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15.悪役令嬢の調査


テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—



エリザベスが幸せになってほしくて書いた連載版です。

これで15歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。


※※※※※※※※※※※注意※※※※※※※※※※※※※※

妊娠・出産、イジメなどについて、デリケートな描写があります。

閲覧にはご注意ください。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 蜂蜜のお礼に、伯父様の執務室を訪ねる。

 伯父様が贈ってくれた蜂蜜は、高山で取れる貴重品だった。修道院でも養蜂をしているが、味わいの豊かさでは(かな)わない。


 蜂蜜のお礼、心配をかけたお詫びと、ルイス殿下からの氷のお見舞いについて、伯母様から聞いたと伝える。


「エリー。やっと回復したばかりだ。

ルイス殿下もエリーの自由を尊重してくださってる。

よく考えなさい」


「伯父様。考えるためにも、ルイス殿下のことを知りたいんです。まずは客観的に。

貴族年鑑の情報以外、ご存じのことはありますか?」


「ふむ。そういうことか。ちょっと待ってなさい」



 伯父様は執務室の本棚、二重三重にスライド出来る一番奥の棚をずらし、出てきた特別製の寄木細工を操作すると、開いた空間から数冊のファイルを取り出し、テーブルに置く。


「これは、ルイス殿下の言動記録書だ。

細かすぎるかもしれないが、私が重要と思った部分には、付箋が貼ってある。

私の講評も書き込んである。

できれば、そこは参考にせず、エリー自身の目と感性で読むといい」


「ありがとうございます!伯父様!

帝立図書館に行っても、ここまでは分からなかったと思います」


「なに。帝位を巡っての争いは熾烈(しれつ)だからね。情報収集と分析は肝要だよ。

エリーは知ってるだろうが、我がタンド公爵家は帝室から降嫁はあっても、娘を嫁がせてはいない。

後継者争いからはなるべく距離を置き、中立派を守り、皇帝陛下に、帝国に、忠誠を誓ってきた。

ただ家を守るには、帝室の情報は必要だ。

帝室を形成する個々人の情報もね」


 伯父様の仰る通りだ。

 ありがたく借り受けて、客室で早速読み始める。



 乳児のころは周囲の記録だ。

 第二皇子の母のご側室からの嫌がらせや、準ずる言動が続く。


 同い年、それも数ヶ月違いの兄弟。

 つまりご側室が妊娠中、それも悪阻(つわり)の苦しい時期に、皇妃陛下にお渡りがあった可能性もあり、その怨恨が残ったようにも思える。

 皇妃陛下はほぼ相手にせず流しているが、度が過ぎた場合はピシャリとやり返している。


 常に同い年の第二皇子と比較されてきたことが、4-5歳くらいの、皇子教育の記録からも読み取れる。


 ルイス殿下は、どちらかと言うと、身体を動かす方が好きだったようだ。

 ある日、騎士団の指導役から、帝国成立に関する戦史のエピソードを聞いて夢中になり、歴史や言語の成績も上がっている。

 ここで皇帝陛下がひと言誉めた途端、ご側室から嫌がらせを速攻で受けている。

 本当に後宮政治は大変だ。


 王国で、アルトゥール殿下以外の後継者を、という進言を、国王陛下が、後宮政治の悪影響が大きいと退(しりぞ)けていた気持ちも少しは分かる。

 っと、過去過去過去。今はこっちに集中だ。



 6歳で乳母が辞め、代わりに侍従が付いた、とある。

 毒殺の件は完全に闇の中だ。

 伯父様でさえ把握していない。

 寂しさからか、体調不良で寝込み、これを境に、ルイス殿下が寡黙になったとある。

 これは明らかに毒と乳母の死が原因だろう。

 伯父様の講評では、『乳母離れした影響だろう』とあった。


 乳母の死から半年後、第二皇子と剣の稽古の際、軽傷だが怪我をさせている。

 生まれた時から、これだけ不和が続いていれば、第二皇子の母のご側室が、毒殺に関与していると、証拠が無くても、子どもなら思い込むだろう。

 ここでは皇妃陛下がご側室に謝罪、ルイス殿下が謹慎している。


 謹慎明けに、ルイス殿下が父である皇帝陛下に直接訴え、皇子教育も続ける条件で、騎士団への訓練参加を本格的に開始する。

 皇子待遇は拒否し、小姓の待遇を希望している。

 つまり、第二皇子との稽古からの離脱を意味する。

 中々の身の処し方だ。

 小姓として、多少の雑務や使い走りも経験し、騎士団の面々からは、可愛がられている様子も(うかが)える。

 この辺は、伯父様が若い頃に所属した騎士団の知己からの情報だ。


 小姓から、従騎士、騎士と、騎士団内で本気の訓練を続行していく。

 通常の皇子への稽古とは、一線を画した教育方針だ。

 無論、同時進行で、言語や歴史、経済、外交、領地経営、社交といった皇子教育も、そつがない。

 これには、伯父様は『可もなく不可もなく』という評価だ。

 学問も軍事関連を希望し、受講が増えている。

 伯父様の講評には、『帝国の軍事面を支えようとしているのか。武技を好むのか、観察が必要』とある。


 結果的に、飛び抜けて優秀だった第一皇子殿下の後追いをしたような、第二皇子殿下とは、全く別な成長経過を辿っている。

 第二皇子殿下もそれなりに優秀だが、独自性はない。

 本当に『第一皇子殿下のスペア』となったことが、時折起こるルイス殿下とのやり取りで、透けて見える。


 ここでルイス殿下への(あざけ)りに、『騎士団にいても、所詮、お前はスペアのスペアだ』という言葉が、頻繁に使われるようになっている。

 ご側室の手回しか、そういう噂も皇城で囁かれている。とあるが、伯父様は、『ルイス殿下の方に将来性を見いだす』との評価だった。

 私もそう思う。



 15歳以降、潮目(しおめ)が変わる。

 この年、デビュタントと同時に、騎士に叙されている。異例中の異例、通常は18-20歳だ。

 これ以前に、皇帝陛下より騎士団長へご下問があり、実力は充分と回答している。

 それ(ゆえ)の騎士への叙任だ。

 部隊にはヒラの騎士で配属された。名誉職ではない。


 皇族として成人後の公務の合間や、入学した帝立学園の授業への配慮はあるものの、騎士団でも訓練・任務を行なっている。

 伯父様が注目しているのは、公務の書類処理などの正確さだ。

 書記官などから情報収集し、ミスの少なさ、つまり事務能力がある点も評価していた。

 『単なる剣バカではないようだ』との言葉に、クスッと笑いがこぼれる。


 15歳以降、帝立学園での授業と両立しながら、騎士団内で、順調に昇格する一方、公務はこなすものの、儀礼的な皇帝陛下・皇妃陛下・皇太子殿下との定期的な謁見・訪問以外、帝室とは距離を置いている姿勢が見られる。

 住居も騎士団の寮の状態で、同じ皇城内とはいえ、用意された第三皇子としての居室にはほとんどいない。


 第二皇子はもちろん、年齢が離れている第四・第五皇子とも、ほぼ交流はない。

 満遍なく親交しようとする第一皇子とは対照的だ、とある。

 第二皇子は、歳下の第四、第五皇子には優しく振る舞う、と比較対象で書かれていた。


 伯父様は第一皇子が立太子された後も、ルイス殿下の姿勢に変化がないため、第二皇子との根深い不和を懸念されている。

 それに関しては、1年間とはいえ、皇太子殿下の警護役に、ルイス殿下が任命された点も憂慮している。

 これは皇太子殿下の意向とある。同腹とはいえ、必要以上の接近を警戒している。

 私はこの間、ルイス殿下が皇太子殿下の裏の顔も知ったのではないか、と思う。


 騎士団では、部隊の副班長、班長、副隊長、隊長を経て、参謀に抜擢された。

 その1年後に、今回の紛争への派遣だ。


 一進一退だった戦況のテコ入れに、勅命で、参謀ではなく、指揮官として任命される。

 当初は、敵国から押し込まれ苦戦、犠牲を出しながら、地勢と天候を利用した作戦で勝利した。

 ここから形勢を逆転、敵国に攻め込んだ上で、停戦に持ち込む。

 外交団と協力し、帝国に有利な条件で、紛争を決着した。

 伯父様は、『賢い鷹は爪を隠す』と記している。



 昼食と間食を挟んで、読み終わったころには、陽が落ちかけていた。


 思い切り、伸びをする。

 こうして読むと、伯父様の記録には抜けている、6歳の時の乳母の毒殺が、ルイス殿下に大きく影響していると、私には思えた。


 伯父様の執務室を訪ねる前に、一通の手紙をエヴルーの護衛に頼み、修道院に早馬で届けてもらった。

 その返事は、明日、宗教書を扱う書店へ所用があるため、その後、来邸してくださるとのこと。


 とりあえず、今日の調査は終了とし、言動記録書を鍵付きの引き出しに収めた。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 私の快気祝いの夕食には、長男と次男の従兄弟夫婦も同席してくれた。

 長男夫婦と次男は、本気で心配してくれたようで、ありがたかった。

 次男妻は、私に赤ワインをかけようとして、ルイス殿下にかけた、マギー伯爵夫人の親戚のため、最初は固い表情だった。

 私が明るく話しかけていると、態度が少しずつ柔らかくなったため、良しとする。


 とりあえず、和やかに終わったことを、ゆったりバスタイムで喜んだ。


〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 翌日は久しぶりに身体を動かしたくて、朝食後、公爵邸の庭園を散歩した後、伯母様とお茶をする。


 人払いした上での話題は、伯母様が見聞きした、ルイス殿下の評判、評価だ。



「そうね。やっぱり小さい頃から、第二皇子殿下との仲の悪さは、度々話題になってたわ。

あれは陛下が良くないの。

いくら、皇妃陛下とご側室がいる後宮とはいえ、

妊娠出産した経験者なら、悪阻(つわり)に苦しんでる時に、他の女性と、とかはねえ。

その期間はせめて身を謹んで、1歳違いになさればよかったのよ。

仲の悪さでも、女性達は、当初はご側室と第二皇子殿下に同情的だったわ。

皇妃陛下は根強い人気がおありでしょう。陛下のお渡りは拒めないもの。

ルイス殿下は悪くないのに、ひとり割りを食った形だったのよ」


 うっわ。えぐい。ここは思いっきりルイス殿下に同情する。


「なるほど。後宮事情の影響ということですね」


「そういうことね。

その後も、第二皇子殿下に怪我をさせたから、やんちゃを通り越して、乱暴者という評判も立ったのよ。

だから怪我をさせた謹慎明けに、皇帝陛下が、ルイス殿下を罰するために、騎士団に叩き込んだって噂が、ぱあっと流れたの。

実際、騎士にこき使われてる姿も目撃されてたし、懲罰だってね。

念のためにウチの人に確認したら、『ルイス殿下から希望されたんだ。今は小姓として訓練に参加されている』って聞くまでは、すっかり信じてたもの。

正しい情報には、やっぱり精査は必要よね」


 しかし、この風聞は中々、消えなかったと話す。


「騎士団にいるから、まともな皇子教育を受けていない、だとか、受けてても成果が出ていない、とか言われてたわ。

実際は違うから、今までと同様の噂ね。

第一皇子殿下は、幼い頃から飛び抜けて優秀だったから、立太子を有力視されていたけれど、子どもは病気に(かか)りやすいし、何があるか分からないでしょう?

第二皇子殿下も優秀だから、あの頃は、派閥ができて、ある事、ない事、言われてたわね。

ルイス殿下は、立太子レースからすっかり落伍したと見做(みな)されて、ほとんど噂にもならなくなってたわ。

なっても、皇太子殿下や第二皇子殿下の引き立て役ね」


「そこまでだったんですか」


「そうね。いない者扱いされてたわ。

ああ、騎士団関係者だけは別だったわね。

真面目に訓練している。根性がある。厳しくしても食いついてくるとかね。

でも地味でしょう?大勢(たいせい)には、影響ない扱いだったわ」


「なるほど……」


「それが一転したのは、デビュタントと同時の、騎士叙任ね。一気に評判が上がって、手のひら返しとはあの事よ。

元々涼やかなお顔立ちだから、令嬢達の人気もぐんと上がって、訓練の公開日とか、きゃあきゃあ言われてたけど、最初はヒラの騎士だって知ると、波が引くようにいなくなったわ」


「ルイス殿下。そんなに手のひら返し、されてるんですか?」


 他人事(ひとごと)ながら、腹が立ってくる。

 噂に左右された、自分にも重なってしまう。


「そうでしょう?

でも騎士団で地道に出世してって、その間に、第一皇子殿下が立太子されて、皇太子殿下に。

その後くらいかしら。

皇太子殿下の警護に、ルイス殿下が付いたのよ。

目立つし、皇族警護に付く近衛役の騎士服だと、数倍増しでかっこよく見えるのよ。

すでに実力で役付きだし?

またもや人気。

一方、第二皇子殿下は、立太子レースに敗れて、皇城内で役職にはついたけれど、皇族の名誉職ってあからさまでしょう?

兄皇子だけでなく、弟皇子にまで、追い越され、みたいなことを言われてたわね」


「どっちも手のひら返し、で翻弄されてますね。

いえ、ルイス殿下は冷静だったんでしょうか」


「えぇ。皇太子殿下の警護の時も、落ち着いたものだったわ。貴族の大半が見違えたと思ったんじゃないかしら。

隊長から参謀には抜擢されるし。

エリーなら知ってるでしょうけど、参謀は知恵者じゃないと務まらないのよ。

平常時は、騎士団内の書類仕事もかなりこなす職務でしょう。

たまに皇族としての職務があっても、きちんと務める。

評価が高止まりした上での、今回の紛争解決だったから、釣書付きのお見合いもどっさりなわけ」


「それで皇太子殿下から、警戒されたり、しなかったんですか?」


「皇太子殿下に対しては、完全に恭順の意を示されてたわ。同腹のご兄弟なのにね。

まだ皇子殿下なのに、臣下の立場って雰囲気を出してたわ。

この前の祝賀会でも、貴女を守ったりする以外はそうじゃなかった?」


「そういえば……」


 皇太子殿下が控え室で親しげな言動を見せた時、『兄上』という呼びかけも、すぐに『皇太子殿下』と訂正していた。

 式典後の歓談でも対等ではなく、臣下の言動だった。



「そうでしょう?

他には聞きたいことはあるかしら?」


「あの。ルイス殿下は、第二皇子殿下から、『お前は第一皇子殿下のスペアのスペア』って言われたらしいんですが、社交界には洩れてきてたんでしょうか?

噂が広まって、(ささや)かれてたとか」



 伯母様が珍しく、わずかに顔を(しか)める。



「えぇ、ルイス殿下の評判が悪くなると同時にね。

エリー。そこには抜けてる言葉があるの。


『ルイス殿下は、第一皇子殿下のスペアのスペアだ。それも出来の悪い』。


出元は当然というか、ご側室様と第二皇子派の人達。

でも第一皇子派も、耳にして、面白おかしくいってたから、同罪ね。

とにかく、大元は皇帝陛下よ。

私はそう思ってるわ。

もちろん、タンド公爵家の忠誠心は、微塵(みじん)も変わりませんけどね。

これはあの人には内緒にしておいてね」


 伯母様からの聞き取りは、悪戯っぽい微笑で終わった。



〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 昼食後—


 伯母様からの聴き取りを自分なりにまとめ、言動記録書と付け合わせていると、天使の聖女修道院の院長様の来訪を告げられる。


 私が寝込んだ話は伝わっており、サロンにお通しした後、子ども達が描いてくれたお見舞いの絵を渡してくれる。

 ハーブ畑で笑顔で手入れしたり、クッキーの試食する姿もある。


「ありがとうございます。大切にいたします。

シスターの方々や子ども達に、もうすっかり元気だと伝えてくださいませ」


 微笑みながら、紅茶とシェフ渾身のデザートでおもてなしした後、早速、人払いした上で、「内々にお聞きしたいことが」と切り出す。



「院長様。実は“ルー様”のことなのです」


 私は、ルイス殿下と言わず、愛称の“ルー様”を用いて尋ねる。

 二度目に修道院の聖堂で再会した時に、ルイス殿下自身が、名乗った名前だったためだ。


 院長様の穏やかな表情は変わらない。さすがだ。



「7歳の時、お母様とご一緒に墓参にいらして以降、毎年なさっていたことは、ご本人からお(うかが)いしています。

もし、よろしければ、その時のご様子をお聞きしたいのです」


「エリー様。なぜこのようなお尋ねをなさるのですか?」


 院長様の澄んだ双眸(そうぼう)が私を見つめる。

 私も静かに眼差しを交わし、事情を告げた。



「実は、“ルー様”より、結婚のお申込みをいただいております。ただ私は、“ルー様”のことを、ほとんど存じ上げません。

とても大切なこととは、存じております。

だからこそ、客観的な第三者の目で、お聞きしたいのです」


 沈黙が流れる。

 院長様は目を閉じて、じっとお考えのようだった。

 やはり無理か、と思った時、院長様が一言おっしゃった。



「お話できることだけなら……」


「……ありがとうございます。充分でございます。

…………院長様。“ルー様”は8歳以降、一人で墓参においでだったのですね?」


「えぇ、お付きの方はいましたが、墓碑や、聖堂では独りになりたいと仰せでした」


 小さなルイス殿下が独り、どんな想いを抱え、あの墓地や聖堂にいたのだろう。


「“ルー様”はご自分をお責めになってはいませんでしたか?」


 院長様は言い淀んだ後、ポツポツと話す。


「………………はい。

墓参の際は、お時間を見て、お迎えに行っておりましたが、『許して』『ごめん』と繰り返して、泣きじゃくっておいでの時もあり……。

お付きの方が、抱きしめて、あやしていらっしゃいました。

聖堂でも、『神様。僕が悪い子だったから、ごめんなさい。良い子になります。がんばります』と祈り続けていらっしゃいました。

思い余った私が、『“ルー様”は悪い子ではありません。良い子でいらっしゃいます』と言っても、泣きながら、『みんながそう言っている』と首を振っていらっしゃいました……」


 少年の小さな胸に、どれほどの思いが詰まってたんだろうか。

 『みんながそう言ってる』が、今聞いてても苦しくてならない。

 答え合わせは、これで最後にしよう。


「……さようでございましたか。

これで最後でございます。

顔や手に、(あざ)や、怪我をされていたことはございませんか?」


「はい。いらっしゃる度に、お怪我をされていて。

傷や打ち身のためのハーブ入りのクリームを、お渡したことが何度もございます。

『痛くても強くなるためなんです』と仰せで……。

『僕は護れなかったから、もっと強くなって、大切な人を、国を、守れるようになりたい』と、仰せでございました……」


 私は深呼吸を静かにすると、院長様に謝罪する。


「お辛いことをお聞きして、申し訳ありませんでした。

“ルー様”の思いは、この胸に大切に仕舞っておきます。

誰にも、“ルー様”ご自身にも、お伝えすることは、決してございません」


「エリー様。“ルー様”と“エリー様”に、神のご恩寵があることを、お祈りしています。

お二人で道を歩かれるかは、お二人がお決めになること。

私はいつでもあの場所で、お待ちしております」


 院長様のお優しいお言葉と、慈愛深い微笑みに、瞳が潤むが、じっと堪える。


「院長様にこそ、神のご恩寵がありますように。

私もまた参らせていただきます。

お疲れのところお越しいただき、本当にありがとうございました」


 私は院長様を馬車まで送ると、正門へ向かって見えなくなるまで、じっと見送っていた。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書きたい、と思った拙作です。


誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

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悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
[一言] 院長先生も人に言えない悲しみで枕を濡らして慟哭されたこともたくさんあるのだろうなぁ… 胸塞がれつつも食事をし、そのための糧を得るために体を動かして、どうにもならない悲しみをやりすごしたりされ…
[一言] うん。どう見てもエリーより悲惨な境遇ですね。こりゃ荒むわ。 掌返しがおおすぎますし、人間不信になる。エリーは外構人だから惹かれたのかもしれませんね。この国の人間を一切信用してないのでは?婚約…
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