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166.悪役令嬢の戦勝祝賀会 上

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。


※少し短めです。


ルイスと小さな小さな家族との生活としては、42歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。


 日中のパレードのあと、夜は戦勝祝賀会——


を兼ねた社交シーズンの始まりを告げる舞踏会でもある。


 私にとっては、“珍獣”生活を実現し守るための大切な陣地建設の場だ。


 他の貴族令嬢や夫人にとっては、開催が通常よりも3週間ほど遅れたため、待ちに待ったと意気込みが控え室まで伝わってくる。


 初夏から社交シーズンの終わりにかけて、“熱射障害”に“シリアリス(穀物)”奨励の時期と重なった。

 お茶会に出ていた方々のお手紙によると、帝室からは自粛要請は出ておらず、各々で工夫はしていたが、いつも通りにお洒落を楽しめる雰囲気ではなかった。


 ただしその発散も兼ねてか、お茶会の開催は多かった。私もお断りのお返事が多すぎて、一部は本文を侍女に任せてサインのみ、もあったほどだ。


 その分、今日の戦勝祝賀会兼舞踏会と、新年の儀につぎ込んだらしい。

 経済が回るのは良いことだ。


 パレードで同乗した私は、すぐに帝都邸(タウンハウス)に戻り休養し、この戦勝祝賀会のための用意にかかった。

 私にとってはこちらが重要で本番なのだ。



 今夜のドレスはスクエアネックのエンパイアタイプだ。

 黒い肩から青い裾へグラデーションに染め、エヴルー“両公爵”家の紋章を、金糸で夜空に輝く星のように小さく散りばめて刺繍している。

 エヴルーの染料工房と刺繍工房の皆の努力の結晶だった。もちろん寒さ対策も万全で、ドレスの下は温か仕様だ。


 これに真紅のサッシュにガーディアン三等勲章を重ね、胸に星賞を付け、エヴルー“両公爵”家紋章が刺繍された腰丈の黒い肩掛けマント(ペリース)を羽織る。


 宝飾は結婚式の時にルイスから贈られた品を選んだ。

 ネックレスは、大粒のサファイアとオニキスが連なり、小粒のダイヤモンドが散りばめられた金細工の中央にイエローダイヤモンドが輝く。

 ルイスに護られた私を象徴しており、デザインを合わせた指輪とイヤリングを身につけ、結い上げた髪を櫛で飾る。


 この装いはエヴルー“両公爵”家領と、ルイスと私の睦まじさの象徴だ。


 ルイスと自分の生活を守るためだと思えば、ドレスも厳選し宝飾もいろいろ考える。

 また領地運営と応えてくれた領民の努力の結実なのだ。愛しさも込み上げ楽しさも出てくる。


 あの王妃教育で『一生分着たからお洒落はいいです』と思っていたのも、少しずつ変わって来てるのだろうか。

 それでも一般的な貴族女性とは意気込みの方向性が違うと思うし、それはそれで自分らしいと思うことにする。



 今夜のルイスは、白地と金の飾りの近衛役の儀礼服に、帝国騎士団紋章を金糸の刺繍した腰丈の肩掛けマント(ペリース)を羽織っている。

 真紅のサッシュにガーディアン三等勲章と胸に星賞を着け、ピアスは私が贈った大粒のエメラルドだ。


 黒が一番似合うのだが、白もいい。

 印象が少し和らぎ、凛々しくも優しく見える。

 本当にきゅんきゅんしてしまう。

 嫌がられるだろうから絶対にやらないけれど、着せ替えしてもらいたくなる。


 あ、今やっと、マダム・サラや伯母様の気持ちがわかった気がした。


 ついお着替え想像にふけっていると、ルイスが私をじっと見つめている。

 『え?バレちゃった?』と焦るが、ルイスはサファイアの瞳をまぶしそうに細める。



「昼も綺麗だと思ったけれど、今はもっと綺麗だ。

俺の贈ったパリュールを付けてくれてて、その……。やっぱり嬉しいよ」


 もう、少し照れて言ってくれるところが、本当に嬉しい。

 白の近衛役の正装もまっすぐに()めたいのだが、アレ(=“あの”皇太子)が犬扱いしていた記憶ともかぶるだろうから難しい。


 でも、伝えたい。


「私もルー様の白いお召し物すてきだと思ってたの。エヴルー騎士団でも白い儀礼服、作ろうかしら。

マダム・サラが改良してくれたけれど、夏場の黒い儀礼服はやっぱり暑いでしょう?」


「ああ、それは確かに。検討してもいいかもしれないな」



 やりました!確約いただきました!

 胸の中でつい握り拳を作ってしまう。


 ついでというか、こちらが主になると思うが、ルイスの嫌な記憶が上塗りできたらいいな、と思う。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 公爵家控え室でも数人、肩掛けマント(ペリース)の方がいらした。皇妃陛下が身につけられたおかげで、スタイルの一つとして定着したようだ。

 それに今日は戦勝祝賀会だ。帝国騎士団への祝意を表す意味もあるのだろう。


 公爵家の方々に順番にごあいさつしたあと、タンド公爵家の許へ行く。

 伯父様と伯母様、ピエール夫妻が出席していた。


 長男のデュランは領地で熊害(ゆうがい)の対応をしており、奥様は懐妊の発表前でご遠慮されたのだろう。

 一方、次男のピエールは日中のパレードにも参加し、隊長として部下を率いていた。


「伯父様、伯母様、ピエール、お義姉様、今日の良き日を迎えられたことをお慶び申し上げます」


「公爵、公爵夫人、ピエール夫妻もこの度はおめでとうございます」


 私とルイスはタンド公爵とピエールの叙勲のお祝いを伝える。


 ミネルヴァ勲章については、今朝の新聞で報道され、その意義についても説明されていた。

 『身分、性別、国籍に関わらず』という点、皇妃陛下直々のお指図という点で、やはり注目が集まったようだった。


「エヴルー“両公爵”閣下こそ、お祝い申し上げる」

「本当に素晴らしいこと。これからもよろしくね。

エリー、ルイス様」


 伯父様は元より、伯母様もお祖父様の負傷の衝撃から立ち直られたようだった。


「エヴルー“両公爵”閣下より、お祝いのお言葉を頂戴し、恐悦至極に存じます。

こんな感じでいいですか、母上」


 ピエールが騎士礼を取りながら決めたあと、伯母様に確認を兼ねてからかう。伯母様が「ピエール?」と視線で(たしな)めると肩をすくめる。


 こういうところは変わらない。

 ただ激戦で部下を亡くしている。思うところもあるだろう。

 もう少し落ち着いたら、ルイスと一晩でも語り明かして欲しかった。

 私達には言えない何かがきっとあると思う。



 私はピエールの妻、お義姉様にそっと寄り添い、耳許で(ささや)く。


「もう、お加減はよろしいんですの?」


「えぇ、もう悪阻(つわり)は終わりましたの。

“テルース”の『ガイドブック』が役に立ってますわ。聞きづらいことも書いてあって助かってます」



 “テルース”とは、まもなく開店予定の『妊婦とお腹の子どものためのお店』で、出版物も取り扱っている。

 『妊娠ガイドブック』とは、妊娠について現在わかっている事実をわかりやすく解説していた。

 口には出しにくい妊娠あるある、各時期のお腹の子どもの成長や妊婦の悩み、注意点やその対策なども掲載している。

 クレーオス先生を始めとした産科の先生方に監修していただいていた。



「それはようございました。お気軽にお手紙をくださいませね。大変でしたでしょう?」


 妊娠初期の不安定な時期に夫ピエールは出征中で、ようやく無事に帰ってきたと思ったら、今度は領地で熊害(ゆうがい)だ。

 心が揺れやすい時期に辛かっただろう。


 私もルイスから預けられた識別票(シグナキュラム)を握って無事を祈り、ルイスそっくりのサファイアの瞳をした黒犬の抱きぐるみと一緒に眠っていた。


 そして手紙を書いては、引き出しに入れていた。

 出せば負担になりかねない。戦いに集中し生きて帰って来てほしい。でも恋しいし会いたい。

 思いの丈を言葉に書きとめるだけでも、少しは楽になっていた。


「エリー様……」


 少し潤んだ瞳で見つめられ、私がそっと背中をなでる。


「ピエールに余裕ができたら、こき使うといいですわ。あのように元気なんですもの」


「ふふっ、確かにそうですわね。でもこき使うとは?」


「お買い物の荷物持ちとか、散歩の時の日傘持ちとか、お手紙の口述筆記とか、何でもさせればいいんですの」


「楽しそう。今度お願いしてみますわ」


 ルイスや伯父様夫妻と歓談しているピエールは、進んでいる話を予想もしていないだろう。

 がんばってね、ピエール。


〜〜*〜〜


 公爵家の入場の順番が来て、扉の前に移動する。

 私達は臣下としては最後で、それは序列1位を表す。

 久しぶりの緊張感は熱を帯び、冬の冷えた空気に少し心地よいくらいだった。


「エリー、お手をどうぞ。この1年間、エリーをエスコートする権利を俺にください」


 帝国騎士団近衛役の白い儀礼服のルイスがエスコートしてくれる。


「はい、ルー様。喜んで。1年ではなく一生ですわ」

「確かにそうだ」


 互いに微笑みあったところで、侍従が合図する。


 ここから先は戦場だ。



「エヴルー“両公爵”閣下、ご入場です!」


 儀礼官の言葉と共に扉が開かれ、ルイスのエスコートで私はゆっくりと、その分優雅に歩く。


 ここは数代前に建てられた舞踏会専用の建物で、(ぜい)の限りを尽くしている。

 見事なアーチを描いた高い天井、そこに色鮮やかに描かれた帝国の建国神話、(きら)めく巨大なシャンデリア、室内装飾もすばらしい。

 好みは分かれるだろうが、これ自体が豪華な芸術品だ。


 途中から床がダンスホールらしく、鏡のように磨かれた材質になる。

 滑らないように気をつけないといけない。

 妊娠中とはいえ、付け入る隙は見せられない。


 “ユグラン”の重みを全身の筋肉で支え、無理のない程度に姿勢良く前を見つめる。


 体形変化によりバランスが崩れ、あちこち痛む身体には、クレーオス先生が“ユグラン”には影響しない薬を処方してくれていた。

 居並ぶ帝国貴族達の間を、白と金のルイスと、青と黒の私が進む。


「まあ、ルイス様は帝国騎士団の近衛の正装だわ」

「エリザベス閣下は、エヴルー騎士団のマントを羽織ってらっしゃる。別々は珍しいな」


 そう、これには訳がある。

 『準備は万全(ばんぜん)、結果は後ほどご覧にいれましょう』という気分だった。


 公爵家の定められた位置に私とルイスは並んで立つ。


 この後は帝室の方々のご入場だ。


 まずは第四皇子殿下、そして第五皇子殿下だ。

 どちらも年齢よりも大人びて見えた。

 新年を迎えれば、16歳と14歳だ、

 第五皇子殿下の立太子の儀は南部戦争のため、来年に延期されていた。


 次は皇女母殿下だ。

 兄上の侯爵にエスコートされ、『薔薇である』という敬称にふさわしく美しく、落ち着いた雰囲気で壇上に上がる。


 こうして並ぶと、皇女母殿下は実に皇族らしく、上品で揺るぎない佇まいを身に付けられていた。

 お一人のご公務も多くなり、愛娘カトリーヌ嫡孫皇女殿下の養育もあり、一回り成長された印象だった。


 最後は皇帝陛下と皇妃陛下だ。

 長年の仲睦まじさと王者の風格が溢れたご入場だ。


 居並ぶ貴族達はお辞儀(カーテシー)や礼の姿勢を取り、お二人を迎えた。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。

誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

★、ブックマーク、いいね、感想などでの応援、ありがとうございます(*´人`*)


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悪役令嬢エリザベスの幸せ
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