188.悪役令嬢の従兄弟達 2
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
※前半はルイス視点です。
※今回もタンド公爵家が中心です。忘備録代わりに。
長男:デュラン、妻ハンナ、男子アドルフ
次男:ピエール、妻シェリー
現当主:伯父様、現当主夫人:伯母様
先代当主:お祖父様、先代当主夫人:お祖母様
エリザベスとルイスとオリヴィア、親子三人の生活としては、4歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
【ルイス視点】
ハンナ殿の出産翌日——
朝食の時、クレーオス先生の午後の診察にエリーも着いていくと知らされた。
「ハンナ様の出産が長引いたでしょう?
お祖父様お祖母様もだけれど、専属侍女や伯母様が特にお疲れのご様子だったの。
ハーブティーを持って行きたいし、シェリー様のご様子も気になるのよ」
「気持ちはわかるが、エリーも体調が完全に戻ってる訳じゃないんだ。クレーオス先生が許可を出されたのですか?」
俺はクレーオス先生に尋ねる。エリーの『“滅私奉公”癖、抑制チーム』のお一人だからだ。
「ルイス様。むろん条件付きじゃよ。今日もマーサ殿がご一緒じゃ。時間も限る。
長くて3時間、お疲れが見えたところで打ち切り、帰邸後は休養する。それが条件なんじゃよ」
「伯母様とハンナ様の専属侍女、シェリー様のために行くの。決して無理はしません」
「わかりました。エリー、仕事を明日に回さず、俺に渡してほしい」
「ありがとう、ルー様。本当に助かるわ。またヴィアに会いにいきましょうね」
「ああ、今朝もかわいかった。ますますエリーに似てきてる」
「私はルー様そっくりに見えるのだけど?」
「まあ、赤子の顔は変わりやすい故のお。どちらに似ても可愛らしいお子になりましょうぞ。ふぉっふぉっふぉっ……」
クレーオス先生から親バカをやんわり諭されてしまう。
俺も“ユグラン”のころから、エリーが血肉を分けて育んでくれている、小さな命を『大切にしよう、かわいい』と思っていた。
その一方、自分が子どもを可愛がられるか、愛情を持てるのか、一抹の不安を抱いていた。
実の親との愛情を交わし合った記憶もほぼない。
俺のためを思い大切だと考え、実際に動いてくれたのは、いつも血のつながりの無い他人だった。
母だけは違っていたと後で知ったが、そんな成長をした俺が本当に親になれるのか、不安はあった。
それが粉々に打ち崩されたのは、ヴィアと初めて会った時だった。
あんなに小さいのに、本で読んで生物学的反応だとわかってはいるのに、あの小さな手でオレの指を握られた時、愛しさが込み上げてきた。
何より俺の最愛のエリーが、命がけで産んでくれた俺の子どもなのだ。
貴族の習慣で、実際の育児に携われるのはほんの一部だ。
それでも懇願し、エリーと共に搾っていた母乳を温め哺乳瓶で与えたり、オムツを替えたりもした。
ひと通りだけでも、親として何かをしたかった。
今も食事の前は、エリーを迎えに行き共に触れ合っている。エリーに促された訳ではなく、いつのまにかそうなった。
下手をすると、ずっとあやしていたくなるほどヴィアはかわいい。
だがエヴルー“両公爵”家当主としては許されない。なので、食事の時間という定められた時刻の前に、時間を決めて会いに行くことにした。
生後4か月を迎えたヴィアは、体重は生まれてきたときの約2倍に、首もすわりうつ伏せに寝かせても両手で上半身を支えられるまで成長した。
縦抱きにすると、周囲のものをいろいろ興味深そうに見ている。
玩具であやすと、「あ〜、う〜?」と言いながら、『これ、なあに?』という表情や仕草が見ていてあきない。
こんな成長でも感動し、時には涙が出そうになるのだ。
エリーに話すと、「私もそうなのよ。ルー様と一緒で嬉しいわ」と柔らかく抱きしめてくれる。
俺の最愛はエリーで、それは何があっても変わらないのだが、エリーに対するのとはまた違う愛情もあるのだな、と自覚させられた。
ピエールもまもなく父親になるのだ。
貴族の父親はそれこそ十人十色で、子どもとはさまざまな距離感や態度がある。
だが、俺の巻き込まれで王立学園時代に、ダメ押しのように女嫌いになってしまった親友に、政略結婚とはいえ、せめて配偶者とは良好な関係を築いてほしかった。
ピエールもピエールなりに努力はしているのだ。ただ長続きがしない。ムラがある。面倒になってくると逃げてしまう。
騎士団の職務ではそんなことはなく、部下とは気さくに話し、よく面倒も見ているのに、こと妻シェリー殿との関係はそうなっていた。
エリーが観覧席に飛んでいった剣を弾き返したトーナメント戦で、ピエールがシェリー殿に勝利の薔薇を捧げたとき、少しは改善されるかと思っていた。
「母上からも散々言われてたし、ルーの真似をしてみただけだ。一度で済ませたけどな」
あとでこう聞かされ、気が抜けた記憶がある。
南部戦争の間に妊娠を手紙で知らされ、「いよいよ俺も父親だ。生きて帰らなきゃな」と言い、先輩の勧めもありわりとこまめに手紙のやり取りをしていたはずなのに、帰還後はああなっていたとは。
俺もエリーの妊娠出産があり騎士団でも顧問となり、ピエールと会える頻度と時間が減っていた。
元々、エリーの母アンジェラ殿の“天使効果”のために、他家の子供たちとの交流会のころから何度となく意地悪をされた。
さらに物事がわかるようになったときには、与えられる従属爵位も本来は次子が叙爵されるエヴルー伯爵ではなく、ウィンド子爵だと知った。
伯爵と子爵では、皇城儀礼でも扱いの差が大きい。
父であるタンド公爵に不満を言っても、「アンジェラが悪い訳ではない」としか説明されず、「叔母と言っても顔も知らない。自分にとっては疫病神だ」と、俺には憎々し気に言い放っていたのだ。
のちに従姉妹のエリーが現れ、性格と能力を知り、「アイツは他の女とはかなり違う」と言い、第二皇子による暗殺未遂の隠された賠償で、継ぐウィンド子爵も伯爵に陞爵された。
また“天使効果”の説明を受け、アンジェラ殿が襲われ、傷を負った話などを聞かされ、『疫病神』とは思わなくなったようだが、その結果、『女性への苦手意識』だけは残った。
今、まさに子どもまで成した妻に愛想を尽かされようとしている。
エリーに負担はかけたくはないが、少しでもシェリー殿の心をほぐし、子どもの誕生が改善するきっかけになってほしい、と心から願った。
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【エリザベス視点】
私が調合したハーブティーと、桃の香りがするという苺のタルトをクレーオス先生と伯母様と味わう。
シェリー様もお疲れで、かつ甘いものを自主的に控えてらっしゃるので、目の毒だとお部屋で休まれていた。
お祖父様とお祖母様もお部屋でお過ごしで、ハーブティーの茶葉を預けておく。
「ふう、歳のことは言いたくはないけれど、こればっかりは仕方ないわね」
午前中、ハンナ様のご実家の方々がお祝いとお見舞いにお越しになり、早速魔除けの白金製のピアスを贈られたという。
伯父様とデュランは登城しており、お一人でその接待もされていた。
「夫人。ご無理はせぬに限る。幸いハンナ様も順調じゃ。
ゆっくり入浴されマッサージもたっぷり受け休むとよかろう」
「ありがとうございます、クレーオス先生。
実はシェリーが……」
出産を控えたシェリー様が、ハンナ様の長引いたお産を目の当たりにし、恐怖と不安を持ってしまわれたと話す。
「初産だし、確かにあのうめき声や経緯を見聞きすれば、そう思うのはもっともなのよ。
私もデュランの時は耐えられるか不安になったものよ。
エリーはアンジェラのこともあったから、辛い時もあったでしょう?」
「……はい、お気持ちはわかりますわ」
「申し訳ないけれど、話を聞いてもらえるととてもありがたいの。私には気を遣って、多分全部は話せていないのよ。
ああ、エリーも無理のない範囲でね。ルイス様に恨まれてしまうわ」
「まあ、伯母様ったら」
私は思わぬからかいに頬を染めるが、ルイスの名前が出たついでに伝えておく。
「伯母様。ルー様が機会を見てピエールと話してくれるそうです。
シェリー様との仲が少しでも良くなれば、と思うのですが……。立ち会いの件は自分から触れないようにはお願いしておきました」
「ありがとう、エリー。私の言葉は左から右なのよ。子育てのツケがシェリーに行ってて本当に申し訳ないと思ってるのよ」
ハンナ様の懐妊も判明し、続いてシェリー様も、ということで、タンド公爵家の中心は二人の妊婦とその胎児を中心に回り始めた。
伯母様が見ていると、南部戦争からの凱旋後にその変化に気づき、それまで末っ子として甘やかされていた面もあり、どこか不満があるのではないか、と思われる言動も時にはあるのだと話す。
「いい加減、ピエールには大人になってもらわないと本当に困るの。シェリーに悪いところはないんですもの。
貴族令嬢として、大人しくて淑やかで。
私はともかく、シェリーは実家のお母様にも『大丈夫です』としか手紙に書いてないらしいの。
ご心配をかけたくないんでしょうね」
伯母様はシェリー様のお母様とも、まめに手紙のやり取りをしているようだった。
大切に育てた令嬢を嫁にもらったのだから、と大事にされている。
政略結婚を良好に保つという意味もあるだろうが、伯母様の性格も大きいと思う。
「ではお話を聞いてきます。マーサは」
「もちろんご一緒します。お話の邪魔はいたしません」
「そうね、約束だもの。ハーブティーとマッサージをよろしくね。
伯母様もお休みになってください」
「ありがとう、エリー」
私はお疲れの見える伯母様に早めに休んでいただき、シェリー様のお部屋へ向かった。
〜〜*〜〜
伯母様の仰ったとおりならば、と最初はクレーオス先生に診察していただき、「順調ですぞ」と健康面は保証し退室された。それだけでもほっとしているようだ。
その後、ハーブティーを飲んでから、マーサの特別マッサージを受けていただく。
シェリー様の専属侍女にも説明し、出産日までしていただくことにした。
マーサ曰く、あちこち凝りが酷いらしい。妊婦あるあるだが、心理的なものも大きいのだろう。
お産の不安については、ピエールへの不満で倍加しているようだった。
「ハンナ様が命がけで産んだアドルフに、ご自分の甥っ子に、あんなことを言うなんて、申し訳がなくて……」
「あれはピエールが悪いの。皆から注意されてたでしょう?
シェリー様が気に病むことではないわ。と言ってもそう思われるのももっともよね。私が同じ立場でもそう思うもの」
「エリー様は……。ルイス様が旦那様ですもの。
絶対にそんなこと仰いませんわ!」
「シェリー様、そんなこともございませんのよ。ルー様にも失言はありますの。
ひどい夜泣きをしているヴィアの世話役に、『早く寝かしつけてくれ』と厳しい口調で無理難題を言ったことがあって。
私がヴィアの泣き声を気にして、眠れなかったときなんですけれど、『無茶を言わないで。きちんとお世話をしてくれている世話役が悪い訳ではないの』とたしなめましたのよ」
「ルイス様が……。でも、それは、エリー様を思い遣ってのことで……」
「結局、私を怒らせたんですもの。知識はあったはずですのに。
でも夫の失言を気になさるということは、ピエールに思いがあってこそでしょう?
本当にあんな不出来な従兄弟なのに、見捨てずにいてくれてありがとう」
「ふふっ、不出来な従兄弟って……」
「デュラン様は夫婦仲については、不出来、までではないもの。努力しているわ。
ピエールはやれるのに、めんどくさがってやろうとしてないだけ。
お産の時に思いっきり仰って大丈夫でしてよ。
貞淑なシェリーお義姉様に甘えてるんですもの。目が覚めるでしょう」
「お産の時は、悪口を言ってしまうことがあるって本当ですの?」
「『本当だ、何度も聞いてきた』とクレーオス先生が仰ってました。夫や義家族に不満が溜まっている時に特に多いんですって。
『痛みに耐える体内の仕組みの副作用だろう』と分析されてましたわ。
なので付添う際には前もって仰るの。ルイスにもデュラン様にも説明してましたわ。
だから好き放題言っても大丈夫ですのよ」
「……ありがとうございます。何を言って差し上げようかしら」
「箇条書きに書き出しても、よろしいんじゃないかしら。書くだけでも心の整理がついてすっきりしますわ。私もそうですのよ」
「さようですわね。そういえば日記を書いたあと、少しでも気持ちが落ち着きますもの。
でも、お産って本当に痛いんですのね……」
「そうですわね……。ただ産んだあとはものすごく幸福感が押し寄せてきますの。あれは本当でしたわ」
「……幸福感ですか。“テルース”のガイドブックにもありましたが、本当ですの?」
「はい、今までに味わったことないものでしたわ。
クレーオス先生が仰るには子どもを産んだご褒美だ、だそうです。
『妊娠の最初から最後まで、そしてその後も、苦難に耐え忍ぶ女性に与えられるご褒美じゃよ。そうでないと誰も子どもを産まなくなるじゃろう?神様もよくお考えじゃ』と」
「ご褒美が……。そうですわよね。それくらいないとやってられませんわ!」
シェリー様が大きな声を出したタイミングで、お腹の子が動いたようで、『ヴィティス、びっくりさせてごめんなさいね」と愛しそうになでている。
悪阻の時に食べられたのが、主にぶどうだったので、ぶどうの古代帝国語の『ヴィティス』と呼びかけているそうだ。
「私も“ヴィティス”ちゃんをなでてもよろしくて?」
「もちろんですとも」
私はそっとシェリー様のお腹の膨らみをなでながら、『どうか無事に育って生まれますように。ご両親の夫婦仲を取り持ってあげてね』と願っていた。
ご清覧、ありがとうございました。
主人公エリザベスとその周囲を描いている拙作です。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
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【精霊王とのお約束〜おいそれとは渡せません!】
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序章後の1話からは、魔法のある日常系(時々波乱?)です。短めであっさり読めます。
お気軽にどうぞヽ(´▽`)/
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