39.悪役令嬢の守秘義務
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
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妊娠・出産などについて、デリケートな描写があります。
閲覧にはご注意ください。
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エリザベスが幸せになってほしくて書いている連載版です。
これで39歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
「皆様、お気をつけて!
王国までの旅路に、神のご加護を!」
「エリザベス殿下!
王国にぜひお越しください!お待ちしています!」
「ラッセル公爵閣下!
王国に戻ってきてくださいよ!」
「そのうち追いつく!油断なき旅路を!」
エヴルー伯爵領 地 邸前で、王国の外交団の馬車列を、お父さまと見送る。
共に帝都は出発した。
お父さまは別行動で、エヴルーで2泊過ごされてから、王国への帰途へつく予定だ。
私とルイスがこれから生きていく、エヴルー領を知ってから、帰りたいとのご希望だ。
明日にはルイスも合流する。
まずは、この領 地 邸近辺の領地を検分したい、と仰るお父さまのため、アーサーと共に、馬で見回りをする。
まだ丈が低い冬小麦の畑を一望しながら、農道を進む。
時折降りて、アーサーの説明を聞き、地図で確認する。
お父さまのご意見は的確で、参考にすべきものが多い。
ラッセル公爵領の殖産興業の時もそうだったが、王妃教育よりも興味深くてわくわくする。
今夜は、今回の外交日程で、初めての親子二人っきりの夕食だ。
お父さまは案に相違して、私に注意・忠告は与えず、ほとんどの時間、私の今のお気に入りについて語り合った。
エヴルー領の食べ物や自然、使用人達、天使の聖女修道院など。
帝都での、タンド公爵家の皆様と公爵邸、お母さまのお友達、マダム・サラとそのお店、ルイスと行った宝飾店やパティスリー、書店や他のお店などだ。
私そっくりの緑の瞳を優しく細め、嬉しそうに微笑んでいた。
翌日にやってきたルイスは、「名宰相にご助言いただく、素晴らしい機会だ」と、新公爵領予定地を案内し、お父さまと積極的に意見交換していた。
普段見られない、騎士団での参謀ぶりが窺えて、私は嬉しかった。
エヴルー伯爵領から公爵邸予定地までの道路敷設や、公爵邸建設工事を、共に検分した際、お父さまのご意見をメモに取り、さらに質疑応答している。
私も加わり、三人で過ごせ、大切な意義深い時間だった。
食事の時間は、やはり私的な会話を楽しむ。
ルイスが私の幼少期からのエピソードをお父さまに尋ね、時には「なんて愛らしいんでしょう」「そうでしょう。さすが婿殿」なんて会話をしている。
私は恥ずかしくて仕方ない。
エヴルーだったことで、お父さまから、ここを舞台にした、新聞に掲載された、ルイスと私の『運命の出会い』についても尋ねられたが、話せることと話せないこともある。
特に乳母の毒殺の件は、絶対に無理だ。
そこは『大切だった従者の墓参』と言い換えた。
出会いのハーブティーに関するルイスのやらかしを、ルイスは正直に話し、お父様にも私にも、改めて謝ってくれる。
ハーブティーの件で、やはりお父さまは氷の笑顔となった。
しかし、それがきっかけで、紛争からの帰還後に失われていた味覚や嗅覚を取り戻せた。
独特の違和感・喪失感などから、日常を取り戻せたのは、私のおかげだと聞き、雰囲気が変わる。
最後は、「やはり出会うべくして出会ったのでしょう」と仰ってくださった。
ルイスは、「エリーを何ものからでも護る」とお父さまにも誓ってくれる。
お父さまは、しばし考えた後、私とルイスに温かい眼差しを巡らす。
「私がアンジェラと結婚した時、ありとあらゆる伝手と手段を用い、下げたくない頭も下げ、屈辱的な思いもしました。
しかし、アンジェラとの人生に比べれば、何ほどでもなかった……」
ここでゆっくりワイングラスを傾ける。
お母さまとの日々を思い出しているかのようだ。
「その喜びあふれる人生は、難題続きでもあった。
私は“影”と“使用人”を育成し、人間関係も構築し、アンジェラのトラブル相手を全力で排除した。
私一人では、到底成し得なかったでしょう。
ルイス殿下も、お一人ではなく、味方作りをしていくといい。
特に、自分とエリーに忠誠を誓い、何事もしてくれる部下です。“何事”もね」
ここでもうひと口、ワインを味わう。
「エリーも周囲をもっと頼りなさい。
あのとんでもない王妃教育の遺物で、自分一人で何とかしようとする悪い癖がついているよ。
まずはルイス殿下に相談し、信頼できるタンド公爵夫妻、父である私、院長先生、ここエヴルーの使用人達、大使館などを頼りなさい。
他者に任せられることは任せなさい。
そうやって彼らもエリーも成長していく。
努力する方向性を考えよう」
「ご助言、ありがとうございます。ラッセル公爵」
「お父さま、大切に思ってくださって、ありがとう」
この後も、ご機嫌なお父さまと楽しく会話し、料理を楽しんだ。
お父さまは、食後、「“騎士団方式”というスタイルをぜひ試してみたい」と、笑顔でルイスを連れていった。
二人でじっくりと飲み、途中からアーサーも参加したらしい。
翌朝—
お父さまは素敵な笑顔で、馬を駆り王国へと出立した。
私とルイス、エヴルー領 地 邸の使用人全員で、手を振り見送る。
ルイスは珍しく二日酔いで、私が調合したハーブティーを飲む。
そして、「騎士団方式が通じない相手がいるとは」「世界は広かった」「ワクではない。あれはもはや“海”だ」などと、またもや呟き、アーサーに肩を叩かれていた。
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ルイスも帝都へ戻り、私はエヴルー領の領主としての仕事に、アーサーと共に取り組む。
“新殖産品”に関しての領民間の不和も、収穫祭などをきっかけに、収束しつつあるという。
ハーブの耕作希望者も順調で、種や苗を天使の聖女修道院から分けていただき、栽培を始められる予定だ。
ハーブの利用も、日焼け止めや化粧水などのテストは順調で、製品化に向けている。
ここで新たに、果実酒からヒントを得た、高濃度のアルコールによる抽出方法をテスト中だ。
きっかけは、領民の代表者達との会合で得た情報だった。寒い北方では、ハーブで香り付けした、アルコール濃度の高い酒も飲まれているらしい。
染料も最終段階で、染めた糸を用いたレース編みや刺繍から、布地に至るまで、注文制で生産できそうだ。
写本も担当のシスターが作製中で、院長様は、「満足のいく出来です」と仰っていた。
もちろん、陞爵の儀や、結婚の準備も、各々の打合せに進捗確認など、やることはいっぱいだ。
お父さまの言葉を忘れずに、他者に任せるものは任せて、独りで背負わないようにしよう。
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充実したエヴルー領での予定は過ぎて、帝都へ行くと、またもや皇妃陛下より出仕依頼の手紙が、タンド公爵邸に届いていた。
吐き気の症状は緩和されたが、胃の調子はまだ戻らないため、とある。
私は前回渡された記録書を読み込んだ上で、翌日皇妃陛下の元へ、マーサと共に出仕した。
前回出仕から記録書を渡され目を通し、拝謁して直接症状を確認する。
吐き気は治まったが、食が細く、少しずつしか食べられない。
マッサージなどは効果があり、前よりも眠れているが、まだ日中の眠気も強く、ほてりも残っている、との申告だった。
「皇妃陛下、今回は侍医の方々と話し合いをした上で、調合させていただきたく思います。
ハーブティーはあくまでも補助的なものでございます。
侍医のご意見を伺った上で、調合した方が、お薬の効能とも合わさり、より効果的と思います」
「エリザベス殿下。わかりました。ではそのようにお願いします」
私は皇妃陛下から了承を得ると、マーサを前回調合した部屋で待機させ、侍医の方々、そして、皇妃陛下の最も側にいて体調を把握している侍女長と、会議を行う。
与えられた部屋で、侍医男女二人、侍女長、と皆が揃って座ってすぐ、私は立ち上がると、扉を施錠した。
窓も全て鍵が掛かっているか確認する。
不審そうに眺める三人の前に座り、ひそやかな声で切り出した。
「恐れ入ります。皇妃陛下はご懐妊されてますね」
「?!?!」
「………………」
「なぜ、それを?!あ……」
三者三様の反応だったが、私の結論は正しかったようだ。
「理由が必要ならば述べますが、いかがなさいますか」
女性の侍医が前のめりがちに答える。
「参考までにお聞かせください」
「一番の根拠は記録書です。
月のもののお悩みは、以前から、かなり重いものでした。ところが前回の記述にはありませんでした。
また症状も、年齢のお悩みとも共通しますが、ご懐妊初期の症状とも合致します。
皇妃陛下には、皇帝陛下の御渡りもあります。
月のものもあり、年齢的に低いが、ご懐妊の可能性が全くないわけではない。
ですので、前回は念のため、妊婦には禁忌のハーブは一切用いませんでした。
今回拝見した記録書でも、月のものの記載はありません。現在、周期が不安定な皇妃陛下ですが、この期間は長すぎます。
症状もお悩みと重なりはありますが、ご懐妊のものです。
私個人で、ハーブティーの調合をするよりも、侍医の方々と話し合ってから行った方がよろしいと判断した次第です」
男性の侍医が何度か頷き、私に答える。
「さようでございましたか。エリザベス殿下。
仰せの通り、ご懐妊にございます」
「侍医殿?!何を勝手に!」
「侍女長。皇妃陛下のご健康に関わる者に、隠し通せるものではありません。
またご懐妊初期は、使えないお薬も多く、ハーブも同様です。
さまざまな可能性を吟味し、禁忌を避けてくださったエリザベス殿下に感謝すべきです」
「…………皇妃陛下にご報告はしなければなりません」
侍女長は、抑えきれない苦い表情で、私を見つめる。
ここまでの医学的知識があると思わなかったのだろう。
私は王妃教育で、後宮政治の根幹である妊娠と女性の体について、徹底的に学ばされた。
この結果はその成果だ。
「当然でございます。
私は調合師として、依頼主の症状などは医師と同様に、公開してはならない、非常に大切な秘密を守る義務があると考え行動しています。
私が知った上で、調合を依頼されたいかは、皇妃陛下のご判断です。
もしされたくなくても、秘密は厳守します。
侍女長殿。皇妃陛下に確認してきてくださいますか」
「……かしこまりました」
侍女長が部屋を出ていき、私はまた施錠する。
「エリザベス殿下。ご配慮、ありがとうございます。
前回の調合を見て、もしや、と思いましたが、慎重に調合してくださって、助かりました」
「吐き気や胃痛に効能のあるハーブは、ご懐妊中の禁忌が多うございます。それらを侍医の方々に却下されれば、目立つとも思いました。
差し戻されたハーブの共通点を考えれば、わかってしまいます」
「なるほど。かたじけなく……」
ここにノックの音が響き、ドアを開けると、皇妃陛下ご自身が立っていた。
「エリザベス殿下にお話ししたいことがあるの。
よろしくて?」
「はい、どうぞ。お入りください」
侍女長が椅子を引き、皇妃陛下は優雅な所作で着席される。
「まず、ご配慮を感謝します。沈黙を守ってくださっていることも。
この年齢の懐妊は、継続が難しい。
特に初期に流れてしまうことが多い。
また出産も若い時と比べれば危険がとても多いと、侍医からはすでに説明を受けています」
皇妃陛下は私が考えていたよりも、危険性を把握し、現実的に捉えていらした。
これが精神的な負荷となっていた可能性もある。
「それに、皇太子妃とも産み月が2、3ヶ月しか違わぬとのこと。
ルイスの時のような噂で、この子が苦しむのは辛いのです……。
それでも授かった命。無事でいてほしいと思ってしまいます……」
腹部に手を当て、そっと撫でる。すでに宿った命の母であった。
「皇帝陛下はなんと仰せで?」
「喜んでいらっしゃいます。次こそ皇女がよいと。
できることはなんでもすると、仰せです」
皇妃陛下のご年齢の出産は、命懸けだって侍医が言ってるのに、何を脳天気な。
あの……………!(自主規制)
「皇妃陛下。不敬をお許しください。
はっきり言って皇帝陛下は当てになりません。
侍医殿達や侍女長を始めとした、口の固い侍女、皆様で、皇妃陛下をお支えする体制作りが現実的と思います」
「ふふっ、本当にはっきり言うのね」
「たとえ若くても、出産は命懸けです。
皇妃陛下はさらに危険度が上がっているというのに、のんきに男女の性別を考えてる状態で、すでに落伍しています。
侍医殿から、今一度、危険性を説明した方が良いかもしれません」
「そうすると、なんでもやると、かえって煩わしいの」
「皇帝陛下、ご自身が気遣われてもですか?」
「…………」
「今の皇帝陛下は、ご自身は他人事で、なんでもさせるのは他人。
皇妃陛下をお支えしているとは、言い難いです。
変わっていただかなければ、鉄壁の布陣には残念ながら、ご自身の参加はご無理です」
「本当にね、ふふっ」
「話は変わりますが、いつごろ公にされるおつもりですか?」
「侍医の診断では、3月の中旬ごろまで無事なら、産んであげられる可能性も高くなるそうよ。
そうでしょう?」
「さようでございます」
「そのころを考えてはいるわ」
私は勇気をもって、皇妃陛下に誠実に告げる。
「かしこまりました。
私は残念ながら、全力でお支えする中には入れませんが、秘密を厳守し、侍医殿達と連携し、ご懐妊中、なるべくお楽に過ごせるように努めます」
「あら、全力では支えていただけないのね」
「客観的に考えて、無理でございます。
私が抱えている仕事量から、安易にお引き受けはできかねます。
ただ、集まりの外側から、客観的に見た方が、冷静な場合もございます。
侍医殿との連携による調合と、全力で支える集まりのサポートを、努めたいと思います。
これが今の私の全力です」
「……そう。正直、逆に助かります。
できないことを、できると言われても困るもの。では調合をお願いします」
「かしこまりました」
私はその後、調合室となった部屋で、マーサと共に、侍医達と検討した目的のハーブを調合する。
何度か試して、合格となる。
侍女長にレシピを渡し、いつも通り入れ方を教えて、退出した。
今日は本当に疲れた。
ルイスがこのことを知ったら、どう思うだろうか。
そんなことを考えながら、馬車に揺られていた。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書きたい、と思った拙作です。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
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