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34.悪役令嬢の祖父母

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


※切りよく分割できず長めです(^^;;


※※※※※※※※※※※注意※※※※※※※※※※※※

イジメ、暴力などについて、デリケートな描写があります。

閲覧にはご注意ください。

苦手な方は、戻ってくださいませ。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


エリザベスが幸せになってほしくて書いた連載版です。

これで34歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。



「エヴルーも活気が出てきてよかったわ」


「さようでございますね」



 帝都へ向かう街道から、別方向で働く集団が眺められた。


 エヴルー伯爵領から、ルイスとの結婚後、拠点となる、エヴルー公爵領 地 邸(カントリーハウス)への街道工事である。


 現在ある農道を、馬車が余裕を持って行き交える、言わば馬車二車線に歩行者用のスペースのある幅に、拡幅と舗装工事をしながら、延伸させている。


 アーサーからの課題、エヴルー“伯爵領”の振興策だ。

 陞爵(しょうしゃく)した公爵領に合併される不安を和らげ、抵抗を無くし、一体感を高める効果も期待している。


 そのため、工事に従事する労働者は、エヴルー伯爵領と、陞爵(しょうしゃく)時に拝領予定の帝室直轄領から、農閑期の農民達を優先的に採用していた。

 共に働き飲食すれば、気心も知れてくる。

 今のところは順調だ、とのアーサーの報告だ。


 アーサーにも今回の毒殺未遂事件は、ものすごく心配をかけた。

 お説教は一切なく、エヴルー領 地 邸(カントリーハウス)への帰還時に、執務室で、「ご無事で、誠に……」と言葉を詰まらせた、普段は能弁なアーサーに心を打たれた。


 婚約式、陞爵(しょうしゃく)の儀、結婚式を無事に終えるまで、領主としても落ち着いて、安全第一に行動しよう。


 改めてそう誓いながら、帝都へ向かう馬車で、マーサとのいつもの時間を過ごした。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


「エリザベス、か?」


「こんなに大きくなって……」



 タンド公爵邸で出迎えてくれたのは、領地からいらしていたお祖父さまとお祖母さまだった。


 ここ、タンド公爵邸の肖像画では拝見していたが、お目にかかるのは初めてだ。


「はい。以前はエリザベス・ラッセル、現在はエヴルー伯爵を叙爵され、エリザベート・エヴルーでございます。

お祖父さま、お祖母さま、お会いできて嬉しゅうございます」


 私は深くお辞儀(カーテシー)をする。


 お母さまに関して、非常なご苦労をされたに違いない。

 顔立ちがそっくりな私を目の前にして、泣き出しそうだ。


「お義父様、お義母様。エリーもエヴルーから着いたばかり。少し休ませてから、サロンでお茶でもいたしましょう」


 伯母様が間に入ってくださり、私はいつもの客室へ向かう。

 マーサと相談し、お母さまの瞳の色に似た青いドレスに着替え、お二人に会いに行く。


「エリザベス。いや、今はエリザベートか。

エリーと呼んでも構わんか?」


「はい、お祖父さま」


「初めまして、エリザベート。アンジェラの母です。私もエリーと呼んでもよろしいかしら?」


「はい、お祖母さま。初めまして。呼んでいただけて、嬉しゅうございます」


お辞儀(カーテシー)の後、席につき、少し落ち着かれたご様子の、お祖父さまとお祖母さまとお話しする。


 エヴルーに到着してからお手紙は送ったが、儀礼的な範疇だった。

 目の前のお祖母さまは、ひと口お茶を飲まれた後、涙をほろほろ流される。


「エリー。無事でよかった。王国で大変な目に遭って、エヴルーに無事に辿り着いて……。

あんなに小さかった子が、こんな綺麗に育って、本当に……」


 ああ。この方々は、お父さまが贈られた、私の肖像画を見てるのだ。

 生まれた時から、社交界デビューに至るまで、数年ごとに描かれた肖像画は、王国のラッセル公爵邸にある。

 お父さまは、その小さなサイズをタンド公爵家へ贈っていた。


 私はお祖母さまと視線を合わせ、ゆっくりと(うなず)く。


「はい、お祖母さま。今はエヴルーで無事に暮らしています。ご安心ください」


 お祖父さまは、お祖母さまに比べれば落ち着いていた。


「エリー。ルイス殿下との婚約、おめでとう。名誉なことだ。

ルイス殿下は、優しくしてくださってるか?」


「お祖父さま。ありがとうございます。

タンド公爵の孫娘として、恥ずかしくないよう、務めます。ルイス殿下は、とてもお優しくしてくださります」


「お義父様。ルイス殿下はすっかりご立派になられたんですよ。ウチでピエールと一緒に、遊んでいた時とは大違いです。会われたら、見違えます」


「ああ、今回の紛争でも勝利に導かれたと聞く。いつまでも子ども扱いはいけないな」


 そうか。ピエールと遊んでいたから、このお二人とルイスは当然、面識があるんだ。

 なぜか、不思議な気がする。


「ルイス殿下がお聞きになれば、きっとお喜びになります」


「お義父様。二人はとても仲がよろしいのよ。

お互いに、『エリー』『ルー様』と愛称で呼び合っているくらいなんですの」


「エリー。いつまでも仲睦まじく、健やかにな」


「はい、お祖父さま。お祖父さま達こそいつまでもお元気でいてください」


 定番とも思われるやり取りの中、黙って私を見つめていたお祖母さまが不意に尋ねる。


「エリー。アンジェラは、王国で幸せでしたか?」


 テーブルがしんと静まり返る。

 私はベッドの上のお母さまが、私に向けた時のように、優しい笑みを浮かべゆっくり話す。


「はい。父と三人、幸せに暮らしていました。

共に生きられたのは短い時間でしたが、私と父はとても幸せでした。

父は母を深く愛し、亡くなった後も、母のことを、事あるごとに話してくれました。

苦労もありましたが、父は可能な限り、母を支え守りました。

母は幸せだったと思います。

ベッドの上でも、私を『宝物のエリー』と優しく呼びかけてくれました」


「そう、そう、でしたか。よかった。

アンジェラ、アニー……」


 お祖母さまは、ぽろぽろと泣き始める。

お疲れもあり、不安定になっているようだ。

 また、一番の理由は私だろう。


 お互い悩み苦しんだ愛娘に似ている孫娘が、目の前にいるのだ。

 過去と現在が、交錯しても無理はない。

 私は伯母様と小さく頷き合うと、話を畳みにかかる。


「お祖母様。お疲れになられたでしょう?

お夕食までお部屋でお休みになられてはいかがでしょう?」


「そうね、そうするわ」


 素直に(うなず)いたお祖母さまに、お祖父さまが寄り添い、お部屋に向かわれる。


「お義母様。ここに到着した日、あの、アンジェラの肖像画を見て号泣なさったのよ。

その後も毎日、涙ながらに眺められて……。

お歳を召されて、お心が揺れやすいようなの」


「では、落ち着かれるようなハーブティーをお持ちしましょうか」


「それはいいわ。お願いしてもいい?」


「お任せください。伯母様」


 お心が少しでも落ち着かれるといい。

 お二人のせいではないのに、昔を思い出され、苦しい時もおありなんだろう。


 私はかかりつけ医の許可を得た上で調合すると、祖父母付きの侍女に渡し、ハーブティーを入れるように頼んだ。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 その日の晩餐(ばんさん)で、お祖父さまとお祖母さまは寡黙がちだったが、貴族として普通に振る舞われていた。


 私は迫った新年の儀と婚約式に向け、打合せや手続きなどで多忙だった。


 その日も全員そろった夕食で、食事と会話を楽しみ、客室でマーサのケアを受け休もうとしていた。



 カツン、と音が聞こえた。



 廊下を覗いてみると、お祖父さまが杖を突いて歩いて行く。

 寒い日は膝が痛むと仰っていた。

 こんな夜遅くに、と思い、ガウンに袖を通すと、マーサと共に様子を(うかが)う。


 お母さまの肖像画の前で立ち止まり、見上げている。



「……すまない。アンジェラ…。アニー……。すまなかった……」


 お母さまへ()びる声がかそけく響く。


 私はマーサに(うなず)くと、足を忍ばせ、お祖父さまへ近づいて行く。

 十数歩のところで足音をさせると、お祖父さまが振り向く。


「お祖父さま。ここは冷えます。

私の部屋でハーブティーを飲みませんか?

温まってお部屋に戻りましょう」


「エリー、ああ……」


 マーサが肩掛けをお祖父さまにかけ、寄り添うように私の客室へ誘導し、ソファーへ座らせる。


 私はリラックスや安眠のためのハーブティーを選んで入れる。


「ハーブティーか。アンジェラも時折、飲んでいた」


「はい。こちらはお母さまのレシピに、私が手を加えました。

お祖父さま、どうぞ。蜂蜜もございます」


「アンジェラの……」


 お祖父さまは意を決したように、カップを口に運ぶ。


「……これは、美味い」


 青い瞳が見開く。ふとお母さまと重なった。


「ありがとうございます。お母さまがエヴルーにいらした時から、改良を重ねたものです。

今ごろは天上で、『やったわ』って仰ってますわ」


「クスッ、そうだなぁ。あれは負けず嫌いなところもあった」


「えぇ、そうでないと、ハーブのレシピの研究を、あれほど続けられないと思います。

当時は、天使の聖女修道院にある孤児院の子ども達のためでした……」


「孤児院の……子ども達……」


「もちろん、ご自分のお悩みのために始められましたが、あの時代の紛争で激増した孤児たちのために、でございます。

修道院の院長様がそう仰っておいででした。

子どもはまずいと中々飲んでくれません」


「そうか。そうだろうな……」


「おかげさまで、私に飲ませてくれたハーブティーは、どれも美味しいものでした。

そのレシピは、私と母を繋ぐ大切な(きずな)です」


 お祖父さまは、カップに蜂蜜を垂らすと、よくかき混ぜて味わう。


「……甘くしても美味い。(きずな)か。

我々とアンジェラの(きずな)は、私がボロボロにしたようなものだ。

娘を守ってやれなかった…。

妻はアンジェラが小さなころから、何かおかしいと訴え続けていたのに。

あの可愛さなら、無理もないと思い込んでいたのだ。

さすがに誘拐されかけた時は、肝が冷えた。

それも犯人が乳母。あれ以来、妻はアンジェラにつきっきりになった……」


「そのようなことがあったのですね」


「ああ。私は仕事で多くは聞いてやれなかった。

美しく可愛い娘を、自慢に思っていた。

それが物心ついたころから、子ども向けの集まりに呼ばれると、必ずトラブルが起こるようになった。アンジェラを取り合うのだ。

妻に言われ半信半疑で参加した時は、本当に驚いた。

男女を問わず、目の色が変わっていた。

だが普通の子達もいた。

それ以来、集まりには理由をつけて出ず、個人的な交際に絞った。

嫁もそのころからの友人だ。よく傍にいてくれた」


「伯母様ですね。今でもよく仰います。

お母さまと仲良しで、変なヤツらを蹴散らしてやったのよ、と」


「そうだな。世話になった。

帝立学園へ入学するころ、アンジェラは恐い、行きたくないと嫌がった。

しかしあの学園を卒業しなければ、帝国の貴族として生きてはいけない。

婿殿が調べてくれた、“天使効果”な。

あの時、我々もきちんと調べて、対策を立てておれば、アンジェラをあそこまで傷つけなかったと、本当に悔いておる……」


「父からその話は聞いてはおります。お祖父さま、無理をなさらないでくださいませ」


 私は、お祖父さまが娘と面立ちが似た私に懺悔し、自分を責めているように感じていた。


「無理ではない。娘を思いやれなかった、最低の父親がここにいるのだよ、エリー。


私の親友の息子が、“天使効果”にやられてな。

それも重度のだ。

その息子の頭の中では、アンジェラと自分は恋仲で、それ以外の男も娘に好意を持っている、仲を裂こうとする、早く婚約したいと言い出した。


アンジェラに聞くと、幼児期は皆で少し遊んだが、今はあいさつを交わすくらいだと言う。

それを親友を通し息子に伝えたところ、可愛さ余って憎さ百倍だ。

アンジェラは男に色目を使う、自分も被害者だと言い出したのだ。


この時、アンジェラが登校したくないと言った時、私こそ学園に行き、アンジェラの正当性を訴え、抗議すればよかったのだ……。


それを、誇り高いタンド公爵家の娘ならば、と傷つき疲れていたあの子を追い立てた……。


その息子は高位貴族で、目鼻立ちもよく女子生徒にも人気があってな。男子生徒の取り巻きも多かった。


登校したアンジェラは散々攻撃され、多勢に無勢で言い返せず、男に色目を使う悪女などと、(はや)し立てられた。

ボロボロにされた学用品を持って帰ってきた日の顔が、今も忘れられん……。


親友と学園に厳重に抗議したが、『アンジェラに人気があるのは事実だ。何かしているのだろう』と言われる。


アンジェラの友人から聞き取れば、その人気とやらも、あいさつに答えたり、落としたものを拾ってやったり、次の授業は何かという答えをしただけだ。


それなのに、『恋人だ』『婚約してほしい』『親に紹介したい』などと付きまとい始める。

相手に婚約者や恋人がいれば、当然恨まれる。


その最悪の結果が、刃傷沙汰だった。


恨んだ者達が複数集まり、アンジェラが傷物になれば目が覚めて、自分との仲も元に戻るだろうと、巧みに呼び出してナイフを使った。


アンジェラの友人が気づいて、助けを呼んできてくれた時には、軽傷だが傷を負い、腹部にごく薄い傷跡が残った。

学校側も調査し加害生徒を処分したが、遅きに失した。

私もだ。


私にできることは、帝都にはもう居たくないというアンジェラを、学園と交渉し成績優秀により繰上げ卒業させた上で、療養のため、使用人を厳選したエヴルーに送ってやることくらいだった……」


 自分の親友の息子が、愛娘を散々に侮辱し(おとし)めた。

 そこから始まった悪夢のような抜け出せない連鎖に、私の学園生活をどうしても重ねてしまう。


 お母さまの辛い想いに、自分が重なった。

 だが、お祖父さまとお父さまが違うように、お母さまと私も違うのだ。


「お祖父さま。お母さまがその辛さを経験したからこそ、エヴルー、そして王国へ行き、幸せになったかは、私にはわかりません。

お母さまはお母さま。私は私、だからです。

その時のお母さまの想いは、お母さまだけのものです」


「エリー……」


「でも、隣国への使節団へ入れてくださらなければ、お父さまとは出逢えず、私も生まれませんでした。

その点は感謝しています」


「………………」


「私が完璧な孫ではないように、完璧なお祖父さまでなくても、私はお祖父さまが好きです。

お母さまをこんなに愛してくださって、嬉しいと思っています」


「エリー、私は……。アニーを、愛しい娘を守れなかった……」


「お祖父さま。その分、お父さまが、お母さまを守り抜きました。

それでも足りなかった。もっとできたはずだ、と申しております。

愛とは限りがないものなのですね。

今、お祖父さまと話して、お父さまを思い出しました。

お二人とも、とてもよく似ています」


「私と婿殿が……」


「はい。お会いになれば、きっと意気投合なさいます。

お母さまをこれだけ愛したお二人ですもの。

お父さまが知らないお母さまを、教えて差し上げてください。

お父さまもきっとそうなさいます。

そんなお二人を、お母さまもきっと、お喜びになるでしょう。

そんなところまで、と恥ずかしがるかもしれませんが……」


「アンジェラが、確かにな……」


「さあ。お祖父さま。おやすみなさいませ。

きっと夢でお母さまが、お待ちになってます。

心ゆくまでお話しくださいませ」


「エリー。ありがとう、エリー。

お前の眠りに、天使の幸いが訪れますように。

おやすみ」


「お祖父さま、おやすみなさいませ。

天使の幸いが訪れますように」


 お祖父さまが、幼子の眠りを守る聖句を仰ってくださる。マーサと二人、お祖父さまをお見送りした。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


  翌日の午後—


  私はお祖父さまとお祖母さまをサロンでお迎えした。



  白い花嫁衣装を(まと)った姿でだ。


  お母さまが、お父さまとの結婚式で着た品だ。

  お父さまが、お母さまのパリュールと共に送ってくれていた。


 お母さまの遺言に、


『機会があれば、私が幸せだった(あかし)である花嫁衣装を、両親に見せて欲しい。帝国では心配をたくさんかけたので、安心してほしい』


 と記されている、とお手紙にあった。


 本当は折を見て、手に取っていただくつもりだった。

 お母さまとほぼサイズが一緒で助かった。

 それでも必要な調整をしてくれたのは、伯母様が指揮してくれたタンド公爵家の優秀なメイドさん達だ。

 忙しい中、本当にありがとう。


 私の隣りには、近衛の騎士服を着たルイスもいてくれる。


 伯母様が連れてきてくれたお二人が、私に歩み寄る。



「エリー、エリーか。これは?いったい?」


「お祖父さま。これはお母さまの結婚式の花嫁衣装です。ご遺言に、『いつかお二人に見せて欲しい。私が幸せだった(あかし)だから』とあるそうです。

お父さまが送ってくださいました」


「アンジェラが……。私達に……」


「はい。様々な事情から、婚約式と結婚式を一緒にしたような、それも、招待客もごく限られたお式でしたが、お母さまは安全に守られて、とても幸せだったそうです」


 お父さまは、お母さまの“天使効果”によるトラブル回避のため、慣例などは全く考慮せず、お母さまの安全第一に、結婚式を挙げられた。


「この白い花嫁衣装も、お母さまのご希望で、王国で、お父さまの側で、新たな生活を始めたい、というお気持ちで選ばれたそうです。

遺言には、『帝国では心配をたくさんかけたので、安心してほしい』ともあります。

お祖父さま、お祖母さま。これがお母さまのお気持ちです」


「アンジェラ……」


「アニー……」


 私はお母さまの気持ちが伝わるように、と、お祖母さまとお祖父さまを、そっと抱きしめる。


 お二人は何度も(うなず)き、切なさと嬉しさが混ざった微笑みを浮かべる。

 私はゆっくり離れ、お二人に深くお辞儀(カーテシー)をする。


「お祖父さま。お祖母さま。

お母さまは王国で、お父さまと、そして私と、幸せに生きました。

お母さまを生んで育ててくださって、ありがとうございました」


 姿勢を正し、にこやかに、はっきりと伝える。


「エリー……」


「…………私たちこそ……」


「そして、私は、ここ帝国で、ルイス様と共に生きていきます」


 ルイスの手を握り見上げると、ルイスは小さく(うなず)き、あの日、肖像画のお母さまに告げたように、お二人に伝えてくれた。


「先代公爵、公爵夫人。

私はエリーを必ず幸せにします。いえ、二人で共に幸せになります」


「ルイス殿下……」


「ルイス殿下、ありがとうございます。エリーをよろしくお願いします……」


 お二人も私達に微笑んでくれる。


「まあまあ、婚約式の先取りのようなこと」


「本当だな。エリーがアンジェラの花嫁衣装を着るとは。ラッセル殿が見られずに、今ごろ悔しがっているだろう」


「さようでございますね」


 伯父様と伯母様の嬉しそうな声が響く。

 お祖父さまとお祖母さまも楽しそうに笑っている。



『お父さま、お母さま、どうかお幸せに』


と、お母さまの声が聞こえたような気がした。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書きたい、と思った拙作です。


誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

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悪役令嬢エリザベスの幸せ
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[一言]  ええ話や…(´;ω;`)
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