155.悪役令嬢の手紙 3
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。
ルイスと小さな小さな家族との生活としては、32歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
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パワハラ及び、流血などの残酷な表現などがあります。
閲覧にはご注意ください。
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『心より愛するルー様
南部の気候はいかがでしょう。
行軍や“遠征訓練”に差し障りがないよう祈っています。
私や“ユグラン”は元気です。クレーオス先生やマーサのお墨付きなので、安心してください。
念のため、クレーオス先生の診断書も同封します。
訓練先で食べられてるか、眠れているか、なんて鍛えたルー様には『当たり前だろう』と思われそうなことも、つい考えてしまいます。
そう、やっとエヴルーに帰って来れました。
皇妃陛下も勧めてくださったので、何か言われても『ご勧告に従ったまでです』って言えるし、伯母様も噂は駆逐してくださるそうです。
用意していた“鳩”も順調です。
タンド公爵帝都邸との行き来もきちんと運用できています。
もちろん緊急通信の狼煙も油断なく備えていますよ。残っているエヴルー騎士団も、副団長の下、訓練を続けています。ご心配なく。
嬉しい知らせが二つあります。
一つ目は私の帰還を知った領民達が広場に集まって、お祝いをしてくれました。
『万一、エリー様がいらした興奮で雑踏事故が起きては危険です』と副団長に止められたので、門扉越しであいさつしたら、たくさんの拍手と励ましの声を贈ってくれました。
アーサーからは、初等学校の子ども達のお祝いのメッセージも渡されて、目を通すのに1日がかりだったのよ。
ルー様への応援もたくさんあったので、帰ってきた時に見てあげてください。
領民の間では、生まれてくる子が、男の子か女の子か、私似かルー様似かでも、話が盛り上がってるそうです。
二つ目は、王国のメアリー百合妃殿下が女の子を出産されました。母子共に健康で、お名前はレティシア様と名付けられました。
この報せがエヴルーとタンド邸の“鳩”の実用第1号です。
縁起もいいでしょう?
ソフィア様とメアリー様にあやかって、私も無事に“ユグラン”を産みたいです。
そのためにもルー様が言った、『よく眠って食べて、もっとかわいくなって、待っててほしい』を実行してます。
安心なさってくださいね。
そして、『俺の居場所はエリーの許だ』と言ったように、私の居場所もルー様の許です。
ご無事なお帰りをお待ちしています。
神の恩寵とご加護をお祈りしています。
幸いがルー様と共にありますように。
ルー様の行く手を太陽と月が照らし、星が護りますように。
あなたのエリーより』
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錯乱したモランド伯爵により、ダートン伯爵が殺されてから一夜明け——
連合国側の軍議は、ダートン伯爵邸で、新しい代表・新ダートン伯爵主導で行われた。
まだ20歳、かつ内通を疑われ殺された父の汚名をそそぐため、なんとしても帝国のドーリス公爵の“援軍”との挟撃を成功させ、帝国騎士団に勝利したいと勇み立っていた。
「早馬を昨夜の内に派遣した。ドーリス公爵の“援軍”を確認次第、出発し攻撃する。
皆様、それで良いですな!」
「…………はあ」
他の七家の反応は鈍い。
だが従わねば、ダートン家からの制裁が待っている。
不服従と取られないほどの服従を示す中、びしびしと質問するのがルカッツ伯爵だ。
「派遣した者との連絡手段は何ですかな?」
「“鳩”だ。軍勢を確認次第、送ることとなっている」
「ドーリス公爵家に確認を取らず、軍勢を見ただけで?」
「ぐっ、言葉の綾だ。軍使としての役割もある」
「それで少しは安心しました。で、こちらの攻撃開始の連絡手段は?」
「狼煙を上げる!」
「なるほど。それでは皆様の軍勢はいかほどで?」
新代表ダートン伯爵の顔を立てつつも、軍議の主導権は自然とルカッツ伯爵に移っていく。
各家が述べる軍勢は、“熱射障害”の被害により100を割る家も多かった。
予想よりも少ない兵数に、新代表がイラつきを見せる。
「またとない好機なんだぞ!もっと出せないのか?!」
『…………』
表情が引きつる当主も多い。“熱射障害”の被害を知らないのか、と心中のわだかまりは大きくなる。
一人がたまりかねて叫ぶように発言した。
「だったら、ダートン殿がこの屋敷の警備も全部注ぎ込まれるがよかろう!!」
「なに?!もう一度言ってみろ!」
二人の間に割って入るのは、ルカッツ伯爵だ。
「まあまあ、ダートン殿。
皆様の力添えがなければ、いくら勇敢さで名高いダートン伯爵家でも、たった一家では戦えますまい?
モランド伯爵邸の見張りにも人手がいります」
モランド伯爵の軍勢は、討議の結果、第三者のルカッツ伯爵家に組み込まれていた。
だが士気は低い。
当主が錯乱し、何の非もない同僚が手にかけられたのだ。当然とも言えた。
「……それはそうだ。が、しかし!」
「休憩を入れましょう。頭を冷やせば少しでも良い考えが浮かぶでしょう」
こういった中断をはさんだ軍議の繰り返しで、少数でも有利に戦える夜襲が選ばれた。
連合国のお家芸とも言え、帝国側をさんざん悩ませてきた。
追ってくれば、丘陵地帯に逃げ込めばいい。そこでの反撃も今までは可能だった。
モランド家やダートン家は、2年前の敗退の原因究明もきちんとしておらず、時の運、偶然が生み出したものだと思っていた。
斥候により帝国軍の宿営地の場所も報告され、作戦が練られる。
待望の“鳩”も来た。
宿営地から馬で1時間のところで待機するという。
合図は夜襲のため、夜間では見えづらい狼煙ではなく、ラッパとする。
早馬で即、“援軍”に知らせた。
戦闘開始時刻は最も眠りが深い、夜明け前——
帝国と連合国の国境から、帝国側の丘陵地帯を抜けた開けた場所に、帝国騎士団の宿営地は設けられていた。
連合国側の本陣は、この丘陵地帯の端に敷かれる。
この本陣から夜陰に紛れ、連合国軍勢が気配を殺し、粛々と取り囲んでいく。
「戦闘、開始ッ!かかれッ!」
号令と共に、定められた家の騎馬の切り込み隊が走り出し、その上を火矢が追いかけ追い越し飛んでいく。
後に続くように、各家の軍勢が宿営地を全方位から攻撃し始めた。
騎馬の音に帝国側の歩哨が気づき、ラッパを吹き立て宿営地全体に知らせる。
さほど間をおかず、宿営地の本陣近くから通信用花火型狼煙が次々と打ち上げられる。
ヒュ〜〜ッ、ヒュ〜〜ッと独特の音を立てて、未明の夜空へ上っていく。
色は赤、“援軍”への緊急信号だ。
ルイスがエヴルー“両公爵”領 地 邸で、試行錯誤を重ね開発したものだ。
その音と闇を照らす明るさに、連合国側の人馬ははひるむ。
火矢は燃え広がる前に、王国艦船で用いられている消火剤がぶちまけられる。
ルイスがドラコ提督と飲み明かした夜、船火事対策の存在として話題にのぼった装備品だ。
何度も頭を下げ、義父ラッセル公爵にも口添えを頼み、妻には内聞の交渉の上、輸入し配備していた。
連合国側の得意技、ゲリラ的な“夜襲”にさんざん苦しめられてきた帝国側の勝利の秘訣、“8割の準備”の一つだった。
残る“2割の実行”のため、血気盛んな帝国の騎士達が雄叫びを上げ、鉄器を打ち鳴らす。
我々は惰眠をむさぼってなどいない!
お前達を待っていたぞ!
そう言わんばかりの響きが、南部の空と大地に広がっていく。
と同時に、宿営地から次々と帝国騎士団の精鋭が現れ、周囲を取り囲む陣立てをするとともに、敵の攻撃を迎え撃つ。
“影”からの連絡以降、軍勢を昼番と夜番にわけた。
連合国からの攻撃に備え、狼煙はいつでもあげられるようにしていた。
これも“遠征訓練”で備えの一つとして、繰り返し演習してきたことだ。
通信用花火型狼煙は、“援軍”に知らせるためだ。
あのダートン伯爵と内通していた“手紙”は準備した“小道具”だった。
逮捕されたドーリス公爵がコップ1杯の水と引き換えに書いたもので、今すぐそこにきている“援軍”はドーリス公爵家のものではない。
タンド公爵家騎士団を中心とした混成の軍勢だ。
敵を欺くために、ドーリス公爵家の紋章旗を用い、それらしくダートン新代表の軍使の相手をしていただけだった。
宿営地を囲むあちこちで、戦闘が同時多発的に行われる。
最初は押し込まれていた帝国側も、昼番の騎士達が装備を整え、後陣を敷き、そこから戦いに加わると、じわじわと押し返し始める。
それでも宿営地中心の本陣近くまで、闇に乗じて現れる敵は、エヴルー騎士団の精鋭が切り結び倒していく。
彼らはこの本陣周囲に配置され、ルイスの警護にのみ専念していた。
今までにない帝国側の動きにより、絶え間なく攻撃が覆えされる状況に、ダートン代表は焦りの色を浮かべる。
「ええいっ!どうなっているのだ!援軍はまだか?!」
「1時間の距離なら、残り20分ほどでしょう」
ルカッツ伯爵が空を見て落ち着いて答える。
連合国側の本陣は丘陵地帯の端に敷かれ、宿営地からはかなり離れている。
斥候が戦況を伝える中、命令無しに本陣へ一旦引き返す当主も現れた。
「なぜ、兵を引く!命令していないぞ!この臆病者めッ!」
「多勢に無勢だ!装備もままならない相手だからこそ、夜襲は通じたこと!文句があるなら、あなたが行って戦ってくればいい!」
「なにをぉおッ!」
「ご両者、待たれよ!
ここで言い争っても、敵に利するだけ。
一旦兵を引き、援軍が来るのを待ちましょう。
この距離では、帝国側も援軍を待って我らを討とうとするでしょう」
「なるほど。さすがルカッツ殿!
では、いったん兵を引くぞッ!鳴らせ〜〜ッ!鳴らせッ!」
連合国側のラッパが『攻撃を中断し、本陣に戻れ』との命令を伝える。
帝国側も引いていく連合国の騎馬を、深くは追ってはこない。
連合国側は夜が白々と明けゆく中、本陣に駆け戻るものの、無事な者が3分の2ほどとなっていた。
帝国の宿営地の周囲には、連合国側の遺体が転々と残されている。
大勢を立て直すため、各家ごとの員数を確認していた最中に、連合国側の本陣の左右から、人馬の気配が近づいてきた。
「なんだ?!これは?!なんなんだ?!帝国の伏兵か?
そんな者はいなかったぞ!」
その地響きに取り乱したダートン副代表に、ルカッツ伯爵の声がかかる。
「ダートン殿?!援軍ではないのか?!」
「いや、援軍とは帝国騎士団を挟み撃ちの約定だ!」
「では、“奥”に逃げられよ!一旦引いて、勝機を奪うは我らの戦いだ!」
「わかった!丘陵に引くぞ!」
事態の変化に戸惑う他家をよそに、ダートン家の軍勢が最初に本陣を出て、真っ先に向かう丘陵地帯に、朝日に照らされた帝国の旗が続々と上がっていく。
「帝国が?どうして?いつのまに?どうなっている?」
ひるみ立ち往生したダートン代表が率いる軍勢は、左右から挟撃され、その圧倒的な兵力で駆逐されていく、
身動きできず本陣に残る連合国側の軍勢は、三方から囲まれる中、前面の宿営地からも騎馬の音が響いてきた。
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「ご協力、感謝する」
「いやいや、不謹慎だが美しいものだった。
ノックス公爵家のご当主が自慢するはずだ」
タンド公爵家騎士団副団長が統率する“援軍”は、30分の距離まで近づいていた。
夜陰と戦闘の騒音に乗じ、二手に別れ、宿営地をぐるりと遠回りし、支給された懐中時計で時間を定めタイミングを合わせ、連合国本陣を挟み撃ちにしていた。
ダートン伯爵家の軍勢のほとんどが最後まで闘い戦死し、ダートン新代表の首級は上げられた。
他家の連合国側の当主と将兵は、ルカッツ伯爵の勧めに従い、白旗を掲げ降伏の意を示し、本陣の一ヶ所に集められていた。
“援軍“の一方は副団長が指揮していたが、もう一方を率いた人物が近づいてきた騎馬から降り、兜を脱ぐ。
「皇帝陛下の命により遣わされた援軍が、役立ってよかった」
「ウォルフ!」
ルイスは潜入先で軟禁、移送され、ルカッツ伯爵邸にいるはずの騎士団長の登場に驚く。
が、“事情”を知る幹部以外の周囲には、帝都に、皇帝陛下の側にいるはずの、我らが騎士団長の登場に、どっと歓声が湧き起こる。
ルイスとウォルフはしっかりと抱き合う。
「後から話せよ」
「もちろんだ。すまなかった」
ささやきあって抱擁を解き、まずは連合国の残存勢力の武力放棄と話し合いだ、と二人で歩を進めていた。
その時——
ダートン伯爵家の多数の遺体の一つが、むくりと持ち上がる。
「主君の仇!」
味方の遺骸を重ねて隠れ、一矢報いようと機を窺っていた残兵のクロスボウから放たれた一本の矢が、庇おうと飛び込んだエヴルーの警護の喉を掠め、ルイスへ向かう。
先に残兵の動きを視界の端に捉えたウォルフが、ルイスを逆方向に突き飛ばす。
地面に叩きつけられ頭から血を流したルイスが、助け起こされ見たものは、部下達に囲まれたウォルフの小さくうめく姿だった。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
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精霊王、魔術師とその養娘を中心にしたお話です。
【精霊王とのお約束〜おいそれとは渡せません!】
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序章後の1話からは、魔法のある日常系(時々波乱?)です。
短めであっさり読めます。
お気軽にどうぞ。
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