27.悪役令嬢の近衛騎士
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
エリザベスが幸せになってほしくて書いた連載版です。
これで27歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
「顔色もいいこと。もう心配なさそうね」
「ご心配をおかけし、申し訳ございません」
「ルイスの警護、驚かせたかしら」
「お忙しい中、ルイス殿下に警護していただき、恐れ多うございます」
騎士団の公開訓練日以降、初めて皇妃陛下の元に出仕した私は、ルイスにしっかり警護されていた。
騎士団参謀殿は、お母上の皇妃陛下から、『エヴルー卿の出仕時に警護役を派遣してほしい』という依頼を取得するや、団長や副団長も、たらし込み、もとい説得・交渉した。
その上で伯父様も皇城で説明し、説得に成功した。
今朝、先触れを出し、無紋の馬車できっちり迎えにいらした。
えぇ、びっくりしましたとも。
警護の了承はしたけど、具体的には聞いていなかったし、事前説明もありませんでした。
昨日、エヴルーから帝都に来た後も、教えてもらえなかった。
『事前に話したら、遠慮されそうだった』と後で聞かされた。
否定できないところまで読まれてる気がする。
さすが参謀。
ただ、ルイスの本気度は、行動に現れていた。
出発前、エヴルーとタンド公爵家の警護と綿密に打合せし、同乗した車中、私やマーサとはほとんど話さず、周囲の様子を窺っていた。
そんなこんなで、近衛騎士の制服を着用した婚約者(内定)は、非常に凛々しく、かっこいい。
普段は黒をよく着ているけど、白に金モールとかも、とっても似合うんだなあと実感してます。
王子様みたい。あ、本物の皇子様でした。
侍女も皇妃陛下の居室に現れ、壁際に立ち、私を警護しているルイスをチラチラと見ている。
うん、見たくなるよね。気持ちはとっても分かる。
そんな中だろうと、私の仕事は変わらない。
皇妃陛下の心身の調子を聞き取り、今回の調合について説明する。
皇妃陛下と侍医方の了承を得た後、侍女の方々に説明しながら、ハーブティーを入れ、毒味の上、お試しいただく。
万一の異常時は、速やかな侍医への診察依頼と私への連絡をお願いする。
ここまでが、ワンセットだ。
皇妃陛下は、今回も美味しいと言ってくださり、押し隠していた緊張も解け、ほっと一安心だ。
「エヴルー卿は、王妃教育で剣を学んだの?」
ハーブティーを味わいながら、いきなりご下問を受ける。
しかし答えない選択肢はない。
「皇妃陛下に申し上げます。
剣術というよりも、護身術を学びました。
剣術はごく簡易に、でございます」
私の立場のような人間は、自分の実力を極力、他に開示してはならない。
どのレベルの刺客を差し向ければいいのか、すぐに判定されてしまうから—
と、王国の騎士団長に教えを受けた。
ああ、あの日、模造剣をフィールドに叩き返しちゃったのって、やっぱりまずかったかしら。
日傘に鉄棒仕込んでたのも、バレちゃったし。
それでも、誰かが串刺しになるの、嫌だったしなあ。
つい遠い目になるのを抑えつつ応える。
「そう。護身術だったのね。
騎士団の公開訓練日に怪我人が出なくて、幸いでした。
ルイス参謀、事故防止策は施したのよね」
これは公の立場で聞いてらっしゃる。
本当にご心配をおかけしたようだ。
「はっ、皇妃陛下。
観覧席には強化された金網を張り、試合する範囲も観覧席に近づけないよう定めました。
ご心配をおかけし、申し訳ありません」
「わかったわ、ルイス。ご苦労様。
今日はもう帰って大丈夫。あなたも心配でしょう?」
「はっ、ありがたき幸せ。エヴルー卿、ご挨拶を」
「皇妃陛下、本日はお招きくださり、誠にありがとうございました。
これにて失礼い」
またもや、皇妃陛下の警護役が侍女長に耳打ちする。
侍女長は皇妃陛下へ。
ものすごく既視感がある。
皇妃陛下が深いため息を吐き、ルイスのピリッとした緊張感が伝わってきた。
「今日は追い返してちょうだい?
さすがに毎日来るなんて、いったい何を考えているのかしら?
ピンクダイヤモンドなんて、知らないって言ってるのに」
うわ、やっぱり。予想通りの展開。勘弁してほしい。
「はっ、かしこまりました」
侍女長が警護騎士と共に居室を出ていく。
皇妃陛下だけではなく、侍女の方々からも、うんざりとした雰囲気が伝わってきた。
本当に毎日来てたのか?来てたんだな。
「全くあの方は……。公女殿下気分が、いつまでも経っても抜けないのね。
ここは帝国なのに……」
皇妃陛下が、直近の私にしか聞こえないほどに小さく囁く。
第二皇子母のご側室は、帝国に隣接する公国の公女だった方だ。
小国だが、数カ国に通じる主要街道が複数通り、交通の要衝だ。非常に狭い領土にしては、栄えている。
地勢の関係で、守るにやすく、攻めるに難い、地の理もある。
血と財を費やして手に入れるより、同盟関係を結んでいた方が、帝国にとっては有益と判断された。
その同盟の補強に、明らかな政略結婚で嫁いでこられた。
皇帝陛下はお子様をお一人儲けた後は、ほとんど足を運ばれない。
その結果、皇帝陛下が足繁く通われる、皇妃陛下に嫌がらせを繰り返す日々を送っていらっしゃる。
一方、皇妃陛下は、帝国の公爵令嬢だ。
ご実家の身分からすれば、ご側室の方が上だ。
しかし、実勢力は皇妃陛下のご実家が明らかに上である。
ご実家の領地は公国よりもはるかに広く、財政も豊か。ちなみにタンド公爵家領も同様だ。
ついでに、第四皇子母のご側室は、帝国と隣接する大公国の公爵令嬢だ。
大公の養女となり大公女として、嫁がれてきた。
この方は穏やかなご性格で、皇子殿下と静かに暮らしており、こちらのご側室には、皇帝陛下はたまに足を向けられる。
自分だけが皇帝陛下から無視されている—
その不快さも、なぜか皇妃陛下に向けるご側室なのだ。
ああ、本当に厄介。
戻ってきたら侍女長が、相手への怒りを抑えた口調で答える。
「恐れ入ります、皇妃陛下。
エヴルー卿のご出仕も、なぜかご存じで、会わせろとも仰せです……」
勘弁してほしい。誰か皇帝陛下を呼んで来い。
貴方が満遍なく、回らないから、こんな面倒になってるんだろうが。
後宮政治を 司 るのが皇妃陛下のお役目と言っても、皇帝陛下のご協力無しでは限界がある。
特に同盟国の公女なんて、面倒な案件、極まりない。
皇妃陛下がすまなさそうに、私に頼んできた。
「エヴルー卿。申し訳ないけれど、ご挨拶だけしてもらえるかしら。
祝勝会の時も呼ばれなかったので、すねていらっしゃるのよ」
子どもか?!と、思うが、受ける一択だ。断れる訳もないし、皇妃陛下のご負担になりたくもない。
「かしこまりました」
ルイスは冷静を装ってはいるものの、冷酷さが服着て歩いてる状態になっている。
青い瞳からは、温かみが抜け落ちていた。
私と視線があった時だけ、わずかに微笑んでくれる。私も、『心配しないで』と小さく頷く。
警護役に案内され、ご側室がいらっしゃる。
派手な装いがご趣味のようで、原色と光り物で目が痛いくらいだ。
皇帝陛下が訪れない理由の一つかもしれない。
この色彩、ちっとも落ち着かないもの。
「ごきげんよう。また先触れもなくいらしたのね。
マナー違反と何度言えば、分かっていただけるのかしら。
エヴルー卿はこちらです。エヴルー卿、ご挨拶を」
私は深めのお辞儀をし、型通りの挨拶をする。
帝室では、ご側室には“殿下”の敬称は付かない。
それもまた、腹立たしい原因の一つのようだった。
「帝国の輝ける星たる第二皇子殿下のお母上であらせられるご側室様。
ご機嫌麗しく、拝謁させていただきます。
エリザベート・エヴルーと申します」
「皇妃陛下。マナー違反なんてしてませんわ。
この後宮、私が行けないところなど、ございませんもの。私は公女殿下と呼ばれた者ですのよ。
ふ〜ん。あなたがエヴルー卿ね?
下賤の女に王太子殿下を奪われ、王国から泣いて逃げ出してきたんですってね。
半年もせず、傷物の第三皇子と婚約予定なんて。
男を見る目がないのねえ」
こうもはっきり喧嘩を売ってくるのは、珍しい。
相手にしたくないけど、それはそれで、噂を吹聴して回るのだ。ホントめんどくさい。
お辞儀をしつつ、はっきりと訂正すべきは訂正しておく。
「ご側室様に申し上げます。
王太子殿下とは、父宰相から畏くも国王陛下に申入れ、合意のもとに、先方の有責が認められ、婚約解消いたしました。
なぜ、私が泣かなければならないのでしょうか?
数年の悩みが一挙に解消し、非常にスッキリいたしました」
「はあ?!婚約解消なんて、不名誉極まりないでしょうに!」
「私は不名誉なことは、何一ついたしてはおりません。
貞節・忠誠・公正・慈愛・礼節・奉仕など、婚約の契約の多くを破られたのは、先方でいらっしゃいます。
これも解消の際、認定され、賠償金も支払われております。
私には不名誉など、一切、ございません。
また、婚約解消後、3ヶ月を経過すれば、新しい婚約が結ばれるのは、ほとんどの国では許されております。
ご出身の公国で異なるとは、浅学故、存じ上げませんでした。
さまざまなマナーが異なるお国柄のようですので、無理もなく、そのご苦労、察するに余りあります。
最後に、ルイス殿下は、傷物などではなく、勇者、英雄であらせられます。
これは皇帝陛下もお認めになられたこと。
速やかに訂正・謝罪されることを、僭越ながらお勧めいたします。
帝室儀礼において、皇帝陛下のご発言の否定は、非常に重い不敬とされております。
単なるマナー違反ではすみませぬ。
ご側室のご身分、ご実家のご身分故、知らなかったでは通りませぬ。
ここは帝国の帝室が、皇帝陛下が、統治なさる皇城にございます」
私はしっかりとご側室を見つめながら、一つずつ反論していく。
ご側室の顔が、怒りのためか、真っ赤に染め上がる。
目は吊り上がり、眉間の皺がすごいことになっている。
動物の威嚇行動のようだ。
理性でコントロールする術を学ばなかったのだろう。
哀れな人だ。まあったく同情しないけどね。
持ってる扇がみしみしと音を立てている。
予想通り、私に向かって投げつけてきた。
私はお辞儀の姿勢を解き、扇をパシリと受け取る。
「ご側室様に申し上げます。
帝室儀礼によれば、高貴な方へのご挨拶中も、危険が発生した場合は、中断しても無礼に問わず、とあります。
皇妃陛下、こちらで間違いございませんでしょうか?」
「えぇ、間違い無いわ。ご挨拶、お疲れ様でした。
そちらの扇は私が預かります。
エヴルー卿は、皇帝陛下がエリザベートとお呼びになり、娘同然と思っている者。
ご報告せねば、私が失態を問われます」
「な、なんですって!好き勝手に言って!無礼者ばっかり!」
「報告は不要だ。儂が見ておった。それで充分だろう」
ご側室の罵声の後、皇帝陛下の朗々としたお声がかかる。
警護により開け放たれた居室の扉から、ゆったりと入室され、ご側室の脇を素通りされると、皇妃陛下のお隣りに座る。
「エヴルー卿、ご苦労であった。
そなたは、いい加減にせよ。無期限の謹慎を命ず。
場所を“塔”に移したくなくば、大人しくせよ」
“塔”とは、皇族の罪人が収監される場所である。
この脅しは最後通牒だ。
ここまでするとは少し驚く。
「皇帝陛下!私は公国の公女なのですよ!」
「公国との同盟の証は、そなたの血を引く、第二皇子がいれば充分だ。
公国の主、そなたの兄も納得しておる」
「そんな、お兄様が……。嘘よ、嘘!」
「また、城下の店から、苦情が多数届いておると聞く。
歳費を越えた買物など目に余る。
身の程をわきまえよ。
近衛、側室を居室に謹慎させよ。
余の許しがあるまで、一歩も外に出すでない」
あ〜、これはきっとピンクダイヤモンドの件で、怒りの尻尾を思いっきり踏んじゃったんだろうなあ。
こうなると、私は囮の餌か、餌なのか?
皇帝陛下が連れてきていた近衛騎士達により、ご側室は引きずられるように連れて行かれる。
ずっと、「陛下、私は悪くない、悪くないのよ〜」と叫んでいらっしゃった。
ご苦労なことだ。
「皇妃。長い間、苦労をかけたな。
アレは近いうちに離宮へ移す。第二皇子の立場もある。“塔”でなく、許せよ」
離宮は、“塔”よりも待遇がいいが、ほぼ幽閉には変わりない。ただ公告はされない。
稀に皇族の病気治療でも行くことはある。
「かしこまりました。一番の労苦は陛下ですもの。
公国との交渉、お疲れ様にございました」
「まあ、あの国は所詮は金だ。あの者の歳費よりも安い故、長い目で見れば得をしたくらいだ。気に病むでないぞよ」
あ。これはピンクダイヤモンドは、サプライズなんですね。了解です。
「承知いたしました。
エヴルー卿、本当に辛い目に合わせてしまいました。許してちょうだいね。
ルイス。エヴルー卿をよろしく頼みます」
「恐れ多うございます。皇妃陛下。
それでは御前を失礼いたします」
「はっ、皇妃陛下。承知いたしました」
私は最後まで気を抜かず、皇妃陛下の居室を退室する。
扉が閉まる向こうで、すでにイチャイチャしているお二人を目にしたのは秘密だ。
それよりもルイスだ。
「ルイス殿下。心配をかけてごめんなさい」
「エヴルー卿。とりあえず、馬車へ急ぎましょう。
取り乱して部屋から出てきたら、貴女が危険だ」
「はい、ルイス殿下」
私は頷き、淑女の最高スピードで、馬車へ辿り着くと、マーサから声がかかる。
「エリー様。いかがなさいました。お召し物のようなお顔色で……」
今日のドレスは水色だった。そんなに酷く、顔に出てしまってるなんて。修行が足りないな。
「マーサ。例のご側室から色々あったんだ。
ちょっと待っててくれ」
ルイスは行きと同様、周囲の警護に注意を促しているようだった。
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出発した車内で端的に何が起こったか、ルイスがマーサに伝えてくれた。
「エリー様。無茶をなさらないでくださいませ」
「無茶じゃないわ。勝算はあったの。
泣いて帝国にきただの、ルー様が傷物だの、絶対に許せなかったんだもの。
向こうがご丁寧に墓穴を掘ったのよ。
さっさと土をかけてあげなきゃ、もったいないじゃない」
「ブフッ、クックックックッ……。
エリーにかかったら、母上の長年の悩みの種もあっという間だったな。
俺を勇者と言ってくれて、ありがとう」
ルイスが大きな手で、わたしの頭をポンポンと弾むように撫でる。
今日は金髪をきっちり結い上げている。万一にも、ハーブティーに混入しないためだ。
その髪型を崩さないよう、優しく扱ってもらえて、心がほんわかしてくる。
「どちらにしろ、父上は大歓迎だ。元々下地は作ってはいたようだしな。
ただ第二皇子派という者達も、まだ残ってはいる。逆恨みする者もいるかもしれない。
外出時は、いつも通り、警護を連れていくこと」
「帝都での外出、そんなにありませんよ。
ルー様とのお出かけくらいです」
私がきょとんと首を傾げ口にすると、ルイスが首筋から徐々に赤くなっていく。
近衛騎士の白い騎士服に映えて、とても綺麗だ。
じっと見上げていると、口元に手を当てる。
「そうか。わかった。うん。それでも気をつけような」
「はい、ルー様」
そういえば、伯母様との、ドレスのためのお出かけがあったよな、気をつけなきゃ、と思い、にっこり返事をしたのだった。
〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜
今回の帝都滞在—
二週間ぶりだったせいか、一日おきに、ルイスに会ってる気がする。いや、気がするじゃなくて事実だ。
昨日はタンド公爵邸で、打ち合わせに挟まれての、お茶会だった。
最初の打ち合わせには、伯父様がいらして、例のご側室の処分結果を教えてくれた。
皇帝陛下の仰せの通り、離宮での幽閉と決まった。
使用人が付き、それなりの生活を送れるが、二度と外には出て来られない。
第二皇子は不問だ。
私には慰労の言葉があったとのこと。
やっぱり餌役だったか。
伯父様達が去った後のお茶会—
ルイスがお見舞いだと言って、飴細工の籠を持ってきてくれた。
一口サイズで、花や木の実が刺さっている。
綺麗で可愛くて、食べるのがもったいないくらいだ。
「うわあ、ありがとう、ルー様。でもお見舞いって?」
「エリーはこの前、俺のために、言葉の剣で戦ってくれただろう?そのお礼だよ。
騎士団でモテるヤツに聞いたんだ。ご令嬢が喜びそうな食べ物とか」
嬉しいと同時に、『こんなお菓子、どうして知ってたんだろう?』という疑念も、あっさり種明かししてくれる。
「どうして食べ物なの?」
「頭を使うと、甘いものが食べたくなる。それで選んだ。それにこの木の実を食べるエリーを想像したら、小リスみたいで可愛い」
「小リス?ルー様は見たことあるの?」
「ああ。皇城の庭は無駄に広いからな。どんぐりを持って齧ってた時もあるぞ」
「ふふっ…。かわいいなあ。観察してたルー様と一緒に見てたかったな」
「これから見られるさ。
そういえば、エリーの肖像画、タンド公爵がやっと拝見する許可をくれたよ。クリーニングがもうすぐ終わるらしい」
「なんか恥ずかしい。本当に新しい公爵邸に飾るの?」
「もちろん。ずっと交渉してきたんだ。
今反対されたら、渡してもらえなくなる。
恥ずかしくても、一度は飾らせてくれないか?」
ルイスが私の手に、そっと大きな手を重ねる。
「はい、ルー様。恥ずかしかったら、伯父様に返してあげてね」
「了解」
手を重ねるくらいは、少し前から大目に見てもらっている。後は頭を撫でるとか。
今日もお互いの耳には、二人の色のクローバーがある。騎士団でもめざとく見つかって、からかわれたらしい。
「みんな、気はいいんだが、“氷の参謀”が溶けた、とか失礼なんだ。
元々、“氷の参謀”も勝手に言われてたしな」
「あら、とっても奇遇だわ。
お父さまもお若いころは、“氷の補佐官”って呼ばれてたんですって。
冷静沈着で、冷たい決断でも下せるって。
今は“慈愛深い宰相”とか呼ばれてるけど」
「そうか……。婚約式でお会いする時は覚悟しておく」
「覚悟?」
その後、私がどういう覚悟か聞いても教えてくれなかった。
何でも花嫁の父親と花婿さんには、色々あるらしい。
「良好な関係を希望してるから、手伝わせてね」と申し出たら、「一晩飲めば大丈夫だろう」と答える。
騎士団方式が、お父さまに通じるかは微妙だ。
最後の話題で出た、エヴルー領で、来月に行う催しに、ルイスも参加してもらえるようになった。
皆、すっごく喜ぶだろう。私もだ。
ご機嫌なまま、ルイスの見送りに立つと、馬車に乗る前に、手を取られ、指先に少しだけ唇が触れる。
これは手の甲と一緒で、ご挨拶だけど、く、唇が触れるっていいの〜〜〜。
いつもはフリだけなのに。
真っ赤になってしまった私の心臓はバクバクだ。
ルイスは「エリー、かわいい」と耳元に囁いてから、馬車に乗り込み去っていった。
その夜のバスタイムに、自分で同じ指にキスしてみたけど、心臓は落ち着いたままだし、あれは何だったんだろう。
今度、ルイスにもしてみよっかなあと、ぷくりとバスに頭を沈めた。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書きたい、と思った拙作です。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
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