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189.悪役令嬢の夫の新任務

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


エリザベスとルイスとオリヴィア、親子三人の生活としては、4歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。


 「なんですって?!」


 私は眠る前、夫婦の寝室でルイスからの思わぬ報告に驚く。

 こちらからはおめでたい話をしようと思っていたのに、出鼻をくじかれた形だ。


「まだ瀬踏(せぶ)みだよ、瀬踏(せぶ)み。

エリー、これを飲んで気持ちを落ち着けよう」


 私を(なだ)めながら、ハーブティーのお代わりを器用に注いでくれる。

 ルイスはウォルフの小姓経験があり、私は騎士団の野営訓練などがあったため、ほぼ身の回りの家事はこなせるエヴルー“両公爵”だ。


 お代わりを飲みながら、『皇太子妃選定委員会の委員を務めてくれないか、とウォルフ経由で皇妃陛下からルイス本人へ打診があった』と説明を受ける。


 帝国騎士団の顧問として、六公爵家持ち回りの輪番で、顧問に用意されている執務室にいたところ、人払いの上、ウォルフ騎士団長から切り出されたという。


「選定委員会の委員で不正が発覚したんだ。

一族の令嬢を推薦した上、賄賂を受け取っていた。

委員の動向は騎士団が秘密裡に目を光らせてるってのに、何をやってんだか」


「そのおバカさんの代わりにルイス、って話なのね?」


「ああ。それと、『序列第一位、臣下の代表、帝室の藩屏(はんぺい)として、是非、エヴルー“両公爵”家からお一人、もしくは二人とも。特にエリザベス閣下は王妃教育を受けられているので』って声は前からあって、母上が押さえてくれてたらしいんだ。

だけど、ここに来て不正発覚だろう?

『エヴルー“両公爵”はミネルヴァ第一等勲章を各々授与されたほどの帝国の柱石、清廉潔白な人柄だ。“是非”委員に』との圧力が強まってるそうだ」


「……断ったらエヴルー脅威論が再浮上しそうなんでしょう?」


 私はその場で断らずに、ルイスが瀬踏(せぶ)みを持ち帰った理由を考える。


「……残念ながら母上とウォルフは同意見だ。

『次代の皇妃の選定という帝室の未来に無関心とはどういうことだ。やはり帝室と円満ではないのではないか』って声は少なからず出るだろう、ってさ。

母上は『二人に任せる。ただ引き受けるならルイスに』と言ったそうだ。エリーは王国の第一王女殿下でもあるからね」


「ルイスは王国の第一王女殿下の夫君で、オリヴィア王女殿下の父上でもあるんですけど?」


 ルイスが困ったような顔で押し黙る。こんな顔をさせたくないのに。


「…………」


「……ごめんなさい。ルイスが悪い訳じゃないのに、八つ当たりしちゃって。

ふう、もし引き受けたなら、会合はどれくらいの頻度で行われるの?」


「一次の書類審査で、国内だけで約50名はいるそうだ。ここはもう済んでいる。

これを11月にある筆記と実技試験の二次審査で25名まで絞る。

三次審査の面接で10名に、最終審査は後宮での実地で、母上と皇女母殿下が選ぶそうだ。


ただあくまでも“国内”で、国外にふさわしい姫君がいれば、そちらを選ぶこともあり得る。

それを了承した上で参加要請している。


選定委員が実際に参加するのは、12月の筆記と実技試験の結果確認と精査以降だ。


筆記と実技の試験自体はその道の“プロ”が問題作成し試験も担当し評価する。

これら“プロ”達は極秘で、皇帝陛下と母上しか知らない。

委員にさえ知らされていない。試験の結果確認や精査は流れ作業だと思う。

実際は“プロ”達による厳密な採点結果だ」


「なるほど。よくできてるわ。

選定委員に注目を引きつけておいて、それは“プロ”を守秘する誘導作戦ってことね。さすが皇妃陛下のお考えね。

ウォルフ騎士団長も一枚噛んでいそうですけど?

問題は面接ね。いつ頃の予定なの?」


「来年の1月だ」


「はあ、それまで売り込みの猛攻に耐えなきゃいけないのね」


「今回の不正発覚で、今までにない交流を求めるなど、行きすぎた私的な接触は大幅な減点対象となった。贈り物などもだ」


「……そこまで聞いちゃってたら断れないし、9月から11月はエヴルーに引きこもれるわ。

ルー様。『9〜11月に領 地 邸(カントリーハウス)まで来たら、一発不合格にしますけどよろしいですか?』を条件にしてもいいかしら?」


「エリー、本当にいいのか?断れるんだぞ」


「12月と1月は元々、社交シーズン開始の皇城舞踏会と新年の儀でエヴルーにはいられないもの。

その後は皇妃陛下と皇女母殿下に移るでしょうし……。

ああ、そうだわ。お二人と親しい私に何かしてきても一発不合格にしてもらえるかしら?」


「わかった。元々、さっきの不正も委員の夫人経由だったらしい。家族含めて過剰接触禁止だけど、エリーは影響力が強いから特に、と言っとくよ」


「……影響力が強い、ね。仕方ないわ。甘んじて受け入れます。

あ、そうだわ。『産後1年は無理は禁物』の診断書をクレーオス先生に出してもらいましょう」


「それはいい!面接期間も含まれる。やっぱりエリーはすばらしいよ!」


 ルイスはソファーで横に座る私を抱きしめる。


「ルー様。口直しに私からも話があるのだけれど……」


 私はお父さまから届いたお手紙をまずは読んでもらう。

 国王陛下のご愛妾が女児を無事に出産し、王妃陛下の養女となったが、養育はソフィア薔薇妃殿下とメアリー百合妃殿下が行なう、という内容だった。


「そうか……。新たな王女殿下の誕生か。

喜ぶべきことだが、ラウリカ王家もなかなか複雑になってきたね」


 王妃陛下に心理的圧迫をかけているんだろうな、と思うが()えて口にはしない。

 ルイスの心配性が発動しかねないためだ。


「国王陛下とお父さまは外交手段になさりたいんでしょうね。

それとソフィア様とメアリー様から私へ贈り物が届いたの。

ご注文なさって、お義父上(ちちうえ)、国王陛下もお名前と資金は出されたそうなんだけど……」


 私は青いビロードの箱をテーブルに置き、蓋を開く。


「これは……」


 ルイスが息を飲み言葉を失う。



 そこには、カモミールの花輪を、非常に精緻(せいち)な金細工とダイヤモンドで形作り、白露を真珠で、蜜を求める小さな鳥や蝶を金細工で(かたど)っているネックレスを中心に、同じモチーフのティアラやイヤリングなど、パリュール一式がそろっていた。


 大粒の宝石ではないが輝きを見ればどれも上質で、まるでレースのように繊細、かつ極上の美しさだ。


「ね、見事でしょう?私とオリヴィアのためなんですって。

オリヴィアがデビュタントを迎えるまでは私が、迎えたあとはオリヴィアに身に着けてほしいそうなの。

はい、これがお手紙です」


「あ、ありがとう」


 私はソフィア様からの手紙を渡す。

 ルイスは目を通しながら、「先を越された」だの「相談くらいしてくれよ」などとつぶやいている。

 手紙を手に肩を落とし、自己嫌悪しているルイスの隣りで私は微笑む。


「ルー様。これはオリヴィアのために取っておきましょう。私には他にたくさんあるもの」


「いや、エリー。そういう訳にはいかないだろう?

ラウリカ王家、エリーにはもう一つの実家でもある家の、それも本当にエリーのことを考えてくれている方々のお祝いの品なんだ。

それに、着けないと外交上、とか、いろいろまずい、と、思う」


「私はルー様から贈ってもらった宝飾品やパリュールが一番大切なの。

ルー様を悲しませたり、がっかりさせるものは身につけたくないわ」


「……ごめん。エリー、俺が悪かった。

いや、ちょうど結婚記念日もあるし、あの、ローズマリーのブローチや髪飾りと一緒に着けられるように、って用意してたんだ……」


 私はルイスの言葉にぱあっと心が華やぐ。

 国王陛下やソフィア様達には申し訳ないが、気持ちは正直だった。


「まあ、そうなの?!とっても楽しみにしてるわ!」


「いや、あんな痛みに耐えて、ヴィアを産んでくれたんだ。もっと立派なものを作ればよかった……。

心から反省してる……。ラッセル公爵、義父上(ちちうえ)に叱責されても仕方ない……」


 ルイスの言葉に私は首を傾げる。


「ん?お父さまは怒ったりなさらないわ。だって宝飾を私に贈ってきてる?」


「そういえば……」


「私へのご褒美の贈り物は受洗式のための衣装の布地だったでしょう?

パリュールもエヴルー伯爵としての初めての謁見の時のエメラルドと、婚約式の真珠とサファイアのパリュールだけなの。

私が『もう一生分の宝飾は身につけた』って思ってるのは本当よ。

でもこの国で出逢ったルー様や大切な方々からいただいた品は大事にしたいって思ってるのも本当。

ね、ヴィアのために二人でオリーブの木を植えたでしょう?」

「ああ」


「私ね、あれが一番嬉しかったの。ヴィアの成長を一緒に見守っていけるんだもの。

オリーブの樹は長寿だから、私達が天に召されたあともずっと……。代わりに見守り続けてくれるのよ。

とてもすてきな記念で贈り物だわ。用意してくれてありがとう、ルー様」


 私の心からの笑顔に、ルイスは照れて頭を掻いたりしていたが、まじめな表情を浮かべる。


「エリー……。その、前から気になってたんだが、どうして『一生分の宝飾を身につけた』って思ってるんだ?

初めて言われた時、エリーはまだ18歳だったんだぞ。これからって時じゃないか」


 私は深呼吸し気持ちを落ち着かせる。ルイスが知りたいと思うのも当然だろう。


「……前の婚約が決まって、王妃教育が始まってからずっと、課題が一区切り着く度にパリュールが贈られたの。

年齢に合った品もあれば、デビュタント後に着けられる品も含めて、年に5組か6組」


「年に5組か6組ってことは……」


 わたしの婚約期間は6歳の時から約12年だ。


「ええ、60組は越えてたと思う。

お父さまが『いくら王家の婚約者でもいただきすぎです。予算をお考えください』て諫言(かんげん)したら、王妃陛下が『では私の歳費から出しましょう。それにエリーに贈る品はいずれ王家の財産になるもの。無駄遣いではありません』って押し通されちゃって。


でも例の悪役を務めるようになってから、特にお相手の気持ちが私からどんどん離れていってしまってからは、虚しさしかなかったわ。

気持ちがなければ、本当に虚飾?見栄?

ああ、品物自体は素晴らしかったのよ。

宝飾職人達の魂がこもってたわ。

それだけに『身に着ける私はふさわしいの』って最後の1年はずっと思ってた……」


 ルイスは私を抱きしめ、優しく頭や背中をなでてくれる。


「……ごめん。エリー。無理矢理、辛いことを話させて……」


「ううん、いいの。いつかは話さなきゃって思ってたの。

それもね、今考えれば、私よりお母さまに似合うものが多かったわ。きっと私ではなく、お母さまに贈ってるつもりだったんでしょう。

パリュールがこれなら、ドレスはどういう感じかわかってもらえる?」


「……ああ」


「それこそお父さまが国王陛下に抗議したくらいだったの。

『栄誉ではございますが、父である私は娘のドレスの一着も作れないのですか?娘は王妃陛下の着せ替え人形ではございません』って……」


「……もうわかった。無理はしなくていい。

これからは大切な思い出になるようなことを考えるよ」


「ありがとう、ルー様。

二人で考えてルー様が贈ってくれた、四つ葉のクローバーのピアスや、それに合わせたパリュール、結婚式の時のパリュール、そしてローズマリーの宝飾品は、本当に宝物よ。ありがとう」


「うん、大切にしてくれてるからね。伝わってるよ。綺麗なエリーをもっと綺麗にできて、俺はとても嬉しいんだ。


これは国王陛下、エリーのお義父上(ちちうえ)と親友のソフィア薔薇妃殿下とメアリー百合妃殿下が贈ってくださったものだ。

一度は身につけよう。本当に身につけたくなければ、その後は宝物室に移せばいい」


「そうね。それに真面目に考えたら、これって催促だと思うの」


「催促?」


「えぇ、手紙に『これを身につけたエリー様の美しい姿を拝見したいくらいですわ』ってあるでしょう?

私が贈ったベビー服を着たフレデリック殿下の絵画も届いてるの」


「え?!本当に?!」


「ごめんなさい。明日、ギャラリー室に案内すればいいって思って言いそびれちゃってたの。

だから、私とヴィア、ルー様の一枚を、国王陛下宛てか、ソフィア様宛てに贈らなきゃ、でしょうね……」


「それこそ、義父上、ラッセル公爵閣下に相談したほうがいい。俺はアイツの目に留まるところに、エリーの絵を置きたくはない」


 アイツとはアルトゥール殿下のことだろう。ルイスの気持ちももっともだし私も嫌だ。王妃陛下の件もある。


「ん〜。国王陛下の私室には、許可がないと入れないから、多分そこになると思うの」


「なるほど……。そこなら。うん。

ただ事前に確認して欲しい。できればラッセル公爵邸に置いて、見にいらしてくださるのが一番安全だ」


「わかったわ。お父さまやソフィア様に聞いてみましょう」


「ああ、寝た子は起こしたくはないからね」


「私もそう思うわ。ありがとう、ルー様。守ってくれて……。愛してる……」


「俺も、愛してるよ、エリー」


 私は世界で一番安心できる、愛しさと慈しみ、そしてときめきさえも感じられるルイスの腕の中に身をゆだねた。


ご清覧、ありがとうございました。

主人公エリザベスとその周囲を描いている拙作です。

誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

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悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
頼りになる人のところには、何かと火種も近寄ってきてしまうのですね。まあ、エリザベスとルイス、そして二人の支えになってくれる方々なら大丈夫でしょうね。
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