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1.悪役令嬢のお父さま

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


後半はエリザベスの父・ラッセル公爵視点。


エリザベスが幸せになってほしくて書いた連載版です。

まずは2歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。



「やってきたか」

「やってきました」



 しばしの沈黙—


「いけない!お父さま。

今は(ひた)ってる場合じゃありませんの。

お手数かけますが、後はよろしくお願いします。

まずはAプランでまいりますわ」


 ラッセル公爵家王都邸(タウンハウス)の執務室—


 騎士服姿の私、公爵令嬢エリザベスを抱きしめる、父・ラッセル公爵は、“本当の意味”でお優しい。


 両肩に重責を担った“慈悲深き微笑みの宰相”の正体は、しなやかでしたたかだ。

 見えるところでは、厳正なる国王陛下ともばちばちの真剣勝負を演じてらっしゃる。

 時々、王妃陛下に隠れて、国王陛下と茶飲み友達で癒し癒されてるご関係だ。


 帰邸すれば、亡きお母さまのレシピ、胃痛に効くハーブティーの愛飲者でもある。

 そして、いつも愛情深く私を抱きしめてくれてきた。


 10代前半に嫌がってごめんなさい。



「Aプランだな、了解。

エリー。国のために今までよく尽くしてくれた。

これだけの証拠と整った書類。向こうの有責で、婚約解消はもぎ取れる。

悪役だと?降板だ、降板。

ふ・ざ・け・る・な、だ。

たっぷりな寄附に、口座にも送金済みだ。

ゆっくり骨休めしてくるといい。

元々無理があったんだ。

“あの”国王陛下の役割をお前が、私の役割を“アレ”が務めるとは。

王妃陛下の完全な配役ミスだ。後始末(という名の責任追及)はしておく。

ふふふふふ……」


「お父さま。不敬が入ってますわよ。口は災いの元。

私、早馬で参りますわね」


襲歩(ギャロップ)で振り落とされないように。

“アレ(=殿下)”も“アレ(=男爵令嬢)”が出てくるまでは、まだまともだったんだが…。

人は筋書き通りにはいかないものだ」


「仕方ありません。これでお目が覚めれば幸い。

メアリー様なら悪役ノリノリ、ソフィア様なら手のひら転がしですわ。

後顧の憂いはございません。

お名残惜しいですが、1分1秒を争いますの」


「ああ。王妃陛下のお目付け侍女達は買い物に出した。大人気のケーキを並んで買ってくるだろう。

(おとり)は逆方向に先発し、ウチの“影”と馬は出動準備完了だ。

荷物はまとめた。身分証はこれだ。“鳩”は飛ばした。

途中で迎えがくる段取りだ」


「ありがとうございます、お父さま。

そうですわ。

殿下に避けられていた間に、建言を書いたノート、そちらに移しておきました。ご自由にどうぞ」


 お父さまの書棚一列にずらりと並んでいるノートとファイルを指し示す。

 地方別、ランク別に分けた、陳情書や問題への提言をまとめておいた。


 王妃教育とか、男爵令嬢とか、いろいろ、もろもろ、嫌なことを考えるよりは、と、国事に没頭していた私の時間—



 これから取り戻します。



「エリーの献策だ。目を通しておくよ。ありがとう。気をつけて行くんだよ」


「はい、お父さま。愛してますわ。

幸いが共にありますように」


「エリー、私も愛してるよ。

お前の行く手を太陽と月が照らし、星が護るように」


「お父さま、大好き。行ってまいります」


 家族の温かさをしっかり胸に刻んで、王都邸(タウンハウス)の裏門から、騎馬で出立する。

 ラッセル公爵家の“影”も付いている。まずは安心だ。

 市街地は目立たず、王都を出てから本気走りする。

 目指すは安全圏。



 王妃教育中、溜めてた休暇、いただきます。



〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜



 王宮、王妃執務室—


「……もう一度言いなさい」


「ですから、リーザは、エリザベスは、私との婚約を、ラッセル公爵を通して解消すると、学園からいなくなって、探しても、いなくて……。

公爵邸に行っても、門前払いで……。

『会わせて』って言い続けたら、公爵が出てきて、リーザはここにはいないと……」


「ふうぅぅぅぅぅぅぅ……」


 経緯を聞いた王妃は、深く長いため息をつく。

先んじて、王家の“影”からエリザベスを学園内で見失ったとの報告もあった。


「母上……。リーザはイジメなんかやってません。

よね?」


 まだ婚約者への信と不信の間でふらふらと。我が息子ながら情けない。


「私への報告書には一切無し。

第一そんな非効率なことを、エリザベスはしないわ。

もっとエレガントな方法で“除去”するでしょう。

そういう風に育てたの」


「やっぱり……」


「そうそう。あの男爵令嬢、“乙女”ではなかったわ。

いくら愛妾でも、あなたは誰の(たね)か分からない子を、その手に抱く気?」


「ぼ、僕はそんなコトしてません!彼女は友人です!」


「その“友人”とやらの定義を知りたいものね。

あなたの側近達も、二人は逮捕、全員取り調べます。

こうも簡単にハニートラップに引っかかるなんて。恥を知りなさい」


 王妃は、シャンド男爵令嬢と、王太子側近中、関係を持った副騎士団長子息と、新興商会を営む子爵家子息、3名の逮捕、側近達の拘禁を、近衞騎士団に命じる。

 その間も、“影”や王都警備隊から、エリザベス発見の報は入ってこない。


「全く、なんてこと……。

獅子は我が子を千尋の谷に落とすとか言うのを、亡き公爵夫人の(ぶん)も、ってやりすぎたかしら。

励ましが足りなかったかしら。

私の意図が伝わってなかったのかしら。

あと、たった2週間だったのに……」


 “たった2週間”と“2週間も”の間には、理解しあえない谷があることを、王妃はまだ知らない。


 頭を抱え、小声でつぶやいていたが、不意に顔を上げ、机の前に立ち尽くす王太子に微笑みかける。


「アルトゥール。探せるものなら探してらっしゃい?」


「え?」


「え?ではなく。エリザベスは10年に1人、出るか出ないかの逸材。

あんなに才能があって、努力するだけ身について、そしてあなたを大好きな子は、本当にいないのよ?

その希少性は理解してたでしょう?

私は繰り返し言ってました。

『エリザベスは得難(えがた)い伴侶で、素晴らしい王妃になる』と。

エリザベスを探すか、代わりになる子を、探せるものなら探してらっしゃい?」


「……母上こそ!どうして教えてくれなかったんですか?あんな役割をさせて!リーザに口止めまでして!」


「大声を出さないで。聞こえてます。

確かにエリザベスには、『話してはいけません』と言いました。

でも、『答えてはいけません』とは言ってません。

それに、この案件で、あなたから私に尋ねたかしら?

あなたとエリザベスの教育は、主に私が監修してたのに?」


「…………」


 王子が握り込む両手は、爪が食い込み血が滲む。


「アルトゥール。あなたはエリザベスに尋ねましたか?

入学後、ほぼ終えていた王妃教育の座学が、急に厳しくなり、昼休みや放課後、逢えなくなった理由を。

髪型やお化粧、表情や話し方まで変わった理由を。

マナーや校則違反者に、注意や勧告を始めた理由を。

帝王教育に従い、きちんと調べて尋ねましたか?

シャンド男爵令嬢のイジメぐらいじゃなかったかしら?

それもいい加減な調査を元にした……」


 王妃は執務室のデスクに積まれた報告書の束を指先でパラパラめくる。そこにはエリザベスと王子の日常が、くまなく記録されていた。


「……そ、それは……」

「……ふうぅぅ。私もエリザベスの能力を過信して、負荷をかけすぎたわ。

ラッセル公爵、いえ、宰相にはお詫びしないと……。

宰相がどれほどの思いで、何物にも代えがたいエリザベスを、あなたの婚約者にしたか理解しているの?


ああ、陛下にはこの手紙を。馬車の用意を。紋章はないものをね。宰相邸へ先触れを出して。

アルトゥール。あなたはここで、エリザベスと自分についての報告書をきちんと読むといいわ。

ラッセル公爵家への訪問は今は許しません」


 王妃は次々に指示を出すと、身だしなみを整え、馬車に乗り込んだ。


〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


【ラッセル公爵視点】


 王妃が押しかけてきた。

 親子揃ってご苦労なことだ。

 息子と違い、先触れがあるだけマシか。

 目立たないよう、王家の紋章無しの馬車だ。

 それでも、『はい、どうぞ』と通すはずもない。

 エリザベスの時間稼ぎもある。

 使用人達も探しているが、余裕はあればあるほどいい。


 30分後—


 王妃のみをサロンに通す。

 何も出さないか、水でいいかと思うものの、付け入る隙は見せたくない。一応お茶を出す。

 亡き妻レシピの来客用ブレンド、リラックス効果のハーブティーだ。


 死の間際、看病していた時、使用人を真夜中に起こすのも気が引けて、厨房に出入りしていた。これなら出せる。

 給仕の真似事をしながら、状況説明だ。



「娘はここにはおりません。

家探(やさが)しなさりたければどうぞ。

私どもでも行方を探しておりますが、いまだ発見に至らず……。どこにいるのやら。

このところ不安定でしたし、全校生徒の前で晒し者。

よほどショックだったのでしょう」


 『帰ってきたが出てったよ。あんたの馬鹿息子のせいでね』は、さすがに伝わるか。

 表情を消した声は冷たく低めのトーンで、まるで昔のようだ。

 カップを置きながら、チクッと刺す。


「使用人達も娘を探すため出払っています。

ご容赦ください。

お茶は同じポットです。カップをお疑いなら、交換しますが?」


「いえ、こんな時にありがとう」

「…………」


 『毒見は絶対無理』は、すんなり受け入れたか。

 それもお礼付きだ。

 王妃の貴族的微笑の口角が、いつもよりわずかに上がる。

 亡き妻アンジェラのレシピのハーブティーのためだろう。

 門外不出で、我が家でしか飲めない。


 歓待している訳ではない。私はこれしか入れられない。 紅茶を選べば、激渋か激薄だろう。

 エリザベスが初めて入れてくれた時のように—


 今ごろどこまで行ったやら。

 王都の門を無事に通過していればいいが、と貴族的微笑の下で心配していると、いきなり呼びかけられる。



「ラッセル宰相。いえ公爵閣下。エリザベスのことは、本当に申し訳な」

「王妃陛下、臣下に謝ってはなりません。

謝っていただいても、娘が、娘の時間が、戻る訳でもありません」


 謝らせてたまるものか—

 娘のやる気も、時間も、幸せな学生生活も、どれだけ搾取したか。この元凶が。

 謝罪を受け入れ楽になぞするものか。

 王妃はハッとし、苦しそうな表情を浮かべ、また黙り込む。



「…………アルトゥールには、責任を取らせます。

調査次第では廃嫡も」


 お前ではなく、あのバカに責任取らせるのか?まずはお前だろうが!

 方針転換とやらも、自由を削り取った詰め込み教育も、私の抗議を却下して、お前が指示したんだろうが!



「唯一のご実子、王太子であらせられる。冷静にお考えください。

ただ婚約解消は早急に願います。

メアリー嬢かソフィア嬢とのお話を進めた方がよろしいかと」


 食い気味に答えて、叩き落とす。

 廃嫡だと?それで、ごめんなさい、か?

 これ以上の混乱は、ただただ面倒くさい。私の時間まで削る気か?!


 何より、『賢妃である王妃陛下のご深慮に逆らって、これくらいの我慢も出来ないなんて』、と王妃派の貴族から、エリーの我儘(わがまま)にされかねない。

 これ以上、悪役呼ばわりさせてたまるか。

 幸い国王陛下は、無駄に健康だ。

 あのバカが王位を継ぐまで、帝王教育をやり直すほどの時間はある。そっちを選べ。


 ただし婚約解消は、絶対に早期決着だ。

 穏健派のソフィア嬢、改革派のメアリー嬢に別口の申込みがある前に、しなければ。

 すでに内定しているが、正式な決定が必要だ。


「エリザベスあってのアルトゥールです。

あの子独りで(まつりごと)が出来る(うつわ)ではありません」


 いつまであのバカの引立て役をさせる気か?

 死ぬまでか?

 子どもが生まれたら、賢母ならぬ、愚母、悪母と呼ばせる気か?


「ほほう……。では、鉄を熱い内に打ち、(うつわ)へと鍛えあげればよろしいでしょう。

幸い国王陛下もご壮健。これから10年間、アルトゥール殿下に、娘並みの課題を与え、負荷をかければいかがかと」


 ここは譲れない。廃嫡ルートを潰すためにも。

 エリーは臣下というだけで、未来の王妃というだけで、弱音を吐きたくても吐けず、あそこまでやった。

 あのバカにも同じだけやってもらおう。

 厳しすぎる王妃教育のおかげで、人並み以上の体力だが、それでも成人男子には劣る。

 その娘がやったんだ。鍛えろよ!


 「きゃ〜、アルトゥールさまぁ」なんて、令嬢達の歓声浴びるために、“お優しい”愛嬌振り撒くために、好きな棒振りさせる時間があったら、体だけではなく、頭を、心を鍛えろ!



「……各々の技量というものがございます。

アルトゥールは愚息、エリザベスにはアンジェラ様譲りの才知がございます」



 亡き妻の名前を出され、貴族的微笑を保っていた頬がわずかに引きつる。


 よくもその名を口にしたな。

 今、ここで、アンジェラの名を出すとは。


 婚約者候補選定の最初から、機会があるたび、あれほど念押したのに、世間で言うところの“アンジェラ沼”から、足を洗ってなかったのか?!



 アンジェラは、隣の帝国の公爵令嬢。

 我が妻ながら、聡明で美しかった。

 はっきり言おう。“天使”だ。“天使”。


 ただ“天使”が(ゆえ)に、その美貌と優しさに、男女を問わず、多くの心酔者がつきまとい、トラブルが絶えなかった。


 持てあました公爵家が、外交日程の同行員に突っ込み、ぽいっとよこした。

 我が国で良い相手が見つかれば、ラッキー。

 見つからなかったら、寄附金どっさり付けるから、素敵な修道院を紹介してくださいね、という意図が丸見えだった。


 我が国と帝国では国力が違う。

 厄介者を押し付けられて、と思っていた自分が、一目惚れだ。


 “氷の補佐官”とか呼ばれてたのに、一瞬で溶けた。

 それだけの存在だった。

 信じられないことに、アンジェラも好きになってくれた。

 自分を前にしての“普通”の態度が、どれだけありがたかったか、と後日、涙と共に打ち明けてくれた時—


 心中、“聖歌(ハレルヤ)”が鳴り響いていた。


 “天使”効果で、周囲が役に立たず、表面上、“氷の補佐官”を(たも)たざるを得なかった事態に、心から感謝した。


 そして、親や周囲に耳を貸さずに、婚約してなかったこと。

 “天使”が来る前に、当時の王太子、今の国王陛下が婚約済みだったことは、史上最高の幸運だった。

 “氷の補佐官”として、あちこち調整し、“天使”を無事に手に入れた。


 自分由来のトラブルに、アンジェラは傷つき悩んでいたため、社交は私が付添える最低限に(とど)めた。

 トラブルは未然防止を心がけた。おかげで我家の“影”は鍛えられた。王家より優秀だ。



「それは買いかぶりで事実誤認です。

学園1年生後半の方針転換の後、娘の負担はいかばかりだったか。

臣下とはいえ、王命とはいえ…。

王妃陛下、あなたご自身でこなせる質と量でしたかな」


「エリザベスを見込んでのことです。閣下とアンジェラ様のお子様ですもの」


 アンジェラは関係ない、と試したが、“アンジェラ沼”に釘だった。


 エリザベスの容貌は、髪と瞳の色以外、母親似だ。

 しかしアンジェラは天才、エリザベスは秀才。

 周囲から無条件に愛される“天使”でもない。


 王妃教育の絶対条件は、アンジェラの名を出さず、比較しないこと、だった。

 王妃が重度のアンジェラの心酔者だったためだ。

 何せ王太子の婚約者を譲り、アンジェラ王妃の侍女になりたいと、ほざいたほどだった。

 未然に防止、即行潰した、コイツ絡みのトラブルの種がいくつあったことか—


「勝手に見込まれても、アンジェラと同一視されても、娘も私も困ります。

アンジェラはアンジェラ。エリザベスはエリザベス。

妻への思い入れを、娘に転嫁するのは、いい加減に止めていただきたい。

約定を忘れられたか?」


「お名前は決して出してはいません。

でもアンジェラ様が素晴らしいからこそ、あなたも伴侶に選ばれたのでしょう?

初顔合わせでは、あなたもそっくりだと仰り、目頭を押さえていたではないですか」


 思い出だけでうっとりする口調は、本当に恐ろしい。

 背中がぞくりと怖気立(おぞけだ)つ。


「えぇ、素晴らしい妻で、素晴らしい娘です。

ただし二人は全くの別人。4歳の話を今さら持ち出されても困ります」


 出産後、身体を傷めたアンジェラは、一人娘のエリザベスを愛してやまず、天に召されるまで、私に「お願い、頼みます」と言っていた。

 遺言書の多くの部分にも書き残していた。

 どれだけ心残りだったろう。


 喪が明けた直後、王家から是非に、と招待された子どものためのお茶会—


 王子との初顔合わせの時、天使のように可愛かったエリザベスに、アルトゥール王子が白詰草の指輪で求婚したのだ。

「素晴らしいわ」と息子を褒めていた王妃を思い出す。

 よくも仕込みやがったな。


「当時から光るものが、あったのです。

そして磨けば磨くほど才色兼備で、アンジェラ様に瓜ふた」


「何度も言いますが、妻を引き合いに出して、勝手な理想を娘に押し付けないでいただきたい。

王妃教育は私が抗議しても娘が受け入れ、仕方なく、と見守ったのが、大きな(あやま)ち。反対を貫くべきでした。

第一、娘に国王陛下の役割は無茶です。

あの威厳。歩く法律全書、王国の権威の象徴。

無理な理想に追い立てられ、挙げ句の果てがこの始末。

娘を自由にしてください。

天上でアンジェラが、さぞや嘆いていることでしょう。

なぜ裏切ったのか、と。

見舞いに来た貴女の手を取り、『娘を悲しませないでくださいね』とお願いし、手紙でやり取りもしましたよね?」


 王妃で自分の心酔者—


 髪と瞳の色以外、自分にそっくりな我が子の未来を憂えた、天才的な先見の明だった。


「えぇ、ですから、私が母代わりに、何があっても、悲しまないようにと、心身を鍛えて差し上げて……」


「“悲しませないで”と“悲しまない”は、天と地ほども違うでしょう」


「…………」


 王妃の表情が“無”に堕ちる。

 それでも反転攻勢を狙ってか、『沈黙は金』を一時的に選んだようだ。


 私は静寂の中、冷めても美味しいハーブティーを味わっていると、使いに出ていた執事長が帰ってきた。



「旦那様、これを……」

「うむ」


 手紙の封を切ると待望の—


「王妃陛下。国王陛下が婚約解消に同意してくださいました」


「え?!嘘?!嘘でしょ?!なんてことを?!」


「国王陛下と王太子殿下、私とエリザベスのサインがあり、王印が押されてある。

ご夫君の決断力を見誤られましたな」


 愛娘(まなむすめ)の失踪による心労で、宰相辞任か、1ヶ月の出仕拒否をちらつかせた。

 統治の混乱よりも、婚約者の変更と王太子の鍛え直しを選ぶのは、真っ当すぎる政治判断だ。


「お帰りはあちらです。どうぞ」


 迎え(=回収)に来た近衞騎士に支えられ、王妃は馬車に乗る。


「王妃陛下。

ソフィア嬢もメアリー嬢も、各々異なる長所があります。貴女の目を曇らせる要素もない。

今度こそ“賢妃”として、次世代をお育てください」


 王宮へ帰還する王妃を、臣下の礼をとり見送る。

 馬車が正門を出たところで、執事長と笑顔で拳と拳を突き合わせ、邸内へ入って行った。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書きたい、と思った拙作です。


誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

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悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
わ、したたか策謀勝負で始まった! 続きが気になります!
ラッセル公爵、王妃に勝ちましたね! ラストの拳を重ねるところ、本当にこちらまで嬉しくなって超笑顔になりました。 良かったです〜! 後は続きをゆっくり楽しませていただく予定です。 素敵なお話を読ませて…
[一言] 最新話まで読んでこの回読み返すと、 天使効果をある程度受けながらそれでも表面上は鉄壁の理性を保ち続けた公爵様ホントスゲーな……ってなるんですよね 帝国での事例考えるとアンジェラ様普通に魅了の…
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