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161.悪役令嬢の収穫祭 2(上)

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。


※糖度は時々高めです。苦手な方はご注意ください。


ルイスと小さな小さな家族との生活としては、37歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。

 

 去年に引き続き、収穫祭は2日に分けて開催される。

 会場はエヴルー領 地 邸(カントリーハウス)前の広場だ。

 ただしルイスの帰還を待っての開催のため、2週間ほど延期された。日の出は遅く夕暮れが早くなっている。

 その分催し物のスケジュールはきっちり組まれていた。アーサーの仕事だ。

 いつもありがとう、アーサー。心からの敬意を。


 南部戦争の関係で自粛するかと思いきや、ガス抜きの意味もあり、“熱射障害”の被害がない、もしくは軽度だった地域は、通常通り行っていた。

 ただし収益金の1割を『南部復興基金』に寄附し、会場にも募金箱を置くことが推奨された。

 もちろんエヴルーもこれに準ずる。

 収益金の寄附はルイスとアーサーと話し合い、2割にしていた。



 1日目は去年に続き、各種農産物の品評会だ。


 私はすでに妊娠8か月の身で、誰から見ても妊婦だとわかる。

 帰邸した時は正門越しだったためか、準備に多数集まっていた領民達から、口々にお祝いを言われる。

 ルイスとクレーオス先生がさりげなくかばってくれていた。

 また、私はマスクをしていた。

 不特定多数も多数、何人いるかわからないほど、ここ2日間で会う。

 これもクレーオス先生の指示で、アーサーにより領民に周知されていた。

 なので、私は目と手振りと言葉で、感謝と喜びを精一杯伝える。


 さらにアーサーとクレーオス先生は、領内の初等学校に石けんとクリームを配布し、手洗いとうがいを敢行させた。

 それも先生方を呼び、クレーオス先生監修の正しい手の洗い方をアーサーが教えるという徹底ぶりだった。学校での実施は朝の授業が始まる前と昼休みだ。

 大量の石けんと手荒れ防止のクリームは、業務用として仕入れていたものを利用し配布した。

 希望する各々の家庭にも給付したという。


「流行病の抑制のためにもなろうて。手洗いの習慣がこれで身につけば一石数鳥じゃよ、姫君」


 クレーオス先生は私の分もにこにこしながら、領民と話す。元々王都の平民地区で開業されていた方だ。溶け込むのは早かった。


 領 地 邸(カントリーハウス)の使用人達は、女性は緑、男性は青の細かな刺繍で彩られた民族衣装、ベストやスカートを着て、てきぱきと働いている。

 この地方の民族衣装の赤ではなく私とルイスの色目で、刺繍はエヴルー公爵家の紋章をモチーフにしている。

 一目で公爵家の人間だとわかるので、領民同士で揉めた時に便利なんです、とアーサーが話していた。


 品評会は、各地区から選出された畜産物や農産物、そしてハーブティー、ハーブ料理、地元料理などが部門別に行われる。


 審査員は、私とルイス、天使の聖女修道院の院長様とシスター様達、アーサーを始めとした行政官達だ。

 去年、評価のポイントを教えてくれたので、今年はやりやすい。


 審査員は1年の実りとその労働に敬意を表し、各々の正装だ。

 修道院の方々は修道服、私達は黒の正装だった。

 私のドレスはマダム・サラの手によるエンパイアドレスで優雅なラインでかつ動きやすい。その下はしっかり防寒対策がなされていた。

 今年も二列の真珠にサファイアが中央で輝くネックレスを身につける。ルイスの瞳の青が今年はさらに誇らしい。


「妊娠されてもお綺麗だねえ」「ルイス様もすっかり貫禄が出てきたよ」などと言われ、堂々と胸を張る。


 そんな私の耳元で「エリー、とても似合ってる。俺の誇りで自慢だ」と、より魅力的になった旦那様に心地よいバリトンで(ささや)かれる。

 私も負けずに「ルー様は黒がとってもよくお似合いで、誰よりもすてきだわ」と返すと、耳まで真っ赤になって横を向く。

 こんな時にきゅんきゅんさせないでほしい。


 品評会で優勝したものは公爵家お買い上げとなる。

 牛や豚、鶏などの畜産は説明にも力が入り、私達も真摯(しんし)に審査する。


 今年は牛以外にも、豚も丸焼きに、鶏もパイ料理にするため、優勝が決まるたびに喜びの声が上がる。

 なんでも『牛ばかりずるい』という声を行政官達が拾い上げ、アーサーに進言し採用された。

 ご祝儀相場に領民達もほくほく顔だ。


 審査する側される側の真剣さは続き、特に主産業の小麦は各地区の誇りがかかり、空気がピリピリするほどだ。

 私とルイスを始めとした審査員達はそれに応え、比較し検討しあい、公正に三等賞まで決定した。


 他の作物も次々に評価し、入賞を決めていく。

 今年は“新殖産品”であるハーブも、全員で審査した。

ルイスやアーサー達も詳しくなったためだ。


 香り、風味、色、などで評価し、三等賞まで決める。

 それ以外にも、私と院長様が去年の問題点を改良していた農家は()め指導し、来年以降のやる気を引き出す。

 すでに売上は他の産業と肩を並べている。


 より品質を高め、『“皇妃陛下のハーブ”の名に恥じないように』と改めて気合いを入れた。


 ハーブティーやハーブ料理は、私は今年は口にできない。その分、天使の聖女修道院の方々が頑張ってくださった。

 今年は新たに、“シリアリス(穀物)”料理、雑穀を使った部門もあった。各々に工夫してくれている。

 これと郷土料理部門は私も審査できる。


 今年は去年に増して力作ぞろいで、ついスプーンが進み、クレーオス先生に「軽めの一口ずつで」と注意されるほどだった。

 どれも地区予選を勝ち抜いただけのことはあり、とてもおいしいのだ。

 その中からじっくりと見た目、味、香りなどを味わい、全てに感想を伝え、これも三等賞まで決めた。



 品評会の最後を飾るのは、去年お祭り騒ぎになった、飼料用巨大かぼちゃの計量だ。

 

 計りにかけられ、勝ち抜き結果が叫ばれ、嬉しさと悔しさ、それを上回る観客の声で盛り上がり楽しめた。


 全ての部門の審査を終え、表彰式が行われる。

 ちょうど夕方前で、スケジュールを組み実施したアーサーはさすがだ。


 妊娠中の私にも配慮してくれ、部門ごとに椅子が用意され、またお花摘みが近くなっている対策もあった。

 本部の後ろに目隠し付きのトイレを設置した上で、定期的に女性使用人に「エリー様、ちょっと」と、さも別な用事で声かけしてくれる気配りに本当に助けられた。


 表彰式では賞状と賞金が、私とルイスと院長様から、入賞者に授与される。

 声を上げ飛び跳ねたり、拳を握り噛み締めたりと、喜びもさまざまだ。


 ルイスは去年に引き続き、騎士団方式で、男性の優勝者にはガシッと抱き合い背中を叩き合っている。

 これでは、『ルイス様が帰ってくるまで収穫祭は待つ』と言ってくれたはずだ、と思う。

 涙もろくなっている私は瞳を潤ませ、院長様と(うなず)きあっていた。


 私も去年と同じく、女性優勝者と抱擁(ほうよう)したかったが、クレーオス先生に禁止されており、院長様が代わりにしてくださった。

 私は側で見守り、拍手と祝いの言葉を贈る。


 妊娠中とはいえ、ルイスと二人、いや領民含め全体で、やり切った気分で喜びがあふれる。


 最後にルイスが私を抱きしめようとしたが、クレーオス先生に、「お風呂の後じゃよ」と注意され、皆でどっと笑い合う一幕まで付いた。


〜〜*〜〜


 この夜はクレーオス先生も交え、三人での夕食となった。

 去年はタンド公爵家の従兄弟夫婦も招き夕食を共にしたが、南部戦争の戦後処理のために多忙で無理だった。

 来年は平和で一緒に、と願う。


 そのお()びか、タンド産のワインをどっさり届けてくれた。

 使用人達にも飲んでもらい、お酒が苦手な者には最高級の葡萄ジュースだ。

 私もその炭酸割りで乾杯し、エヴルーの食材を満喫した。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 明けて、2日目——


 この日こそ、“お祭り”だ。


 私は妊婦特有の体形変化で、去年まで着ていた、天使の聖女修道院のシスター様達から結婚祝いに贈られた民族衣装は着られない。


 内心がっかりしていたら、今度は“懐妊祝い”ということで、また贈ってくださっていた。

 それだけで、ぽろぽろ泣いてしまい恥ずかしい。マーサにも余計な目元ケアを増やしてしまった。それでも文句ひとつ言わない。

 ありがとう、マーサ。大好きよ。


 エヴルーの民族衣装は、

 女性は白シャツにベストと巻きスカート。

 男性は白シャツにベスト、黒いトラウザーズ。

 脚元は、今年の私は素足を見せない、ヒールががほぼない柔らかい革の膝下ブーツ、ルイスはショートブーツだ。


 私のベストとスカートは、鮮やかな赤い生地に、細かく見事な縁起物の刺繍がびっしり刺されていた。

 安産を願ってのことだという。

 またほろっとくる前に、今度はマーサから「お祝い事です。笑顔でいきましょう」と声をかけられる。

 本当、その通りよ、マーサ。


「去年までのお衣装もお手入れしています。来年、また着られますよ」


 嬉しい言葉に今度はにっこり笑顔で返す。

 ルイスも1年に1度袖を通す衣装に、感慨深いようだ。


 年ごろの領民達の出会いの場でもある収穫祭では、女性の巻きスカートのリボンを結ぶ位置で見分けがつく。トラブル防止の知恵だ。

 左は未婚で募集中。婚約者や恋人も無し。

 右は既婚、婚約者や恋人あり。

 子どもは前。未亡人は後ろ結び。

 

 私は当然右で結び、お腹を優しくなでる。


「“ユグラン”も一緒に楽しみましょうね。お腹の中では一生に一度よ」

「そうだぞ、“ユグラン”。パパとママと一緒に楽しもう」


 お腹をなでて呼びかけるルイスの優しい眼差しに、この人が“ユグラン”の父親で良かったと思う。

 私は金髪を編み込みカチューシャにして結い上げ、耳にはエヴルー公爵家紋章のピアスで、ルイスとおそろいだ。


 帰還後、さらに凛々しくなったルイスに、この民族衣装はズルい。ズルすぎる、カッコいいかわいさだ。

 最大級に胸がときめき惚れなおしている私に、ルイスが眩しそうに青い瞳を細める。


「エリー。最高にかわいいよ。俺は帝国一の、いや世界一の幸せ者だな」


 頬がうっすら紅潮し、右頬の傷も映える。

 私も照れてしまうが、伝えるべき時には伝えておこう。


「ルー様こそ世界一カッコよくて、凛々しくて、私と“ユグラン”を守ってくれてるわ。私こそ幸せ者よ」


 そんな私達をアーサーとクレーオス先生が、「スケジュールが押しますので、後でごゆっくり」と、あいさつ用の木の台へ連れて行く。


 側には去年と同じく優勝した飼料用巨大カボチャだ、と思ったら、エヴルー公爵家の紋章を飾り切りしてあった。


 年々、手が込んできてスゴいと思う。

 それだけ愛される催し物になってるんだ、と領主として本当に嬉しく誇りに思う。


〜〜*〜〜


 領民達はあいさつはいつも通りに、と思っていただろう。

 私とアーサーと話し合った結果だが、まずはルイスが両手を挙げた。ざわついていた空気が収まる。


「みんな、聞いてくれ!

祭りの前に言うことじゃないかもしれないが、知っての通り、南部で戦争があって、俺も行ってきた。

勝利したとはいえ、犠牲は出た。

彼らの奮闘があって、今ここで平和に祭りを楽しめている。

よかったら、彼らに1分間だけ黙祷を捧げてほしいんだ」


 私が同意の拍手を始めると、静まった会場に広がって行く。


「みんな、ありがとう。

では、今から1分間だ。黙祷!」


 かぶっていた者は帽子を脱ぎ、胸に手を当て、犠牲者の魂が天で神の御許で穏やかに過ごしていることを願う。


 そこにルイスの声が再び響く。


「黙祷、終わり!さあ、ここからはみんなで祝おう!

エリー・エヴルーの名の元に」


「ルイス・エヴルーの名の元に」


『収穫祭を始めます!

“両公爵”家と領民の皆で楽しもう!』


 黙祷でしんみりしていた空気も、私とルイスの呼びかけと応える歓声で塗り替えられる。


「騎士団がいて去年よりも安全だ!

悪さはしないようにしろよ〜。地下牢で説教だぞ〜!」


 ルイスが戦場で鍛えられた声を張り上げ、領民達もどっと湧く。


「今日は一日、不敬は無しです!

毎日の勤労が実った収穫祭!

美味しいものを食べて飲んで、みんなで楽しみましょう!

エヴルー領、万歳!ルイス、万歳!」


『エリー、万歳!

エリー様、おめでとうございます!』


 最後は領民達が声を合わせて祝ってくれた。

 私は涙をこらえて、両手を精いっぱい振って応える。

 領民達も笑顔で応えてくれる。


『エヴルー領、万歳!エリー、万歳!ルイス、万歳!』


 こうして、二日目の収穫祭が始まった。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。

誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

★、ブックマーク、いいね、感想などでの応援、ありがとうございます(*´人`*)


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悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
>牛ばかりずるい  笑! 豚と鶏が文句を言っているファンタジーが浮かびました笑。  モォ〜(フッフ〜ン。それでもオイラが一番)  ブッヒー(ハハン。疲労回復には僕が一番)  コケッコー(プスゥ。ダイエ…
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