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175.悪役令嬢のピンクダイヤモンド 2

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。


※前半はルイス視点です。


ルイスと小さな小さな家族との生活としては、51歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。


【ルイス視点】


「カトリーヌ嫡孫皇女殿下、マルガレーテ第一皇女殿下のご生誕を祝して、乾杯!」

『乾杯!』



 妊婦とお腹の子どものためのお店“テルース”が無事に開店した翌日——


 皇城では、故皇太子殿下の遺児・カトリーヌ嫡孫皇女殿下とマルガレーテ第一皇女殿下の誕生祝賀会が開かれていた。


 帝国や王国では、新年に1つずつ歳を重ねていき、誕生日を個別に祝う風習はない。

 ただし例外がある。


 子どもは『よくここまで無事に育った』『これからも無事に育ってほしい』といった思いを込め、生まれた日、もしくは前後に誕生を祝う。

 一般的に帝室や貴族は5歳まで、平民は3歳までだった。

 子どもの死亡率が今よりもずっと高かった時代の名残りとされている。


 本来なら、カトリーヌ皇孫皇女殿下は去年の7月に、マルガレーテ第一皇女殿下は8月に開催される予定だったが、“熱射障害”のため、身内のみの食事会を二人合わせて一度に行っていた。


 今回の誕生祝賀会も、皇妃陛下や皇女母殿下は遠慮したのだが、『孫娘や一人娘の初めての誕生日をきちんと祝ってやりたい』と皇帝陛下の希望で開催された。

 それでも二人一緒にしたのは、皇妃陛下と皇女母殿下の要請があり、また南部ほどではないものの、北部で熊害(ゆうがい)が発生しているためでもあった。


 日中に開催され、主に伯爵家以上が招待客で、序列による入場はない、格式ばらないものだ。


 また3歳以上の誕生祝賀会になると、申請し書類審査の上、許可が降りれば子どもの参加が認められる。


 多くは側近候補や婚約者候補の売り込みである。

 ただし帝室側はここでは相性を見る程度でさほど重要視していない。


 “ご学友”はこの場では定めず、資質が認められる12歳以上で側近候補を決めていくことが多い。特に帝立学園以降が一般的だ。

 また売り込む相手も選ぶ。

 第一皇子と第二皇子には人が集まったが、俺はほぼいなかった。後宮の状況などを考え敬遠されたのだろう。



 今日はエリーは帝都邸にいて、俺のみの出席だ。

 エリーは出席したがったが、さすがに数時間の立食は最愛の妻には辛いだろうと、クレーオス先生と二人で説得し、皇妃陛下と皇女母殿下からも許可を得ている。


 こうまで出席にこだわったのは、“中立七家”の当主夫人と共に、エリーがマルガレーテ第一皇女殿下の乳母兼教育係となっているためだった。


 一人でいると何かと面倒なため、領地に赴任中のタンド公爵家長男デュランの妻ハンナ殿をパートナーに参加していた。


 伴ってあいさつに赴くと、娘を抱いて座っている皇妃陛下と皇女母殿下は快く応じてくれる。

 私的な意味合いが強いため、祝福される二人の皇女以外、儀礼的な文言は略してよいとあったので、遠慮なくそうさせてもらう。

 儀礼上の序列はマルガレーテ第一皇女殿下が上と定められたため、呼びかけはこれに従う。


「帝国の愛らしき蘭のつぼみであるマルガレーテ第一皇女殿下。

帝国の愛らしき鈴蘭のつぼみであるカトリーヌ嫡孫皇女殿下。

お誕生日誠におめでとうございます。健やかな成長と恩寵が共にあるようお祈り申し上げます。

皇帝陛下、皇妃陛下、皇女母殿下、第五皇子殿下、第四皇子殿下。

皆様の掌中(しょうちゅう)宝珠(ほうじゅ)である両殿下のご成長をお(よろこ)び申し上げます」


 カトリーヌ嫡孫皇女殿下1歳5か月、マルガレーテ第一皇女殿下は1歳4か月で、まだまだ幼い。泣かずにいるだけでも大したものだ。

 母の膝の上に抱かれ、「まんま」「わんわん」などと言いながら、お気に入りの玩具(おもちゃ)であやされていた。


 後ろには世話役や教育係が控えており、皇妃陛下にはタンド公爵夫人とアンナ・ノックス侯爵夫人がいた。

 エリーの産後復帰までは、エヴルー“両公爵”家を除いた六家の当主夫人で持ち回る。


「ルイス、カトリーヌとマルガレーテの誕生日を祝ってくれてありがとう。これからもよろしくね。

エリー閣下の安産を願っています。恩寵と共にありますように。

最後の出仕も無理をしないように伝えてね。

ルイスも私達の分まで気遣ってあげてちょうだい」


「ルイス様、カトリーヌとマルガレーテ様の誕生祝いにいらしてくださってありがとうございます。

エリー閣下とお腹の赤ちゃんのご無事を祈っています。恩寵と共にありますように」


「お心遣い、ありがとうございます。妻には必ず伝えます」


 ここで黙って見守っていた皇帝陛下が口を開く。


「ルイス、よく来てくれた。エリー閣下の顔が見られぬとは実に残念だ。

我が孫の誕生、楽しみに待っているぞ。ルイスもよくしてやるように。母子の健康と恩寵のあらんことを祈っている」


 おそらくは皇妃陛下監修の言葉なのだろう。言わされてる感がありありだが、今はこれでいい。

 第五皇子殿下と第四皇子殿下からも(いたわ)りの言葉をもらい礼を返すと、壇上からハンナ夫人と降りる。

 付き合ってもらったことに感謝し、身重の体を(いたわ)っていると、早速“虫”がすり寄ってきた。

 俺に扇の陰で(ささや)くように話す。思わず振り払いたいほどだ。


「ルイス公爵閣下。ご機嫌麗しく恐悦至極に存じます。

この()き日に奥様がいらっしゃらないのは、いかがされたのでしょうか。心配ですこと」


 心配すると言いながらも、からかうような口調だ。

 第五皇子殿下と第四皇子殿下の立太子争いに加わっていた伯爵家の夫人だった。

 肉感的な肢体を強調しているドレスを着て、さらに所作で際立たせようとしていた。


「ていねいなあいさつ、痛み入る。

ただあなたの帝国貴族としての常識はいかがなものだろうか。

我が妻エリー公爵が、臨月の身であることは公然の事実。

類推もできずにわざわざ聞くことかどうか、少しは考えてから発言されたほうがよろしかろう」


 その足りない頭でな、と付け足したかったがやめておく。もっと言ってやりたいが、エリーはそんなことは望まないだろう。


 相手の様子を見ていると、微笑みの中にいらだちが見える。帝国騎士団の中には貴族的遊戯として色仕掛けにのる者もいる。

 俺はエリーに鍛えられ、以前よりも社交の場での発言が苦手ではなくなっていた。

 昔のままだと侮る(やから)がいれば、エリー無しでも撃退できるほどにはなっている。


「……それは失礼いたしました。でも奥様に気兼ねして何かと“ご不便”でございましょう?

もしよろしければ、ご相談を」


「全く不便などない。誰に対してものを言ってるか自覚されたほうがいいのではないか?

私と妻への侮辱は、たとえ女性であろうと受けて立つが?」


 俺は嫌らしい物言いを叩き落し、低い声で恫喝(どうかつ)する。

 妻が妊娠中、側室を設けたり、夜の街へ通ったり、また浮き名を流す貴族男性も多い。

 しかし俺にとっては唾棄(だき)すべき行動だった。

 結婚前に花街通いをしていた噂を耳にしていたのだろう。

 残念ながらアレは偽装だ。

 ここで『もう違うのだ』と知らしめていたほうがいい。

 伯爵夫人の顔色が青ざめ、言葉を失っていた。


 そこにあいさつをすませたタンド公爵が現れる。



「ルイス公爵閣下。我が家の嫁をエスコートしていただき、感謝する。ご紹介したい方がいるので、こちらへどうぞ」


「タンド公爵閣下。とんでもない。ハンナ様にもご不快な思いをさせ申し訳なかった。

さあ、ゆっくりと参りましょうか」


 タンド公爵家の嫁も妊婦なのははっきりしている。

 伯爵夫人は二重にまずいことを言ったとようやく自覚したようだった。


「あ、あの……」


 俺はさっさと背を向けるとハンナ夫人をエスコートし、タンド公爵と共に歩む。


「“虫”が?」


「はい。叩き落とすのも面倒なほどです。

ハンナ夫人、デュランは誠実です。世迷言(よまいごと)はどうか気にせずにいてください」


「お気遣い、感謝します。面と向かって、『側室を』と言われた時も、デュラン様は堂々と断ってくださっていました。

今でも信じていますわ。ご心配なく」


「それは何よりです」


 そこからは“中立七家”を中心に社交すべき相手を選び、エリーのようにはいかないが、俺なりに“両公爵”家のために振る舞っていた。



 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 その夜——


 皇帝陛下が皇妃陛下の(もと)を訪れた。

 その手には花束がある。

 人払いを命じる姿を見ながら、『またか』と内心思っていた皇妃陛下は渡されて驚いた。

 しかし表面には出さず、穏やかに微笑む。


「ありがとうございます、陛下。

とても嬉しゅうございますわ。思い出してくださったのね」


「……あ、その、うむ、実は」


 皇帝陛下は言い出しにくそうに、実情を話す。


 これはウォルフの『取り繕ったり、嘘を言っても、皇妃陛下は見抜く。そしてさらに傷つくんです。逆を考えてみてください』という助言に従ったことだった。



「そなたを慰めた時に、花を渡したことまでは思い出した。これは本当だ。日記にも書いてあった。

その色も、たぶん、たしか、白だったとも……。

だが、その後がどうしてもわからぬゆえ、庭師に聞いたり、栽培記録を調べさせたりした。

だから、これは、その、ずるい、よの……」


 最後は力無く、肩を落とす。

 このごろ、こういう姿が多くなった。


 人の気持ちを気にすることなど、皇妃陛下以外なかったし、それも『どうしてなのだ?わからぬ?』と自分に非があるとは思いもよらない感じだった。


 ところが、“花の問いかけ”を通じて、その“自信”が多少は揺らいでいるようだ。

 (おおやけ)では困るが、私的な場所ならいい傾向だと思う。

 それにもう一つ、気になることもあった。


「……周囲の手を借りた、と正直に仰られてるんですもの。ずるくはありませんわ。

まさか、渡してくださるとは思っておりませんでしたの」


「それは、(わし)が、覚えて、おらぬ?と?」


「はい。陛下は帝国の皇帝という重責を担っておいでです。この世でただお一人の至高の御方です。

忘れられても無理はありませんし、私もこの花を部屋に飾ったことはありません。

難しいだろう、と思っておりました。それを正直に仰せになることも……。

ですので二重に嬉しゅうございます」


「皇妃……」


「ああ、だからと言って、かすみ草でこの部屋をいっぱいにしようとなぞ、絶対に思わないでくださいませね。

お義母様の仰ったことはある意味正しいのです。

帝国の皇妃として、ふさわしい花は確かにございます。

私はそういうものから解き放たれたひと時、心ゆくまでまで愛でたいのです。

部屋中は、絶対に、いいですか。絶対にやめてくださいね?」


 大切なことなので二度、いや三度繰り返し、念を押す。


「う、うむ、あいわかった。今まで通り、薔薇などならよいのか?」

「はい、ありがとうございます」


 皇妃陛下は優雅に微笑む。

 そして、少し前から考えていたことを口にしてみる。


「陛下。ピンクダイヤモンドですけれど、まだ贈ってくださるお気持ちはおありですか?」


「もちろんだともッ!!あれはそなたのものだ!!

この世で一番高貴な、この帝国の、歴代の皇妃の中でも、美しく慈愛深く優しい、そなたにしか似合わぬものだッ!!」


 手を握り、勢い込んで話す。鼻息が荒いほどだ。

 この様子を見て、『やはり』と皇妃陛下は思う。


 自分がピンクダイヤモンドを忌避し、『絶対に受け取らない』と言い続ける限り、どうにかして受け取ってもらおうと、皇帝陛下も画策する。

 今回の二人の皇女の誕生祝賀会もそうだ。


 二人の母は不要だ、と言ったのに開催したのは、『遠慮するな。自分は愛娘(まなむすめ)や初孫にここまでする男なのだ』というアピールもあるのだろう。


 そして、どうしても受け取ってくれない皇妃陛下が、目をかける者に嫉妬する。


 先日呼び出したウォルフにも、エリーの件で苦言を呈したあと、触れられたのだ。



『例のものはいわくがついてしまって、あの方の自業自得です。同情の余地はありません。

ただ自分の贈り物を無視し続けるだけならまだしも、よその存在に夢中になられたら、幾つになっても嫉妬はしてしまうものなのです。

男という生き物は、心底惚れてしまった相手の前では、愚かになることもままあります。

もしくは、新しく子犬を飼い始めた時に、前からいた大型犬が子犬に嫉妬する、でもいいですかね。

とにかく1番だ、と安心させてあげてください。


今のままでは面倒なことこの上ないので、『受け取る』というよりも、『管理を自分に移す』とお考えいただけませんか?

あれは立派な国家財産です。有効利用しないと国民の血税が無駄になります。

あの方は絶対に転売などはしないでしょう。


タイミングも南部戦争が終結し、その象徴でもある灌漑工事が終わったころが、お披露目にはちょうどいいのでは?

そのころには、熊害(ゆうがい)も収まっているでしょう。

版図が広がり、治政も順調、平和の象徴としてふさわしい品です。

どうかご一考ください。そしてこれはご内密に願います』



 自分が頑なになりすぎた面もあり、その余波がどうやら周囲に及んでしまったようだった。


 確かに若い時、美形と噂されていたある国の大使とダンスを踊っただけでも、『あやつはそなたに色目を使っている』と言われたこともある。

 また、異性だけではなく、同性でもそうだ。

 お気に入りの侍女ができ、楽しそうにしていた時はむっつりとした表情を浮かべていた。それが今の侍女長なのだが。

 この傾向は今でも続いているのだろう。

 これ以上巻き込んでは申し訳ないし、自分も困る。



「では贈ってくださいませね。ただし、そのためだけの披露の夜会などは不要ですわ。

さようでございますね。南部の灌漑工事が終わったら、祝いの会を開かれるでしょう?

南部の大きな施策の一つですもの」


「うむ、そうだな」


「その時に身につけさせてくださいませ。

国民もこれで南部も少しずつでも着実に、豊かになっていけると思うでしょう。

その想いと共に身につけとうございます」


「そなたは、そなたは、なんと優しい……。

そなたを皇妃にして、本当に、本当に、よかった……」


 うっすら涙を浮かべてまで喜ぶ皇帝陛下の目元に、ハンカチをそっと当てると、柔らかに微笑む。


「私も皇帝陛下に嫁いでようございました。

では、どのようなデザインがよいか、ご一緒に考えませんこと?」


「うむ!そうしようぞ!」


 少年のように笑う皇帝陛下に優しい眼差しを送りつつ、皇妃陛下は次代の皇帝となる第五皇子の教育に、思いを馳せていた。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。

誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

★、ブックマーク、いいね、感想などでの応援、ありがとうございます(*´人`*)


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コミカルなファンタジーを目指した作品を連載中。

精霊王、魔術師とその養娘を中心にしたお話です。


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序章後の1話からは、魔法のある日常系(時々波乱?)です。

短めであっさり読めます。

お気軽にどうぞ。

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悪役令嬢エリザベスの幸せ
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