表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/207

20.悪役令嬢の通勤

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—



エリザベスが幸せになってほしくて書いた連載版です。

これで20歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。



「気持ちよかった〜。ありがとう、マーサ」



 このところ、エヴルーと帝都を行ったり来たりの生活が続いている。

 皇族との婚約式、結婚式、そして公爵への陞爵(しょうしゃく)の儀、と立て続けに式典があれば、当たり前だ。


 移動中も貴重な時間で、マーサによる美容タイムか、さまざまな報告、決裁、確認などに費やされている。


「エリー様。書類は20分に付き20秒の遠見をお忘れなく。足をお預けください。マッサージをいたします」


 とても殿方、いやマーサ以外には見せられない格好だ。


「やはりむくんでいらっしゃいますね」


「だから運動させて。素振りとか乗馬とか」


 厳しい王妃教育だったが、運動不足になる時は少なかった。王立学園1年生後半の座学詰込みの時とかくらいだ。

 あ、過去過去過去。忘れましょう。



「直射日光は無理でございます。日焼けした花嫁など、ルイス殿下がお嘆きになります」


「ん〜。ルー様は『エリーらしい』って言ってくれると思うけど?」


「30代以降にシミになってもよろしゅうございますか?

日焼けについては、ハーブもまだ研究中でございましょう?」


 暑さも増してきた今日このごろ、修道院のシスター達やエヴルーの領 地 邸(カントリーハウス)の皆にご協力願って、こちらも研究中です。


「………………じゃ、せめて木陰とか、室内だったらいい?後は完全防備で。

皇妃陛下のレシピのハーブは、直接採取したいの」


「かしこまりました。ではそのお約束で。

アーサーにも、素振り用のお部屋の用意を申しつけます。

タンド公爵邸では、日傘、長袖で庭園のお散歩をなされませ」


「マーサ。この前、公爵邸のお庭で、素振りにちょうどいい木陰を見つけたの。

お願い、気分転換は絶対必要。

押しつぶされそう……」


 潤んだ目で、両手を組んで、“本気で”お願いすれば、マーサはだいたい叶えてくれる。



「ふう、かしこまりました。エリー様。

日焼けに効くハーブのレシピも早くできるとようございますね」


「マーサの言うことも、もっともなのよね。

日焼けって火傷(やけど)だもの。しない方が絶対いい。

でも、青空の下ってすっごく気持ちいいの。矛盾よね。

日焼け云々(うんぬん)言われない殿方が羨ましい」


「申しても仕方ないことでございます。ただ、ハーブの需要はございましょう。

ご無理のない程度に、ご研究あそばしませ」


「ありがとう、マーサ」



 移動時間を有効利用して、タンド公爵邸に到着する。

 客室の一つは、私専用になりつつあった。

 クローゼットの中も、滞在用・外出用のドレスが確実に増えている。


 少し休憩し、お時間のある伯母様とお茶をしながら、打合せする。

 伯父様が帰邸し、従兄弟夫婦も交えた家族団欒のお夕食後は、伯父様への進捗報告だ。


 3日後は、伯父様と一緒に皇城に上がる予定だ。



 伯父様は職務で、私は皇妃陛下の元に、新しいレシピをお試しいただくため、お付きの侍女の方々も含めた説明会だ。


「エリー。気遣いが大変だろうが、くれぐれも失礼のないように」


「かしこまりました。伯父様。同乗させていただき、ありがとうございます」


 なるべく目立ちたくないので、「あら、タンド公爵ご出勤のいつもの馬車ね」という認識をされたいのだ。


「気にするな。エリーの気持ちも分かる。

で、ここの数字は?」


 報告分の確認作業で、夜も更けていった。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜



「エリー、お疲れ様。遠いところを大変だっただろう」


「ルー様こそ、お疲れ様でございます。

騎士団の訓練もこう暑くては大変でしょう」


「アーマーをフル装備しての訓練は地獄だな。

その後の水浴びが、天国に感じるほどだ」


 私は暑い中、喜び勇んで水浴びに興じる大型犬を思い出し、可愛らしく感じてしまう。



 ルイスとのお茶会—



 婚約者(内定)同士の甘い雰囲気は、お茶が出てくるまでで、その後は、ほぼ真面目な各所の打合せである。

 王妃教育の公務を思い出すなあ。

 あ、いけない。過去過去過去。

 事務仕事の忙しさも、ルイスの美しい青い瞳の眼差しで癒される。


 それも一区切りし、ルイスもお気に入りのハーブティーを飲んでいると、パーラーメイドが、カートにスイーツを載せて運んできた。


「エリー。帝都で今評判のパティスリーらしい。

同僚から聞いたんだ。よかったら食べないか?」


「とっても嬉しいです。

ルー様が買ってきてくださったんですか?」


「いや、小姓に買って届けさせた。

俺もやったお使いだ。

ああ、駄賃も渡してる。騎士教育の一環なんだ」


「ルー様のお小姓姿、凛々しかったでしょうね。

拝見しとうございました」


「そうか。俺も幼いころの愛らしいエリーに会いたかった」



 ルイスは実は『可愛い』と呼ばれるのが、苦手らしい。

 この容貌だ。少年期の小姓時代は、本当に可愛らしかったと思う。

 そこに、聞き分けがよく、雑用も嫌がらない。

 訓練にも真面目に参加する。可愛がられないはずがないのだ。

 そこで連呼され、男らしさを求めていたギャップで、苦手になった。などと想像してみる。

 気持ちはわかるので、『かっこいい』や『凛々しい』に置き換えている。


 それはさておき、目の前のスイーツだ。

 私は飴細工が載った涼しげなレモンタルトを選ぶ。

 ルイスは金箔が載ったオペラだ。

 ビターチョコレートが効いてるのがいいらしい。


「ん〜。美味しい。評判になるの、分かります。

レモンの甘酸っぱさとほろ苦さ、タルトの香ばしさが絶妙です」


「確かにうまいな」


 目を細めて食べている。気に入ったんだろう。

 訓練の後の甘いもので、ご機嫌になっている。

 やっぱり可愛い。黒短髪を撫でたいくらい。

 優しさもあって、明日の皇妃陛下の元へ、ハーブティーの講習に行くのも心配してくれる。

 大丈夫、と微笑むと、何かあったら遠慮なく連絡を、と言ってくれる。


「そういえば、エリーはどこか出かけたい場所はないか?

同僚から、婚約者をデートの一つにもまだ誘っていないのか、と心配された」


「私はこうして、お会いして、お話ししてるだけでも、嬉しくて幸せなんです。

でも、デートも楽しそう。候補はありますか?」


「そうだな。聞いた話だと、歌劇場や劇場、カフェにレストランといったところだ。

あとは、水辺の散歩やボート遊び、植物園とかが」


「植物園、行ってみたいです!……あ、申し訳ありません……」


「クックックッ……」


 食い気味に答えてしまい、恥ずかしい。

 ルイスは口許を抑えて笑っている。


「いや、聞いた時、エリーが興味を持ちそうだと思ったんだ。ただエヴルーは自然豊かだ。

確認して正解だったな」


「でも、選択肢に出されたところ全部に、ルー様となら行ってみたいです。

ルー様は苦手なところはありませんか?」


「……訓練の後、公務で、歌劇場や劇場に行った時は、眠気との闘いだった。ロイヤルボックスが、またちょうどいい仄暗さなんだ。

心理的訓練だと思って必死に耐えたな」


「あら、残念。作品によっては面白いのに。笑えたりするのもありますのよ」


「今度見るときには、そういうものにしよう。

エリーとだと、選ぶ時から楽しそうだ」


「私もですわ」


 次の機会に植物園に行くことにして、スイーツをいただいた後は、打合せを再開。

 夕食を従兄弟夫婦達ともご一緒して、騎士団の寮に帰るルイスを笑顔で見送った。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 今日は皇城での講習日—


 まずは皇妃陛下に、前回のレシピを飲んでいた間の記録を頂戴し、何点か質問する。

 今回はどの症状に効能があるとされるハーブを用いているか、お伝えする。さらに侍医の方々にご了承いただいた上で、入れ方をお付きの侍女の方々に説明する。


 皆さま真剣で、懸念していたイジメなどもなく、大変よくしていただいている。


 入れたものを、毒味係が飲んでしばらく様子を見た後、侍女長が「どうぞ、お召し上がりを」と、皇妃陛下にお声をおかけして、カップを口に運ばれる。


「ん、美味しいわ。エリーのハーブティーは不思議ね。

苦味が強かったり、渋みや青臭さがほとんどないんだもの」


 すでにエリザベートから、愛称のエリー呼びである。

 ありがたいが、伏魔殿とも呼ばれる後宮のトラブルには、極力巻き込まれたくない。

 第三皇子妃じゃなくて、女公爵への婿入りなんですよ〜っと大声でアピールしたいくらいだ。


「体質改善のために飲む場合は、毎日食後に3回など、回数が増えます。できれば美味しい方が、心地よく続けられるかと。

あとは、子どもはまずいと中々飲んでくれません」


「ふふっ、確かに子どもはそうね。エリーはよく知ってること」


「母のレシピにありました。エヴルーにいたころ、天使の聖女修道院の孤児院でお世話をした時の体験のようです。

そのおかげで、私は幼いころから、美味しいハーブティーを飲めたので、幸せでございました」


「そう。アンジェラ様はお優しかったのね」


 母と皇妃陛下は、ほぼ接点がない。

 帝立学園の同窓生というくらいで、在園時期も重なっていない。

 それでも見知ってくらいはいたのだろう。

 ただし、これ以上突きたくないし、用事はすんだ。

 さっさと退散しよう。そうしよう。


「はい、優しい人でした。

皇妃陛下。そろそろお(いとま)申し上げます。

何かございましたら、すぐにご侍医にお知らせを。

私にもご連絡くださいませ」


「ありがとう、エリー。また来てちょうだいね」


「はい、かしこまりました」


 帰る準備をしていると、ちょうどそこに、折悪しくというか、皇帝陛下がお出ましになる。

 侍女の方々はお辞儀(カーテシー)でお出迎えし、もちろん私も同様だ。


「皇妃。今評判のオペラのチケットを手に入れたぞ。

この歌手はそなたが好きであったろう?」


「まあ、陛下。ありがとうございます。

あら、この日は確か、公務が入っていたような……」


 すぐに侍女長が確認し、皇妃陛下の仰る通りであったことが判明する。


「つまらん。皇妃のために押さえたのだ」


「そう仰らずに。ご側室の方々とおいでになれば、きっと楽しゅうございますよ」


「嫌だ。余計な期待を与えると、身の程を知らず、動き始める。誰かおらぬか?」


 侍女の方々にいるはずがない。公務についていくか、お留守を守るか、いずれかである。

 もしくはメイドだが壁に立ち、目は伏せたままだ。

 皇妃陛下の代わりのチケットなんて、恐れ多すぎる。


 と、ここで、皇帝陛下の視線が私に定まる。

 なぜに?

 今日の服装は、壁に溶け込むようなアイボリーで、地味に抑えているはずなのに。


「エリザベート嬢?お主の予定はどうかな?」


 きたーー!きちゃったよ。ええ、予定はございませんとも。


「皇帝陛下に申し上げます。その日の予定はございません」


「だったら、お主に譲ろう。皇妃も色々世話になっておる。おかげで調子も良いようだ。

謁見の時もつい色々尋ねてすまなかった。

ルイスから聞いて、皇太子に確認したところ、誠に優秀だと申しての。

実際、そなたの返しは実に見事で、どこまで答えられるのか、試してみたくなったのだ。

後で皇妃に散々叱られたわ。

せめての()びだ。

2階のボックス席。ルイスと共に行けばよい」


 やっぱりこの人、皇太子殿下にそっくりだ。

 逆か。皇太子殿下が似てるんだ。

 自分も優秀で、優秀な人材も大好物だけど、相手の気持ちは、あまり分からない。いや、分かろうとしない。

 たぶん皇妃陛下に解説されて、なるほどって思ったんだろう。

 で、皇妃陛下への『反省してるよ』アピールで、私にくださると。

 ふ〜ん。そうですか。


「ルイス殿下は、職務がおありなのかもしれませんので……」


「では、(わし)と行くか?」


 下手な冗談はやめてください。他方面に被害が生じます。


「恐れ多うございます……」


 ここで救いの手が差し伸べられた。


「陛下。ご冗談ばかり。エリーが困っておりますわ。おやめください。

ルイスが騎士団の任務なら、公務と差し替えればよろしゅうございましょう?

非番ならそのままで」


 救いと思ったら違った。

 仕事を公務ってか、一見デートに変更って、騎士団の周囲にはどう思われるだろう。


「皇妃陛下に申し上げます。

ルイス殿下が任務におつきあそばしていた場合は、恐れ多くはございますが、伯母であるタンド公爵夫人と参りとう存じます」


「おお、そうか。伯母孝行に行ってくるがよい」


「はい、ありがとうございます」


 伯母様、巻き込んでごめんなさい。

 と思いつつ、チケットを拝領し、皇妃陛下の元を退去した。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書きたい、と思った拙作です。


誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

いいね、ブックマーク、★、感想など励みになります。

よかったらお願いします(*´人`*)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★ 書籍、電子書籍と共に12月7日発売★書籍版公式HPはこちらです★

悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
ざまぁ対象じゃないから、国王も王太子も、これからこのまま変わらんままですよねー、これ 普通に不愉快…( •᷄ὤ•᷅)関わらんでもろて…
[一言]  もう、五人いるし、それなりのお歳だよね? もういらないよね? 爛れて、腐って、もげればいいのに…(呪)
[一言] 相手が違うだけで、偉い人に振り回されるのは変わらないのね まあ、それをよしとできる相手ならいいんだけど
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ