185.悪役令嬢の娘のお披露目会
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
エリザベスの幸せと、その周囲を描く連載版です。
ルイスとオリヴィアとの生活としては、1歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
「まあ、かわいいこと」
「ね、愛らしいでしょう」
「天使みたいだ」
「みたいじゃなくて、天使だよ?ほら、ベビードレスの背中に羽根がついてるんだもん」
「うむ、両親の良いとこ取りをしたのお。儂や皇妃にも似ておらぬか?」
エヴルー“両公爵”帝都邸——
その大広間で、オリヴィアのお披露目会が開かれていた。
大聖堂での受洗式は厳粛な雰囲気だったので、押さえていた身内感が一気に溢れている、帝室ご一家のオリヴィアへの感想だ。
順に、皇女母殿下、皇妃陛下、第四皇子殿下、第五皇子殿下、“取り”を飾るは皇帝陛下だ。
ルイスが抱っこしているオリヴィアは、今のところご機嫌だ。
泣きそうになったら、すぐに2階へ連れて行ける体制は整えている。
『乳児の泣き声は、人間の心身に堪えるようになっているからのお。それで気づいてもらう仕組みが、我々に埋め込まれておる。無理もないのじゃ』とはクレーオス先生のお言葉だ。
早速親バカだが、天使と言われても仕方ないだろう。
お父さまが贈ってくださったベビードレスは、男女兼用だが、外布は太陽と月と星を模様にした総レース仕立てで、内側は肌触りの良いシルクでできていた。
さらに背中にかわいい羽根がついている。
こんな可愛らしいデザインやレースを、あのお父さまが選んだとは、想像すると本当に微笑ましい。
すっかりおじいさまである。
すぐに会っていただくのは無理なので、お願いされた絵画が出来上がってくるのが楽しみだ。
なるべく早く手配して描いたのは、オリヴィアのみ、私とオリヴィア、親子三人の3枚だ。
「エリー、いいの?ルイス様、困ってないかしら?」
はらりと開いた美しい扇の陰で、伯母様が私に囁く。
「ふふ、大丈夫ですわ。すっかり抱き慣れてますし、ああやって囲まれて、ルイスも素で笑っていると、皇妃陛下が嬉しそうなので……」
「まあ、お義母様孝行だこと。私もほぼお祖母様なのよ。アンジェラの代わりをしないと」
伯母様もすっかり準備万端だ。
「エリー。オリヴィアをもう一度抱かせてもらえるか?」
「まあ、あなた。デュランやピエールの時には、そんなこと仰ったりしなかったのに」
うわあ、でっかい藪蛇が出た。
そう、産前産後の恨みは一生引きずると、私も王妃教育の後宮運営で学んだし、“テルース”の『出産・育児ガイドブック』にも書かれている。
伯父様、いかがされるのかしら。
「…………あの頃は、赤子というものに慣れていなかったので、すまないことをした。
孫の面倒は、…………あの方次第だ」
伯父様の視線の先には、満面の笑みを浮かべた皇帝陛下だ。
まだちょっと早い、いないいないばあをしようとされて、皇妃陛下に止められている。それはそうだろう。
遠巻きにしても、招待された高位貴族が見守っているのだ。
まあ、皇帝陛下のオリヴィアへの溺愛は、強固な防壁の一つになってくれるので、ありがたくもある。
「ふふふ、だったら、今だけでもたっぷり抱いて練習、いえ復習してくださいね。
ハンナはもう、いつ陣痛が来てもおかしくないんですよ」
「わかった。ご一家が満足されたら、我が家の番だ」
ハンナ様はタンド公爵家長男デュランの奥様で、出産予定日は5月下旬だ。
本日はすぐ近くのタンド公爵邸で、お祖父様やお祖母様とお留守番をされている。
先日お見舞いに行った時、大きなお腹が大変そうだった。3か月前の私がそうだったので、よくわかる。
「エリー。回復は順調?」
皆がオリヴィアに夢中なのに、伯母様が私を気遣ってくださる。こういうところが伯母様で、本当にお優しい。
「はい、ありがたいことによく眠れて、食べて、クレーオス先生の指示で運動して、執務もできています。
乳母やお世話係、皆のおかげです。
では、そろそろ迎えに行ってきますね。際限がなさそうなので」
「無理もないわねえ。オリヴィアは本当に可愛らしいんですもの」
伯母様のお褒めの言葉を背中に受けて、私は恭しく、高貴なご一家の中に割り込ませていただく。
「皆様、オリヴィアを可愛がってくださりありがとうございます。
ルー様。ヴィアの様子はどう?」
私の顔を見て、ちょっとホッとするルイスがカッコかわいい。
かわいいオリヴィアを抱いているので尚更だ。
黒の礼装が本当によく似合っていて、白いベビードレスが映えている。
私は愛するルイスとオリヴィアの瞳の色、青いエンパイアドレスに、黒いシフォンレースをふわりと重ねている。
シンプルだがラインが美しく極上の布地で、マダム・サラが仕上げてくれた。
今日の主役はオリヴィアなのだ。
両親は引き立て役に徹するに限る。
ただし宝飾は真珠のパリュールで、オリヴィアのピアスやベビーリングと合わせていた。
ルイスは私が贈ったエメラルドのピアスやカフリンクス、ポケットチーフも同じ色目でそろえている。
産後でも付けいる隙間は、一切ありませんよ、アピールだ。
「ああ、まだご機嫌だが、さっきあくびをしたから、少し眠たいかもしれない」
と言ったそばから、またあくびをする。
皇帝陛下の前など赤子には関係ないし、ご本人がメロメロだ。
「おお、こんなに小さな口を開けてかわいいのお。
カトリーヌもマルガレーテもかわいいがオリヴィアもかわいい。
皇妃。今度、三人一緒に絵を描かせぬか?」
「まあ、陛下。楽しそうなお考えですこと。
それとそろそろ?
オリヴィアにあいさつしたいのは、私達だけではありませんのよ」
「うむ、そうじゃな」
「では、失礼いたします」
「かわいがってくださり、ありがとうございました」
私とルイスが会釈して、帝室ご一家の側を離れると、年頃のご令嬢を連れた貴族が、一斉に寄っていく。
「第五皇子殿下も大変ね」
「母上がうまく捌くだろう。
しかし選定委員会が決めるって言ってるのに、売り込みにかかるって何を考えているんだか」
「あわよくば恋に落ちていただいて、『第五皇子殿下ご本人の強いご意向で』を狙ってるんでしょうね」
「アイツはそんなバカじゃない。恋や何やで帝国の皇妃が務まるものか」
「そんな低い声で厳しい顔だとヴィアが怖がっちゃうわ。
ルー様」
「ああ、悪かったでちゅね〜。ヴィア〜。
パパはこわくないでちゅよ〜」
誰を前にしても、オリヴィアへの話しかけでは赤ちゃん言葉を徹底している。
あんなに恥ずかしがってたのに。
すっかりパパなんだなあ、と思うと嬉しくなってくる。
「ルーパパ様?伯父様がオリヴィアを抱かせて欲しいんですって。ハンナ様がもうすぐでしょう?」
「ああ、なるほど。夫人も手ぐすね引いてるな」
「ピエールは逃げ腰だけど?」
「ピエールのところの予定日は来月中旬だろう?何をしてるんだ。アイツは」
すっかりパパの先輩になっているルイスは、私にずっしり重くなってきたオリヴィアを預けると、ピエールを確保し、騎士団方式で抱き方から教えていた。
タンド公爵家一家は、眠ってしまったオリヴィアを小声で愛でてくださる。
「かわいいしか出てこないわねえ。まつ毛も綺麗に生えそろって。この金色の髪はエリーね」
「伯母様。実は少し癖っ毛が強くて、毛質はルー様に似てるみたいなんです」
「あらそう。それもまた楽しみだこと。
あなた、復習はできました?」
「ああ、赤子というものはこんなに小さいのに、重たいものだ。命の重さかの」
「公爵。それもあるが、眠ると脱力するだろう?
酔っ払いが重いのと一緒だ」
「そういうことですか。それでも愛らしい。天使の眠りですな」
“中立七家”の方々も静かにごあいさつしてくださり、やはりかわいいと褒めてくださる。
「ふふふ。ふくふくほっぺで、ついなでてしまいたくなりますわ」
ノックス侯爵夫人アンナ様が私の横から覗き込んで笑顔を向けてくださる。
「エリー様にも似てること。ウチの子とは跡取り同士だし、年も少し離れてるから残念だわ」
「あら、ご検討くださっただけでも光栄ですわ」
本気で眠り始めたオリヴィアは、2階の子ども部屋へ連れて行き、私達がもてなす番だ。
と言っても、次から次へとあいさつに来てくださり、お披露目会から社交の場になっていた。秋はエヴルーで“珍獣化”するためにも、今は励むに限る。
そんな中、一際大きな声が響く。
「わ〜。すごいな〜。ここはザクロの形で、こっちは松の実だ。凝ってて綺麗だな〜」
「カール様、もう少しお静まりください」
「あ、ごめんなさい」
少年が一人、お付きの人を連れて入場してきた。
公国から先月お越しになった5番目の公子で、カール・リグリーと仰る。私もルイスも会うのは初めてだ。
あの、第二皇子母の側室様の甥に当たる方だ。
まだ7歳で同盟の担保として、留学の名の下に送り込まれてきたと、伯父様が言っていた。両国で交渉が長引いている縁談の中継ぎのためだ。
ぷくぷくした体形で、よく言えば可愛らしい。
率直に言えば、運動不足の体つきだった。
どうやら我が家の植物をモチーフにしたアンティークなデザインがお気に召したらしい。
7歳にしては子供っぽいが、これからの留学という名の人質生活で変わっていくだろう、と思っていると、いきなり爆弾を投げてきた。
「ね〜、ね〜。じいや〜。僕のお嫁さんになる子はどこにいるの?
今日がお披露目なんでしょ?」
会場のあちこちで、眉間の皺が一気による音がバリッと聞こえてきそうだ。
「エリー。シメてきてもいいか?」
一番は隣りにいる、愛する夫だった。
目にうっすら殺気が漂っている。笑えない。
「ルー様。いきなり締めるのはやめておきましょう。
仮にも公子様なんですから、ごあいさつくらいはできるでしょうし?」
私達から出向く相手ではない。
王族と言っても、公国の公子なのだ。
序列から言えば、こちらが上だ。
それに招待状はどうやって手に入れたのか。
招待客のリストにはなかったはずだ。
ルイスはそれも気になっているようで、「警備は何をしてるんだ」と小声で呟きピリピリしている。
「さあ、カール様。ごあいさつして帰りましょう。
クレーオス先生へのお使い、ということで参りましたでしょう」
「え〜、もっと見たいのに〜」
なるほど。そういうことか。
第二皇子母の側室様はかなり回復し、息子に盛られていた薬剤が抜けて、性格も比較的穏やかになった。
あと半年か一年ほどで、長旅に耐えられる体調になれば、帰国されると聞いている。
先ほどの話では、叔母から手紙だけでも預かってきたのだろう。
きょろきょろ見回したあと、お付きの人が私とルイスに気づき、『あちらです』と促す。
次の瞬間、目があったと思ってると、ずんずんこちらに歩いてきて、私の前に立つ。
「とっても綺麗ですね!僕と結婚してください!」
ルイスの堪忍袋の緒が、ぶちっと切れた音がした。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
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● お待たせしました!第4章の始まりです!
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序章後の1話からは、魔法のある日常系(時々波乱?)です。短めであっさり読めます。
お気軽にどうぞヽ(´▽`)/
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