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小話 12.“福音”の子

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


※第3章の小話、2つ目です。

※先代タンド公爵(お祖父様)視点です。


● 諸事情でタンド公爵家の名前を決めました。

現公爵:ラルフ。伯父様。

現公爵夫人:エレナ。伯母様。

長男:デュラン。

長男妻:ハンナ。お義姉様(ねえさま)

次男:ピエール。

次男妻:シェリー。お義姉様(ねえさま)

先代公爵:エリック。お祖父様。

先代公爵夫人:ミカエラ。お祖母様。

〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。


 エリーの陣痛が始まった——


 エヴルーから早馬が来た時には、タンド公爵帝都邸は湧き立つようだった。

 エリーの、孫の様子が気になって仕方ない。


 私も立ち上がり、妻と共にサロンへ向かう。

 このところの寒さから膝に痛みがあったが、それも忘れてしまうほどだ。


 息子のタンド公爵と孫のピエールは皇城と騎士団へ出仕しており、孫達の嫁、ハンナとシェリーも侍女に知らされたのか、サロンへ降りてきていた。


 早馬の使者には嫁のエレナが対応していたが、思わず自分で直接(たず)ねようとしたとき、妻と嫁の声が響く。


「落ち着きなさい。まだ子どもが生まれた訳ではないのですよ」


「お義母様(かあさま)の仰るとおりです。初産は特に時間がかかるもの。

落ち着いて、普通の生活を送るようになさってください。

あの人とピエールには知らせないように。

仕事が手につかなくなるでしょう。

特にピエールは騎士団で訓練中なら事故につながりかねません。

皆、よろしくお願いしますね」


 出産経験のある二人の言葉は重い。

 しかし普通通りと言われても、私は手術を終えたばかりの療養中の身だ。

 部屋に戻り少し落ち着こうと侍女に頼み、術後でも飲めるハーブティーを入れてもらう。


 このレシピはエリーのものだ。

 私の傷痕の形成外科手術を執刀されたクレーオス先生と相談し、服薬しても傷が痛むとき、リラックスしたいとき、入眠前などいくつかのパターンに分けて調合してくれていた。


 本当に家族思いの優しい子だ。

 アンジェラもそうだった、とつい思い出してしまう。


 妻と共に蜂蜜を入れて味わっていると、少し気分が落ち着いてくる。

 私の気持ちを(おもんばか)ってか、妻が話しかけてきた。

 自分にも言い聞かせているようだ。


「ねぇ、あなた。アンジェラはアンジェラ。エリーはエリーよ。きっと大丈夫。今は信じて待ちましょう。

あなたは4回も待ってきたのよ」


「ああ、そうだな。ラルフの時が一番ハラハラしたよ」


「ふふ、泣いてらしたものね」


「ラルフも自分の子どもの時は泣いていたな。タンド家の男はそうらしい」


「だったら知らせないのは賢明ね。さすがエレナさんだこと。あなたも少しお休みしましょう。

エリーもきっとそう言うわ」


「いや、しかし……」


「だったら、エリーの手紙を読んで差し上げるわ。

少しは気持ちが落ち着くでしょう」


「……わかった。少し横になろう」


 ベッドに横たわると、自分が思っているよりも疲れや痛みを自覚する。

 年はとりたくないものだ、と思うが、この年月の積み重ねがなければ、エリーにも、その子にも会えはしなかった。


 妻がエリーからの手紙を読んでくれる。

 聞き慣れたメゾソプラノの声が心地よい。


 元々筆まめな子だが、熊害(ゆうがい)のあとは何通も送ってくれていた。

 見舞いの最初の1通は、『熊との闘いで後に続く者に言葉を』とその隠された豪胆さに、さすがあのラッセル公爵の娘よ、と思ったものだ。


 ああ、アンジェラもそういう大胆さもあったな、と思い出す。


 エリーは私達にとっては、奇跡の子だった。

 あの“天使効果”で苦しみ抜き、傷まで負ったアンジェラが、まさか結婚するとは思ってもみなかった。


 誰も知らないラウリカ王国の修道院で、祈りの時を安らかに過ごしてくれれば、と願っていたのだ。

 婿のラッセル公爵殿にしてみれば、やることもせず、娘を放り出した酷い父親だろう。

 それくらい、彼のアンジェラへの守護は徹底していた。



「『……お祖父様。傷の痛みは無理をせず、クレーオス先生の処方に従ってお薬を服用してくださいね。

誇り高い騎士でも、ご自分の痛みとまで戦う必要はなく、名誉も傷つきません』

ふふっ、エリーらしいこと。アニーにも、アンジェラにもこういうところがありましたね」


「ああ、そうだな……。

エリーもアンジェラも良い夫に巡り逢えた。

クレーオス先生もありがたいが、ルイス様の言葉がなければ、私はひ孫たちのことも考えず、この傷痕をそのままにしていただろう」


「あなた……」


「しかし考えてみれば、ラッセル公爵殿もエリーも、相手の傷痕など気にも止めていない。

エリーは、皇帝陛下相手に、『ルイスは頬に傷を負っているが、気にはならぬのか?』と聞かれ、

『全く気になりません。むしろ、はっきり申し上げれば、()れております』と答えたそうだ。

あの皇帝陛下相手に、肝が据わっていることよ。

見かけではなく、人間の本質を見抜く目と思慮深さを持っている。

ひ孫達もそう、育ってほしい……。

この額の傷は試金石、良い練習台になるやもしれぬな」


「……そうですわね。そう思ってくださるだけでも私は嬉しゅうございます。

あなた。私も()()れしておりますよ」


 妻が悪戯っぽく微笑む。

 私が重傷を負った時から、昔のしっかり者に戻った。


 医者に言わせれば、『ショック療法』というものに近いらしい。

 アンジェラのことで、自責と悲しみのあまり、無気力で、沈みがちになり、私や周囲もなす(すべ)もなく見守っていた。

 それが私の重傷という非常事態に、昔の生き生きとしていた妻が戻ってきた、という説明だった。



「……私もお前に惚れておるぞ……。

それなのに辛い思いばかりさせた。すまぬことばかりだった。心から申し訳ないと思う。

こんな私を見捨てずに、寄り添ってくれるのはお前だけだ。

ありがとう、ミカエラ……」


 今まで言えずにいた謝罪と気持ちを、やっと伝えられた。

 あの“野獣の王”との命懸けの戦いのときも、脳裏に浮かんだのは、妻のことだった。

 『ミカエラを置いて死ぬ訳にはいかない。私が看取らねば』と常日頃から思っていたこともあったあろう。


「あなた……。エリック様……」


 妻がほろり、と涙をこぼした。

 私は起き上がると、枕元にあったタオルを頬に当てる。

 エリーが届けてくれた匂い袋(サシェ)に重ねていたためか、ハーブの甘く爽やかな香りがふわりと立ち上る。


「エレナの言うとおり、いつものように過ごそう。

いや、1時間ごとに祈りはしよう。

かえって落ち着かぬからな」


「そうですわね。エリーは大丈夫ですわ。

あの子は私達にとって“福音”です。

あの子が来てくれて、アンジェラが王国で本当に幸せだったと思いました。

そうでなければ、あんなに優しくて賢く逞しい子には育ちませんもの。


あの子がいなければ、クレーオス先生にも会えず、ルイス様もあそこまではお話くださらなかったでしょう。

さあ、神様に祈って休みましょう」


「そうだな。だがお前はどうして過ごすのだ?」


「私はひ孫のお散歩用の帽子を編んでいますわ。

昔の日記が役立ちました。

タンド公爵家に伝わる魔除けの模様を編み込んでおきましょう」


「ミカエラ……。

その、んんっ、私にも編んでもらえるか?

なるべく日焼けせぬように、とクレーオス先生も重ねて仰ったが、いつまでも包帯では大袈裟(おおげさ)であろう?。

その、屋敷にいる時のためで、日焼け止めクリームも、きちんと、塗る、が……」


 だんだん小さくなってしまう私の声に反し、妻のご機嫌の度は増していくようだ。


「わかりました。頭のサイズを測らせてくださいね。

ふふっ、私の分も編もうかしら」


 心中、『えッ?』と思ったが、言うと傷つくだろうし、老い先は短い。

 妻の願いも叶えたいし、思い浮かべれば、抱いたひ孫と三人一緒は気恥ずかしいが楽しそうでもあった。


「ああ、そうしてほしい。私も、その、嬉しい、ぞ」


 この歳になっても、照れで首が熱くなる。


 二人でエリーの無事な出産を神に祈ったあと、妻はご機嫌で早速編み物の図案を書き始めた。

 何よりのことだ。


 この魔除けのおそろいの帽子は、タンド公爵領の高山で飼育されているヤギの貴重な糸を使い、季節に合わせサマーウールで編まれた。


 オリヴィアが無事に生まれ帝都にやってきたあと、『邸内の散歩用に』と贈り、エリーとルイス様は喜んでくれた。


 タンド公爵帝都邸にオリヴィアを連れてきたときは、庭園の散歩に連れ出し、私と妻のおそろいの姿をうらやましがられ、次はエリーとルイス様にも贈った。


 それを見ていた、デュランの妻ハンナにも、ピエールの妻シェリーにも申し出られ、妻は嬉しそうに編んでいた。


 それを見ていた嫁のエレナが、私達に申し出る。

 『ついに息子夫婦もか?』と思った私と全く違う発想だった。



 数か月後——


『エヴルー“両公爵”とオリヴィア公女がご愛用の、庭園散歩用の親子おそろいの魔除けの帽子』


 『妊婦と子どものための店“テルース”』で売り出した親子セットの帽子は、たちまち人気商品となる。


 ただし、魔除けの模様はタンド公爵家のものではなく、少し異なる領民の間に伝わるものとした。

 これは妻の提案で、嫁のエレナも受け入れてくれた。

 ほんのわずかの違いだが、妻の気持ちもわかる。


 また私は知らないというか、覚えていなかったが、産後、女性は大量の抜け毛に悩まされ、小さなハゲさえできる者もいるそうだ。

 それを隠すためにもちょうどいいらしい。


「エリーはやっぱり“福音」の子ね。皆を幸せにしてくれるわ」


妻はそういって、どんどん成長するオリヴィアの新しい帽子を楽しそうに編んでいた。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作の小話、番外編です。

誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

★、ブックマーク、いいね、感想などでの応援、ありがとうございます(*´人`*)


●やはり前話がざらっとした読後感だったので、こちらで締めさせていただきます。お付き合いくださり感謝します。



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序章後の1話からは、魔法のある日常系(時々波乱?)です。短めであっさり読めます。

お気軽にどうぞヽ(´▽`)/

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悪役令嬢エリザベスの幸せ
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