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2.悪役令嬢の故国



※※ ※※※ ※※※ご注意とお願い※※ ※※※ ※※※

残虐、妊娠、出産といった非常にデリケートな表現があります。

閲覧には、充分にご注意ください。

決して無理はなさらないよう、お願いいたします。

※※※ ※※※ ※※※※※※※※ ※※※ ※※※ ※※ ※



テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—



エリザベスが幸せになってほしくて書いた連載版です。

まずは3歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。



「ハーーハッハッハッハッハッハッ……」


 ラッセル公爵邸、執務室—


 執事長を前に、公爵の高笑いが止まらない。


「旦那様。そろそろ次のご報告を聞いていただきたく……」


「ああ、すまんな。バカ(=王子)の処分が決まったのでな。勝ちすぎてもいかん。絶妙な落としどころだ」


 愛娘の苦しさを思い知るがいい—


 公爵は次なる言葉に耳を傾けていた。


〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 アルトゥール王太子は、あの日、王妃執務室から国王に執務室へと呼び出され、婚約解消の書類にサインさせられた。


「お前の自業自得だ。

ほれ、これが回収した懐中時計だ。

逮捕された子爵家の息子がペラペラと喋ったぞ。

シャンド男爵令嬢が、お前の隙を見て盗み出し、息子との密会のベッドの中で、嘲笑(あざわら)っていたそうだ。

これを音読してみよ」


 侍従から渡された書類を持つ手が、ブルブルと震える。同調するように、声も小さく、途切れ途切れだ。

 国王は決して許さず、腹からの発声を何度も要求し、朗読させる。


「一緒にいないのに意味ないわよね〜。何が『離れても、同じ時間を刻んでる』よ。ばっかみたい。

こうして、ぴた〜っと一緒にいなきゃ盗られちゃうし〜。

ね〜、このピンクダイヤモンドって、すっご〜くお高いんでしょ?エメラルドも凄そう。

売り飛ばして、現金に換えましょうよ。

それとも指輪とかにリメイクがいいかな〜。

石を剥ぎ取られた時計と指輪。あの女に見せたら、どんな顔するんだろ〜。

王子様だって、無くなったのに気づかないわよ〜。だって、ネジさえ巻いてないのよ?

見て、もう止まってるわ。キャハハハハ〜、です……」


 心がえぐられ、涙と鼻水が止まらない。

 取り出したハンカチも、エリザベスが白詰草の花文字で、イニシャルを刺してくれた品だ。


 男爵令嬢が自分の前で見せた愛らしさも、庇護欲をそそるような存在自体が虚飾、虚偽だった。

 いっときの快楽を愛と勘違いし、最後の行為さえしなければ、清い関係で、これも王太子(ゆえ)の辛い恋だと思っていた。

 そこに、エリザベスのイジメの証拠や証言を報告された。

 シャンド男爵令嬢を王妃にする気はなかった。さすがに無理なことは分かっている。

 このイジメ行為でエリザベスの弱味を握り、男爵令嬢を側室か、せめて愛妾にして、愛情は注ぐ気でいたのだ。


 どこまで愚かだったのか—


「この調書の発言と“影”からの報告は、ほぼ一致している。

この後、子爵家が運営する質屋『ピオネー』に、高価買取され、ウィンドウに看板商品として置かれた。

客層が違い、お前達が来るはずがない。

婚約破棄するなら、遅かれ早かれ一緒だ、とな。

店長と子爵は知らなかったと供述している」


「……リーザの、言う、通り、だったんだ」


 王子は懐中時計を侍従から渡される。確かに時計の針が止まったままだ。


 幾人の汚らわしい手が触れたのか—


 それを考えただけでも、エリザベスに申し訳なさが募る。


「その懐中時計が、シャンド男爵令嬢と懇意な関係者が経営する質店にある。

エリザベスが、いやラッセル公爵令嬢が婚約解消を決意した原因だ、と宰相からの手紙にあった。

心が折れた、とな。

無理もなかろう。諦めろ。

たとえ“悪役”を務めてなくとも、お前が男爵令嬢と最後の一線“だけ”を越えてなくとも、これだけの仕打ち。

お前も逆の立場になれば、これからの長い年月、伴侶として、国政の重きを共に背負い、歩んでいけるか?」


「……申し訳、ありません」


「では速やかにその書類にサインせよ」


 アルトゥールは震える右手に、左手を添え、婚約解消の書類に自分の名を記す。

 侍従は受け取り、国王に捧げる。国王は控えていた別の侍従に書類を渡し、指示を与えていた。


「婚約解消はひとまずこれでよし。賠償金の交渉は、(わし)と宰相で行う。

お前はまず、現実を受け止めよ。

シャンド男爵令嬢と肉体関係があった、子爵家と副騎士団長の息子達。

この3名の供述書を先ほどと同じように、担当官の前で全て朗読せよ。


もう二人の側近、王太子補佐官の伯爵子息、外務大臣の侯爵家の次男か。

この者達の分もだ。

この者らは二人のみで状況を検討。

一時的に恋の病に(かか)ったようなもので、瀬踏(せぶ)みの諫言(かんげん)をしても聞かず、(かえ)って、のめり込みそうになったため、静観していた、との供述だ。

王妃には報告していたそうだ。


ああ、三人とお前の肉体関係は疑惑止まり。懐中時計については全く気づかなかったそうだ。

国政を補佐するには、ちと不安だが、鍛え直せばまだ間に合うだろう」


 シャンド男爵令嬢と四人の側近達の供述書を朗読しなければならない。これだけでげっそりする。

 信頼していた者達に裏切られ、もしくは突き放され、心が壊れそうだが、自業自得だ。


 ただこれだけのことをしたのだ。

 王太子の所有物の窃盗と転売、主人の恋人との肉体関係。

 無事にすむはずもない。


「……わ、わかりました。

ちちう、いえ、国王陛下。

男爵令嬢と側近達の処分は?」


「男爵家、子爵家は取り潰し。当主には毒杯を与える。

副団長は侯爵から子爵に降爵し、国境警備隊任務を命じる。

あれは忠義者。自決しようとしたが、団長が諭したそうな。まだ使い道がある(ゆえ)な。


令嬢と子息達は、喉を潰して、指を落とし、両手両足首に重りを付けて、鉱山での強制労働だ。

これ以上、王家の醜聞を(しゃべ)り散らかされ、万一何か書かれても困る。

息子二人は去勢、令嬢は強制労働者達の“夜の世話係”もだ」


 想像するだけで、死んだ方がマシだと思える処分だった。父の怒りの大きさが分かる。


 それに“夜の世話係”。

 これがどういう意味かは、アルトゥールも理解していた。ボロボロに使い果たされるだろう。

 “真実の愛”と思っていた相手の行きつく先に、なぜか同情も哀れみも湧かなかった。


「…………国王陛下、わかりました」


「言い忘れた。指と喉の処理は、元副団長が行う。

本人のたっての願いだ。息子の責任は自分が取るとな。

もちろん専門家もつける。去勢は素人では難しい。

残りの側近達とお前も見学せよ」


「かしこまり、ました……」


 残酷すぎる命令に、吐き気を催しそうだが、耐えるしかない。王命なのだ。従うしかない。


「また、お前は廃嫡はせず、王子の位に戻す。

側近2名と共に、6ヶ月間、騎士団に所属させ、しごきにしごく。

手心、斟酌は一切無用と伝えておる。違反した場合は首が飛ぶ、とな。


地獄を見た上で、側近達は補佐官見習いからだ。ここでも鍛える。一旦貴族籍を抜き、戻れるかは、働き次第だ。

お前は帝王教育のやり直しだ。講師は(わし)が選ぶ。

エリザベスの質と量以上だ。

この座は血みどろの中にある。国の明暗、どちらも背負う。共に歩む者達もだ。

覚悟しておけ」


 国王はどっしりとした椅子の肘掛けをポンポンと叩く。

 王子に向ける眼差しは冷たかった。


「ありがとう、ございます……。

国王陛下。私はくださった機会を懸命に努力いたします。

ただ、国王陛下もご壮健。弟か妹を作ってくださることをご一考していただきたく……」


「腰が引けたか?もう逃げるのか?」


「違います!国事を代行できる、エリザベス、いえラッセル公爵令嬢もいなくなりました。

危機管理というか、私にもし何かあった場合、備えが必要かと思い……」


 国王はここで人払いを命じ、王子をごく側に呼び寄せる。


「アルトゥール。(わし)は、非常に子どもができにくいのだ」


「?!?!」


 己の秘密を、小さくもはっきりとした声で息子に伝える。王子は驚き、目を見張る。

 そして浮かんだ疑いは、すぐに打ち消された。


「お前が生まれたのは、奇跡だ。王妃の不貞の可能性は一切ない。

“影”の調査だ。何よりアルトゥール、お前の容貌は若い時の(わし)に似ているところが多々ある。


王妃も二人目を望んだが叶わず、側室を設けての政治的混乱もできれば避けたかった。

それから出産経験のある未亡人に、貞節を守らせた上で、秘密裡に幾人とも試した。

生まれた子は、王妃に妊娠を装わせ、実の子とする予定だった。

だが、ダメじゃった。


(わし)に賭けるよりも、お前とエリザベスに期待した方が、可能性がより高い。

特にエリザベスの母は他国の公爵令嬢。血が遠い。

その方が子は生まれやすくなるそうだ」


 父親である国王の告白と事情は、生々しくも切実で、だが関係者の人間性をどこかに置いてきたような冷酷さもあった。

 帝王教育で学んだことを思い出す。

 王権と血脈と、政治的勢力についてだ。


「……そうだったの、ですか」


「お前のこの提言は、宰相と改めて検討してみよう。

だが、この年代でも出産の事例は聞く。王妃とも再開する。

仮に未亡人が出産すれば格上げし、愛妾としよう。側室よりも権限は小さい。子どもは王妃の養子とする。

取り入れるとすれば、この案だ」


「はっ、ありがとうございます」


 自分の案が採用されたが、どこか複雑だ。

 一方、国王の言葉は続く。


「これもあって、(わし)は王妃に甘かった。

(わし)も同罪だ。

宰相の諫言(かんげん)も宥めてきた。

エリザベスが受け入れているなら、とな。

(わし)から見ても、才も実力も国王と国家への忠誠心も充分だった。

愛しているお前が卒業後、身を正し、支えていれば、可能だったかもしれぬ。

まさか、その、懐中時計を、あのような、扱いにするとは……。

哀れで、痛ましくて、ならぬ……」


 国王の私的な悲哀を握りつぶすような声は、(かえ)って、エリザベスへの()びを醸し出している。

 これには返す言葉もなく、渡された懐中時計を、胸のポケットごと握り、謝るしかない。


「……申し訳、ありま、せん」


「それと王妃については、宰相が調べ上げておった。

(わし)も知らなんだ。

俗にいう“王妃派”は、亡きラッセル公爵夫人アンジェラ殿の心酔者達の集まりだったそうだ。

アンジェラ殿や、忘れ形見のエリザベスについて、鑑賞し語り尽くす。

たとえば、二人を題材に、肖像画や文学作品を創作させる。

または、好む音楽を奏で、鑑賞するように、二人の嗜好、分かっている全てを経験し、素晴らしさを語り合う。

このような集まりだったと」


「……それは、我が母ながら……」


 二人は我が妻、我が母ながら、という表情だ。

 国王は大きなため息を吐いた後、言葉を続ける。


「ふう……。

宰相が激怒して、証拠品は押収すると、手紙でも分かるほど息巻いておる。

隠し部屋にかなりの品がある。との報告だ。

王妃の前で一つひとつ処分していくそうな。

王妃自身にさせる場合もあり得る、との要求だ。

『不敬に問わぬ』と一筆も書かされた。

彼奴(あやつ)の“氷の補佐官”の本性は変わっておらん。

今回は好きにさせる。

それが王妃には、最も辛かろう。

今でも、(わし)よりも、アンジェラ殿を愛している(ゆえ)な。

いや、これを愛と言えるかは分からぬが……」


「父上……」


 その複雑な心境に、王子は思わず“父”と呼んでいた。


 国王は気持ちを切り替えたか、次なる命令に冷静さを取り戻す。


「アルトゥール。

お前はソフィア嬢とメアリー嬢と、信頼関係を構築していくように。

二人は、薔薇(ばら)妃、百合妃と呼称する予定だ。どちらも正室たる王妃。

第一、第二と数字をつけると、それだけで序列を争う。

宰相の建言じゃ。誠に優れておる。

穏健派と改革派のバランスも取れる。

二人は可能な限り、平等に遇す。

お前も血筋を絶やさぬよう、励め」


 王子にとっては青天(せいてん)霹靂(へきれき)だ。


「そ、それは!誠ですか?!」


「ああ。王妃には内密だったが、二人は別の講師により、基礎的な王妃教育はすんでいる。

元々、エリザベスとの成婚後、側室となる予定だった。

生まれた子は全てエリザベスの養子とし養育する。

ラッセル公爵家は中立派。

エリザベスも了承していた」


「……ぼ、私は、聞いては、おりません!」


「先ほどの話を聞いても、不服か?」


「…………」


 思わず反発するが、国王の覚悟を聞けば、何も言えない。


(ゆえ)に、6ヶ月の騎士団での地獄の訓練後に、簡易な成婚を執り行う。

王太子の身分に戻った場合、正式な結婚式を三人で行う。

王太子、国王と進み、王族の重責を全うするか、種馬となるかは、お前の帝王教育の結果次第だ。どちらも励むように」


「承知、いたし、ました……」


 国王の厳然たる声と表情に、アルトゥールは了承の言葉を返すしかない。



『大好きなリーザ。二人で、(たみ)のためにいい国を作っていこう』


『私も大好き。ルティのために、一生懸命がんばる』



 6歳で婚約を結んだ時にエリザベスと言い交わした言葉が、ふと、どこからか聞こえたような気がした。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書きたい、と思った拙作です。

今回はデリケートな表現が続き、苦しかった方には申し訳ありません。


誤字報告、感謝です。参考にさせていただきました。

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悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
[一言] 前話までだと王妃が自由にし過ぎ感あったので国王陛下に対してちょっとなぁという所もあったけど、 これはどうしようもないな…… 要するに不妊治療と代理母のダブルコンボな上におそらく原因が国王陛下…
[一言] こう言うとなんだが、国王の罰の公私のバランスがなかなか見ないレベルで取れている。 公人として突き放しただけの苛烈な罰だとか、親として甘く適当に許すというようなものはよく見るが、唯一の子であり…
[一言] 流石に指を落としたら労働力として使えないような気はする…立つものが立たないだけで結構な罰だし それよか貴族様なら市井の人間よりお綺麗だから、まして身体が出来てない未成年の内にちょん切ったら…
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