伯父様?皇太子皇太子妃殿下の第一子ご誕生のお祝いの規模は決まっておりますの?」
「今のところ、皇太子殿下お誕生の際に準じると、大蔵大臣からは聞いている。
3日間に渡って行われる。
誕生当日は祝典に続き、舞踏会が開かれ、翌日は晩餐会を開催する。
3日目には皇帝陛下によりお名前が発表され、夜には花火が打ち上げられる。
国民は対しては、お誕生日を含め3日間が祝日で休みとなり、初日の夜、皇城前で酒が振舞われる。
あとは、恩赦に、定期的に行っている各所へ臨時の寄附だ。
ただし、これらは、予算、もしくは余剰予算で充分賄える」
「そう、ですか……」
ある可能性が浮かんだが、ここから先は、大使には聞かせられない。
とりあえずは、話を切り上げることにする。
「大使閣下。では明日、お迎えに参りますわね」
「お待ちしております。エリザベス第一王女殿下」
私たち三人は、大使を見送ると、伯父様の執務室で、二通の召喚状の返事に、各々、私とルイスとタンド公爵の氏名をサインする。
私は、エヴルー卿だけではなく、王国の第一王女としての氏名も追加した。
これを、皇城からの使いの侍従に持たせて帰らせる。
部屋には、もてなし兼監視役を置いたため、大使のことは気づいていないはずだ。
厳重に人払いし、三人で会議を続行する。
「伯父様。ルー様。あくまでも、あくまでも、これは可能性のお話です」
「わかった。愛する姪よ」
「エリー。了解した」
私はつい、緊張からか、唾をゴクンと飲み込む。
お行儀、悪くてごめんなさい。
「皇太子殿下は、皇妃陛下と妃殿下の“限定的天使効果”の影響下にある。
これが私達の出した結論でしたわよね」
「ああ、そうだな」 「その通りだ」
「でしたら、愛する妃殿下のお子様ですのよ。
お祝いを、ご自分の時の規模に収めると思いますか?」
「?!?!」 「?!?!」
「それも、帝国が三代続くという、御嫡孫。
めでたさも、あの方の頭の中では、数倍に、いえ、最大限に膨れ上がりつつあるかもしれません。
そうなると、私たちの結婚式なんて、邪魔にしか思えないでしょう。
余計なものの、余計な金食い虫だと」
「エリー。ちょっと待ちなさい。
お前とルイス殿下の結婚は、帝国と王国、二国間の婚姻なのだよ。
もう招待状も出されている。
早々に中止や延期ができるものでもない」
「伯父様。だから、私たち“だけ”が呼ばれるんだと思いますわ」
「え?」 「は?」
「私たちが自発的に申し出たことにすれば、あの方にとっては、万々歳ですもの」
「つまり、俺とエリーの婚姻を中止か延期しろと?」
「いえ。それは外聞があまりに悪く、王国側にも義理が通りません。
何か理由をつけて、予算に圧迫をかけようとしてるんではないかと……」
「エリー。お前たちの結婚式の主な費用分担としての“予定”は、ドレスはルイス殿下、帝室持ちは、パリュールとその後の祝宴だった。
本来なら全て帝室負担だが、ドレスやパリュールに制限があるため、ドレスはルイス殿下の負担となった。
飛び抜けて豪華でもない。外交的に一般的な予算内だ」
「だからこそ、ですの。
主催者の帝室が恥をかかない唯一の方法。
新郎新婦の限定的な辞退と、予算縮小の申し出。
今ならギリギリ間に合いますもの」
「…………」
「…………」
伯父様とルイスは呆気に取られている。
さすがに荒唐無稽だろうが、相手は“アレ”、いや、“限定的天使効果”に、しっかり“二重”に囚われている皇太子殿下だ。
頭の中は、何でもありになっている可能性があった。
天使の聖女修道院の設立者の聖女様の寄附について、神のために全財産を投げ打ち、清貧の徒になった者が続出したと記述されていた。
伝説的なオーバーな表現だと思っていたが、ルイスへの態度を見ていたら、充分にありうる。
いち早く反応したのは伯父様だった。年季が違う。
「……なるほど。
二重の“限定的天使効果”に、妃殿下との今までにない、密接な交流による影響の肥大化と、さらに帝国にとって“嫡孫”という尊く貴重な存在、の相乗効果か」
「はい。帝国の帝位継承権は、女性も帝室に籍がある限りは変わりません。
性別に関係なく、御子が生まれれば、皇太子殿下の人生で、“運”、もしくは、“くじ”が、“史上最大の大当たり”となります。
予算の抑えなど、どこかにやってしまいたい。
できることなら何でもやるぞ、と予想しました。
外れることを、切に祈っております」
しばらく黙っていたルイスが、思い詰めた表情で、私に話しかける。
「エリー。タンド公爵。
毒を盛られる可能性はないか?」
「?!?!」
「?!?!」
執務室の緊張感が一気に高まる。
キーンという高い音が聞こえてきそうだ。
「ルー様。大使も一緒ですのよ?」
「強制排除してしまえば、関係ない」
「……そうなると可能性はゼロではありませんわね。式典自体、消えますもの」
「服喪期間は祝えないぞ」
「そんなの、“嫡孫誕生”で無理矢理、押し通しますわ。もう最高潮でしょうから」
「毒の対策もしておこう。そうだな……」
私たちは、“外れ”を願いながら、伯母様も呼び、諸所の対策を練った。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書きたい、と思った拙作です。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
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