31.悪役令嬢の皇城舞踏会
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
エリザベスが幸せになってほしくて書いた連載版です。
これで31歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
圧巻、のひと言である。
私がタンド公爵たる伯父様と伯母様の後に従い、上品に歩むホールの高い天井は、見事なアーチを描いて、それだけで美しい。
天井には、余すところなく、帝国の建国神話の場面が、色鮮やかに描かれ、思わず見とれるほどだ。
まぶしいほど豪華なシャンデリアが、いくつも輝き、豪奢な室内装飾を照らしている。
大理石の柱や壁には、美麗な彫刻が施され、内部に一部、バルコニー席が設けられ、楽団はそこに配されている。
正面の壇は、皇族方のお席だろう。
途中から床がダンスホールらしく、鏡のように磨かれた材質になる。
滑らないように気をつけよう。
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帝国周辺では、王国も含めて、社交シーズンの幕開けを、舞踏会で始める国は多い。
帝国ではこの専用ホールが、数代前に建築され、その見事さは広く知られている。
私も実物は初めて見た。
すでに侯爵迄の入場はすんでいる。
残るは、公爵クラスと皇族方だけで、十組に満たない。
タンド公爵家は、公爵家の中では、4番目の入場で、公爵家の最後は、皇妃陛下のご実家である。
その後は、皇族方が、第二皇子殿下と婚約者、皇太子皇太子妃両殿下、皇帝皇妃両陛下と続く。
第三皇子であるルイスは、現在騎士団の任務で警備に就いている。
その婚約者である私は、エヴルー女伯爵としてではなく、タンド公爵家の一員として、伯父様と伯母様と共に入場する。
従兄弟夫妻達も同様だ。
公爵家の従属爵位である伯爵家を嫡男が、子爵家を弟ピエールが、各々継承しているが、本日は公爵家の一員としての入場だ。
扉が開かれ、儀礼官が朗々と告知する。
「タンド公爵閣下、及び令夫人、ノール伯爵、及び令夫人、ウィンド子爵、及び令夫人、エヴルー女伯爵。ご入場でございます」
ざわめきが静まった中、厚い真紅の絨毯を、歩幅を合わせまっすぐ進む。
伯父様と伯母様の後ろを歩む私に、最も視線が集まるのも無理はない。紛争を勝利による終結に導いた立役者、第三皇子の婚約者(内定)なのだ。
本当に、『女伯爵』単独で、入場しなくて良かった。今ごろ、たかられていたことだろう。
知己が少ない今は、飛んで火に入る何とやら、だ。
今夜は、極力目立たず、伯父様と従兄弟達、三人と踊ったら、伯母様の側で社交に勤しもう。
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両脇は爵位に従い、人々がずらりと居並び、中央を、公爵エリアへと歩む、私達を見つめている。
私のドレスは、青のAラインのビスチェタイプだ。
首回りのブラックスピネルを散らした黒薔薇のチョーカーから、トップスの前面に吊るすように、黒いオーガンジーを重ね、青が濃く透けて見える。
ウエストからはスカート全面に、黒オーガンジーを重ね合わせ、遠目には濃い青に見えているだろう。
マダム・サラは、ルイスの青い瞳に黒短髪を、見事に色で配していた。
金髪は両サイドの一筋を耳前に残して結い上げ、両耳のクローバーのピアスを隠している。
最初は目立たない金のスタッドタイプに変えるつもりが、マーサに工夫してもらった。
離れている分、身につけていたかった乙女心だ。
伯父様と伯母様に従い、公爵エリアの定位置へ着く。
残るご入場の方々を、頭の中の貴族年鑑で復習しながら、眺めていると、皇族の最初は、第二皇子と婚約者だ。
ひそひそ声が扇の陰で囁かれ、迎える眼差しも、祝賀会よりも冷たく感じる。
いくら取り繕っても、母側室の“離宮”の件が洩れ聞こえてきているのだろう。
壇の上では堂々としているように見えるが、婚約者を気遣う余裕はないようだ。
母の暴挙により、自身が陥った境遇を恨む可能性はある。これでは、ルイスが警戒するのも無理はない、と思う。
一転、続いて入場の、皇太子皇太子妃両殿下、皇帝皇妃両陛下は、威風堂々、もしくは、明るく華やかな雰囲気だ。
そして、皇帝陛下のお話の後、皇城舞踏会の開会が宣言される。
ファーストダンスは、皇帝皇妃両陛下である。
長年ご円満に連れ添われた、豊穣ともいえる雰囲気が、ホール中の視線を浴びても、決して揺るがず、帝国の君主ご夫妻の揺るぎない姿を、臣下達に見せつけている。
君主としては、皇帝陛下はやはり有能なのだろう。
人心を集め、操る術も長けており、内幕を知らなければ、人に尊敬を覚えさせる風格も感じられる。
皇妃陛下もそれを支えるに値する、人々を惹きつける魅力と人格をお持ちだ。
そういえば、伯母様が昨日、短時間だが、皇妃陛下の謁見が叶った。さすがタンド公爵夫人だ。
人払いの上、「結婚式のパリュールの件は、店の者も非常に苦慮しており、恐れ入りますがルイス殿下と直接ご相談願います」と申し出た。
皇妃陛下はため息を吐きながら、「わかりました、迷惑をかけました」とのお返事だったと教えてくれた。
あとは、二人の話し合いを待つしかない。
曲が終わると、万雷の拍手が鳴り響く。
セカンドダンスの皇太子皇太子妃両殿下は、続く雰囲気に飲まれることなく、清心な風のような雰囲気で、軽やかに舞ってらっしゃる
これはこれで有り、だろう。
次世代も帝国の繁栄が、揺るぎなく続く明るい予感を、臣下達に与えている。
皇太子殿下の実態を知らなければ、十分だ。
とつい、王妃教育に基づいて、皇族と周囲の関係を観察してしまう。
こんな中、壇上にいる第二皇子、いや、その婚約者は身の置き所に苦慮しているようだ。
第二皇子がもう少し寄り添えばいいのに、と思うものの、彼は彼で、虚勢を張るのに精いっぱいと見受けた。
皇帝陛下も踊っている皇太子皇太子妃両殿下ばかりに目をやっている。
見かねた皇妃陛下が声をかけているが、会話は続かないようだった。
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皇太子皇太子妃両殿下のダンスが終わると、曲調も明るく変わり、下級貴族の皆がダンスホールへ進み出で、踊り始める。
上級貴族は皇族方へのご挨拶だ。
これも、タンド公爵たる伯父様に従っていれば、無事に終わると思いきや、途中から皇太子皇太子妃両殿下の背後に控える近衛騎士が交代する。
ルイスだ。
『気を利かせてやったぞ』と言うように、皇帝陛下がご満悦そうで、皇太子殿下は反応を伺っている。
皇太子殿下の発案に、皇帝陛下がのったのだろう。
ルイスはこういうの、一番嫌がるのを知ってか知らずか。ちなみに私も苦手だ。
この父子は揃って、人の気持ちを考えると言うことが抜けているらしい。
「エヴルー卿。ルイスを騎士団で駆り出してすまぬな」
皇帝陛下のお言葉だ。受けるしかない。
「恐れ入ります。ルイス殿下は、今宵は騎士団の大切なお務めに、ルイス参謀殿として、勤務されていらしゃいます。私は誇らしく思っております」
皇太子殿下もにこにこで、ぶっ込んでくる。
「ルイス。健気な婚約者と一曲くらい踊ってきたら?」
「恐れ入りますが、ご遠慮申し上げます。
警備の配置を移動すると、綻びも生じかねません。ご無礼とは存じますが、私はこれで失礼いたします」
ルイスは控えさせていた近衛騎士と交代し、担当に戻っていく。
今夜は恐らく、警備本部か、警備の確認をしながらの巡回ってところを、“上からのご命令”とやらで引き抜かれた。
ほら、抑えてるけど、怒ってる。
でも、皇太子殿下は笑って見送る。
側から見たら、皇太子殿下の気遣いを、無粋に断った第三皇子という図柄となる。
どう、フォローしようかな。
「エヴルー卿もすまないね。弟が堅物で」
「いえ、とんでもないことでございます。
また、皇太子殿下の深謀遠慮にも感服いたしました」
「へえ?いったい、どんな?」
肩をすくめていたのに、目をキラキラさせて、興味津々だ。責任は取ってくださいね。
「ルイス参謀殿の、騎士団の務めぶりを、皇太子殿下はお試しされたのでしょう?
ご安心くださいませ。
ルイス参謀殿は、皆様の安全をお守りするため、誠心誠意、お務めしております」
「そうだね。うん、よくわかったよ。驕らずに、真っ当に義務を果たしてる。
頼り甲斐のあるいい弟だ」
挨拶に並ぶ臣下の方々に、聞こえるように話す。
ここまでやって、合格認定だ。
ほんと、めんどくさい。
最後の第二皇子への挨拶も、タンド公爵家一同としては、礼儀を尽くしたが、どこか苛々していた。
ライバル視している、弟上げがあったばかりだ。
波立つのも無理がないが、なおさら『スペア』に見えてしまう。
皇太子殿下が何を考えているのか分からない。
第二皇子の“お立場”の“お手当”の配慮は、何処にいったのやら?
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とりあえず、皇族方への挨拶を終わらせて、「私は疲れたから、あなた?エリーと先に踊ってきてくださいな」という伯母様の勧めに乗る形で、私は伯父様と踊る。
次は従兄弟の長男と、三番目は弟・ピエールとだ。
「お前、ダンス、本当にうまいな。今までで一番踊りやすいや」
「褒めてくれて、ありがとう。でも、奥様には絶対に言っちゃダメよ」
「え?なんで?」
「一般的な女心は、旦那様とは一番素敵に踊りたいものなの。
ピエールは騎士で踊りやすいから、さすがに言われないでしょうけど、奥様に『お義父様の方が、あなたよりずっと踊りやすいわ』って言われたら微妙でしょう?」
「……確かに微妙かも」
「という訳で、よろしくね。タンド公爵家は家内円満でいてほしいの。お母さまもそれをずっと願ってたんだもの……」
「了解。また今度チェスしようぜ」
「喜んで」
ピエールとのダンスも無事に終え、タンド公爵家の元に戻る。
他の家の方もいらしていて、早速“復習”だ。
この『三人と立て続けに踊っときましょう』作戦は、伯母様が立てた。
マナー上、三人と踊れば、その後の申し込みを「踊り疲れているので」とお断りしても、差し支えないことになっている。
これを利用し、しかも踊りに行くのはひと組ずつ。
あとは、私を守る手厚い防御陣だ。
ありがとうございます、伯母様。ご家族の皆様。
「エリー様のドレス、素敵ね。トップスの黒のオーガンジーが、チョーカーから吊るされてるなんて。
マダム・サラのデザイン?」
「お義姉様のドレスもとても素敵です。
はい。マダム・サラが考えてくれました。
負担をかけていて、申し訳ないのですが」
「マダム・サラのドレスって、斬新でも品があるのよね。うふ、タンド公爵家に嫁してきてよかったわ」
「お二人とも羨ましいわ。私は実家のドレスショップとのお付き合いがあるから、そちらで作らないといけないのよねえ」
「お義姉様。伯母様に勧められた、と仰ってごらんになるとか、あとは、ご実家の方々とご一緒に、伯母様のご紹介で行かれるとかはいかがでしょう?」
「よろしいかもしれないわ。ありがとう、エリー様」
従兄弟の妻達とは、「エリー様」「お義姉様」と呼べる関係を、何とか構築した。
帝国においては、タンド公爵家が私の実家扱いになる。
三人で和気藹々(わきあいあい)と、しばし、ファッション談義に興じている時だった。
伯父様と伯母様が、例の私を守ってくれる順番の最後に踊りに行き、従兄弟達が社交の関係で、各々呼ばれていた。
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防御陣の間隙を縫って、現れたのは第二皇子殿下だった。
「やあ、ごきげんよう。
タンド公爵家のお美しい花達。
よろしければ、ダンスのお相手をお願いできるかな」
来た。それもご自身がいらした。
いったいどういうおつもりなのか。
ぼやかしているが、狙いは私だろう。
全然、よろしくない。全くよろしくない。
私達三人は、各々、丁寧に挨拶を行おうとする。
無論、時間稼ぎだ。
皇子相手に断れるのは、公爵くらいだ。
伯父様、伯母様、早く帰ってきて。
「帝国の星たる第二皇子殿下、ご機嫌麗しく拝謁いたします」
「挨拶は大丈夫だよ。さっきすませたでしょう。
誰かダンスの相手をして欲しいんだ。
エヴルー卿、どうだろう?」
第二皇子は、従兄弟の長男妻の挨拶を、さっさと切ってきた。
皇族からの二度目の申し出は、条件が揃わないと断れない。
これも帝室儀礼の一つだ。
「かしこまりました。恐れ入りますが、少々お待ちください」
私は身嗜みを整えながら、従兄弟の長男妻に、すぐにルイスに連絡を取るよう、囁き声で頼む。
小さく頷かれ、第二皇子に向き直ると、深いお辞儀を行う。
「第二皇子殿下、お待たせいたしました」
「本当だね。美しい花だと色々大変だ。
さあ、お手をどうぞ」
「恐れ入ります」
二人で歩み始めたところに、次男のピエール妻が呼びに行ったと思われる、伯父様と伯母様が現れる。
ただ、こうなっては、伯父様でも止められない。
「タンド公爵。エヴルー卿を借りるよ。
“すぐにすむ”から、安心して待っていてほしい」
何が『すぐにすむ』のか、不安しかないのだが。
「第二皇子殿下。姪をよろしくお願いいたします。
“さまざまな高貴な方々”より、“ご愛顧”いただいております。
“果報者故”、私がお叱りを受けてしまいます」
「ダンス1曲で、ずいぶん大袈裟だね。
心配せずとも、“すぐに”“終わらせる”から、安心して見ているといい」
「……ご配慮、ありがとうございます」
“終わらせる”とか、深読みすれば、物騒なワードで答えるけど、確実に嫌がらせなんだろう。
いったい何をしたいのか。
母親の仇と思うなら、最悪は、本当に“終わらせる”だ。
さりげなく、第二皇子の姿を確認する。
気になるのは、左手の指輪。
前に紛争勝利祝賀会で挨拶した時は、嵌めてなかったと思う。
婚約者と一緒なのに、婚約指輪をしてないんだって思った記憶がある。
今回の指輪はかなり大ぶりだ。
“仕込もう”と思えば、何でも“仕込める”。
さらにホールドする左手は、周囲から見えにくい。心臓にも近い。
大丈夫、落ち着こう。
今はエヴルー卿らしく、ルイスの婚約者として、踊るだけだ。
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ダンスホールに出てくると、意外な組み合わせに、周囲の注目が集まる。
少し離れ、踊り始める前の互いの挨拶で、礼儀正しく深いお辞儀をする。
お相手は皇子様。
ルイスほどじゃないけれど、ボウアンドスクレープも決まっています。
ワルツの音楽が始まり、踊り始める。
この人に身体を預けるのは、本当に嫌だが、どうしようもない。
貴族的微笑みを保って、周囲にも、目の前の人間にも、侮られないよう、優雅に、美しく踊る。
それが貴族令嬢の心意気、もとい、誇りだ。
「ふ〜ん。離れると思ったら、普通のポジションだねぇ。
案外、私のことは嫌ってないんだ。
ルイスが焼き餅、焼かないかなぁ」
小声で耳元に囁いてくる。
ぞわぞわして、思わずどこかを蹴り上げたくなるが、皇族への暴行で即逮捕だ。
ルイスに逮捕されたくない。
「帝国の星たる第二皇子殿下でおわします。
ご尊敬申し上げております」
あなたのその神経をね。と心の中で付け足しつつ、優美に微笑みかける。
王妃教育、総動員だ。
「ルイスが焼き餅、焼くかは答えてないよ。
だめだなあ。皇族の問いかけに答えないだなんて」
つま先を踏んできた。
コイツ、変な趣味があるんじゃないんでしょうねえ。
思いっきりヒールを突き立ててやろうかと思いつつ、痛みなど感じさせぬほど、艶やかに応える。
「まあ、お気が短くて、いらっしゃるのですね。
ルイス殿下との数々の思い出を、探しておりましたの。
焼き餅、どうでしたかしら。
嫉妬の表現は、ひと各々。難しゅうございますわ」
とっても焼き餅焼きで可愛いけど、お前になんか教えるもんか。は封印しておく。
第二皇子のダンスは、まあまあの腕前だ。
より美しく見えるように、出来る範囲で、自分の身体をコントロールする。
形だけのホールドで充分だ。
「ふうん。まあ、男女問わず、嫉妬って怖いんだよ。
あなたは大切な一人娘だから、知らないだろうけれど、兄弟なんか酷いものだ。
好き放題に比べて、競わせあって。嫉妬まみれさ。アイツもね」
お前とルイスを一緒にするな。を貴族的に言語化すると、こうなるんですよ。
「まあ、私にも嫉妬心は備わっておりますのよ。
切磋琢磨するのには、適度な嫉妬はよろしいかと存じます。
ルイス殿下も、第二皇子殿下も、競い合った結果、素晴らしい、帝国の星たる皇子殿下におなりあそばして、帝民のためのご苦労が報われ、ご立派に存じます」
あなたじゃなくて、ルイスがね。と思いっきり叫びたいが、ここは優雅にターンする。
ルイスの黒髪と瞳の色が重なったスカートが、ふわりと美しく揺れる。衣擦れもさやかだ。
ああ、ルイスと踊りたかったなあ。
「あなたは本当に口が達者だね。
気をつけないと、歌いすぎるカナリアは、うるさいって首を絞められるんだ。
俺の母親がそうだろう」
あら、本性を現した。
これ以上、怒らせるのはまずいかなあ。
もうすぐ曲も終わる。
「はい、充分に気をつけますわ。
自分が美しいカナリアか、ピーヒョロロロと美しく鳴き声を響かせるも、獰猛に獲物を狙う鳶かは、よく考えませんといけませんわね。
立場をわきまえないと、雷に打たれ、恐ろしいことになってしまいますもの」
帝国では、皇帝の怒りを雷に例えられる。
第二皇子の肩越しにルイスの姿がチラッと見えた。
よかった、と思うと同時に、第二皇子は耳を塞ぐように唇を接近させ、嘲笑うように囁く。
その声がこもって聴こえ、本当に気持ち悪い。
「あなた。本当に口は災いの元だよ。
“これから”“よく”“味わう”んだね。
さあ、もう曲“も”、“終わり”だ。
ルイスの元に帰るといい。帰れたらね」
第二皇子の左手のホールドに、ぐっと力が入る。
そのものに痛みと突起物を感じたが、それよりも、耳に密着された唇が気持ち悪くて仕方ない。
突き飛ばしたいくらいだ。
ちょうど曲が終わり、二人とも離れ、型通りの挨拶をする。
私は貴族的微笑みで、第二皇子に向かうと、その脇をすり抜け、まっすぐルイスに向かう。
「ルイス参謀殿。
まず、私は大丈夫です。安心して落ち着いてください。
第二皇子殿下を、目立たないように、別室にお願いします。左手の指輪は絶対に始末させないように。一刻も早く。お願いします」
私は第二皇子を振り返ると、信じられないものを見たような顔で、こちらを見ている。
「わかった」
ルイスともう一人の近衛騎士が、足早に第二皇子に近づき、「第二皇子殿下。皇妃陛下がお呼びでございます」と告げ、さりげなく身体を挟み、休憩室の方向へ向かう。
「エリー。エリー、大丈夫か?」
「何もされてない?エリー?」
伯父様と伯母様が歩み寄り、気遣ってくださる。
少しくらりとするので、伯母様の手を取り、お願いする。
「大丈夫です。伯父様、伯母様。
ただ少し、気分が、悪いので、休憩室に、連れて、行って、ください、ますか」
「わかった。すぐに行こう」
私は伯父様にさりげなく、がっしりとエスコートされ、その力強さに、身を委ねた。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書きたい、と思った拙作です。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
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