15.悪役令嬢の調査
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
エリザベスが幸せになってほしくて書いた連載版です。
これで15歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
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妊娠・出産、イジメなどについて、デリケートな描写があります。
閲覧にはご注意ください。
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蜂蜜のお礼に、伯父様の執務室を訪ねる。
伯父様が贈ってくれた蜂蜜は、高山で取れる貴重品だった。修道院でも養蜂をしているが、味わいの豊かさでは敵わない。
蜂蜜のお礼、心配をかけたお詫びと、ルイス殿下からの氷のお見舞いについて、伯母様から聞いたと伝える。
「エリー。やっと回復したばかりだ。
ルイス殿下もエリーの自由を尊重してくださってる。
よく考えなさい」
「伯父様。考えるためにも、ルイス殿下のことを知りたいんです。まずは客観的に。
貴族年鑑の情報以外、ご存じのことはありますか?」
「ふむ。そういうことか。ちょっと待ってなさい」
伯父様は執務室の本棚、二重三重にスライド出来る一番奥の棚をずらし、出てきた特別製の寄木細工を操作すると、開いた空間から数冊のファイルを取り出し、テーブルに置く。
「これは、ルイス殿下の言動記録書だ。
細かすぎるかもしれないが、私が重要と思った部分には、付箋が貼ってある。
私の講評も書き込んである。
できれば、そこは参考にせず、エリー自身の目と感性で読むといい」
「ありがとうございます!伯父様!
帝立図書館に行っても、ここまでは分からなかったと思います」
「なに。帝位を巡っての争いは熾烈だからね。情報収集と分析は肝要だよ。
エリーは知ってるだろうが、我がタンド公爵家は帝室から降嫁はあっても、娘を嫁がせてはいない。
後継者争いからはなるべく距離を置き、中立派を守り、皇帝陛下に、帝国に、忠誠を誓ってきた。
ただ家を守るには、帝室の情報は必要だ。
帝室を形成する個々人の情報もね」
伯父様の仰る通りだ。
ありがたく借り受けて、客室で早速読み始める。
乳児のころは周囲の記録だ。
第二皇子の母のご側室からの嫌がらせや、準ずる言動が続く。
同い年、それも数ヶ月違いの兄弟。
つまりご側室が妊娠中、それも悪阻の苦しい時期に、皇妃陛下にお渡りがあった可能性もあり、その怨恨が残ったようにも思える。
皇妃陛下はほぼ相手にせず流しているが、度が過ぎた場合はピシャリとやり返している。
常に同い年の第二皇子と比較されてきたことが、4-5歳くらいの、皇子教育の記録からも読み取れる。
ルイス殿下は、どちらかと言うと、身体を動かす方が好きだったようだ。
ある日、騎士団の指導役から、帝国成立に関する戦史のエピソードを聞いて夢中になり、歴史や言語の成績も上がっている。
ここで皇帝陛下がひと言誉めた途端、ご側室から嫌がらせを速攻で受けている。
本当に後宮政治は大変だ。
王国で、アルトゥール殿下以外の後継者を、という進言を、国王陛下が、後宮政治の悪影響が大きいと退けていた気持ちも少しは分かる。
っと、過去過去過去。今はこっちに集中だ。
6歳で乳母が辞め、代わりに侍従が付いた、とある。
毒殺の件は完全に闇の中だ。
伯父様でさえ把握していない。
寂しさからか、体調不良で寝込み、これを境に、ルイス殿下が寡黙になったとある。
これは明らかに毒と乳母の死が原因だろう。
伯父様の講評では、『乳母離れした影響だろう』とあった。
乳母の死から半年後、第二皇子と剣の稽古の際、軽傷だが怪我をさせている。
生まれた時から、これだけ不和が続いていれば、第二皇子の母のご側室が、毒殺に関与していると、証拠が無くても、子どもなら思い込むだろう。
ここでは皇妃陛下がご側室に謝罪、ルイス殿下が謹慎している。
謹慎明けに、ルイス殿下が父である皇帝陛下に直接訴え、皇子教育も続ける条件で、騎士団への訓練参加を本格的に開始する。
皇子待遇は拒否し、小姓の待遇を希望している。
つまり、第二皇子との稽古からの離脱を意味する。
中々の身の処し方だ。
小姓として、多少の雑務や使い走りも経験し、騎士団の面々からは、可愛がられている様子も窺える。
この辺は、伯父様が若い頃に所属した騎士団の知己からの情報だ。
小姓から、従騎士、騎士と、騎士団内で本気の訓練を続行していく。
通常の皇子への稽古とは、一線を画した教育方針だ。
無論、同時進行で、言語や歴史、経済、外交、領地経営、社交といった皇子教育も、そつがない。
これには、伯父様は『可もなく不可もなく』という評価だ。
学問も軍事関連を希望し、受講が増えている。
伯父様の講評には、『帝国の軍事面を支えようとしているのか。武技を好むのか、観察が必要』とある。
結果的に、飛び抜けて優秀だった第一皇子殿下の後追いをしたような、第二皇子殿下とは、全く別な成長経過を辿っている。
第二皇子殿下もそれなりに優秀だが、独自性はない。
本当に『第一皇子殿下のスペア』となったことが、時折起こるルイス殿下とのやり取りで、透けて見える。
ここでルイス殿下への嘲りに、『騎士団にいても、所詮、お前はスペアのスペアだ』という言葉が、頻繁に使われるようになっている。
ご側室の手回しか、そういう噂も皇城で囁かれている。とあるが、伯父様は、『ルイス殿下の方に将来性を見いだす』との評価だった。
私もそう思う。
15歳以降、潮目が変わる。
この年、デビュタントと同時に、騎士に叙されている。異例中の異例、通常は18-20歳だ。
これ以前に、皇帝陛下より騎士団長へご下問があり、実力は充分と回答している。
それ故の騎士への叙任だ。
部隊にはヒラの騎士で配属された。名誉職ではない。
皇族として成人後の公務の合間や、入学した帝立学園の授業への配慮はあるものの、騎士団でも訓練・任務を行なっている。
伯父様が注目しているのは、公務の書類処理などの正確さだ。
書記官などから情報収集し、ミスの少なさ、つまり事務能力がある点も評価していた。
『単なる剣バカではないようだ』との言葉に、クスッと笑いがこぼれる。
15歳以降、帝立学園での授業と両立しながら、騎士団内で、順調に昇格する一方、公務はこなすものの、儀礼的な皇帝陛下・皇妃陛下・皇太子殿下との定期的な謁見・訪問以外、帝室とは距離を置いている姿勢が見られる。
住居も騎士団の寮の状態で、同じ皇城内とはいえ、用意された第三皇子としての居室にはほとんどいない。
第二皇子はもちろん、年齢が離れている第四・第五皇子とも、ほぼ交流はない。
満遍なく親交しようとする第一皇子とは対照的だ、とある。
第二皇子は、歳下の第四、第五皇子には優しく振る舞う、と比較対象で書かれていた。
伯父様は第一皇子が立太子された後も、ルイス殿下の姿勢に変化がないため、第二皇子との根深い不和を懸念されている。
それに関しては、1年間とはいえ、皇太子殿下の警護役に、ルイス殿下が任命された点も憂慮している。
これは皇太子殿下の意向とある。同腹とはいえ、必要以上の接近を警戒している。
私はこの間、ルイス殿下が皇太子殿下の裏の顔も知ったのではないか、と思う。
騎士団では、部隊の副班長、班長、副隊長、隊長を経て、参謀に抜擢された。
その1年後に、今回の紛争への派遣だ。
一進一退だった戦況のテコ入れに、勅命で、参謀ではなく、指揮官として任命される。
当初は、敵国から押し込まれ苦戦、犠牲を出しながら、地勢と天候を利用した作戦で勝利した。
ここから形勢を逆転、敵国に攻め込んだ上で、停戦に持ち込む。
外交団と協力し、帝国に有利な条件で、紛争を決着した。
伯父様は、『賢い鷹は爪を隠す』と記している。
昼食と間食を挟んで、読み終わったころには、陽が落ちかけていた。
思い切り、伸びをする。
こうして読むと、伯父様の記録には抜けている、6歳の時の乳母の毒殺が、ルイス殿下に大きく影響していると、私には思えた。
伯父様の執務室を訪ねる前に、一通の手紙をエヴルーの護衛に頼み、修道院に早馬で届けてもらった。
その返事は、明日、宗教書を扱う書店へ所用があるため、その後、来邸してくださるとのこと。
とりあえず、今日の調査は終了とし、言動記録書を鍵付きの引き出しに収めた。
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私の快気祝いの夕食には、長男と次男の従兄弟夫婦も同席してくれた。
長男夫婦と次男は、本気で心配してくれたようで、ありがたかった。
次男妻は、私に赤ワインをかけようとして、ルイス殿下にかけた、マギー伯爵夫人の親戚のため、最初は固い表情だった。
私が明るく話しかけていると、態度が少しずつ柔らかくなったため、良しとする。
とりあえず、和やかに終わったことを、ゆったりバスタイムで喜んだ。
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翌日は久しぶりに身体を動かしたくて、朝食後、公爵邸の庭園を散歩した後、伯母様とお茶をする。
人払いした上での話題は、伯母様が見聞きした、ルイス殿下の評判、評価だ。
「そうね。やっぱり小さい頃から、第二皇子殿下との仲の悪さは、度々話題になってたわ。
あれは陛下が良くないの。
いくら、皇妃陛下とご側室がいる後宮とはいえ、
妊娠出産した経験者なら、悪阻に苦しんでる時に、他の女性と、とかはねえ。
その期間はせめて身を謹んで、1歳違いになさればよかったのよ。
仲の悪さでも、女性達は、当初はご側室と第二皇子殿下に同情的だったわ。
皇妃陛下は根強い人気がおありでしょう。陛下のお渡りは拒めないもの。
ルイス殿下は悪くないのに、ひとり割りを食った形だったのよ」
うっわ。えぐい。ここは思いっきりルイス殿下に同情する。
「なるほど。後宮事情の影響ということですね」
「そういうことね。
その後も、第二皇子殿下に怪我をさせたから、やんちゃを通り越して、乱暴者という評判も立ったのよ。
だから怪我をさせた謹慎明けに、皇帝陛下が、ルイス殿下を罰するために、騎士団に叩き込んだって噂が、ぱあっと流れたの。
実際、騎士にこき使われてる姿も目撃されてたし、懲罰だってね。
念のためにウチの人に確認したら、『ルイス殿下から希望されたんだ。今は小姓として訓練に参加されている』って聞くまでは、すっかり信じてたもの。
正しい情報には、やっぱり精査は必要よね」
しかし、この風聞は中々、消えなかったと話す。
「騎士団にいるから、まともな皇子教育を受けていない、だとか、受けてても成果が出ていない、とか言われてたわ。
実際は違うから、今までと同様の噂ね。
第一皇子殿下は、幼い頃から飛び抜けて優秀だったから、立太子を有力視されていたけれど、子どもは病気に罹りやすいし、何があるか分からないでしょう?
第二皇子殿下も優秀だから、あの頃は、派閥ができて、ある事、ない事、言われてたわね。
ルイス殿下は、立太子レースからすっかり落伍したと見做されて、ほとんど噂にもならなくなってたわ。
なっても、皇太子殿下や第二皇子殿下の引き立て役ね」
「そこまでだったんですか」
「そうね。いない者扱いされてたわ。
ああ、騎士団関係者だけは別だったわね。
真面目に訓練している。根性がある。厳しくしても食いついてくるとかね。
でも地味でしょう?大勢には、影響ない扱いだったわ」
「なるほど……」
「それが一転したのは、デビュタントと同時の、騎士叙任ね。一気に評判が上がって、手のひら返しとはあの事よ。
元々涼やかなお顔立ちだから、令嬢達の人気もぐんと上がって、訓練の公開日とか、きゃあきゃあ言われてたけど、最初はヒラの騎士だって知ると、波が引くようにいなくなったわ」
「ルイス殿下。そんなに手のひら返し、されてるんですか?」
他人事ながら、腹が立ってくる。
噂に左右された、自分にも重なってしまう。
「そうでしょう?
でも騎士団で地道に出世してって、その間に、第一皇子殿下が立太子されて、皇太子殿下に。
その後くらいかしら。
皇太子殿下の警護に、ルイス殿下が付いたのよ。
目立つし、皇族警護に付く近衛役の騎士服だと、数倍増しでかっこよく見えるのよ。
すでに実力で役付きだし?
またもや人気。
一方、第二皇子殿下は、立太子レースに敗れて、皇城内で役職にはついたけれど、皇族の名誉職ってあからさまでしょう?
兄皇子だけでなく、弟皇子にまで、追い越され、みたいなことを言われてたわね」
「どっちも手のひら返し、で翻弄されてますね。
いえ、ルイス殿下は冷静だったんでしょうか」
「えぇ。皇太子殿下の警護の時も、落ち着いたものだったわ。貴族の大半が見違えたと思ったんじゃないかしら。
隊長から参謀には抜擢されるし。
エリーなら知ってるでしょうけど、参謀は知恵者じゃないと務まらないのよ。
平常時は、騎士団内の書類仕事もかなりこなす職務でしょう。
たまに皇族としての職務があっても、きちんと務める。
評価が高止まりした上での、今回の紛争解決だったから、釣書付きのお見合いもどっさりなわけ」
「それで皇太子殿下から、警戒されたり、しなかったんですか?」
「皇太子殿下に対しては、完全に恭順の意を示されてたわ。同腹のご兄弟なのにね。
まだ皇子殿下なのに、臣下の立場って雰囲気を出してたわ。
この前の祝賀会でも、貴女を守ったりする以外はそうじゃなかった?」
「そういえば……」
皇太子殿下が控え室で親しげな言動を見せた時、『兄上』という呼びかけも、すぐに『皇太子殿下』と訂正していた。
式典後の歓談でも対等ではなく、臣下の言動だった。
「そうでしょう?
他には聞きたいことはあるかしら?」
「あの。ルイス殿下は、第二皇子殿下から、『お前は第一皇子殿下のスペアのスペア』って言われたらしいんですが、社交界には洩れてきてたんでしょうか?
噂が広まって、囁かれてたとか」
伯母様が珍しく、わずかに顔を顰める。
「えぇ、ルイス殿下の評判が悪くなると同時にね。
エリー。そこには抜けてる言葉があるの。
『ルイス殿下は、第一皇子殿下のスペアのスペアだ。それも出来の悪い』。
出元は当然というか、ご側室様と第二皇子派の人達。
でも第一皇子派も、耳にして、面白おかしくいってたから、同罪ね。
とにかく、大元は皇帝陛下よ。
私はそう思ってるわ。
もちろん、タンド公爵家の忠誠心は、微塵も変わりませんけどね。
これはあの人には内緒にしておいてね」
伯母様からの聞き取りは、悪戯っぽい微笑で終わった。
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昼食後—
伯母様からの聴き取りを自分なりにまとめ、言動記録書と付け合わせていると、天使の聖女修道院の院長様の来訪を告げられる。
私が寝込んだ話は伝わっており、サロンにお通しした後、子ども達が描いてくれたお見舞いの絵を渡してくれる。
ハーブ畑で笑顔で手入れしたり、クッキーの試食する姿もある。
「ありがとうございます。大切にいたします。
シスターの方々や子ども達に、もうすっかり元気だと伝えてくださいませ」
微笑みながら、紅茶とシェフ渾身のデザートでおもてなしした後、早速、人払いした上で、「内々にお聞きしたいことが」と切り出す。
「院長様。実は“ルー様”のことなのです」
私は、ルイス殿下と言わず、愛称の“ルー様”を用いて尋ねる。
二度目に修道院の聖堂で再会した時に、ルイス殿下自身が、名乗った名前だったためだ。
院長様の穏やかな表情は変わらない。さすがだ。
「7歳の時、お母様とご一緒に墓参にいらして以降、毎年なさっていたことは、ご本人からお伺いしています。
もし、よろしければ、その時のご様子をお聞きしたいのです」
「エリー様。なぜこのようなお尋ねをなさるのですか?」
院長様の澄んだ双眸が私を見つめる。
私も静かに眼差しを交わし、事情を告げた。
「実は、“ルー様”より、結婚のお申込みをいただいております。ただ私は、“ルー様”のことを、ほとんど存じ上げません。
とても大切なこととは、存じております。
だからこそ、客観的な第三者の目で、お聞きしたいのです」
沈黙が流れる。
院長様は目を閉じて、じっとお考えのようだった。
やはり無理か、と思った時、院長様が一言おっしゃった。
「お話できることだけなら……」
「……ありがとうございます。充分でございます。
…………院長様。“ルー様”は8歳以降、一人で墓参においでだったのですね?」
「えぇ、お付きの方はいましたが、墓碑や、聖堂では独りになりたいと仰せでした」
小さなルイス殿下が独り、どんな想いを抱え、あの墓地や聖堂にいたのだろう。
「“ルー様”はご自分をお責めになってはいませんでしたか?」
院長様は言い淀んだ後、ポツポツと話す。
「………………はい。
墓参の際は、お時間を見て、お迎えに行っておりましたが、『許して』『ごめん』と繰り返して、泣きじゃくっておいでの時もあり……。
お付きの方が、抱きしめて、あやしていらっしゃいました。
聖堂でも、『神様。僕が悪い子だったから、ごめんなさい。良い子になります。がんばります』と祈り続けていらっしゃいました。
思い余った私が、『“ルー様”は悪い子ではありません。良い子でいらっしゃいます』と言っても、泣きながら、『みんながそう言っている』と首を振っていらっしゃいました……」
少年の小さな胸に、どれほどの思いが詰まってたんだろうか。
『みんながそう言ってる』が、今聞いてても苦しくてならない。
答え合わせは、これで最後にしよう。
「……さようでございましたか。
これで最後でございます。
顔や手に、痣や、怪我をされていたことはございませんか?」
「はい。いらっしゃる度に、お怪我をされていて。
傷や打ち身のためのハーブ入りのクリームを、お渡したことが何度もございます。
『痛くても強くなるためなんです』と仰せで……。
『僕は護れなかったから、もっと強くなって、大切な人を、国を、守れるようになりたい』と、仰せでございました……」
私は深呼吸を静かにすると、院長様に謝罪する。
「お辛いことをお聞きして、申し訳ありませんでした。
“ルー様”の思いは、この胸に大切に仕舞っておきます。
誰にも、“ルー様”ご自身にも、お伝えすることは、決してございません」
「エリー様。“ルー様”と“エリー様”に、神のご恩寵があることを、お祈りしています。
お二人で道を歩かれるかは、お二人がお決めになること。
私はいつでもあの場所で、お待ちしております」
院長様のお優しいお言葉と、慈愛深い微笑みに、瞳が潤むが、じっと堪える。
「院長様にこそ、神のご恩寵がありますように。
私もまた参らせていただきます。
お疲れのところお越しいただき、本当にありがとうございました」
私は院長様を馬車まで送ると、正門へ向かって見えなくなるまで、じっと見送っていた。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書きたい、と思った拙作です。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
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