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143.悪役令嬢の駆け引き

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。

ルイスと小さな小さな家族との生活としては、20歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。


「ルー様、どうしたの?」


 騎士団本部に駆けつけた私を、ルイスは厳しい表情のまま、受付前で抱きしめた。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜



 9月に入り、帝国内の小麦の収穫期も終わり、帝室の南部直轄領を中心とした被害の全体像がはっきりとした。


 帝室直轄領は、最も南で平年の3割を切るところから、7割を(たも)ったところまで、平均化すると、全体で平年の約5割だ。

 隣接や飛地的な領地の被害はばらつきがあり、平年の5割から7割だった。


 タンド公爵を始めとした行政官の尽力により、備蓄と帝国全土から負担を平均化して集めた穀類により、食糧支援は行き届き、病人などを除き基本は穀類メニューで、餓死者は出ていない。


 現地に派遣された農学者や行政官の指導により、これから来年の小麦収穫までに、その土地で栽培できる冬野菜などの選定や栽培指導を行っていた。

 助力した地方を納得させるためにも、南部領民の勤労は必要だ。

 支援だけに頼られていては、帝国全体も立ち行かなくなる。


 その大きな布石として、王国が申し入れてきた“提言”をどうするか——


 討議する会議は、5日目を迎えたところで、反対する保守派も種が尽き、提言受け入れが決定された。

 次にここから結ばれる“協定”について、会議が始まる。



 会議に次ぐ会議の一方で、“不敬報道事件”の捜査は広がりを見せていた。


 不敬の対象は、誤報道された王国のソフィア薔薇妃殿下に始まり、穀類メニューの炊き出しを馬鹿にされた皇妃陛下と皇女母殿下、誹謗中傷された臣下序列第1位のエヴルー“両公爵”だ。

 さらには、帝命を軽んじられた皇帝陛下も加わる。

また不敬に留まらず、重大な裏切り行為を企図した者もいた。

 押収された証拠物品、主に手紙類を見たウォルフ騎士団長が、捜査会議で発言する。



「彼らは帝国の貴族たる権利を失ったようだ。王国にも行けないが。どこがふさわしいだろうか」


「まさか国外追放ですか?」


「皇帝陛下と皇妃陛下と皇女母殿下、帝室の方々にこの文言は、臣下、貴族としての存在価値があるか?

それに皇帝陛下はご自分より、皇妃陛下と皇女母殿下の件を重く見てるよ」


 自分の政策を後押しした二人への侮辱は、皇帝陛下の怒りを買っていた。


「それにソフィア薔薇妃殿下のルイスの側室疑惑は、二重にマズい。

ルイスの正室兼、もう一人のエヴルー公爵は、王国のエリザベス王女殿下なんだ。

提言受け入れも決まった。王国の手前、生ぬるいことはできない。

しかし法治国家の範囲内に収める。

だが、“これ”は無い。無さすぎる。公表するのが難しすぎるくらいだ」


 ウォルフはある手紙を机の上に置く。

 彼らの未来には暗雲が立ち込め、厳罰が待っているようだった。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


【ルイス視点】


 これらの会議と捜査の裏で、極秘裡に王国宰相ラッセル公爵の“余談”を検討する“南部問題協議会”が、帝命により発足した。

 

 騎士団と行政官などの混成だ。南方連合国への工作案を立案・検討の上、実施する。

 当然のように俺も参加を命じられた。


 (しゅうと)ラッセル公の指摘通り、“南部紛争の英雄”からは、一生逃れようがない。

 あの識別票(シグナキュラム)の手紙で婚約を受け入れた直後から、“影”を連合国に潜入させていたというエリーの懸念が、現実のものとなっていた。

 こうした状況下、ウォルフが人払いをし俺に申し入れてきた。



「エリー閣下に“協議会”に参加してほしい。

“抜け道”事案で見せてくれた知略を、この国難に是非発揮してほしい」


「……あの時はエヴルー帝都邸(タウンハウス)の敷地内で、“我が事”でもあった。

今回はエリーは関係ない。エヴルー“両公爵”としてなら、俺がいればいい。

それに“熱射障害”の発見とその対策案で、充分に国に貢献している!

あとは俺たちの職務だろう?!」


 思わぬ申し入れに、俺は徐々に怒りが増していく。そんな俺の前でウォルフは冷静だった。


「いざ軍事行動が起きれば、お前が当事者となるのに、“我が事”と捉えないエリー閣下ではない。

ルー、お前が一番よく知ってるだろう?」


 ああ、知ってるとも!誰よりも知っている!

 だからこそ、巻き込みたくない。

 一番守りたい人を、俺の最愛を、誰が好きこのんで、危険に巻き込みたいと思う?!

 この帝都にさえ裏切り者がいたんだ。紛争地から離れていても危険が付きまとう。

 エリーは身重なんだぞ!


 ただこれが俺の私的な思いであり、エヴルー“両公爵”として、“帝室の藩屏(はんぺい)”としては、異なる結論を出さざるを得ない。

 ウォルフは俺がここで拒否しても、エリーに直接要請するだろう。


「…………エリーの絶対的な安全は保証してくれ」


「わかった。

万一、ご本人が南部に行きたいと言っても、絶対に許可しない」


「エリーが?!」


「妊娠中だが、安定期に入った。

お前がエリー閣下を思うように、エリー閣下もお前を思ってらっしゃる。

それにあの方は現場主義者でもある。

“抜け道”の時、そうだっただろう?」


「……絶対にダメだ。

それと、まずは俺とウォルフとエリー、3人で話したい。そこで終われば、“協議会”自体に参加はさせたくない。

“抜け道”の時のようなエリーを知る者は、最小限に抑えたいんだ」


「“熱射障害”の発見とその対策で、知れ渡ってるがな」


「…………それでもだ。工作作戦を立案するのとは訳が違う。そうだろう?」


「……わかった。エリー閣下と3人の会合を要請する。エヴルー“両公爵”ルイス閣下」


「承った。帝国騎士団団長ウォルフ・ゲール閣下」


 互いに公的呼称で呼び合う俺とウォルフの間には、エリーを巡っての駆け引きが始まっていた。



 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜



「お疲れ様です、ルー様」


 急に騎士団本部に呼ばれたエリーは、優しく微笑んでいたが、緊張が伝わってきた。

 この情勢下に突然のことで当たり前だ。


 さらには関係者以外立入禁止で、マーサもエヴルーの護衛も入れない。

 俺の小姓と護衛役の騎士1人を出迎えに待たせていたが、マーサが『俺本人でないと』と譲らなかった。



「エリー、急にすまない」


 俺は思わず、受付前で抱きしめる。

 厳しい表情だったろうが、少しでも安心させたかった。

 マーサ達に馬車での待機を命じ、エリーを用意した部屋へ案内する。


「ルー様、どうしたの?」


「……実はウォルフから依頼があるんだ」


 3人だけの騎士団本部会議室で、俺は話を切り出し、ウォルフは説明する。

 エリーはしばらく考えた後、意を決したようにエメラルドの眼差しを先ず俺に向け、優美に微笑みかける。

 『安心して』という心の声が聞こえるようだ。


 そしてウォルフに涼やかな双眸(そうぼう)を巡らし、凛とした声で応じる。



「ウォルフ閣下。ご依頼は私の話を聞いてからにしていただけますか?」


「エリー閣下の話を?」


「はい。私なりに温めてきたものはあります。

ただ、帝国のこれまでの対応とは大きく異なるでしょう」


「この“南部問題協議会”自体、今までの帝国の方針を大きく転換したものです。問題はないと思うが……」


 エリーはウォルフに小首を傾げ(たず)ねる。


「ウォルフ閣下。最初は女性主体ですが、それでもですか?」


「女性主体?」


「はい、家庭内で食べることに直接携わるのは圧倒的に女性です。その深刻さの受け止め度合いも、女性のほうがはるかに大きいと言えます。

子どもの命を預かる母親なら、なおさらです。


そして連合国側では“略奪行為”には、ほぼ参加していません。

炊き出しや食料配布に参加する帝国側も、男性よりも女性の方が受け入れやすいと思うのです」


「炊き出しや食料配布を女性にさせる気ですか?」


「はい。連合国からやってくるのも女性です。もちろん、陰ながらの警備はしていただきます。

ただ配る人間が騎士団や地元領民の屈強な男性でしたら、相手はどう思うでしょう?

(おび)えて引き返してしまうのではないでしょうか?」


「しかし、協力してくれる女性がいるでしょうか?

まさか、エリー閣下が?」


「俺は反対だ!絶対に!絶対にダメだ!」


 ウォルフの言葉は俺の考えと同一で、思わず立ち上がり、エリーの左肩に手を置く。


「お願いだから()めてくれ。エリー自身が何より大切だが、“ユグラン”だっているんだ」


 エリーは俺の手に白い手を重ね、(なだ)めるように優しく微笑みかける。


「落ち着いて、ルー様。大丈夫よ、心配しないで。

私は行かないわ。妊娠中の私に許される状況ではないもの」


「ルー、落ち着け。確認する前に聞いた俺が悪かった。

いや、それだけの実行力はおありなのは、“抜け道”の時に実証されていますので、つい……。

失礼しました」


 ウォルフがエリーに謝罪した後、俺の肩を押して座らせる。


「ウォルフ閣下、今回はいくら私でも無理ですわ。

お腹の子も危険に晒しますし、周囲にも負担となります。

それに私よりもずっと実績があり、二ヶ国の女性達に影響力のある方がいらっしゃいます。

その方に内々に打診したところ、協力していただける内諾は得ています」


「その方とは?」


「天使の聖女修道院の院長様です」


「…………」「…………」



 俺とウォルフは絶句する。

 確かに影響力はある。

 帝国も連合国も、信仰する宗教は同一だ。


 院長は今までの行跡や、二十数年前の紛争で女性と子どもを助けた行動などから、多くの信者達からは“聖者”と見なされ、尊敬を集めている。


 事実、二ヶ国間が比較的平穏な時期には、身元を隠し、天使の聖女修道院へ巡礼に来ていた連合国の貴族女性達もいたと、エリーは話す。


「また皇妃陛下が穀類メニューを炊き出しし、実際に毎日召し上がっていらっしゃることは、南部地域にはかなり広まってますよね。ウォルフ閣下」


「えぇ、治安保持に使わせていただきました。

皇妃陛下や帝室の方々も召し上がっている、と聞き、かなりの不満は抑えられたと思います」


「その慈悲深い皇妃陛下が、内々に院長様に頼んだ、ということにします。

南部の領民に深く心を寄せている。

同時に、連合国の“罪もない婦女子”が飢餓に苦しむ状況にも、同じ信徒として心が痛む。

あくまでも、私的な立場で院長様に依頼した、と。


その(あかし)に、私的な紋章を炊き出しには用います。皇妃陛下とマルガレーテ第一皇女殿下の《御印(みしるし)》である月と蘭を組み合わせたものがあるのです。

それを用います。皇妃陛下には許可を得ています」


「皇妃陛下にも?!」「母上に?!」


「はい。もしもの時には、とお手紙でお許しをいただきました」


 エリーが組んでいた段取りに、ウォルフも素で驚いている。


「はあ……。エリー閣下、どこまで仕込んでるんですか?」


「ルー様。“あの話”はしてらっしゃるの?」


「……いや、まだだ。ウォルフ、実は……」


 俺はエリーが婚約内定直後から、連合国に“影”を送っていたことを説明する。

 ウォルフは『そこまでしてたのか?』という顔つきだ。

 “人喰い”と呼ばれるヤツが珍しい。


 まあ、俺も聞かされた時は、その用意周到さにただ驚いていた。と同時に、今では深い愛情を実感している。

 俺とエリーは、“共に護り合う”と結婚式で誓い合っていた。


「……“影”の数人は、国境近くの村々を回る行商人です。報告によると、配給は途絶えがちで、住民は食べられる野草を探し始めているそうです。

一刻も早く動いた方が良いでしょう」


「しかし、どうやって……」


「“影”に噂を撒かせましょう。

連合国は小国。国境全てに兵を配置している訳ではありません。

見回りの多くは街道周辺で、生活道までは手が回っていません。

その周辺で炊き出しと食料配布を行い、そして、帝国には働き口がある、と告知するのです」


「働き口?」


「南部の灌漑用水の工事です。

告知に応じた彼らにはまず、“熱射障害”による災害と飢餓で命が危うい難民として、帝国へ移民申請をしてもらいます。


帝国は“聖者”と言われる院長様の勧めもあり、連合国からの難民を、緊急避難として一時的に受け入れ、体調が整い次第、用水工事に従事してもらいます。

申請書類にはここまで記します。大義名分で必要ですから。


こうしておけば、用水工事で彼らを一か所に集められ、監視もできます。

彼らは労働と引き換えに、衣食住が保証されます。


帝国側も工事に従事する現場作業員を募集し、移動させる手間が省けるでしょう。

緊張が高まっている南部での工事です。

北部の冬場の出稼ぎ労働者も、先ず避けます。


他地域からの員数も中々見込めないでしょう?

食糧支援の上に、労働者派遣の割り当てまですれば、現在協力的な“シリアリス(穀物)派”貴族でも不満が高まります。

それに南部領民も冬野菜の作付けなどの農作業があります。その余剰人員だけでは、用水工事は進みません」


「…………」


 口角を美しく上げ、エリーは典雅に微笑む。

 あちらをこちらと、うまく当てがい、不満や不足を相殺している。


 この知恵に満ちた統治能力は、王国での“厳しすぎる”王妃教育と実践をこなした、エリーの努力の結晶なのだろう。

 本人は嫌がっていたが、本当に豊かに湧き出る『知恵の泉』のようだ。

 ウォルフの頭脳はエリーの献策に穴がないか、確認を繰り返しているようで、しばしの沈黙が続く。



「……エリー閣下。素晴らしい手です。無駄もない。

ただ連合国の支配階級はどうするのです?

ヤツらに気づかれれば、避難民を、自国民を返せという攻撃の口実を与えてしまう」


 エリーはウォルフの質問を待っていたかのようだった。



「気付かれた段階で、いえ、上に報告される直前に、帝国から連合国へ速やかに通告します。

『貴国の餓死者も出た大災害による、大量の難民申請を受け、神の教えに従い、人道的に保護したが、連合国政府としてはどうされたいか?

難民代表と話し合いたいなら、喜んでその場を(もう)ける。

この大災害を受けた国同士、協力しようではないか』と。

はっきりと交渉の場を提示します。

向こうは帝国の変化に戸惑うでしょう」


 ウォルフはしばし考えた後、否定的に返す。

 甘い、と思ったようだ。俺の作戦に評価を下すような表情になる。


「なるほど。先手、先手で動いていく、と。

それは驚くでしょう。今までにないことずくめだ。

だが、通告など無視をして、攻撃してくる可能性は非常に高い」


「ウォルフ閣下の仰る通り、彼らは攻撃を選ぶでしょう。

ただ一瞬でも迷わせれば、充分なのです。

送り込んだ“影”は、連合国の代表、モランド伯爵家、副代表ダートン伯爵家にもおります。

彼らも一枚岩ではありません」


「代表と副代表家にも?!

いや、さすがラッセル公爵家の“影”は優秀だ」


「ウォルフ閣下にお()めいただき、父も喜びますわ。

二人は現段階でも帝国への攻撃を目論んではいるようですが、ウォルフ閣下の国境警備の巧みな配置に、攻撃地点の選定で意見が割れているとの報告です。

また他の貴族家の領地では、さらに被害が悲惨な状況で出兵する余裕もなく、勢力も落ちているところも多いとか。

同じ情報はお手元にも届いているのではありませんか」


「……その通りです」


「“影”は、モランド代表とダートン副代表に、互いに帝国に通じてるのではないか、代表ではなく、“国主”になろうとしているのではないか、と疑心暗鬼に誘導しています。

先ほどの“通告”も、相手が帝国と通じているためではないか、と思うでしょう」


「なるほど。裏切りの証拠扱いにさせるのか。

相手が帝国と通じているので、何かをするために通告させてきた、と」


「はい。

また、他の領主達の力が落ちている今が、連合国の覇者となるチャンスだ、あなたなら出来る、とも吹き込んでいます。

そうなれば、連合国が一つになり帝国と戦える、と。

この二人に争ってもらう。同士討ち。

これが帝国にとって上策ですよね?」


「そうですが、エリー閣下の“影”はそこまで仕掛けられるのですか?」


「いえ、まだ潜入して2年ほどですので、そこまでは無理です。

ただ、帝国には使おうと思えば使える、“とっておきの手”がありますよね?

取り扱いには非常に注意を要しますが……」


 美しい微笑みと共に、エリーは謎めいた言葉を紡ぐ。


「“とっておきの手”?」


 ウォルフは疑問と共に、緊張も高める。


「はい、これはある条件を受け入れてくだされば、お教えします」


 ここで交渉を始めるとは。

 条件は俺には思いつきもしなかった。

 ウォルフも同様だったようで、すぐに(たず)ねる。無駄は嫌う男だ。


「その条件とは?」


「エヴルー公爵ルイス閣下、いえ、ルイス参謀に、エヴルー騎士団からの選抜者を付けてほしいのです。

次の騎士団派遣の際は、ウォルフ団長自ら指揮を取られるご予定でしょう?

ルイス参謀は副指揮官か別働隊を任せ、効果的な場面がくれば、(おとり)として使う。

エヴルー“両公爵”家の紋章旗を高々と上げ、『皇帝の息子、“南部紛争の英雄”ルイス・エヴルーはここだ、ここにいるぞ』と。

そのお心積りではありませんか?」


「それは……」


 ウォルフがエリーの指摘に、さすがに言い淀む。


「ウォルフ閣下。責めてる訳ではありません。

指揮官としては当然の選択です。私でも同じことをするでしょう。

ただルイスには何があっても、生き残って欲しいのです。

たとえ、ウォルフ団長が全体の勝利のために、ルイスの率いる部隊に犠牲となる命令を下したとしてもです。

私ができることは何だってやります」


 エリーは背筋をまっすぐ伸ばし、堂々と、そして優雅に、ウォルフに対峙する。

 俺はそんなエリーに言葉を失っていたが、エヴルー騎士団団長として聞くべきことがあった。


「エリー。“選抜者”とはどういうことだ?」


「エヴルー騎士団創立後、顧問として二人の副団長と相談し、いざという時、ルイスに付き従う団員を選抜しました。

彼らが職務に殉ずる場所は、ルイスの傍のみです」


 要するに、死ぬまで俺を護る専属の団員を育成していた、ということだ。

 俺がエリーの専属護衛に、特別な訓練をさせていたように。


「エリー閣下。つまり、彼らを帯同させろ、とそういうことですか?」


「はい。彼ら単独では受け入れ難いというなら、ウォルフ団長指揮下となる団員も追加します。

帝国騎士団とは合同捜査をしたこともあり、知らない仲ではありません。他の公爵家騎士団に協力を要請するよりも、やりやすいでしょう。

帝国騎士団にも利はあるお話ではないでしょうか?」


 エリーは次々とカードを切ってくる。ウォルフは試しに粘ってみるようだ。


「受け入れない、と言えば、“とっておきの手”は教えてはくださらない、と。

ルイスだけ特別扱いというのは、いかがでしょうか?」


「ウォルフ閣下。元々、特別な存在です。

エヴルー公爵家騎士団団長でありながら、帝国騎士団で参謀を続けている。

ウォルフ閣下もよくご存知で、協力を求められてきたではありませんか?」


 エリーは粘りをさっくり切り、ウォルフにとっては痛い事実を告げる。さらに答える間を与えず、畳み掛けてきた。


「ウォルフ閣下。それとも退職しましょうか?

であれば、勅命で、エヴルー騎士団団長として参戦せよ、というお話になるでしょう。

兵員は増えるが、指揮系統が分かれる。

ウォルフ閣下には、やりにくくなるのではありませんか?

南部の国境付近は、その地勢上、複雑な指揮を要求されますから」


 俺はここで割って入る。自分の帝国騎士団退職をカードにされたからだ。


「エリー。以前の話し合いでは、エリーが続けろと」


「ルイス。状況が変わったの。

私はあなたには絶対に生き残って欲しい。

ウォルフ閣下も御前会議ではそう仰ったとか。提言も受け入れました。

ルイスの死を望まない王国の手前もおありでしょう?」


 最後の一突きだ。ウォルフは両手を上げる。


「分かりました。追加団員込みで受け入れます」


「団員込みの方をお選びとは、しっかりなさっておいでですね」


「優秀な人材は、活かせるのなら、いればいるほどいいものです。

で、エリー閣下。“とっておきの手”とは?」


 ウォルフの質問に、エリーはきりっと口角を上げ、その朱唇で言葉を(つむ)いだ。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。

誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

★、ブックマーク、いいね、感想などでの応援、ありがとうございます(*´人`*)


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