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167.悪役令嬢の戦勝祝賀会 下

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。


※今回から出てくるラウリカ王国は、今まで“王国”と呼んでいた、エリーの故国の正式名称です(^^;;

諸般の事情で付けることとなりました。

よろしくお願いしますm(_ _)m


ルイスと小さな小さな家族との生活としては、43歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。


 開催を告げる第一声は皇帝陛下だ。


『国を挙げ一丸となった、南部戦争の勝利を記念し戦勝祝賀会を開催し、皆が親交を深める社交シーズンの幕開けとする』という要旨のお話をされた。


 建物が共鳴するほどの、万雷(ばんらい)の拍手が起こる。


 乾杯のあいさつは、第五皇子殿下だった。


 爽やかな中に、誇りや気高さも感じさせる声で短くまとめると、「乾杯!」とグラスを掲げる。


 あちこちで、「乾杯!」と言い交わす声が聞こえる中、私とルイスもグラスを掲げる。

 ルイスはシャンパン、私は炭酸水だった。


 ここからは、叙勲、褒賞の発表だ。

 多くの貴族は新聞で知っているだろうに、どこか緊張した面持ちで雰囲気が一気に引き締まる。

 儀礼官が皇妃陛下によるご進言で新たに設けられた、と“ミネルヴァ勲章”について説明する。


 戦略と文化の女神の名を冠するとおり、『帝国の文武と社会福祉など多くの分野において、大きな功労のあった臣民、及び他国民や団体へ贈る。身分・性別・国籍は問わないものだ』と伝えると小さなざわめきが起こる。


 貴族は自分達の既得権益を侵そうというものに対しては敏感だ。

 ここで皇帝陛下からお言葉がある。


「皆の者、よく聞け。今年は国難とも言える“熱射障害”に見舞われ、さらには南部戦争もあった。

帝国国民、皆の能力を発揮してくれたと思うが、現在の叙勲では表彰できぬ者もいる。

また多くの分野にまたがり、力を結集した。

彼らに報いるために創設したが、これからの帝国の発展にとっても非常にすばらしい勲章の基準と(わし)は考える。以上だ。

儀礼官、発表せよ」


 皇帝陛下の朗々とした威厳と重み、圧のある言葉は聴覚だけではなく、皮膚からも伝わってくる。


「は、はい。ではミネルヴァ一等勲章から表彰を行います。


まず、友好国であるラウリカ王国国王陛下、ソフィア薔薇妃殿下、エリザベス第一王女殿下、ラッセル宰相閣下、ドラコ提督閣下、“米”研究者一同殿の貢献に深く感謝し、ラウリカ王国へ贈呈させていただきます」


 王国大使閣下が進み出て、個人以外の団体などに授与される表彰盾を皇帝陛下から、功績を記された賞状を挟んだ書類挟みを皇妃陛下から拝受する。


 が、ちょっと待って。私の名前が入ってる。全く聞いてません。きっとお父さまの手配だわ。


 ルイスとさりげなく視線を交わす。『あとで』と口形を作って伝え、優美に微笑む。

 本当に油断はできない戦場だ。


「帝国を(あまね)く照らす太陽たる皇帝陛下。

帝国の麗しい月である皇妃陛下。

我が主君に代わりまして、お預かりさせていただきます。

主君より、『二国間の友好が長く続くよう、願っている』との言葉を申しつかっております。

何卒よろしくお願い申し上げます」


「確かに承った。(わし)の願いも同じだ。このたびの助力、母なる大河のごとく深く感謝いたす」


「はっ、ありがとうございます」


 静々と壇上から下がり、各国大使達の定位置に戻る。


「続きましては、同じくミネルヴァ一等勲章の授与です。

エヴルー“両公爵”、ルイス閣下、エリザベス閣下、天使の聖女修道院、帝国騎士団及び騎士団長閣下、以上です」


 院長様やクレーオス先生など貴族籍に属さない方々は別室で待機し、壇上に案内される。

 これは叙勲前に身分ゆえの誹謗中傷などから守る配慮だった。


 勲章や表彰盾を皇帝陛下から、功績を記された賞状の書類挟みを皇妃陛下から各々に授与される。

 勲章はその場で侍従達が付けてくれた。


「帝国を(あまね)く照らす太陽たる皇帝陛下。

帝国の麗しい月である皇妃陛下。

ありがたき幸せに存じます。

これからも帝国のため、帝国民のため、努力してまいります」


 私とルイスは一言一句、同じだった。

 あえて“帝室”は抜き、『尽力します』とは絶対に言わない。

 非難もされない、無難な言葉に収めておく。


 『尽力』なんて言えば、皇妃陛下がかばってくださっても、こき使われかねない。


 このところのウォルフ騎士団長の動きがそうだった。

 ルイスの育ての親、兄ともいうべき人を警戒しなければならないのは悲しいが、騎士団長の職務からすれば当然だ。

 あの方の第一義は皇帝陛下、そして護国だ。

 そのためなら何でもおやりになる。


 天使の聖女修道院院長様は、壇上でも静穏な空気をまとい、この会場の中で最も高貴に思える振る舞いだった。

 皇帝陛下にも皇妃陛下にも臆せず、表彰盾と賞状の書類挟みを礼儀正しく拝受する。


 帝国騎士団からは騎士団長と副団長が、壇上に騎士らしく堂々とした所作で上がり、各々勲章と表彰盾、賞状を書類挟みで授与された。



「この者達もしくは団体は多大なる功績により、第一等勲章もしくは表彰盾を授与された。


特に、エヴルー“両公爵、ルイスとエリザベスよ。

そなたらの多大なる奉仕と労苦に報いる褒賞として、帝都とエヴルー公爵家領 地 邸(カントリーハウス)付近を結ぶ特別道路を授ける。

工事はまもなく始まる。よいな」


「はっ、ありがたき幸せにございます」

「身に余る光栄でございます」


 皇帝陛下の仰せにルイスは騎士礼を取り、私は浅めに見えないよう優雅にゆっくりとお辞儀(カーテシー)を行う。


 ルイスは帝室への忠義を体現した近衛役の儀礼服姿で目録を拝受し、私はエヴルー領と騎士団を代表し寄り添う。

 貴族達が見ている私達の背中には、帝国騎士団とエヴルー騎士団の紋章が(きら)めいているはずだ。

 別々のモチーフだった理由がわかった者もいるだろう。

 エヴルー公爵家及び騎士団は、帝国と帝室に忠誠を誓うことを表していた。


 会場はどよめいていた。新聞でもこの褒賞は発表されていなかったためだ。


 私が断った約2倍の領地に代わり、皇妃陛下と伯母様がお考えになった“褒賞”が、『帝都・エヴルー間特別道路』だった。


 まさしくほぼ一直線にエヴルー領 地 邸(カントリーハウス)へ通じる計画だ。

 新しく壁門も作り、門番も常駐し、許可された者だけが使用できる特別道路だ。

 馬車では約2時間、馬では2時間を切り、より便利になる。


 皇妃陛下が仰るには、私達がエヴルーに引きこもっていると、エヴルー脅威論などを言い出す(やから)が必ず出てくる。


 そんな時、この道路があれば——


 たとえ不埒(ふらち)な考えに及んでも、『エヴルーへはいつでも出兵できる。喉元に剣を突きつけられた状態で、忠義の証拠に弱味を晒している』と充分に脅威論の反証となり得る。

 ある意味、犬が服従の(しるし)に柔らかい腹部を晒して見せるのと同様だ。


 帝都には強固な“壁”が存在する一方、エヴルー領 地 邸(カントリーハウス)に軍事的な防壁は一切ない。通常の邸宅としての壁のみだ。

 それもところどころ生垣だったり、縦格子だったり、より脆弱(ぜいじゃく)だ。


 エヴルー騎士団の団員も帝都騎士団よりは少ない。

 『さあ、討伐したければどうぞ』という状態とする案だった。


 もしもそうなれば、私とルイスはさっさと逃げると決めていた。

 またそうならないよう、のんびり“珍獣”生活を送れるだけの最低限の社交と、“中立七家”を中心とした政治活動は行う予定だ。


『“本当に必要な”お召しなら特別道路で参ります』という安全弁でもある。


 私達にとっては、“緊急道路”を使うよりも時間をさらに短縮できる。またより新鮮なエヴルーの農産物を帝都に届けられる。


 かつ、南部を危険と避けて、行き場がなかった北部出稼ぎ労働者の受け皿だった。


 帝室はそれなりの褒賞を渡し面子を(たも)て、エヴルー公爵家は交通の快適さを手に入れ、かつ脅威論を駆逐でき、大規模な公共工事で行く当てのなかった出稼ぎ労働者を雇う。


 3つの大きな利点がある褒賞だった。


 ルイスが代表し目録を拝受すると、私をエスコートし定位置へ戻った。集中する視線には臆せず、凛とした態度で壇上を見つめていた。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


「それでは、ミネルヴァ二等勲章授与に移ります」


 私達と入れ替わりに、伯父様と“中立七家”から三家、各公爵家騎士団に授与される。

 エヴルー公爵家騎士団代表として、帝都邸(タウンハウス)駐屯の副団長が拝受する。

 ここで、改めてドーリス公爵家騎士団が呼ばれないこと、公爵自身の名も呼ばれないことに会場中が気づく。たとえ欠席でも名前を呼ばれはする。

 降爵し侯爵家当主となった長男は出席を自粛していた。



 三等勲章は、“熱射障害”や南部問題に奔走した行政官達、帝国騎士団の隊長クラス、ここにはピエールも加わり、そしてクレーオス先生もいらした。

 療養中のお祖父様であるタンド先代公爵の分は、伯父様が代理で受け取っていた。


「いやあ、待たされましたわい。

早くおいしいものを頂戴したいものですのお」


 拝受後、私たちのところにいらしたクレーオス先生は、いつも通りで安心する。


「いや、二度目でも緊張するもんだな」


 笑顔のピエールを皆で出迎える。


 第三等は人数が多く、流れ作業のようになっていたが、皇帝陛下から授与された勲章を嬉しそうに見ていた。


 四等と五等は別日を設け、儀礼官から授与すると告知される。これは公告(こうこく)もされ、新聞にも掲載されていた。


〜〜*〜〜


 叙勲と褒賞が終わり、舞踏会が始まる。


 最初は皇帝陛下と皇妃陛下が踊られ、次はなんと皇女母殿下と第五皇子殿下だった。


 まだ身長差があり微笑ましいが、良好な雰囲気は伝わってくる。


 帝王教育の合間に、『僕の姪御ちゃん』と言い、第四皇子殿下と共に先触れの上、皇女母殿下の娘である、カトリーヌ嫡孫皇女殿下の許によく遊びに行ってるらしい。


 そういった交流が生み出す雰囲気なのだろう。

 義姉と義弟であり、実の姉弟とも違うが、柔らかい雰囲気だった。

 お二方が典雅に微笑まれて、ワルツを終える。


 その後は中二階のオーケストラボックスから流れる音楽に合わせ、皆が踊り始め一気に華やかな雰囲気となる。


 ご夫人とご令嬢方は交流に余念がない。

 ルイスに寄り添われた私も、“中立七家”の方々を中心に、ごあいさつにくる方々のお相手をする。

 皆様、お腹の“ユグラン”の成長について(たず)ね、口々に祝ってくださる。本当にありがたいことだ。

 クレーオス先生も皇城の御馳走にご機嫌のご様子だ。


 そんな中、ルイスにダンスのパートナーを申し出る、若い、17、8歳ほどの令嬢がいた。

 私が横にいるのに良い度胸だ。帝国北部に領地を持つ辺境伯の令嬢だ。

 帝国では辺境伯は、伯爵と侯爵の間と序列では定められていた。


「ルイス様、私と踊ってくださいませんか?奥様とはご無理でございましょう?」


 ちらっと私を流し目で見て、誇らしげに笑う。

 確かにまもなく妊娠10か月を迎える私にダンスは無理だ。

 だが、あなたは全くお呼びではない。


「失礼だがどちらのご家門だ?我が最愛を侮辱したと抗議をさせていただこう。

それに妻が親しくしている方々と踊る約束をしている。君の出番はない」


「お茶会を断ってばかりの奥様と、ご親交されてるお相手なんていらっしゃるのかしら」


 ああ、思い出した。

 何度かお茶会の誘いがきたが、執務を理由にお手紙でていねいにお断りしたのだ。

 北部の方々は南部の“熱射障害”や戦争について危機感が薄かったものね。タンド公爵家や“中立七家”の方々は違いますけど。

 今は熊害(ゆうがい)でそちらも大変なはずなのに。ご存知ないか、知っていても興味が薄いのだろう。



「ルイス様。私のお相手をよろしいかしら?

あら、アルデン辺境伯令嬢ではなくて。ここに何のご用かしら。

お年頃のご令嬢がお一人では何かと大変でしょうに。お母様はあちらにいらしてよ」


「し、失礼いたしました……」


 伯母様が優雅な所作で現れ、扇でとある場所を指し示す。

 暗に『立ち去れ』と圧をかけていた。

 いくら辺境伯令嬢でも百戦錬磨の伯母様に叶うはずがない。


「ルイス様。私の後はノックス侯爵夫人、最後は皇妃陛下でございましょう。さあ、参りましょうか。

エリー“殿下”はうちの人と王国大使閣下のお相手をお願いね」


「ああ、君。ご家族のところに早く戻りたまえ。

今のうちならタンド公爵夫人に免じ、妻と私への“不敬”は問わない」


 “不敬”という言葉で、改めて私のもう一つの身分、伯母様もこの時とばかりに“殿下”呼びした、ラウリカ王国の第一王女であることを思い出したようだった。

 顔色がさあっと青くなる。


「……か、かしこまりました。失礼します」


 お辞儀(カーテシー)をしたあと、そそくさと去っていく。まあまあの所作だが、磨き方が足りなく思えた。


「面倒だこと。きっとルイス様を足がかりに、第五皇子殿下の妃候補に選ばれたいんでしょうね」


「候補は選定委員会が決めるとお聞きしましたが」


 皇妃陛下が公平を期し、帝国の皇妃にふさわしい女性を選ぶ、と仰っていた。


「年ごろで狙っている令嬢達がもう動き始めてるのよ。

来年の立太子の儀の時には決めるんじゃないかって。

そんな噂に踊らされてる時点で失格ですけどね。

さあ、ルイス様、予定が押してしまいますわ」


「ああ、公爵。エリーを頼む」

「かしこまりました。エリー、行こうか」

「はい、伯父様」


 私は王国大使閣下と手紙ではなく、久しぶりに歓談しながら、踊るルイスを視界に入れる。

 ちなみに大使閣下は、私が功労者に名を連ねることを了承したと思っていた。

 お父さまったら、もう。心配性ですこと。


 ルイスは伯母様の次は私のお友達のアンナ・ノックス侯爵夫人の相手を務める。

 最後は皇妃陛下だ。皆が場所を譲り、ホールの中央でもエスコートは堂々としていた。

 私はお腹をなでながら、小さく語りかける。


「“ユグラン”、あなたのお父様はとても立派で凛々しくて、素敵な殿方なのよ」


 皇妃陛下と礼を交わしたあと、踊るルイスの姿を、初めて踊った紛争勝利祝賀会の時と重ねる。


 『リードが上手になったなあ。私も早く一緒に踊りたいなあ』と、微笑ましくも、ちょっぴりうらやましく眺めていた。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。

誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

★、ブックマーク、いいね、感想などでの応援、ありがとうございます(*´人`*)


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悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
地元で被害がでている、もしくはその可能性が高いのに全く無関心な令嬢では、皇太子妃はおろか有力貴族からの誘いも絶望的でしょう。 本人無自覚だけど、恥を晒しに来たのかな?祝賀会の余興に。
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