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157.悪役令嬢の出迎え

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。


ルイスと小さな小さな家族との生活としては、33歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。


※※※※※※※※※※ご注意※※※※※※※※※※※※※

一部、残酷な表現があります。閲覧にはご注意ください。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「それではこれより両国代表による調印式を行います」



 あの戦闘から10日後——


 帝国と連合国の講和会議は戦闘翌日から開かれ、連日討議した結果、連合国は全面降伏し、帝国の支配を受け入れることとなった。


 ルイスは帝国側の特命全権大使として降伏文書に調印し、連合国側は他家の当主も了承したルカッツ伯爵だった。


 講和会議では、帝国側から幾つかのケースが提示されたが、代表・モランド伯爵家と副代表・ダートン伯爵家が実質的に滅亡した連合国には、“国家”を運営する力は残っていなかった。

 ルカッツ伯爵の巧みな誘導もあり、各家当主に妻の巡礼で見聞きした、帝国の豊かさや行政手腕を伝える。


 また左腕を負傷したにも関わらず、発熱が下がった3日目から会議に出席したウォルフは、人誑(ひとたら)しぶりを発揮し、両国の間を取り持った。



 元連合国の領土は、帝室直轄領となるが、残った八貴族家が、元領地の代官を務め、貴族としての身分は保証される。

 運営が軌道に乗れば、領地を返還するとの協定も結ばれた。


 また長年代表と副代表を務めたモランド伯爵家とダートン伯爵家の旧悪が、各家への犯罪行為も含め暴露された。


 軍議で多くの人命を殺めたモランド伯爵は、錯乱したまま首都の中央広場で吊るし首となり、そのまま(さら)され、重税で苦しんだ民衆から石を投げられた。

 刷新した雰囲気を醸成するため、その遺体は1日で身寄りのない区画の共同墓地に埋葬された。


 その遺児、10歳の長男は、ルカッツ伯爵が引き取った。

 教育を施し、充分に耐えられると見極めた年齢で、父の所行も説明し、それでも見どころがあるようなら、養子にする、とウォルフには明かしたらしい。

 帝国騎士団の調査でも、長男は処分の対象外だった。


 両家の処分は勝利と占領の報を受け急行した、帝国の外交・行政・法務などの実務者達が、帝国騎士団の調査を基に裁定した。

 モランド・ダートン両家共に取り潰しとなり、関わった部下などは、各々裁かれた。



 腐敗した政権に、制裁の風が吹き荒れた後——


「お前が先に帰れ」


 何度出席したかわからないほど連続した会議の休憩中、隣りに座ったウォルフから、ルイスは(ささや)かれる。


「帰るなら、お前が先だろう」


「俺は左腕がまだだ。馬を操るのに支障がある」


「馬車でもいいだろう?」


「馬にも乗れない騎士団長なんて、冗談にもならん。

それにそろそろ特命全権大使として帰国し、報告しなけりゃいけないだろう?

実務者と、治安要員の騎士団が半分いれば大丈夫だ」


「絶対に無茶はするなよ」


「わかった。しないしない。エヴルーの騎士も責任をもって預かる。それもあって渋ってただろう」


 ウォルフの見抜きには降参するしかない。


 適切な応急処置と医療で、一命は取り止めたものの、出血多量のため、回復に時間がかかっていた。

 あと少しずれていれば、亡くなっていただろう、との医師の言葉だった。


「…………よろしく頼む」

「ああ、任せておけ。エリー閣下によろしくな」


 エリーからも三人の負傷を案じる手紙が、軍務便に混ざり届いていた。

 タンド公爵か帝室の伝手を頼ったのだろう。

 そこにウォルフの愛妻・エヴァ夫人の手紙も同封されており、どの見舞いより喜んでいた。


「ああ、伝える」

「しかし、この書類の山には頭が痛くなる。早く身体を動かしたい」


 肩をぐるぐる回すが、傷に響いたのか顔をしかめる。


「ほら、すぐ無理をする。目を離せない」

「特命全権大使閣下を小姓にできるかよ。ちょっと歩いてくる」

「護衛は連れてけよ」

「了解」


 前を向いたまま、右手を振るウォルフに、ルイスは小さくため息を吐いた。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 ルイスが帰ってくる。



 その報せがタンド公爵邸からの“鳩”で知らされた時、エヴルー領 地 邸(カントリーハウス)は、勝利の知らせよりも沸き立った。

 早速、アーサーの執務室を訪ねる。


「エリー様。お呼びになれば私が参りましたものを」


「いいのよ。少しでも歩いておかないと、安産の基本よ。それでルー様が帝都に戻ってくるのは、17日の予定なんですって。どうしましょうか」


「11月の内なら、と申すでしょうな」


「わかったわ。ではその方向でお願い」


「かしこまりました。来ていただいたついでで恐縮ですが」


 二人でエヴルーの施策について、議論を重ねた。



 待つ時間は長く感じるというが、私はマーサを始めとした美容グループにより、長く感じる時間もなかった。

 伯母様もマダム・サラを連れて、領 地 邸(カントリーハウス)に襲来される。



「ふふっ、戦争勝利記念の夜会はまだ先ですけど、式典はあるに決まってるでしょう?

もう、ふさわしいデザインは決めてるの。仮縫いを早めにすませましょうね」


 妊婦ということで、かなり手加減してくれたが、久しぶりのトルソーとなり、マダム・サラに気遣ってもらいながら終える。

 マダム・サラはそのまま帝都に戻る。どこかで見た風景で申し訳ない。


 伯母様は1泊しエヴルーの美容プランとハーブ料理を楽しみ、「では、帝都でまたね」と帰っていった。


 身体に負担をかけないようにと、2日前の15日に帝都邸(タウンハウス)に移る。


 タンド公爵家からルイスの帰還を知らされており、柱1本、ガラス1枚に至るまで磨き上げられており、いつも通り皆で出迎えてくれる。


『お帰りなさいませ、エリー様』

「皆、ただいま。よろしくね」

「かしこまりました。まずはおやすみください」


 私は少し懐かしさを覚える帝都邸(タウンハウス)の居室で、クレーオス先生の診察を受けたあと、マーサ達のケアを受ける。


 ルイスに会うのは、2ヶ月ぶりだ。

 お腹もかなり大きくなっている。体重も正常の範囲内だが、かなり増えた。

 さっきも階段を登るだけで息切れがした。

 これは成長した赤ちゃんが、臓器を上へと押し上げ、肺を圧迫するので仕方がないとはわかっている。


 ルイスに限ってないと思うが、この体型の変化にがっかりされないという保証もない。

 少し不安になってくる。


「マーサ……。私、ルー様にふさわしいかしら?

その、妊婦としては当たり前の体型で、太り過ぎてはいないと、クレーオス先生も仰っているのだけれど……」


「何を仰います。私どもが腕によりをかけてきたお身体でございますよ。お美しいに決まっております」


「そう、かしら……」


「はい。ご不安になるのも無理はございませんが、ご安心ください。以前よりも明るく優しい雰囲気になられていらっしゃいますよ。

特に“ユグラン”様に読み聞かせなどをされたり、“ぽこぽこゲーム”で遊んで差し上げていらっしゃる時は。

ルイス様が“ユグラン”様に焼きもちを焼かれなければいいが、と心配しております」


 “ぽこぽこゲーム”とは、“ユグラン”がお腹を蹴った時に、ぽんと軽く叩くと、ぽこっと蹴り返してくることがある。逆に私がなでる合間にぽんと叩くと蹴ってくる時もあった。

 楽しくてかわいくて、“ぽこぽこゲーム”と呼んでいた。


「え?ルイスが“ユグラン”に焼きもち?」


「はい。ソフィア薔薇妃殿下がご滞在中も、エリー様と仲がおよろしいお姿に、焼きもちを焼いていらっしゃいました」


「え?あれ、冗談じゃなくて本気だったの?ソフィア様はとても大切だけれどお友達よ」


「はい、焼いてらっしゃいました。ふふっ、クレーオス先生に一度お尋ねになってみられてはいかがでしょうか?」


「……そうしてみるわ」


 その日の夕食、クレーオス先生がにこにこ顔で仰った。


「姫君、鈍すぎますぞ。ソフィア様とルイス様は、姫君を間にバッチバチでしたわい。

まあ、王国に帰られるお客様、かつ姫君のご親友ということで、ルイス様が多くを譲ってらっしゃったが、ソフィア様と一緒に眠られたのはエヴルーに行かれたあとでござった。

そこがご夫君として絶対に譲れない戦いでしたのお。

まあ、見る分には楽しませていただきましたわい」


「……そうだったんですか」


「姫君もご存知でしょうが愛妻家の場合、子どもに焼きもちを焼くことも珍しくはござりませんぞ」


 これは王妃教育の一環である後宮運営でも学んでいる。

 

「……確かに。それは聞いております」


「防止策は母と子だけではなく、父親も置いてきぼりにせず、父母でかわいがるとよろしかろうて。

姫君のご両親もさようであられた」


「わかりましたわ。お父さまもよく、お母さまと私に呼びかけてくださったと仰せでしたもの。

それに、これは『妊娠ガイドブック』にも書いておかないと。

夫婦円満の秘訣でございましょう?」


「クックッ……。さすが姫君。しっかりされとる。

充分にお綺麗で一緒にいて楽しい方を置いて、ルイス様がよそ見をする暇はないでしょうな」


 マーサが話したのか、私は思わず顔が赤くなってしまう。


「やっぱり、ちょっと、不安で……」


「大丈夫じゃて、姫君。

もしよそ見されたら、ルイス様は命懸けになりますぞ。

マーサ殿、(わし)、タンド公爵ご夫妻、皇妃陛下、ラッセル公爵閣下、国王陛下、アーサーを始めとした領 地 邸(カントリーハウス)の皆々、執事長を始めとした帝都邸(タウンハウス)の皆々、エヴルー騎士団も多くは姫君でしょうなあ。

何よりルイス様ご自身がご自分を許さないでしょうなあ。

姫君にベタ惚れゆえ」


 指折り数えて名をあげていくクレーオス先生は、最後の仕上げとばかりルイスの名をあげた。


「ベ、ベタ惚れ?」

「はい。安心めされよ。(わし)のお墨付きじゃよ」


 先生は上機嫌で、お気に入りのワインをくいっと飲まれた。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 帝国騎士団、帰還当日——


 今日帝都に帰ってくるのは半数ほどだ。

 それでも新聞報道され、沿道は物見高い帝都民でいっぱいだった。

 南の壁門から皇城へ向かう大通りの歩道は人でいっぱいで、帝国旗や騎士団旗を振る人も多い。

 帝国の国民なら誰でも知っている、南部問題が解決しようとしているのだ。

 それも全面降伏で、連合国は新しい版図となる。

 ここ百年以来の出来事に沸き立っていた。


 それは皇城前に設けられた桟敷席でも一緒で、タンド公爵家の一家と一緒にいる私に、わざわざあいさつにいらっしゃる方々が本当に多い。


 今日の私は紺地のベルベットのドレスを身に(まと)う。螺旋状に黒糸の緑糸の唐草模様に金の花が刺繍されていた。

 胸下で切り替えるエンパイアドレスだが、腹部の膨らみは隠さず、あえてその丸みを帯びたラインをデザインに取り込み、美しく見せている。

 マダム・サラのセンスはすばらしい。

 まるで地母神(ガイア)を思わせるようなドレスだった。


 宝飾のネックレスは曲線と四つ葉のクローバーを組み合わせた白金細工で、二人の色目のサファイアとブラックスピネル、エメラルドとイエロートルマリンを散りばめている。

 ピアスは二人の思い出の品、髪飾りも同じデザインの白金細工で、結い上げた金髪の両サイドを、羽根の形で飾っている。


 あいさつする方々の多くは、ルイスへの()め言葉を並べる。

 またしても『英雄』だの『英傑』だの『知将』だの、中には「将来の宰相にふさわしいのでは?」などという方もいて、「皇帝陛下は宰相は置かれません」と速攻にっこり叩き落としておいた。



 皇帝陛下を始めとした帝室の方々がご臨席となり、一同静まり返る。

 その時、儀礼官と皇妃陛下の侍女長が私を呼びに来て、マーサと侍女長に助けられついて行った。


 遠くから歓声が聞こえてくる。

 騎馬一体となった帝国騎士団の行進が見えてくる。

 先頭は副騎士団長だ。


 ルイスは中程に一騎、悠々とした風情で愛馬を操る。

 歓声には一顧だにせず、凛々しく前を見つめていた。


 その視線の先には、愛しい者がいるのだ——


 昨夜の宿には最愛の妻の手配で、新しい帝国騎士団の制服など一通りそろっており、侍従が控えていた。

 埃っぽく日焼けした制服から着替え、今朝漆黒の制服に袖を通し、愛馬にまたがったのだ。

 その耳には、二人で初めて選んで買った、二人の色目のサファイアとブラックスピネル、エメラルドとイエロートルマリンを散りばめた白金細工の四つ葉のクローバーが光る。

 これを用意してくれた気持ちも嬉しかった。


 騎士団員が広場に整列し、皇帝陛下に謁見する。


「帝国を(あまね)く照らす太陽たる皇帝陛下。

特命全権大使、ルイス・エヴルー公爵。

帝国と帝室を守護し奉る帝国騎士団と共に、ただいま参着いたしました」


 ルイスの朗々とした声は、広場中に響く。


「ルイス・エヴルー公爵。よくぞ、戻った。

帝国を護り、長年の懸念を晴らし、見事に務めを果たしてくれた。

ここに、その栄誉を(たた)え、与えたいものがある」


「……はっ、ありがたき幸せに存じます」


 聞いてない段取りだが、ルイスは拒みたくとも、拒めるものではない。

 内心苦り切っていると、桟敷から現れたのは私だった。

 そばに儀礼官が控えている。


「古来より、勇者を讃えてきたものじゃ。

それと無事の帰還を祝っての、皆からの感謝の(しるし)を受け取るがよい!」


 私はルイスの前に立つと、儀礼官が掲げた箱から、緑のオリーブの冠を手に取り、背をかがめたルイスの頭に乗せる。

 緑の冠をかぶった姿が凛々しく輝かしい。


 ずいぶん日焼けしたけれど、私のルイスだ。

 懐かしさに胸がいっぱいになる。


 そして、ルイスの手のひらに収まる、愛らしくも邪気を払うとされる、香り高いタッジー・マッジーを差し出す。



「おかえりなさいませ、ルー様。ご無事なお姿が何よりの宝物です」


「エリー、ただいま」


 タッジー・マッジーを受け取ったルイスはその芳香を聞くと、爽やかに笑いかけてくれた。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。

誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

★、ブックマーク、いいね、感想などでの応援、ありがとうございます(*´人`*)


●は〜。やっと帰ってこれました。今週末中に二人を会わせたくて、更新をがんばってみました(⌒-⌒; )

駆け足の部分はお許しください。


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悪役令嬢エリザベスの幸せ
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