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26.悪役令嬢のお父さま 2

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


※今回は、エリザベスの父、ラッセル公爵視点です。


※※※※※※※※※※※注意※※※※※※※※※※※※

妊娠・出産、イジメなどについて、デリケートな描写があります。

閲覧にはご注意ください。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


エリザベスが幸せになってほしくて書いた連載版です。

これで26歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。



【ラッセル公爵視点】


 愛娘(まなむすめ)から手紙が届いた。

 かなりの分厚さだ。

 何かあったか、とすぐに目を通す。

 『またか』と思う内容だった。


 なぜ、エリーに付きまとうのだ。悪縁め!


 私は便箋から漂うラベンダーの香りを、そっと深く吸い込んだ。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 あの婚約解消騒動から、7ヶ月が経過しようとしている。


 第一王子と側近2名は、6ヶ月間、騎士団の地獄の特訓をみっちりと受け、少しはマシになって戻ってきた。


 現在、側近2名は補佐官見習いとして、鍛えられている。

 各々、伯爵子息と侯爵家次男だったが、一旦貴族籍を抜き、戻れるかは、今後の働き次第だ。

それを抜きにしても、顔つきが変わった。

要経過観察中だが、良い方向に変わりつつあるようだ。



 あのバカ(=王子)も、帝王教育を再開した。

 いや、一からやり直しだ。

 国王陛下が選ばれた講師で、内容はエリザベスの質と量以上だ。

 弱音を吐かず、一応ついてきているとの報告だ。

 時折、国王陛下、(みずか)ら、お話されている。


 上手く再生し始めたと思いきや、ここで問題が一つ生じている。


 騎士団での特訓を無事にこなし、6ヶ月を過ぎた場合、王子が二人の正妃を迎える、簡易な婚姻の儀を、速やかに執り行う予定だった。


 それをあのバカ(=王子)が、『二人の正妃は今までに例がなく、夫として、国王として、どのように遇すればいいのか』と、帝王教育の場で質問を持ち出し、延々と討議しているのだ。

 『遇し方が分からなければ、差別を生み、国が乱れる』と。

どの口で言っている、と思うが、地道な抵抗を続けている。


 穏健派であるソフィア嬢を薔薇(ばら)妃、改革派であるメアリー嬢を百合妃と呼称し、二人を正妃として遇するのは、穏健派と改革派のバランスを取る絶妙な策だ。


 それをあのバカ(=王子)が、潰す気か。


 愛娘(まなむすめ)、エリザベスからの相談もあり、バカ(=王子)に面談を申し込む。


 地獄の特訓を真摯に受け、エリザベス並みに厳しい帝王教育を、順調にこなしていれば、“バカ”の内面呼びを()める予定だった。


 どこまで行っても、バカ(=王子)はバカだった。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 連絡を取った上で、王子の居室を訪ねる。

 部屋の中も騎士団生活で得たように、整理整頓されていた。


「アルトゥール王子殿下。

大変お忙しい中、お時間をいただき、誠にありがとうございます」


「ラッセル宰相。宰相こそ激務の中、私との面談とは何だろう?

心当たりがないのだが……」


 冒頭は世間話でもしながら、お互い腹の探り合いをするのが定番だが、いきなりか。そうか。

 話が早くて助かるが、国王の振舞いとしては、マイナス5点だな。余裕が無さすぎる。


「実は、財務担当者から、上申がございました。

宝石の価格相場が大きく変動し、現在、王室所蔵の品々を再査定させていただいております。

アルトゥール王子殿下がお持ちの懐中時計も対象のため、一旦お預けいただきたい、とのことでございます」


 同行した担当者が、私の背後で一礼する。


「再査定……」


「はい。そちらは純金製。

この資料によると、使用されている宝石も、ピンクダイヤモンドにエメラルドなど、査定対象となっております。

使用時の傷なども、関わってきますため、担当にお預けいただけますでしょうか?」


「……この場でしてもらう訳にはいかないのか?」


 この余計な粘りにイラッとするが、穏やかな微笑みは忘れず、何気なさを装う。


「はい。専門家を揃えて、能率的に行っております。ご協力はご無理ということでしょうか?

国庫の、正しい財政の把握をなんと心得ていらっしゃる?

帝王教育を真摯に受けていらっしゃるのではないのですか?」


 私が貴族的微笑と共に軽く警告すると、肩を小さく振るわせ、胸ポケットから、例の懐中時計を取り出す。

 やれやれ、手間を取らせてくれる。

 大した理由もないのに、特別待遇を要求する。


 国王としては、マイナス15点。


「わかった。大切なものなので、なるべく早く手元に戻して欲しい」


「かしこまりました。最善を尽くします」


 担当が白手袋をはめた上で、ビロードを張った箱の中に、懐中時計を(うやうや)しく置き、部屋から廊下へと下がっていく。


 よし、用件の半分は済んだ。

 後はおまけだが、国王陛下に義理は果たすか。



「ところで、アルトゥール王子殿下。

このところ、帝王教育の授業で、同じ質問を繰り返していらっしゃるとか。

また婚姻の儀のスケジュールも遅れていらっしゃると、講師より耳にしました。

どういう政治的な意図があってのことか、ご説明いただけますかな?」


「それは…………」


 ああ、いきなり振られて、時間稼ぎをしようとする魂胆が見え見えだ。

 こちらから行かせていただこう。時間は有限なのだ。


 それに私を激務と言いながら、実際は配慮しない。


 国王の振舞いとして、マイナス10点。

 

 現在、70点。

 娘が受けた王妃教育なら、この時点で不合格だ。何せ合格ラインが80点以上だった。



「質問はまだしも、婚姻の儀の遅滞(ちたい)は、現在の政情下では、許されません。

穏健派、改革派。

どちらの誇りにも関わってきます。

速やかに婚姻の儀を()り行っていただきます」


「だから、二人の正妃なんて、この国始まって以来のことだ。

同じように遇せと言われても、戸惑ってしまう」


 バカ(=王子)が、またバカなことを言い出した。

 寝言は寝て言え。

 どういう“政治的な意図”があるのか、という質問に答えてもいない。考えてもいない。


 国王の振舞いとして、マイナス30点。



「はて?何を戸惑われるのでしょうか?

王立学園では、我が娘エリザベスと共に、シャンド男爵令嬢をご寵愛いただいた記憶がございますが、間違いだったでしょうか?」


「…………宰相、嫌味か?私のエリザベスに対する(あやま)ちを、まだ責めるのか?」


 恨みがましいバカ(=王子)の目に取り合わず、私は資料をめくり、とうとうと述べる。


 臣下の質問の意図も考えず、確認もせず、私情と疑う。


 国王の振舞いとして、マイナス20点。


「アルトゥール王子殿下は、お考え違いをなさってらっしゃいます。

この資料によると、娘と共に立ち寄ったカフェに、同様にシャンド男爵令嬢ともお立ち寄りになる。

娘が調製したドレスショップで、同様にシャンド男爵令嬢のドレスを調製なさる。

おや、同様に、ドレスの共布のポケットチーフも注文されていらっしゃいますな。

髪留めなどもご同様。

思い出の場所と称され、旧市街の教会の尖塔にも、同様に同行されていらっしゃいます。

学園での過ごし方も、昼食を共に楽しまれた場所も、娘とシャンド男爵令嬢は同一。

放課後の図書館利用も同一の席です。

いずれも、時間がずれ、頻度の違いがあっただけのこと。

これを時間差をあまりつけずに、頻度は平等にしていただければ、何の問題もございません」


「………………」


「できないことは求めてはおりません。

なさっていたことの応用でございます。

ソフィア嬢もメアリー嬢も、非常に賢いご令嬢。

多少の時間差は、お認めになるでしょう」


「………………」


 やれやれ。この程度で、何も話せなくなるとは。


 国王の振舞いとして、マイナス20点。

 持ち点0点だ。


 教育はまだまだだ、と国王陛下に報告せねばならない。

 また、仕事が増えた。


「アルトゥール王子殿下。ご理解いただけましたか?

過去のあなたが行ってきたことの、応用でございますよ?

他の誰でもない、あなた様の」


「私は……エリザベスに、なんて、ひどいことを……」


「娘は王妃教育により、側室や愛妾の存在認定や、臣下として各々の身分により平等に遇する行い、後宮運営などを学んでおりました。

私情を抑制し、王妃らしく行動し、あなた様をお支えすることのみを考えておりました。

あの一件で、心が折れるまでは……」


「エリザベス……」


 バカ(=王子)が私の娘の名を、軽々しく呼ぶな。

 あの美しく清らかな存在が、(けが)れるではないか。


「ですので、このソフィア嬢とメアリー嬢との婚姻を、真摯に考え、実行していただく。

この道義的責任が、アルトゥール王子殿下にはございます」


「道義的責任?どういうことだ?」


「アルトゥール王子殿下は、エリザベスの心を折った行為をどう思っていらっしゃいますか?」


「とてもひどい……、辛い思いをさせてしまったと思っている」


 自分に酔ったように、唇を振るわせ、手を握りしめる。

 ああ、そういうのいらないから。


「全く違いますな。あれは裏切りです。

エリザベスと、この国に対しての」


「?!?!」


 両目が見開かれる。やはりバカ(=王子)はバカだったか。

 自分がした行為の意味さえ、理解していない。



「何度も申し上げてるでしょう。

エリザベスは王妃教育により、側室や愛妾を認可し、後宮を運営していく(すべ)を学んでおりました。

ただし、これは国王と王妃に信頼関係があってのこと。

帝王教育でも述べられている、重要事項の一つでございましょう?」


「……ああ、その通りだ」


「しかし、アルトゥール王子殿下は、娘との約束を(たが)え、裏切られた。

エリザベスとの信頼関係の構築を中途で放棄し、浅はかにも、正当な理由なく罰しようとした。

(ゆえ)に今の状況なのです。

ご理解されましたかな?」


「……あい、わかった……」


 ようやく理解したのか?本当だろうな?

 無駄な手間をかけさせる。


「でしたら、速やかに、ソフィア嬢とメアリー嬢との婚姻の実施を、この国の宰相、エリザベスの父として要求いたします」


「ラッセル公爵。宰相はまだわかるが、エリザベスの父として、とはどういう意味だ?」


「穏健派であるソフィア嬢を薔薇(ばら)妃、改革派であるメアリー嬢を百合妃と呼称し、二人を正妃として遇する。

この穏健派と改革派のバランスを取る、絶妙な後宮政治は、娘エリザベスの発案によるものだからです」


「?!?!?!」


「この二人の正妃の発案は、エリザベスでございます。

自分とはもう、信頼の構築はできないが、このお二人とは可能ではないか、と。

政治バランスも、非常に安定するとの判断でございました。私も同意いたします」


「エリザベスが……」


「はい。あなた様に裏切られ、信頼構築に失敗した我が娘が、この国のために考えた、非常に有効な政策です。

これでもまだ、実行を渋りますかな?

もう一度、娘を裏切ると?」


「違う、違う、そうじゃない。

エリザベスが今、どうしているか、悲しみ苦しんでいるのではないかと……」


 頭を振り乱し、さも自分が一番悩んでいるように振る舞っている。本当にお坊ちゃんだ。

 半年の訓練、どこにふっとんだ。

 もうめんどくさい。突き落としとくか。



「娘は幸せに暮らしておりますよ?」


「嘘だ!」


 間髪入れぬ返答。その根拠はどこだ。バカめ。


「嘘を言ってなんになります。

帝国で、母方の爵位と領地を継承し、領地運営に乗り出し、順調に進んでおります。

また皇妃陛下と親密な関係を築き、これとは全く別に進行しましたが、帝国の第三皇子殿下と、婚約が内定。

婚約式と結婚式の日取りも発表されております」


「エリザベスが?けっこん?」


 バカ(=王子)の目が見開かれる。

 その目で現実をしっかり確認しろ。


「はい。婚約式が新年を迎えた後に、結婚式は来年の6月頃でございます」


「嘘だ、うそだうそだうそだ!」


「はあ。現実逃避はお()めください。

お疑いなら、この新聞をどうぞ」


 テーブルの上にざっと帝国の新聞を広げる。

 そこには、エリザベスとルイス皇子の出会いが挿し絵と共に描かれていた。

 領地での水辺での馴れ初め、修道院の聖堂での再会、さらに親戚であるタンド公爵邸、と偶然が重なる中、互いの事を知っていった。

 “運命の恋”を、誠実に育んできたと、綺麗な面だけ取り上げ、民衆のウケが良いように書かれていた。


「こんな、もう、僕を……。捨てて……」


「何を仰る。

最初に娘を裏切り、あまつさえ後宮運営の権利も奪い去り、名ばかり王妃として尊厳さえ奪い、ご自分の良いように利用しようとしたのは、アルトゥール王子殿下。

あなたご自身でございましょう?

自己憐憫に(ひた)り、認識をねじ曲げるのは、お()めください。図々しい」


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 現実を受け入れられず、呼吸も荒くなる。

 泣かないのは、地獄の特訓で、泣けばさらに負荷をかけられた名残りだろう。


「娘は幸せを、自分の手ですでに掴んでおります。

あなたはこの国の後継者である以上、国の運営を真摯に行う義務がございます。

ソフィア嬢とメアリー嬢、薔薇(ばら)妃と百合妃とのご婚姻は、進めさせていただきます。

これ以上のスケジュールの遅滞は、政治上、許されません」


「…………わかっ……た」


「それともう一点、通告いたします。

先ほどの懐中時計は、管理をアルトゥール王子殿下個人から、財務課へ変更いたします」


「はああ?あれは、僕の、いや、私の懐中時計だ!

誰にも奪わせない!」


 途端に怒りを現す。

 この程度の心理的負荷で困ったものだ。

 マイナスの評価ばかりで、とっくに零点以下だというのに。


「何を勘違いされているのですか?」


「え?」


 思いっきり冷たく突き放す。

 バカ(=王子)はどこまで行ってもバカだった。


「あの懐中時計の支払いは、王太子付きの歳費、つまり国庫、国の税金から支払われており、所有権は国でございます。

では、アルトゥール王子殿下にお聞きしましょう。

国王陛下が儀式の時に(いただ)く、宝石を多数用いた王冠は、現在の国王陛下、個人の所有でございますかな?」


「………………」


「国のものであるのは、自明の理。

懐中時計も同様でございます」


「え?じゃあ、エリザベスが持って行った、あの、時計の、ブレスレットは?」


「あのブレスレットは、ラッセル公爵家、いえ、エリザベス自身で支払いました。

我が領地で、王妃教育の一環として、殖産興業を行った際に出た利益を、個人資産として所有しており、それで購入いたしました」


「じゃあ、エリザベスは、今でも、あれを……」


「持ってはおりません」


 バカ(=王子)の目が潤む。バカな誤解は叩き潰すに限る。


「?!?!」


「すでに処分しております。

純金部分は溶かして地金にし、業者が買い取り、

外した宝石も別の業者が、時計部分も古物商が買い取ったそうにございます。

利益は全て孤児院へ寄付いたしました。

さすがわが愛娘(まなむすめ)、見事でございます」


「売った……。全部……。溶かして……」


 バカ(=王子)は呆然としている。

 想像もしていなかったのだろう。

 エリザベスにとっては、裏切りの(あかし)になっていたのだ。

 いつまでも持っていると思う神経がバカだ。



「さようにございます。

娘はすでに未来に向かっております。

アルトゥール王子殿下も、この国の将来を王族として憂えるならば、一刻も早く、薔薇(ばら)妃様と百合妃様と婚姻し、政情の安定化を図っていただきたく存じます。

そして王家の血脈の保持に励み、再度の帝王教育のさらなる充実に向かい、精進していただきたいと、宰相として申し上げます」


「……あい、わかった。

宰相。私は勘違いしていたのだな。

リーザは、エリザベスはもう、あの時も、私を決して振り返らなかった。

私とは別の道を歩んでいったのだ」


「さようでございますな。アルトゥール王子殿下との思い出の品々、ブレスレット以外も全て処分したそうにございます」


「…………」


「特に困ったのは、石のペーパーウェイトでしたが、手紙を運ぶ家人に、我が国の大河に投げ込ませたとか。

我が娘ながら、実に豪気(ごうき)。逞しゅうございます」


「……宰相。面白がってるだろう」


「とんでもない。事実を述べたのみにございます。

アルトゥール王子殿下におかせられましても、前向きに、国のため、民のために、考え、行動していただきたい。

それだけでございます」


「……わかった。婚姻の話を進めてくれ」


「かしこまりました。遅れましたので、巻きで参ります。ご覚悟ください」


「ゔ、承知した」


「では、失礼いたします」


 私は王子の部屋を出て、国王陛下の元に報告へ向かう。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 陛下はさすが国王として即位してからの年月が違う。

 義務にも前向きに取り組み、婚姻スケジュールが遅れている両妃のケアも、陛下が行っていた。

 以前よりも、国務に前向きに取り組んでいらっしゃる。

 隠居生活、目の前だったのが、この事態。

 危機意識により若返ったのではないだろうか。


 いっそ、現在、再起不能に陥っている王妃陛下を廃して、薔薇(ばら)妃と百合妃を、陛下が二人の正妃として、(めと)ればいいのではないか、という声もあるくらいだ。


 私も大賛成だが、陛下は絶対に応じない。

 壊れかけた王妃を愛してやまないのも、陛下だ。


 我が妻・アンジェラへの狂愛のよすがを、夫である私に、自身の手で、一つひとつ処分するよう命じられた時点で、王妃は怒りで逆上、拒否した。


 騎士達に取り押さえられ、両手を拘束され、自分の意思に反して、破壊行動を取らされる。

 王妃派と称していた、『アンジェラとエリザベスを愛でる会』の会員が所有し、王妃が鑑賞したことがあるもの全てだった。


 王妃の所有物だけでなく、メンバーの所有ほとんどと言えよう。

 残りは私が、やはり王妃の目の前でさっさと処分した。

 「こちらは、王妃陛下がご覧になったことがないもの」と教えると、死んだ目に一瞬、輝きが戻った。

 その直後の処分だった。


 泣き喚き、興奮した後、悲嘆にくれる王妃を待っていたのは、王妃としての務めを、国王陛下と営むことだった。


 数年ぶりの屈辱—


 それがほぼ毎日繰り返される。

 拒否権はない。


 自己申告の体調不良も、侍医に診断され、逃げ場がない。

 精神的に逃れようとした先が、国王陛下の腕の中だったわけだ。


 しかし自分だけと営んでいる状況では無い。

 娘に求めたと同様に、後宮運営の情報として、営みの相手や内容まで、報告される。


 次第に心のバランスを失い、現在、ほぼ部屋に閉じこもりきりになっている。

 主体的な幽閉状態だ。


 ただまもなく、薔薇(ばら)妃と百合妃が誕生する。

 王室にとって、久しぶりの明るいニュースだ。


 そこから上向きに持っていきたいものだ、と、やる気が溢れ出ている国王陛下の、執務室の扉を開けた。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


『我が愛娘(まなむすめ)、エリザベス。


手紙を読んだよ。

また字が綺麗になったね。

何度読んでも、目が疲れない。

帝国でのエリーの様子を知るだけで、癒しの効果があるようだ。


今は息災に過ごしているだろうか?

高熱が何度も出ているのは、身体的にも精神的にも、無理を続けている証拠ではないのか?


父は愛する娘を非常に案じている。

翼があれば、飛んで行きたいほどだ。

これほど“鳩”を、うらやましく思ったことはない。

頑張りすぎる娘が心配な父を、安心させるためにも、何より自分自身のためにも、周囲の意見を聞き、適切な仕事量を守ってほしい。


不要で過酷すぎた王妃教育ではなく、今は自分で取捨選択、調整できる。充分に活かしてほしい。


それと護衛の任務を奪わないように。

今回は致し方ない事とはいえ、肝が冷えた。

充分注意して、生活を送るように。


アンジェラの油絵と、ルイス殿下の肖像画を受け取った。


アンジェラの油絵は、一瞬の至福の時を切り取ったかのようで、非常に素晴らしい。

神の御技(みわざ)だ。

“天使効果”に一切影響されない画家に、巡り会えていた奇跡も、エリーと院長様との出会いも、神の恩寵、と深く感謝する。


あのアンジェラの笑顔。実に自然で、慈愛深く美しい。

エリーに向けていた優しさそのものだ。

父はしばらく感涙してしまった。

本当にありがとう。何よりの贈り物だ。


天使の聖女修道院、院長様に、非常に大きな感謝と恩義を伝えてほしい。

正当な価格と、私に心の希望を与えてくださった感謝の(あかし)を、すぐに送らせていただく。


ルイス殿下に、お会いできる日も待ち遠しい。


懸念しているピンクダイヤモンドの件だが、エリーは、宝飾店でのやり取り、及び、業者がペラペラと院長様に明かした内情を、決して聞いてはいない。聞く必要もないだろう。

無関係を貫くように。


この件については、ご側室は一切無視し、皇帝陛下からご下問があるまで、普通に過ごすように。

ご下問があった際には、この父に全て一任していると伝えなさい。

エリーが書いてきたように、『あまりに縁起が悪い事故物件との父の判断であり、命令でした』とでも言って、神妙にしておけばいい。


残りのピンクダイヤモンドは、現在、私の管理下にあるのだから、正当な対応だ。

酷なようだが、エリーにできることは何もない。

タンド公爵殿とも“鳩”で話し合い、この対応を決めた。

安心して過ごすといい。エリーは何も悪くない。


エリーのことだから、婚約式の準備を筆頭に、さまざまな仕事を抱えてしまっているだろう。

信頼する周囲に、ある程度は任せなさい。

それは周囲とエリーのため、ひいてはルイス殿下とのためでもあるのだから。


花のように美しく愛らしくもある素晴らしい娘、エリーへ

            いつも愛してやまない父より』


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書きたい、と思った拙作です。


誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

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悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
[良い点] パパンの採点。 国王陛下に報告するんだろうなぁ。 [気になる点] 元側近の手足の指が切られたり、去勢されるところを見守ったりしたはずなんですが、根本のところが全く変わっていませんでしたね。…
[一言] パパンカッコよ。 バカへの態度がむっちゃ辛辣で草生える。 それに対して無駄な反抗を続けるバカの様ったら無いなw
[一言] 父上からのエリザベスへの手紙だけで浄化されそうです。 妻と娘への愛情深い父上、素晴らしい。 そして国政にすばらしく有能。 父上がいなかったらこの国瓦解してそう。 良かったねー。出て行かれなく…
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