16.悪役令嬢の相談
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
エリザベスが幸せになってほしくて書いた連載版です。
これで16歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
※今回は、小話的なほのぼの回です。
「伯父様、伯母様。私、ルイス王子殿下の結婚のお申し込み、お受けしようと思います」
伯父様から、ルイス殿下の言動記録書をお借りし、伯母様や院長様から、お話を伺ってから、数日後—
伯父様の執務室で、お二人に切り出していた。
「そうか、決めたか」
「決まったのね。おめでとう。エリー」
伯父様と伯母様も、実にシンプルに受け入れてくれる。
少し拍子抜けするくらいだ。
伯母様が両手を合わせ、『パンッ』と軽やかな音を立てる。
「だったら、まずはルイス殿下にご連絡して、お越しいただかないとね。
婚約式と結婚式の日取りを決めないと」
「まずは、皇帝陛下と皇妃陛下へお伺いではないのか?」
伯父様も伯母様も、うきうきされていらっしゃるようだ。
「あなた。今回は、ルイス殿下ご自身が、結婚のお申込みに、単独でいらしてます。
エリーも独立した貴族であるエヴルー女伯爵。
ですから、エリー自身がルイス殿下へ承諾のお返事をする。
二人で、皇帝陛下と皇妃陛下にお許しのお伺いを立てる。
もちろん後見役の私達も一緒です。
エリー。正しくはこの段取りでしょう?」
伯母様が私に儀礼を確認する。先日、謁見の際、帝国の帝室儀礼の本に、一通り目を通していたためだ。
「はい、伯母様の仰る通りです。
ただ両陛下のご心証があるので、正式なお伺いの前に、ルイス殿下から、『結婚に同意した』と簡易なご報告をされた方がよろしいかと存じます」
「うふふ。完璧ね。エリー」
「やっぱり儂の言う通りではないか」
お二人仲良しで、ご機嫌だ。こちらまで幸せのお裾分けだ。
あれ、結婚を承諾した、私がご機嫌のはずでは?
まあ、いいかな。
「まあまあ。あなた。
お相手は皇子殿下なんですよ。
滅多にない婿入り婚。これから面倒な帝室儀礼が待ち受けてます。ご覚悟をなさいませ」
「わかった。祝い事だ。ケチの付けられんようにしなければな」
えっへんとふんぞり返った伯父様をよそに一転、伯母様の目が輝き始める。
「それより何より、ドレスとパリュールの準備ね。
婚約式と結婚式の二揃え。
そのためにも日取りは早く決めないと。
楽しみね、エリー」
先日の謁見のためのドレス作りの時のように、私は気圧される。
でも今回は、一生に一度だ。
少しずつ楽しみになってきた。
帝国の一般的なパターンを確認してみる。
「あ、ありがとうございます、伯母様。
伯母様の時は、婚約式と結婚式はどれくらいの間を空けてたんでしょうか?
王国だと、婚約期間が長くなければ、一般的には婚約式が半年後、結婚式は1年後なんですが……」
「帝国も似たような感じよ。ねえ、あなた?」
「そうだな。ただ今回は帝室のお方がお相手だ。
そうだ。ドレスとパリュールは二揃えではなく、三揃えだ。
エリーの、エヴルー女伯爵から、女公爵へ陞爵の際も必要だろう?」
伯父様が重大なことに気づいてくださった。
仰る通り、3パターン必要だ。
それに、ルイス殿下は第三皇子殿下、私は隣国の公爵令嬢かつ、恐らく陞爵して女公爵となる。
後見役はタンド公爵家だ。
その費用を考えるだけでも恐ろしい。
だが、これで経済が回る面もあるのだ。
王国での見積もりを思い出す。
あの時は用意し始めるの、密かに延期しといて、よかった。血税が無駄になるところだった。
「まあ、私としたことが!
そうだわ。その日程も考えてご相談しないと。
招待客のリストもだわ」
「決まり次第、ラッセル公爵にもお報せしないとな」
「どの段階で連絡するかが問題よね。“鳩”を飛ばさないといけないでしょう?お返事した後かしら?」
「する前だと、行き来に7-10日はかかる。1往復で話が収まるか……。
ラッセル殿は、エリーを大切に思われているからなあ。
何せ、一人っ子で一人娘の結婚話だ……」
お二人の視線が私に集まる。
父のことだから、絶対に一往復ではすまない。
反対はしないだろうが、経緯は確実に聞いてくる。
「あの……。お父さまはお返事を差し上げる前と後、1度ずつ、“鳩”を飛ばせばよろしいかと思います。
手紙に詳しい経緯を書いて、よろしければ、ルイス殿下にも挨拶を書いていただいて、同封して送れば、父の気がかりが少しでも減るかと。
それと、ちょっと、伯母様にご相談したいことがあって。
あの、ドレスやパリュールのことではありません」
話している内に、引っかかることを思い出した。
小さなことだが、喉に骨が引っかかったようだ。
今のうちに、ルイス殿下にお会いする前に、解消していた方がいい。
「あら、何かしら。では、場所を変えましょうか」
「エリー。よかったら、儂も話を聞くぞ?」
「ごめんなさい、伯父様。
ちょっと恥ずかしいお話なので、まずは伯母様と、でお願いします」
うん。伯父様には絶対聞かせられない。
心配してくれてるのに、ごめんなさい。
「ふむ、わかった。紳士は淑女の嫌がる事してはならぬからな。ラッセル殿に送る“鳩”の準備でもしておこう。
「じゃあ、エリー。私の部屋に行きましょうか」
寂しそうな伯父様を置いて、相談の場所を伯母様の部屋に移す。
〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜
「それで、どういった相談なのかしら。
恥ずかしいって」
ハーブティーを給仕してくれた後、人払いしている部屋で、伯母様は楽しげに微笑む。
対照的に、私は恥ずかしさに顔を赤くしながら、伯母様に答える。
この歳でこんなことを相談って—
「あの……。ご相談したいのは……。実は……。
初恋の……。
アルトゥール殿下との、想い出の品の、処分方法なんです」
「え?」
ここで私は、王立学園の生徒総会での追究の場で、色んな意味で決着をつけるために、一つひとつ、二人の想い出の品を示した上でまとめ、お別れをしてきたと説明する。
「エリー。ごめんなさいね。念のため。
アルトゥール殿下にも、その、初恋の、品物にも、気持ちは全く残っていないのよね?」
「はい、全く」
「でも、持ってきてしまったのね?」
「はい。迷ったんですが、お父さまとご相談する時間もなく、ただ置いていけば邪魔だったでしょう。
今となれば、お父さまに処分や保存を頼んだりするのも、違うかな、と思って」
ここで、私は思い出の品のリストを、伯母様に見せる。
「ふ〜ん。なるほど。
エリー、全く夢のない話をしてもいいかしら?」
「はい、伯母様」
「これを分けるとすると、可燃物と、燃やさずに引き取ってもらえるものに、分別できるわよね?」
「え?」
何か、初恋の品物とは、すごいギャップの言葉が聞こえたような気がする。
「白詰草の《栞》は燃やせるでしょう?
誓約書や、リボン、房飾り、ハンカチ、ハーブの香り袋も可燃物だわ。
豆本は価値があるかもしれないから、別にして。
この6つは確実に燃やせるわ」
「はい、伯母様。ただどこで燃やすか……。
灰でもエヴルーの領 地 邸に残るのは嫌ですし、川に流すのも、気が引けるというか……」
「だったら、院長様にお願いしてみましょう」
「院長様に?」
天使の聖女修道院の院長様に、何故に?
「えぇ、聖堂では祭壇前に、花や果実を捧げているでしょう。
毎日清掃なさった後は、どうしてるか、エリーは知ってる?」
「はい、花や果実は祈りを捧げた後、堆肥になさってます。
果物が入っていた籠などは、別の場所で、聖壇の蝋燭の火で、燃やして、灰は堆肥に混ぜて……。
あ、そういうことですか」
「そういうこと。それならすっきりしない?」
「はい、すっきりします」
これで6つが一気に解決だ。
「豆本、銀のペン軸、ブレスレットタイプの時計も、院長様に相談してみましょう。
遺品の扱いで、棺にそのまま入れる時もあれば、修道院に処分を頼んでいる時もあると思うの。
たとえば、銀のペン軸とかは、遺族の意向で、古物屋で引き取る時もあれば、金属業者が溶かして売買したい。とかね。
紹介してもらえると思うわ」
なるほど。貴金属は溶かす。
うん、跡形もなく、物品の見分けもつかない、銀や金の延棒の一部になる。
とても良い方法だ。
「銀のペン軸はそのまま出せます。
ブレスレットは、分解して、金の部分は溶かして、宝石と時計は外して、売買希望です。
代金は修道院へ寄附します。
アミュレットは宝石は偽物、腕輪はメッキなので、業者に鋳潰して欲しいです。
処理代金が発生したなら、支払います」
「うんうん!それでいいと思うわよ。
あと、豆本は価値があったら、どうするの?
割りとメジャーな作品だから、値がつくかもしれないわ」
伯母様が意外な意見を仰る。確かにその可能性もある。
「値がついたら、売買して寄附します。つかなければ、燃やす方向ですね」
「孤児院の子ども達にあげるのは、どう?」
「そうですね……。
子ども達は喜ぶとは思います。
ただ私が目に留まるのが嫌なのと、万一でもルイス殿下に気づかれるのが恥ずかしいので、売買か焼却を希望します」
「売買されたら、どこかで巡り合うかもしれないわよ?」
「その時は別の持ち主の所有物です。私の物ではないので構いません。
大切にしてたので、ほぼ新品。書き込みなどもありません。
巡り合っても、分からないと思います」
伯母様に話していると、心の中の引っかかりが溶けていくようだ。やっぱり口に出すのって大切だ。
「わかったわ。
残るは、石のペーパーウェイトね。
なんのかんの言って、一番、取扱いが難しいわ。
領地の川に投げ込んじゃうとか、どうかしら」
『木は森に、石は河原に隠せ』と思うし、それが一番手っ取り早いのだが、まだ引っかかる。
すっきりしたいのに。
「我儘かもしれませんが、ルイス殿下と私の行動範囲にあるのは、嫌なんです」
「ただの石でしょう?川の中で形も変わって、苔も生えて、見分けがつかなくなるでしょうね」
「……それでもなんとなく。
あ、お父さまとの連絡で、王国に使いは行きますよね」
「そうね。前よりは頻繁になるでしょう。
一番は、ルイス様へ承諾のお返事をした後に出すお手紙でしょう」
「だったら、運び手に、国境を越えた王国の川に投げ込んでもらいます。それなら気になりません」
王国のものは王国に—
これで解決の目処が立った。
「エリーがいいなら、それでいいと思うわ」
「ありがとうございます、伯母様。これでスッキリします」
私は伯母様へ満面の笑みを向ける。
本当にすっきり。
初恋の想い出の品もさようなら。
「実物はどこにあるのかしら?」
「エヴルーの領 地 邸の私の部屋です。王国から移動してきた時のバッグに入ってます」
「なら、盗まれる可能性もないわね。安心しなさい」
「はい、伯母様」
「これで後顧の憂いなく、三組のドレスとパリュールに集中できるわ。
すぐにマダム・サラに連絡しないと。ね、エリー」
伯母様はにっこり、会心の笑みを向けた。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書きたい、と思った拙作です。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
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