18.悪役令嬢の内定
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
※最初はルイス視点です。少し長めです。
エリザベスが幸せになってほしくて書いた連載版です。
これで18歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
【ルイスside】
タンド公爵邸では、長男夫妻、次男ピエール夫妻も同席で、婚約内定祝いの夕食を用意してくれていた。心遣いに感謝する。
エリーも喜んでて、お祝いされる度に照れていて、本当に可愛らしい。
ほとんどが笑顔で、祝福してくれる。
ピエールの妻は、エリーに赤ワインをかけようとし、結果的に俺にぶちまけた伯爵夫人の親戚で、彼女だけがわずかに微妙な雰囲気だった。
明るいが細やかな気配りが苦手なピエールは、全く気づいていない。
エリーが察して歩み寄り、雰囲気を好転させていた。
責めずに前を向いて、関係改善に努めるところがエリーらしくて好きだ。
そのエリーが高熱を出した、と聞いた時は、俺のせいだと思った。
自分ができることを、せめて辛さを軽くしたくて、皇族の権利で、初めて氷室の氷を取り出させ贈った。
今までも、真夏の暑気払いに味わったことなど、ほとんどない。
この2週間、エリーの回復を案じて、手紙が来ては一喜一憂し、ジリジリ待っていた甲斐があった。
祝いの酒に少々酔ったが、騎士団で鍛えられているので、素面とほぼ同じだ。
エリーや公爵夫妻に頼まれた、父母への報告をするために、皇城の居室へ行く。久しぶりだ。
侍従を母と父の元に送り、数分だけ話したいと告げる。
偶然、父が母の許にいると知らされた。
後宮のため、無理かと思いきや、許可が出たため、会いにいく。
後宮のプライベートゾーンで、挨拶も簡略だ。
「遅くに失礼します。父上、母上」
「どうした。ルイス。こんな夜分に」
「申し訳ありません。父上」
「ルイス、何かあったの?」
「実は、お話ししたいことがあるのです」
ソファーに寄り添い座っている二人—
どこかしどけない格好なのは、そういうコトなんだろう。せめて身嗜みは整えてほしかった。
その時間はあっただろうに。
相変わらず仲がよろしい二人だ。
と、どこか冷めた目で、両親について達観している自分がいる。
これに気付いたのは、何歳くらいだろう。
それはさておき、エリーとのことを報告する。
結婚の許可を得る、謁見の約束をしなければならない。
第一関門だ。
「今夜はご報告とお願いがあって参りました。
本日、タンド公爵の姪、エヴルー卿から、求婚の承諾を得ました。
タンド公爵夫妻も、私とエヴルー卿の結婚に賛成、祝福してくれています。
父上と母上に、結婚の許可を得る謁見をお許しいただきたいのです」
「結婚ですって?」
母が驚いている。珍しい。
「はい」
「ちょっと待った。聞いてないぞ」
父も少し慌て気味だ。ある程度、伝えてはいただろうに。
「そうですか?
父上には祝賀会の夜、『エヴルー卿に非常に強い好意を持っている』とお伝えはしております。
『良い令嬢だ。励め』との仰せでしたが?」
「好意と結婚は違うだろう?」
思わず、しらあとしてしまう。
さっきまでいちゃいちゃしてた雰囲気のあんたらを目の前にして、どう答えろと。
話が進まないので、答えるが。
「そうでしょうか。
女伯爵たるエヴルー卿、それもタンド公爵の姪に、強い好意があるのなら、火遊びや恋人止まりは考えられません。
タンド公爵の怒りを買い、国政が滞留してしまいます。
まさか、『励め』とはそういう意味だったとは?
思いもよりませんでした。
父上とは違い、無骨者なもので……」
「いや、それは違う。断じて違うぞ。だが……」
俺の言葉に焦りを帯びる。
後宮でこの人の前だと、こうも違うのだな、と改めて思う。
俺に紛争の解決を迫った時とは大違いだ。
皇帝もひとりの男という訳か。
「父上。私は皇位継承からも遠い第三皇子です。
エヴルー卿は、隣国で宰相を務めるラッセル公爵の愛娘。
そして帝国の柱石たる廷臣のタンド公爵の姪。
釣り合いは取れていると思います。
なお約4ヶ月前に、婚約解消はしましたが、相手の王太子の有責で、彼女に問題はありません。
厳しい王妃教育を乗り越えた、素晴らしい女性です。
エヴルー卿としても、領地の発展に寄与しようと努力しているのは、母上はその身をもってご存じですよね?
母上も『素敵なお嬢さんでないこと?私の使者をチャンスにできるかはあなた次第よ』などと、仰せでしたよね?
反対する理由をお聞かせ願いたいのですが?」
「………………」「…………」
両親共に黙って顔を見合わせる。
これだけ勧めといて、いざとなったらこの反応か。
お〜い。さっさと言ってくれ。謁見を許すって。
「いや、少し待て。話が急ぎすぎではないか?
つい先日、帝国民になったばかりだぞ?」
「皇太子殿下からも、『あの才能を絶対他国に流出させるな。早く口説け』と催促されました。
私が失敗すれば、ご自分の側室にするお気持ちもあるようですが?
父上は、才気溢れるエヴルー卿が他国へ行ってもよろしいと?」
「いや、そうではないが……」
この渋りよう。
そういや、何でも知ってなきゃ、気がすまないタイプだった。さすが皇帝陛下。
蚊帳の外だったから、拗ねてるわけか。
この人を相手にするより、皇妃陛下の方がまだ良い。
「母上。
エヴルー卿は、貴女の身体を臣下として第一に考え、体質改善のため、真剣にハーブティーを調合しようとする優しさがあります。
そして、領地経営に抜きん出た才能、王妃教育による多種多様な教養を持つ女性でもあります。
私の結婚相手としてふさわしいと、考えるのですがいかがでしょう?」
「……そうね。良いお嬢さんだとは思うわ」
「ちょ、ちょっと、お前……」
「あなた。いえ、皇帝陛下。
ルイスについては、過ちを犯そうとする以外、親として、私達がどうこう言う権利があるとお思いですか?
公だとしても、申し分ないお相手だと思います」
「………………」
「エヴルー卿は素敵な女性と思うわ。おめでとう、ルイス」
「ありがとうございます。母上。父上も祝ってくださるということで、よろしいでしょうか?」
「お前に嫁ぐなら、エヴルー伯爵は、タンド公爵家の従属爵位に戻すのか?」
祝いの言葉ではなく、問いただしてくる。
「いえ、自分が婿入りします」
「はああ?!お前が婿入りだと?」
いちいち、うるさい。婿入りのどこが悪い。
「父上。私は近いうちに臣下に降りて、公爵位と領地をいただけるお話でしたよね?」
「ああ、そうだな。そういう話もした」
「でしたら、エヴルー伯爵を公爵に陞爵し、近隣の帝室直轄領をいただいて、公爵領にふさわしい規模にした上で、私が婿入りしても、差し支えはないでしょう?
過去には前例もあります」
「……だからと言って、婿入りとは……」
「公爵家の後継者が一人娘の時は、皇室から継承権第三位以下の皇子が婿入りする前例は、嫌というほどあるではありませんか?
エヴルー卿はタンド公爵の姪です。
公爵への陞爵と領地は、私が今回の紛争で得た褒賞とお考えください」
「…………」
都合が悪くなると、この人は黙り込む。
家庭内の問題では、いつものことだ。
まあ、こんな風に思えるほど、接触はしていないが。
「理性的な賢帝と言われる父上が、理解できないとは到底思えません。
また、エヴルー卿の人物鑑定については、天使の聖女修道院の院長も高く評価しています。
まだご不満ですか?」
「…………あい、わかった」
やっと同意してくれた。遅かれ早かれなんだから、早くしてほしい。
「ありがとうございます。では、儀礼官に伝えておきます。謁見の予定が入りましたら、どうかよろしくお願いします」
「ルイス。忙しいようだから、身体には気をつけるのよ」
「母上もご自愛ください。父上もお気をつけを。
では、失礼します」
全く、人の言うことをちっとも聞いていない。
昔からだ。
あの人達にとっては俺は空気で、役に立つ時だけ現れるもんなんだろう。
もう、慣れたけどな。
侍従に案内をされながら、後宮を抜け、自分の居室に一旦は戻る。
広すぎるところに、たった独り。
住んでいる寮の部屋の10倍以上の広さ。
ガランとして冷たい空気。
あの時から無性に落ち着かなくなった。
特に今夜は、タンド公爵邸での団欒や、エリーの優しさに触れた後だけに辛い。
すぐに出て、同じ皇城内の騎士団の寮へ向かう。あそこには親しい仲間もいる。
婚約内定については、まだ話せないが、『狭いながらも楽しい我が家』だ。
祝杯代わりに、今夜はまだ飲みたい気分だ。
エリーの横に立てる第一歩は踏み出せた。
俺は夜空の星を見上げ、エリーの言葉を思い出していた。
〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜
ルイスに結婚承諾の返事をした翌日—
皇城からの使いが、5日後の謁見の許可を伝えた。
またもや美容期間かつ、ドレスの緊急調製に入り、前回の謁見までの準備を早回しで体験した。
皇帝皇妃両陛下への謁見当日—
ルイスと私、伯父様、伯母様の四人で、皇城の控え室で待つ。
私はルイスの瞳の色に似せた、高襟、長袖の青いデイドレスだ。
上品なデザインで、シンプルながらも印象的に仕上げてくれた。
伯母様、マダム・サラ、と工房のお針子さん達、本当にありがとう。
伯母様は紺色のデイドレス、伯父様とルイスは、黒のスーツだ。
「エリー、とても素敵だよ。エリーの美しさをデザインで引き立ててる。
タンド公爵夫人、短期間にありがとうございました」
「ルイス皇子殿下。ありがとうございます。
仰る通り、伯母様のおかげなの。
ルイス皇子殿下も素敵です。黒のスーツがとっても似合ってます」
「ルイス皇子殿下。とんでもございません。
後見役として、当たり前でございます」
「そうですとも。エリーは私どもタンド公爵家にとっては娘も同然。
これほど早く、謁見を実現していただき、ありがとうございます」
「いえ、私こそ……」
雰囲気も明るく歓談していると、侍従から呼び出しを受け、謁見の間に入場する。
ルイスと私が前列に、伯父様と伯母様がその後ろに控えてくれている。心強い。
儀礼官が皇帝陛下と皇妃陛下のご来臨を告げる。
私達四人は最高の敬意を示し、礼の姿勢を取る。
私はかなり深いお辞儀だ。
振る舞いも、この5日間、さらに磨きをかけてきた。
私を選んでくれたルイスに、恥をかかせる訳にはいかない。
衣擦れの音と共に、皇帝皇妃両陛下が御座に着席された気配がする。
伯父様による請願、私エヴルー卿とルイス第三皇子殿下の婚姻の許可を乞う、帝室儀礼に則った文言を堂々と述べる。
さすが伯父様だ。本番にお強い。
ここで、皇帝陛下が小さく咳をした。
「ルイス第三皇子、タンド公爵、並びに夫人。
どうか楽にするがいい。
ちと、エヴルー卿に尋ねたいことがあってな。
エヴルー卿、ルイスの父として尋ねる。よいか?」
皇帝陛下に「よいか」って聞かれて、「嫌だ」って言えるの、お隣りにいる皇妃陛下くらいでしょう。
これは、『ご下問』だ。王妃陛下に散々やられた。
悪い意味で懐かしい。
私はゆっくりと動き、長く同じ姿勢を保てるよう、筋肉を調整した。
お辞儀は続けながらも、眼差しは皇帝陛下の胸元に向けるようにする。
両方向のコミュニケーションを取るためだ。
そして、貴族的微笑を浮かべ、お答えする。
「御意にございます。いかようなことにもお答え申し上げます」
さあ、どうぞ。
ルイスのことが心配で聞いているのか、それにより皇帝陛下の気持ちも確かめられる。
私にも良い機会だ。
「では問おう。
エヴルー卿よ。ルイスのどこが気に入ったのだ。この短期間に」
これはあんまり短い期間だから、ルイスの地位目当てじゃないかってことかな?
「恐れながら申し上げます。
ルイス第三皇子殿下の、ご誠実なところにございます。
皇帝陛下はもちろんのこと、国民に対しても、騎士団に対しても、そして私にも、誠実さを示してくださいました。
自信を無くし傷ついていた私に、『君は自分が護るべき平和そのもの、穏やかな生活そのものだ』と励ましてくださいました。
そして、『私は決して裏切らない。共に幸せになろう』と仰り、言葉だけではない、行動でも教えてくださいました。
恐れながらも、お父上である皇帝陛下、お母上である皇妃陛下の、臣民に対する御心、御政策に似ていらっしゃると感服いたしました。
私にとっては、充分なことでございます」
ルイスについては、本当のことしか言っていないし、ご両親上げもしておく。文句を付けられないように。
皇帝陛下は、顎を指で摩りながら、うっすら微笑んでいる。
あ〜。皇太子殿下は、父親似、確定だ。
この人、何気にめんどくさそう。
「ふむ、そうか。
ルイスは頬に傷を負っているが、気にはならぬのか?」
「全く気になりません。むしろ、はっきり申し上げれば、惚れております」
帝室儀礼には相応しくない言葉だけど、傷を持ち出したのには、カチンときた。
美醜だけで、結婚相手を選ぶと思うな。
貴族的微笑はきっちりと保つ。
「惚れているだと?」
「はい。その身をもって、部下を、国民を、帝国を守ってくださった証。
また、それは私を守ってくれたことに、変わりはございません。
いかにしても、惚れない訳はございません。
私はその心意気に惚れております。
私見ながら、お父上である皇帝陛下の勇敢さを受け継がれたのでございましょう」
これも本当のことだもの。
皇帝陛下上げが面倒になってきたけど、こういう人ってプライド高いしなあ。お約束だと思っとこう。
この後、いくつも質問が続く。
横にいるルイスから、怒りがうっすら伝わってくる。
私は言葉の合間に、「このように寄り添ってくださるルイス第三皇子殿下が」というセンテンスで、ちらりと微笑みかけ、目線と小さな頷きで、『大丈夫』と宥めておく。
そろそろネタ切れかなぁ、と思ってたら、我が家・エヴルー伯爵家と、実家ラッセル公爵家、親戚タンド公爵家にとっては、最後通牒みたいな質問がなされた。
「それにしてもエヴルー卿は、アンジェラ嬢にそっくりだな。
魅力ある美人で、多くの男性が恋焦がれていた。
この国に慣れ、社交を盛んに行えば、そなたもそうなるのではないのか?」
あ〜。突いちゃいけないところを突きましたねえ、皇帝陛下。
“天使効果”に悩んでいたお母さまにかこつけて、私がなんだって?
まるで母娘揃って、男性に囲まれていたい悪役令嬢扱いだ。
背後の伯父様伯母様からも、抑制された“圧”を感じる。
伯父様が「恐れながら」と切り出す前に、私が答えよう。
私への“ご下問”だ。
そっちがその気なら、こっちもそれなりの対応をさせていただきます。
私は敢えてゆっくりと答え始める。
丹田に力を込め、はっきりと意味をのせた、聞き取りやすい声で、貴族的微笑みを浮かべて—
「恐れ入ります、帝国を遍く照らす太陽たる皇帝陛下。
私はご覧の通り、金髪に緑の瞳。
ご存知かとは存じますが、“隣国”で今も元気に政務を執らせていただいております、父“ラッセル宰相”譲りの、髪と瞳の色にございます」
皇帝陛下の頬が、わずかに動く。
今まで私が持ち出さなかった、父であり、友好関係を保つ、隣国宰相のラッセル公爵の名を、口にしたためだろう。
そうですよ。陛下が言ったアンジェラ嬢は、お父さまが愛してやまないお母さまなんです。
私は冷静に言葉を続ける。
「母アンジェラは、銀髪に青い瞳。
私が三歳の折、天に召されました。
儚く美しかったとしか覚えておりませんが、“父である宰相”は、月光を集めたように、実に神秘的な印象で、一目惚れしてしまったと申し、今でも深く愛しております。
その“父宰相”は、私と母は、顔立ちが似ていても、印象が全く異なると、申しております。
私と母アンジェラを、最も長く比較してきた、“父宰相”の言葉でございます。
また、ここにいる、“帝国の柱石”で、“伯父であるタンド公爵”も同様に、母アンジェラを妹として深く愛しておりましたが、私はまた別の人間だと申しております」
私の言葉は、父の言葉。
隣国宰相の代弁をさせていただきます。
ついでに、兄のタンド公爵閣下のもね。
ここで一転、苦しそうな、切なそうな、口調に切り替える。
だって、お母さまは苦しんでいたのだから。
「……私には、母のような、誘蛾灯のように、男女関係なく、“人間”を惹きつける不思議な事象は、一切、ございません……。
実際に、婚約相手の有責で解消しています……。
また、母もこの不可思議な事象を非常に苦慮し、悩み苦しみ続けました……。
トラブルを避けるため、華やかな帝都の社交界から去り……。
天使の聖女修道院に救いを求め、エヴルー領地に移り住み……。
さらに隣国まで参るほど、辛い思いを生涯抱えておりました。
このことは、皇帝陛下の深いお慈悲をもって、ご理解くださいますよう、伏してお願い申し上げます……。
これは、エヴルー伯爵家、ラッセル公爵家、タンド公爵家の悲願にございます……」
私ははっきりと皇帝陛下に、三家を代表し、柔らかく抗議する。
そして、母、アンジェラはアンジェラ、私、エリザベートはエリザベートと、知っていただくため、口調をやや明るめに変える。
「今でも、“隣国”から私を気遣ってくれる、“父ラッセル公爵”は、私を花でも、蝶でもなく、麦にたとえておりました。
なぜかお分かりにございますか?」
「麦だと?あの、食べる麦か?」
私の質問が意外だったらしく、食いついてきた。ヨシッ!
「さようにございます。国民の多くの糧である、あの麦にございます。
父は、私の緑の瞳を、麦の若葉のようだと愛で、
実った麦穂のような金の髪だと、愛してくれております。
そして何よりも、麦のように踏まれても、また立ち上がる。希望を捨てずに前を向く。
まるで自分にそっくりだと。
たくましい父そっくりの私ですので、儚げな月光のような風情で、あまたの男性を惹きつけたと“風評”され、精神的な苦痛を長年被った、母のようなことはございません。
私は、ルイス第三皇子殿下、一筋にございます。
皇帝陛下の御心をご心配させ申し上げましたが、“実父ラッセル公爵”の“お墨付き”でございます。
私はルイス第三皇子殿下を、唯一人の伴侶として生きて参りとうございます。
どうかお許しくださいますよう、伏してお願い申し上げます」
ここでさらにぐっと、お辞儀を深くしてみせる。
連呼した父とは、言わずと知れた、友好関係にある隣国の宰相、ラッセル公爵だ。
その父が言うことに、いくら帝国の皇帝陛下でも難癖をつけるのはいかがなものか?
さあ、どう出る?
「……うむ。エヴルー卿のルイスへの、真摯な気持ちは、よう分かった。
ルイスもよい娘を選んだの」
ふう。これで長い長いご下問が終わったようだ。
あと少し、最後まで気を緩ませてはいけない。
てか、陛下。
私を『楽にさせる』の、すっかりお忘れですね。
ここまできたら、まあ、いいけど。
「はっ、ありがとうございます」
「タンド公爵。二人の結婚を、皇帝の名の元に認可いたす。
儀礼官と共に、婚約式、結婚式の日取りを定め、公にするがよい。
では、これまでといたそう。
エヴルー卿。いや、我が義娘ともなる、エリザベートよ。ルイスを頼んだぞ」
やっと認可が下りた。
ここは猫を総動員で、皮を被っておく。
「かしこまりました。終身の貞節を捧げ、心よりお支え申し上げます」
ここで初めて、皇妃陛下が口を開く。
「エヴルー卿。私もエリザベートと呼ばせてね。
いつも気遣ってくれて、ありがとう。
ルイスをよろしくお願いします」
「はい。この身に代えましても、お支え申し上げます」
皇妃陛下のルイスへのお気持ちは、よく分からないままだ。
まあ、焦っても仕方ない。少しずつ行こう。
「では、参ろうか」「はい、陛下」
儀礼官が謁見の終わりを告げる。
お二人は立ち上がり、広い謁見の間に、豪奢な衣装で衣擦れを響かせ退室する。
私達も謁見の間を出て、控え室へ移動する。
「エリー、よく耐えてくれた。すまない。あんなことするなんて!」
「大丈夫です。息子のお嫁さんが、どんな人間か確かめたかったんでしょう。
なんと言っても、帝国では新顔ですもの」
「陛下もいったいどういうおつもりなのか。
後日、お話しさせていただく」
うわ、伯父様が真面目に怒ってらっしゃる。
「そうね。我が公爵家を甘く見られても困ります。
中立派で帝室支持だからといって、無礼が許されると思われるのは困るもの。
さあ、帰りましょう。今日の皇城は空気が悪いこと」
静かに怒っていた伯父様伯母様と共に、皇城を退出しようとした時、酷使していた足が少しふらつく。
「危ない!エリー!やっぱり、相当負担がかかってる。
ちょっと楽にして、俺に身体を預けて」
「え?」
ルイスは軽々と、私をお姫様抱っこすると、悠々と皇城を歩み始める。
伯父様と伯母様も苦笑しているが、止めようとしない。
何これ?何のお仕置き?
思わず両手を顔に当てる。
ルイスは、「あんな質問責め、ごめん」「大丈夫、さすがエリーだったよ」「帰ったらゆっくり休んで」などと囁き、私はこくこく頷くだけだ。
行き交う官僚達の、生温かい注目を浴びながら、馬車まで連れて行かれた。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書きたい、と思った拙作です。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
いいね、ブックマーク、★、感想など励みになります。
よかったらお願いします(*´人`*)