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153.悪役令嬢のお義母様(かあさま) 3

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。

ルイスと小さな小さな家族との生活としては、30歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。


※※※※※※※※※※ご注意※※※※※※※※※※※※※

モラハラ、パワハラ及び、残酷な表現などがあります。

閲覧にはご注意ください。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 私が倒れて数日後——


 伯母様が皇妃陛下と面会しさまざまに語り合ったらしい。


 タンド公爵邸からエヴルー公爵邸に帰邸したものの、クレーオス先生の指示で療養中の私の元に、伯母様はたっぷりのタンド公爵領産のおいしい果物をお見舞いに持ってきてくださった。

 そのみずみずしさを食べるのが楽しみなくらい、私は回復はしてきていた。


 ルイスも言ったのだ。


『エリー、よく眠って食べて、もっとかわいくなって、待っててほしい。俺の居場所はエリーの元だ』


 今やることは、ルイスが言った通りのこと、と思った時、『もっとかわいくなって』で今頃きゅんきゅんしてしまう。

 私の旦那様は、遠隔きゅんきゅんもさせるらしい。


 思い出し少し照れていると、伯母様が顔を覗き込む。



「頬も血色がだいぶ良くなってきたわ。よく眠って食べるのよ。今はそれがエリーのお仕事よ。

“ユグラン”のためにもね」


 期せずしてルイスと同じことを仰る。私は幸せ者だと思いつつ、微笑んで(うなず)いた。



 その夜——


 皇帝陛下は皇妃陛下にお手紙で相談があると誘われ、内心喜びながら、後宮へ向かった。

 いつものようにソファーに二人で座り、人払いする。

 皇妃陛下はハーブティーをひと口飲んだあと、ため息をひとつ吐く。


「どうしたのだ。何か悩みでもあるのか。(わし)が晴らしてやろう。なんでも言うがいい」


「ありがとうございます、皇帝陛下。

では、離婚していただけますか?」


「?!」


 皇帝陛下は衝撃が強すぎて、一瞬言葉を失い、念のため確認する。


「すまん、もう一度言ってくれ。聞き間違えたらしい」


「はい、皇帝陛下。私と離婚していただきたいのです」


 落ち着いている皇妃陛下に対し、皇帝陛下は驚きのあまりか語気が荒くなる。


「離婚だと?!絶対に許さん!!できる訳がないだろう?!」


「離婚は法律でも、正当な理由があれば認められております。私はふさわしくありませんもの。

兄があのような謀反を起こし、後ろ盾も無くしました……」


「兄は兄、そなたはそなただ。愛するそなたのためもあり、理由は領地運営を放棄した挙句、ドーリスが奢侈贅沢な生活に溺れていたためとする。

降爵するが、甥に継がせ侯爵家とする。侯爵家の出身の皇妃は前例もある。

後ろ盾はあるではないか。“中立七家”が」


 皇妃陛下はさらに大きなため息を吐いた。


「私は兄に何度諫言(かんげん)したかわかりません。

私を利用するしか考えておらず、帝室を食い物にする外戚の代表のようになってしまい、陛下にも配慮は一切御無用と申し上げてまいりましたわよね?」


「ああ、そなたは公私のけじめを持ったすばらしい皇妃だ。気に病むことなど一切ない」


「それでも口さがない者は、罰せられた実家を持つ皇妃など聞いたこともない、と言ったでしょう。

今、表立って言われずにすんでいるのも、血縁を理由に図々しく絡んでくる兄から解放してくれたのも、エリー閣下とルイスでした。


違いますか?陛下はドーリス家と帝室のしがらみもあり、そこまではご無理でしたもの」


 ここで皇帝陛下は、皇妃陛下の言葉に少し勢いを失う。


「まあ、それは、そうだな。すまぬと思っていた」


「陛下には陛下のお立場がございます。

ただエリー閣下とルイスは“中立七家”をまとめ、私と陛下の愛娘マルガレーテの教育係として、一生忠誠を誓ってくれ、私の後援もすると申し出てくれました。

どれだけありがたかったことか。それを……。

恩を(あだ)で返すようなことになるなんて……。

恥ずかしくて、皇妃の座にはいられません」


「恩を(あだ)?そなたが何をしたというのだ。

関係はすこぶる良好だろう?(わし)には冷たいがの」


ふん、と不満を洩らす皇帝陛下をちらっと見たあと、皇妃陛下は気にしない素振りで続ける。


「えぇ、陛下がなさいましたの。私の義理も面子も潰されたのです。

恥ずかしくて、“中立七家”の支援など受けられません。

すなわち皇妃の座にはふさわしくございません」


 ここで皇妃陛下はきりっとした眼差しで皇帝陛下を見つめる。


「わ、(わし)が潰した?心当たりは一切ない」


「…………今度、南部の件が無事に治れば、ルイスとエリー閣下に、新設するガーディアン勲章の準一等か準二等を与え、それとエヴルー公爵家創設時と同じ規模の帝室直轄領をお与えになる予定でございますわね?」


「ま、まあ。そのつもりだ。名誉であろう?

臣下としては破格の扱いだ。あの二人の功績にふさわしいだろう?」


 皇帝陛下はやや自慢げで、『ほめてほめて』モードだ。

そこにふつふつとした怒りを内包した、氷室の氷より冷え切った眼差しが向けられる。


「陛下。陛下は私のピンクダイヤモンドの時といい、贈り物をする相手の気持ちより、自分の見栄や外聞を優先されるのですね?」


「え?」


「あの子達が、そんな勲章や、広すぎる領地を欲しがると思っているのですか?

欲しいものをご存知ですか?

知らなければ、知っていそうな方や私に相談なさいましたか?」


「…………」


 皇帝陛下に言葉はない。そんなことはしてもいないし、思いつきもしなかった。


「あの子達は領地で穏やかに暮らしたいと、前々から望んでおりました。

社交は最低限で、領民のために領地運営し、エヴルーでのんびり気兼ねなしに暮らしたいと願っているのです。

これは私がエヴルーに“里帰り”し、戻ってきた時に、あなたにもお伝えしたはず。

もうお忘れですか?」


「しかし、それでは、釣り合わぬではないか?」


「その暮らしを実現するものを贈るのです。

相手の立場になって、頭を働かせるのです。

そんな贈り物の基本も行わずに、要らないものを、嫌がるものを押し付けて困らせる。

これが(あだ)でなくて、なんと言うのですか?

仰れるなら仰ってみてください!!」


 皇妃陛下は美しい眉を上げる。

 言葉に気迫がこもり、怒った女神のようだ。皇帝陛下はその圧に押されると共につい見とれてしまう。


「…………」


「沈黙は肯定とみなします。ですので離婚をお願いいたしました。さあ、こちらにサインくださいませ」


 いつのまにか整えた離婚のための書類を、テーブルの上に置かれた。皇帝陛下は目の当たりにし狼狽する。

 ここを訪れた時の威風堂々は急速に失われつつある。


「そ、そんな、絶対に、サインなどせぬ!」


「私の望みを叶えると言ったでないですか?!

もうお忘れですか?!」


 皇妃陛下は立ち上がり、皇帝陛下を見下ろし叱りつける。


「……どうすれば、許してもらえるのだ。そなたがおらぬ人生など考えられぬ……」


 皇帝陛下はうなだれて、泣きそうになっていた。

 臣下の前では絶対に見せられない姿だ。


「そういう風に聞く、ということは、あの子達の気持ちが本当にわからないのですね」


「……すまぬ。臣下は栄誉と財産を与えれば喜ぶであろうと思っていた」


「先ほどの栄誉と財産は、あの子達を困らせるだけです。

ルイスは臣下になったくせに、帝位を狙っているのかと言われのない非難を浴びるでしょう。

エリー閣下は王国の第一王女でもあるのです。

その夫が、皇帝か、皇太子に準ずる勲章を授与される。

第五皇子はまだ若い。中継ぎの帝位を狙っているのでは、と言われるでしょう。

あの子達を苦しめるだけです」


「……そのような、ことになるのか?臣下は臣下だ」


「それはあなたのお考えにすぎません。

どうせ新設するのなら、全く別の勲章を授与すればいいではないですか。

あの子達の功績にふさわしく、臣下としてとても名誉ある勲章にすればいいのです。

思いつかないなら、私にお任せくださいますね?」


「わ、わかった。すまぬ」


「もちろんこれだけでは足りません。

さあ、何がふさわしいか考えてみましょうか。

秋の夜は(なご)うございます。我が子達のために考えるためには充分な時間でございましょう。

私にとっても、恩を(あだ)で返さないためです」


「…………わかった」


 そこからは、諫言(かんげん)という名のお説教と心理教育をみっちり一晩された挙げ句、共寝は断られ追い返され、未明の冷たい風の中、居室へ戻った。


 またエリー達に何かする前には、絶対に皇妃陛下に相談する、と一筆書かされた。


 さらには、『あなたは忘れっぽいですから、絶対に忘れないように』と離婚書類に結局サインさせられた。

 もしもこの約束を破ったなら、届けを出すと、きっちり首根っこを抑えられるおまけまで付いたのだった。


 翌日、皇帝陛下が憔悴しきっているのは、南部の件でご心労が重なっているのだろう、とあらぬ噂が皇城内を飛び交う。


 一方、皇妃陛下は母として、今から息子と義娘の顔を見るのが楽しみだと思いつつも、エリーは心穏やかに過ごし、ルイスは無事に帰ってくるように、と願ってやまなかった。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 時は進み——


 ルイスとの会談を終えたモランド伯爵は、帝国の野焼きを許したとして、街道を守っていた守備兵全員の首を()ねた。

 それでも怒りは湧き出てくる。


「何なのだ!いったい!あの若造は?!」


 邸宅に帰邸しても、モランド伯爵の荒れようは治まりそうになかった。

 こういう時は乳兄弟である執事長でないと、切り付けられかねない。


「旦那様、お(しず)まりください。

その勇敢さは戦場で発揮されるもの。無礼な帝国に剣を振るってくださいませ」


「はぁ、はぁ、お前の言うとおりだな。

あの無礼なガキを串刺しにしてくれるわ!

貴族らを集めよ!会議を開く!」


 剣を抜き、その刃の先にルイスの首を突き刺して凱旋する妄想を怒りのままに噴出させていた。


〜〜*〜〜


 数日後——


 十家の当主が集まり、顔ぶれがそろう。


 モランド伯爵とダートン伯爵にあいさつに行く者が多い中、ルカッツ伯爵のみ、席上から動かず、用意された資料を読み込んでいる。

 特に最後通牒付き宣戦布告の写しには、何度も目を通していた。


 彼は貴族十家の中でも比較的良心的な領主であり、他家が領民へ備蓄の穀類支給を渋る中、供出しており、領内で餓死者も難民も出していない。

 領民も乳牛を殺さずにすみ、牛乳は飲めた。

 また“熱射障害”から生き残った野菜などの作物を二期作で栽培するよう呼びかけ、領民は少量ながらも栽培収穫し自給の足しにしていた。


 連合国の貴族十家の内、三家ある伯爵家でも、最も歴史が古く由緒があったため、不条理にもモランド伯爵からしつこい嫌味や嫌がらせ、いやそれを越える行為も何度となく受けていた。

 それにさえ超然としている姿が、他の七家当主の内心での尊敬を集めている。


 30代のモランド伯爵は10歳の長男を初陣させると意気込んで控えさせ、50代のダートン伯爵は20歳の長男と出席していた。

 各々の護衛も連れており、ウォーリーことウォルフも指名され、長男の背後の壁際に、怪しまれない程度に気配を抑えて立つ。

 戦場であった者だらけだ。極力、“少し腕が立つ者”との認知に誘導させていた。


 貴族達が集まり始めたころ、侍従に扮した“影”が執事長に、出陣式の有無を確認する。


「そういえば(うかが)っていないな」


「執事長様には会議の采配がございましょう。私が(うかが)いにまいります。ワインの銘柄もお聞きすればよろしいでしょうか」


「ああ、そうしてくれれば助かる」


「ではメモに書き、『これだ』と仰っていただくようにいたします。旦那様のお時間は貴重ですので」

「お前は本当に気が利くな。よろしく頼む」

「かしこまりました」


 侍従はいつものように礼儀正しく微笑んだ。


〜〜*〜〜


 その時が来た。


 会議が始まる直前、侍従役の“影”が『執事長からです』と小声で、例の“手紙”の便箋のみ手渡す。


 目を通したモランド伯爵に変化が訪れる。


 ぼうっと“手紙”の文面を見つめたあと、細かく引きちぎり、ゆっくりと立ち上がる。


 そして、ダートン伯爵の席に向かい、まっすぐ向かう。



「モランド殿。いかがした?会議を始め」


 ダートン伯爵の言葉は続かず、その首に剣が一閃、真紅の血が噴き出す。


 会議場は一転、阿鼻叫喚、血の海となった。


「父上!この卑怯者!よくも騙したな!」


 ダートン伯爵子息はモランド伯爵と切り結ぶが、腕を負傷し警護に庇われ避難を図る。


 モランド伯爵は、自分の凶行を止めようと立ちはだかる者、敵味方を区別せず全員に、容赦なく剣を振るう。


 ウォーリーことウォルフは、この場の混乱に乗じモランド伯爵邸から離脱するため、抜け出そうとした。


 その時——


 モランド伯爵の長男が、10歳の少年が、父に向かっていく。


「父上!おやめください!どうされたのですか!」


 幼い息子の声が、酔ったような目をし、“手紙”による強い暗示状態にあるモランド伯爵に届くはずもない。


 反射的に、動いてしまっていた。


 ウォーリーは長男に向かって振り下ろされようとした、モランド伯爵の剣を、己の剣で受け止め、なぎ払う。

 どうやら敵認定されてしまった長男を背にかばい、それでも向かってくるモランド伯爵の膝を、返す剣の切先で切り割る。


「ヒイィ!ヒィイ!いたい!いたい!」


「気がふれたか!モランド!父の仇!」


「待たれよ!」


 床に転げ回るモランド伯爵を、ダートン伯爵子息と警護がとどめを刺そうとしたが、壮年の伯爵が制止する。


「ルカッツ伯爵!あなたも敵か?!」


「落ち着かれよ!父上のご無念は察してあまりある!

しかし何の意図があって殺害したか、取り調べが必要ではないのか?!

連合国は法治国家ではないのか?!」


 朗々とした声が響く。

 血があちこちに飛び散り、鉄錆(てつさび)の匂いが立ち込め、被害者の呻き声が響き、書類が散乱した中、ルカッツ伯爵は言葉を続ける。


「最優先は負傷者の救護だ。

モランド伯爵は別室に拘束し怪我の手当てを。

父上が亡くなられたからには、あなたがダートン伯爵だ。

伯爵としてふさわしい言動をとっていただきたい」


「ぐっ……。わかり、ました」


 新ダートン伯爵が(こぶし)を握りしめた時、執事長が会議室に飛び込んできた。


 拘束され床に転がされている主人(あるじ)を見ると駆け寄り、大声で問いかける。

 膝の傷は応急処置で止血の布が当てられている。



「旦那様!旦那様!どうしてこのようなことに?!」


「許さぬ!俺を止める者は、立ちはだかる者は、絶対に許さぬ!」


「……そういうことでございますか。

それほどまでにお苦しみに……。この私が代わりに」


 執事長はすっくと立ち上がると、室内の貴族達に呼びかける。


「皆様!どうかお聞きください!

ここにいるダートン家は、帝国に通じております!

裏切者でございます!」


「何と無礼な!許さぬぞ!」


 腰の剣の(つか)を握り、抜こうとする新ダートン伯爵を、ルカッツ伯爵が止める。


「待たれよ!早まりなさるな!

執事長殿、そこまで仰るには証拠がおありなのでしょうな?」


「はい!ございますとも!少々お待ちを!」


 執事長はモランド伯爵が座っていた席の辺りを探し、例の手紙を探し出す。


「ご覧ください。これはダートン伯爵が帝国のドーリス公爵とやりとりしていた証拠でございます。

ルカッツ様、お目通しを」


「では、失礼する。皆様も知りたいであろう。

読み上げさせていただく」


 愚痴が多いドーリス公爵からの手紙には、こうあった。


『帝国騎士団を連合国へ向かわせた。

先の手紙の通り、帝国騎士団が貴国が戦闘状態となれば、我がドーリス公爵家は援軍を送ると見せかけ兵をあげ、連合国とはさみ撃ちにする計画を着々と進めている。

貴家ダートン伯爵家は、機を見て武勲を挙げられよ。

そうすれば、領土を増やした連合国の代表の座は、あなたのものだろう』


 知らされていなかった息子、新ダートン伯爵はうろたえ、家の潔白を訴える。


「に、偽の手紙だ!父上がそのようなことをするはずがない!」


「鎮まられよ。この手紙が真に帝国のドーリス公爵のものだという証拠は?」


「ドーリスは我が家にも誘いの手を伸ばしていましたが、高潔なる旦那様は相手にしなかったのです。

その手紙と筆跡も封蝋(ふうろう)の指輪印章も一致しています!」


 その手紙も探して渡され、照合したルカッツ伯爵は大きなため息を吐く。


「皆様に回覧する。ご確認されたい」


 残る七家の当主が次々と自身の目で確認していき、最後は新ダートン伯爵に手渡される。


「こんな……。こんな、ことが……」


 震わせながら手紙を凝視したあと、はっと気づいたように顔を上げる。


「これのどこが裏切りなのだ?!

帝国に勝つ努力ではないか?!

これを真実と言うなら、絶好の好機ではないか!

そうだろう、皆様!

帝国騎士団は味方と思った敵が現れるのだ!

勝てる!勝てるぞ!」


「ダートン伯爵、ではお聞きするが、いつ呼応するのか、その合図はどうするのだ?

先代がお亡くなりになった今、無理があるのでは?」


「戦いは流動的だ!斥候を潜ませ、狼煙(のろし)を上げさせればいい!

皆様、勝利は目前なのだ!帝国の領土が手に入るのだぞ!

何より私は副代表だ!

いや、このモランド伯爵が乱心した今、私が代表だ!

そのように約定(やくじょう)で決まっている!

連合国代表であるこの私に従ってもらおう!」


 ルカッツ伯爵が額に手を当て、他の七家当主も戸惑う中、新しい代表、新バートン伯爵はただ独り、意気盛んだった。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 ウォーリーことウォルフは、剣を没収され自分の部屋に軟禁されていた。


 モランド伯爵家の者は、事情がありそうな乱心とはいえ、副代表ダートン伯爵の話も聞かず殺害したことにより、主人(あるじ)を始めとした全員が、地下牢に入れられていた。


 ウォーリーは、モランド伯爵を生かしたまま、凶行を止めた功績により、自室での軟禁処分を、ルカッツ伯爵が強く主張、認められていた。

 確かに、モランド伯爵はかなりの剣の腕前で、ウォーリーが止めなければ、犠牲者はさらに生まれていただろう。


『さて、逃げるべきか否か。無理して逃げると怪しまれるか。いや、面倒ごとが嫌いな傭兵は多い。

だが売り込んで、戦場に出るのも手か。

さらなる撹乱(かくらん)もできるな』


 次の手を考えているウォルフの耳に、ノックが響く。


「……へえ、どうぞ」


 無愛想な濁声(だみごえ)の答えを聞いたタイミングで、ルカッツ伯爵が入ってきた。


 警護は外に控えさせ、二人っきりになる。

 剣を取り上げたとはいえ、いい度胸だ。

 こうして相対すると、壮年とはいえ、ルカッツ伯爵もかなりの腕だとわかる。


 やっぱりつい手を出したのが失敗だった。

 ルカッツが助けたかもしれないのに、いや、今はそこからの立て直しだ。

 それにしてもいったい何の用だ。


 無愛想な態度を(たも)ったまま、自分の行動を反省し、次の手を考えるが、決して油断はしない。

 室内を一通り検分したルカッツ伯爵は、ウォーリーを穏やかに見つめ続ける。


「…………ウォーリー殿。

いや、ウォルフ・ゲール帝国騎士団長閣下。

ここで何をしていらっしゃる?」


 ようやく発せられた抑えた声は、かえって室内の静けさを際立たせていた。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。

誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

★、ブックマーク、いいね、感想などでの応援、ありがとうございます(*´人`*)


● いい夫婦の日になんて投稿を、とお思いの皆様、申し訳ありません。本当にたまたまです(^^;;

これも一つの形ということで……(*´-`)

息子夫婦は離れててもらぶらぶです。


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コミカルなファンタジーを目指した新作を公開中です。

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短めであっさり読めます。

お気軽にどうぞ。

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悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
皇帝陛下はほんとに…!言えば聞いてくれるだけマシですけども。離婚届は後年博物館に陳列されそうですね(笑) 「××こと○○」は、愛称や通称が前で、本名が後ろになります。 この場合ウォーリーという偽名を…
バレてますねw 当然と言えば当然ですね。戦場で向かい合った敵同士、剣筋に見覚えもあるでしょう。 ……状況を(バカ2人とは違って)把握しているようですし、少なくとも現時点で戦況を開く不利も悟っているで…
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