187.悪役令嬢の従兄弟達
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
※今回はタンド公爵家が舞台です。忘備録代わりに。
長男:デュラン、妻ハンナ
次男:ピエール、妻シェリー
現当主:伯父様、現当主夫人:伯母様
先代当主:お祖父様、先代当主夫人:お祖母様
エリザベスとルイスとオリヴィア、親子三人の生活としては、3歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
「生まれたか?!ハ、ハンナは無事か?!」
子どもの父デュランの最初の言葉だった。
オリヴィアのお披露目会から、約半月後——
タンド公爵家長男デュランの妻、ハンナ様が男の子を出産した。
クレーオス先生も以前から依頼されていたため駆けつけ、私も伯母様に補助要員で呼ばれた。
次男ピエールの妻シェリー様が臨月、お祖母様が高齢だったためもある。
クレーオス先生と伯母様の指示を受け、看護を補助したが、皇女母殿下に続き2回目、かつ自分も出産したので少しは余裕があった。
その他の家族は、ルイスと一緒に別室で待機していた。
夫であるデュランは陣痛が始まったあと、ルイス方式で途中まで付き添い、退室を命じられてからは大聖堂のお守りを握りしめ祈っていた。
出産までは私の時よりも長くかかり、途中で陣痛が弱くなったこともあり、クレーオス先生の指示で廊下を歩かされたくらいだった。
壁伝いに辛そうでも必死に歩くハンナ様に付き添ったのは夫であるデュランだ。
『もうそろそろだから、行政官達に任せてあなたは戻りなさい』と伯母様に手紙で命じられ、領地から帝都に帰還していた。
『あなたの子どもを命がけで産むのです。夫が側にいなくてどうしますか?!
ただでさえ“熊害”対策でずっと領地にいて離れていたのに、一生言われますよ?
“熊害”が落ち着いていなければ、私もこうまで言いません。
しかしほぼ変化が見られない状況なら、とんぼ返りでもいいから、とにかく戻ってきなさい。
信頼できる部下に仕事を任せるのも領主の能力の一つです。幸いお義父様が鍛えた部下がいるではありませんか。
“熊害”事案が最も大変だったころ、あなたを支えた部下を信用できないと言うのですか?!』
まさしく叱咤激励し、帝都へ呼び戻したのだ。
伯父様も「仕事だから仕方なかろう」とうっかり“失言”されたため、しっかり“ご指導”されていた。
帝都に帰還したデュランは出産が始まるまで、なるべくハンナ様に寄り添い、離れていた間にあったことや出産への不安に耳を傾けた。
その合間にお祖父様に“熊害”について詳細報告し、皇城にも出勤するという生活を送って数日後——
陣痛が始まった。
だが途中で弱まったこともあり、私よりも半日以上苦しんだ結果、ようやく生まれた男の子だった。
タンド公爵家に多い、銀髪と青い瞳の男の子だ。
実はデュランは銀髪だが、瞳は伯母様似の榛色、黄色がかった薄茶色だ。
またタンド家の髪質よりもくせ毛だ。
弟のピエールは銀髪に青い瞳で、典型的なタンド家の特徴を持って生まれてきた。
本人は幼いころからいろいろ言われ、コンプレックスを持っていたようだが、伯母様と伯父様が『先祖にも銀髪、青い瞳以外の当主もいる』とずっと励ましてきた。
おかげで今は当てこすられても、平気で返せるようになっている。
それでも気にしていたのだろう。
赤ちゃんを抱いた時、「私に似なくてよかった」と涙ぐんでいた。
私は『気持ちはわかるけれど、もう少し言い方を考えてあげて』と気をもんだが、ハンナ様は「あら、目元や口元はデュラン様そっくりでしてよ」と笑っていた。
おおらかな性格でよかったし、デュランのコンプレックスは、“女子会”でも話していたので、ある意味ほっとしたのだろう。
伯母様もデュランの出産後はいろいろ言われたらしい。
身分を問わず、子ども、特に跡取りを産む“女性あるある”だ。
伯母様は自分の経験も踏まえ、ハンナ様には注意喚起として一度だけ話された。
「私とデュランを絡めて当てこすられても、あなたは気にしなくていいの。神様しかわからないんですもの。母子共に無事な出産が一番よ」
それ以降は全く触れなかった。
“妊婦と子どもの店・テルース”の妊娠ガイドブックにも、クレーオス先生の監修で、『子どもの容貌差別と産婦の心理的負担』についてしっかり扱っていた。
伯母様は自分がされて嫌なことは、“ほぼ”なさらない。
するのは、はっきりと敵に回った方々で、それも相手を選んでいた。
序列第3位の公爵家の家内を取り仕切る方である。
ハンナ様は産後も大量出血などもなく順調でほっとする。
デュランが呼ばれ、初めて抱いたときはルイスそっくりの反応だった。
「おめでとう、デュラン様」
『良いお父さんになりますように』と思いながら、お祝いの言葉をかける。
名前は出産前から『男の子なら』と決めていた『アドルフ』と名付けられた。
名付けの方法も家庭それぞれ、夫婦それぞれである。
男女3つずつ、合計6つ用意していたルイスと自分を思い出す。特にあの時のルイスは『かわいくて微笑ましかったなあ』と癒されていた。
実は名前については、デュランはお祖父様が名付けていたため、『跡取りは自分が』と伯父様は意気込んでいた。
だが伯母様が一刀両断する。
「今はそういう時代じゃありません。何かにあやかって両親が希望する以外は親が名付けるものですわ」
しょんぼりしていたが、これも“藪蛇”の一つなのだろう。
そこに母親であるお祖母様まで、「デュランの時はごめんなさいね」と伯母様側に立ち、お祖父様は『沈黙は金』としていたので、早々に撤退していた。
ちょっぴりいじけて往診に来たクレーオス先生相手に愚痴ったあとは、「時代が違いますからのお」と諭され納得したらしい。
ハンナ様も安定し無事な出産と知らされ、男性陣とお祖母様、臨月のシェリー様達は喜びに湧き立つ。
伯父様は作成リストに従い、『男児誕生。母子共に無事。名前はアドルフ』と各所に連絡していた。
ベビーベッドに寝かされたアドルフとご対面の皆様は、主に「かわいい」で終始していたが、ピエールだけが違った。
「赤ん坊って本当に赤いんだな。別の生き物みたいだ」
この失言に妻のシェリー様に思いっきり足を踏まれ、お祖父様とお祖母様、伯父様に叱られ、ルイスは額に手を当てていた。
『どうか学んで。近づいている自分の子どものときは、お願いだから発言は慎重にね』
私はシェリー様のために祈っていた。
〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜
一段落し私とルイスはエヴルー帝都邸に戻り、タンド産のシャンパンで祝杯をあげる。
「アドルフの未来を祝って!」
「ハンナ様の産後の肥立ちとアドルフの成長が順調でありますように!」
「又従姉妹のヴィアの行く末にも幸いがありますように!」
ついさっき寝顔を見てきた愛娘の願いも、しっかり入れてくるルーパパさんだ。
「そういえば、ピエールが話してたんだが……」
「出産時の付き添いのことでしょう?いい機会だと思うから、ルー様からも励ましてあげてね」
私はにこやかに微笑みかけ、ピエールの退路の一つを断っておく。
私とハンナ様、シェリー様の三人の女子会で、出産の付き添いについて話題になったときに言っていたのだ。
「ピエール様には最初から最後まで一緒にいてもらいます。お義母様にも頼んでいるんです。
絶対に逃げ出そうとするから、協力してくださいって。
妊娠してからも、南部戦争に出征されてる間、『悪阻はどうか』と手紙で聞いてきたり、帰還後も気にされた以外はほぼ無関心でしたの。『食べられるようになったんだったら、もう大丈夫だろう』って。
最後くらいはいいでしょう?」
シェリー様の不満を聞くともっともだったので、私もハンナ様も賛成したのだ。
ピエール包囲網は着々と進んでいた。
知らぬは本人ばかりなり、である。
「う〜〜ん。無理に付き添わせるのも何か違うような……」
「『お産は命がけなの』ってシェリー様が何度も不安を訴えても、『騎士の俺と一緒だな。がんばれよ』で他人事。
『読んでみて』って渡した、“テルース”のガイドブックの『父親心得編』も数ページでリタイア。
それも栞は進めておくアリバイ作り。試したら全然わかってなかったんですって。
シェリー様の気持ち、わからなくもないわ。
とっても勇気がいる賭けでしょうけど。
ピエールの態度次第じゃ離婚もあり得るかも」
「え?!そこまで思われてるんだ……」
ルイスの顔色が悪い。
帝立学園時代に、親友になった自分の巻き込まれで、「淑女科は“腹黒”科だ」と二人で言いあい、女性嫌いに拍車がかかったので、責任を感じてるのだろう。
「ルー様は女性嫌いだったけれど、私と知り合って結婚して、妻への態度は変えたでしょう?
シェリー様も見ての通り、おとなしい性格で全く“腹黒”ではないの。
むしろ慎み深くて、『妻は夫に従うべき』って言いたいことも言えないくらいだわ。
それをいいことに胡座をかいてたピエールが悪い。
まあ、お母さまの“天使効果”の余波だから、二人には申し訳ないとは思ってるんだけど……」
ピエールとシェリー様の結婚は、アンジェラお母様の“天使効果”により、婚約解消事案が起こってしまった一族と和解するための政略結婚だ。
婚約解消されたご本人は、クレーオス先生曰く無自覚な“天使効果”の後遺症的な行動で、私に赤ワインをかけようとしルイスにかけてしまったマギー伯爵夫人だ。
ルイスが大ごとにしなかったので、関係改善した一族との関係もこちら側に被害が出ただけに、五分五分に持ち込めた、とのちに伯母様が内幕を話してくれた。
シェリー様と私の関係も最初はぎこちなかったが、「お義姉様」「エリー様」と言い合えるくらい良好に持っていけた。
一方、ピエールとは結婚当初から必要なこと以外は話せない関係が続いている。
伯母様は何度もピエールに忠告しているのだが、「聞き流されてるのよ。かといって努力しているシェリーに、相談されたとき以外に何か言うのも違うでしょう。本当に申し訳ないわ」と話していた。
「ピエールも正念場でしょうね。父親になるんだもの。それなりの覚悟は必要でしょう?」
「……俺からももう一度話してみるよ」
「付き添いのことは、ピエールが話す以外は触れないでね。お願いします」
「了解……」
私の従兄弟でもある親友について思い巡らせているルイスのグラスに、美しく泡立つシャンパンを注いだ。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
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序章後の1話からは、魔法のある日常系(時々波乱?)です。短めであっさり読めます。
お気軽にどうぞヽ(´▽`)/
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