41.悪役令嬢の内幕
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
※後半はルイス視点です。
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イジメなどについて、デリケートな描写があります。
閲覧には充分にご注意ください。
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エリザベスが幸せになってほしくて書いている連載版です。
これで41歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
「エリー、お疲れ様」
「ルー様こそ、お疲れ様でした」
私とルイスは、あの会議の後、会議の一部始終を皇帝陛下に報告し、皇妃陛下や関係者にお礼の挨拶回りをする。
皇妃陛下はとっくの昔にご存じです。
情報網を敷いてないと、帝国の皇妃なんかやってられません。
それでも相談するか迷っていたけれど、ありがたいことに皇妃陛下から、心配して申し出てくださいました。
二人で上手いこと、皇帝陛下をリードさせていただき、『ルイスの臣籍降下を含めた褒美は、皇帝が定めたのだ。誰の口出しもさせない』とのお気持ちに持っていき、お言葉もしっかりいただきました。
あとは、皇妃陛下が主導した雑談の成果です。
つわりの治りかけなのに、ルイスのために非常にがんばってくれました。
「私はルイスのために、ほとんど、いえ何もできていないのよ」
もちろん、帝国の皇妃である以上、一般的な子育ては難しく、普段は信頼する養育係に任せ、大切なところで、母として接するのが慣例だ。
その、大切なところさえ、ルイスにはほぼできなかった。
いつぞや、こう洩らしていたお気持ちとお言葉を利用させていただきましたが、ほんの少しでも、お気持ちが楽になっていればいいと思う。
過去は変えられない。
未来はこれからだ。
ルイスは、まだこのお気持ちを知らない。
例の、皇妃陛下がマダム・サラに依頼して、伯母様が差し戻した、結婚式のパリュールの費用負担などについて話し合う時に、もし話せたら、と思う。
お礼回りも騎士団長を最後に無事に終え、ルイスがタンド公爵邸へ送ってくれる。マーサも同乗だ。
「騎士団長閣下のおかげで、大臣も全員じゃなかったね」
「陛下のお言葉じゃないが、あんな『世迷い言』、本気にする方がどうかしてる。
皇太子殿下に上手く乗せられたか、美味しい話と引き換えに、集められたんだろう。
タンド公爵閣下はもちろんだが、外務大臣も通商産業大臣もいなかった。
ある意味、王国との関係も考えられない人間が篩にかけられた、ってことだ」
「まあ、私の未来の旦那様の急成長ぶりがうっとりするほど素晴らしいわ」
ルイスは照れて、頭をかく。そういうところ、きりっとしてる時との違いがいいなあ。
「ハイレベルすぎる王妃教育を受けたエリーには敵わないけれど、囮や援軍にはなれる。
いつかは作戦段階じゃなく、実戦で本軍に参加したいけどね」
うん。軍事的にたとえる癖は相変わらずだけど、とてもわかりやすい。
皇帝陛下も見習ってほしいくらいだ。
「軍事にも言葉は、意思疎通は重要でしょう?」
「味方には簡潔に、意図が通じる最低限の言葉を選べと言われてる。戦意高揚にもね。
敵方の交渉では、真逆の部分が多い。
演習で鍛えられてるよ」
「さすが私の旦那様。努力を惜しまないところが素敵よ」
不自然でない範囲で、褒めて育てる。基本中の基本だ。
ルイスの場合はほぼ本音だ。どんどん素敵になっていく。
「エリーは、交渉のテーブルについてても、綺麗で可愛いなあ、と思ってたよ。
まるで、言葉の戦いの女神だった」
私は思わず頬が熱くなる。きっと赤くなってるに違いない。
「女神は言い過ぎ。だったらルー様は軍神よ。
今日も私を、いいえ、二人を護るために先陣を切ってくれたわ。練習以上にかっこよかった。
本当にありがとう」
ルイスも照れて口許に手を当てる。耳がほんのり赤い。
可愛いって言えないけど可愛い。
咳払いしたルイスが、話を変える。
「ん、んっ。
今回の話はこれで立ち消えになるだろう。
ただ皇太子殿下の意図が今ひとつ読めない……。
何がしたいのか。
第四、第五皇子との交流も、多少はあると聞いていたんだが……」
「そうね。第一は嫌がらせ?
ルー様が自分より評価されて、認められるのが、お嫌なんだと思う。
私もあまり好かれてはいないわ。
自分より優秀な存在を許せないタイプなのかしら。
面白がっておもちゃにする時もあるけれど。
これは皇太子殿下を観察してて、思ったこと。
ね、ルー様。皇太子殿下は、紛争前に、ルー様を近衛役に指定したでしょう?
あの時の様子はどうだった?」
ルイスの表情から、温度が失われる。
辛いことを聞いてしまったようだ。
「ルー様。ごめんなさい。話したくなければ」
「簡単に言えば、犬扱いだったよ」
「え?」
私は一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
「主人と犬だ。
親しみを示しつつも、お上手に立場の違いを殊更にアピールしていた。
特に俺の同僚、騎士相手にね。
『騎士を何だと思ってらっしゃるんだ』って、本部に戻って閉鎖空間で怒る者もいれば、『いい気になってるからだ。主に対して、身の程を弁えろってことだろ』と言うヤツもいた。
俺は15歳で騎士になれた。
嫉妬する人間もそれなりにはいたんだよ。
騎士の戒め、『忠誠、勇気、武勇、正義、礼節、守護、高潔、誠実、寛大、博愛』とか言うけど、騎士だって聖人君子じゃない」
そういうことか。ひどい、ひどすぎる。
何の恨みがあるのか。
なぜそこまでルイスを忌み嫌うのか。
理由があるはずだ。いや、ああいうタイプは、理由なく『そう思ったから』という場合もある。
でも、どういうことがあろうと、人間として、ましてや、人の上に立つ皇太子として、やっていいことでは決してない。
「……嫌なことを思い出させて、ごめんなさい」
「いや。知って欲しくもあった。皇太子を警戒するためにもね」
ルイスが尊称を消した。敬意を示す相手ではないと言いたいのだろう。言葉を続ける。
「エヴルーで、ラッセル公爵殿と夕食を共にした時、『一人ではなく、味方作りをしていくといい』と仰っただろう?
俺はそうする。もう始めてるよ。
臣籍降下すれば、序列第一位の公爵となる。
父上がご存命の間に、着々と地盤を築き上げていく。早々、手が出せないようにね。
公爵家の内部もラッセル公爵を見習うよ」
「ルー様、私も一緒よ。そして、私にしかできないことをするわ」
「エリーが一緒だと心強いけど、エリーにしかできないこと?」
「えぇ、王国の方々との交流よ、
お父さまと、今の陛下がご存命の間、そしてソフィア様とメアリー様がいらっしゃる間に、関係をもっと強固にしておくの。
ルー様にそう簡単に手が出せないくらいにね」
「エリーは最強の奥さんだな」
「あら。ルー様は最高にカッコいい旦那さまだわ」
私の返しにルイスの青い瞳が甘くとろける。
「ラッセル公爵殿と、どちらがカッコいい?」
「比べられないわ。
ルー様はルー様。お父さまはお父さまだもの。
私と一緒に幸せになるのはルー様でしょう?」
にっこり微笑みかけると優しく頭を撫でてくれ、手を握ってくれる。
「……うん、そうだね」
馬車の揺れで思わず前に傾くが、ルイスがしっかり受け止めてくれる。
「……離したくない」
ルイスが何か呟いたと思ったら、マーサが「ん、んんッ。ルイス様?」と声をかける。
小さくため息をついたルイスが「どこも怪我はない?」と確認しながら、私を席に戻してくれる。
いつも思うけれどすっごく力持ちだ。
「ありがとう、ルー様」
「ありがとうございます、ルイス様。“守って”いただきまして……」
私だけじゃなく、マーサもお礼を言ってくれる。
さすが忠義者。
「エリー、当たり前だよ。マーサ、大切な約束だからね」
私に向かって優しく青い瞳は細められ、マーサには妙にしゃきんとするのだった。
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【ルイス視点】
皇城からの帰りの馬車は、俺にとって最高のご褒美の時間だった。
エリーの賢さと可愛さと美しさが、いかんなく発揮された会議の後、馬車で少しはしゃいでる姿も本当に可愛い。
俺が本当に思った『“女神”だ』と伝えると、『軍神』にたとえてくれる。
照れてしまうが、それ以上に嬉しい。
兄の、いや、皇太子の話になり、今まで避けていた、アイツの近衛役になった時のことを説明すると、綺麗な緑の瞳が潤んで謝ってくれる。
エリーは悪くない。
元凶はアイツだ。
しかし、ここで悪くないと言っても、エリーは気にするだろう。
せっかくの二人っきり(マーサ付きだが、条件次第で壁に同化してくれている。素晴らしい気配の消し方だ)の時間だ。
話題を変える。未来の話だ。
エリーと幸せになるための、未来図について語ると、エリーはさらに視野が広くて素晴らしい。
つい「最強の奥さん」と言うと、「最高にカッコいい旦那さま」と返してくれる。
ほんと、何?この世界一可愛い生き物は?
しばらく見とれていると、つい、以前から気になっていた、義父との比較を聞いてしまう。
「ラッセル公爵殿と、どちらがカッコいい?」
即答だった。
「比べられないわ。
ルー様はルー様。お父さまはお父さまだもの。
私と一緒に幸せになるのはルー様でしょう?」
うん、これこそがエリーだ。
本当に素晴らしく愛らしいと思い、許されている範囲で優しく頭を撫でて、手を重ねそっと握る。
と、そこに突然、幸運が舞い降りた。
馬車の揺れで前傾姿勢になったエリーを助けるために、咄嗟に抱き止める。
そのたおやかな身体の柔らかさ、しなやかさ、芳しい香り、その全てが素晴らしく、愛しくて、魅了されてしまいそうだ。
つい、本音が洩れる。
「……離したくない」
すかさず、マーサの牽制が入る。
仕方ない。
男と男の、いや、未来の舅と婿の約束だ。
しかし、本当にマーサは忠義者だ。
「ありがとうございます、ルイス様。“守って”いただきまして……」
しっかり警告してくる。
俺の下心は、見抜かれている。
俺は俺の思いからも、エリーを守らなければならないのだ。
「エリー、当たり前だよ。マーサ、大切な約束だからね」
優しく可愛らしいエリーに微笑みかけると同時に、ラッセル公爵に報告しているようなマーサにもアピールしておいた。
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馬車はタンド公爵邸に到着する。
なんと、公爵自身が出迎えてくれた。
できれば、俺と話がしたいと言う。
もちろん応じ、公爵の執務室で、ソファーを勧められ、お茶を出してくれた後、人払いし二人となる。
「殿下。以前いただいた、“ダニ”の被害者候補に関する調査ですが、思いもよらない物が出てまいりました」
“ダニ”とは、タンド公爵家における、第二皇子の別名だ。夫人が名付けた。
第二皇子がエリーに毒を盛った時、周辺調査を行い、退職後の生存者を一律に検査したところ、かなりの割合で毒が用いられた結果が出た。
彼らには賠償金の代わりに、特別な恩給が支給されている。
ただし調査段階で死亡していた者は、証拠も調査できず、そのままだった。
そのリストをタンド公爵の求めに応じ渡していた。
もちろん騎士団長の判断だ。
“被害者候補”とは彼らのことだろう。
それにしても報告してきた公爵の表情が固い。
いったい何があったのか?
デスクの鍵付きの引出しから、1冊の本を取り出し、テーブルの上に置く。
いや、本というよりも、忘備録か日記のようだ。
「殿下。心してお読みください。
付箋の部分だけでも、内容は理解できます」
俺はテーブルの上に手を伸ばし、古びた日記らしき冊子を取った。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書きたい、と思った拙作です。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
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