13.悪役令嬢の会議 1
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
エリザベスが幸せになってほしくて書いた連載版です。
これで14歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
※切りがいいところで分けたため、短めです。
2話続けた最初の投稿です。お気をつけください。
部屋を訪れた私の顔を見て、伯母様はハーブティーとお砂糖を頼んだ後は、人払いしてくれた。
安心するように、抱きしめてくれる。
「まずは温かいものを飲みましょう。
顔色が青白いわ。指先もこんなに冷たくなって」
二人でハーブティーを飲んでいると、少しずつ落ち着いてくる。
お砂糖も足すと、心が凪いでくるようだ。
こういうところは、人間ってシンプルだと思う。
だが、今、私が直面している問題は、一人では解決できない。
深呼吸すると、今日のルイス殿下との用件を、皇妃陛下専用レシピ以降について話す。
専用レシピについては、皇妃陛下の健康状態と関わり秘匿条項になるためだ。
先を急がせず、相槌を打ちながら、聞いてくれた伯母様が、話し終えたところで、私の手を取り、手の甲をゆっくり撫でてくれる。
「エリー。今、吐き出したいことがあるなら、吐き出しちゃいなさい。
貴女は優しい子だから、あの人の前では心配すると思って、出せないでしょう?」
伯母様の優しい声と口調に、病床でも愛してくれた、お母さまを重ねてしまう。
伯母様が包んでくれる手が震え、怒りと悲しみが湧き上がってくる。
「伯母様……。
どうして……。どうして、放っておいてくれないんでしょうか。
私は穏やかに暮らしたいだけなのに……。
そんなに我儘なんでしょうか」
「ああ、エリー。貴女は我儘なんてものじゃないわ。逆に我儘すぎないくらいよ」
伯母様が私を引き寄せて、そっと抱きしめ、背中を撫でてくれる。
その中でポツポツと、私は呟く。
「領地で、アーサーやマーサが一緒で、院長様もいらして、シスターや子ども達。
とても安心して、穏やかで、楽しくて……」
「そうね。とてもいい領地で、いい関係だって思ったわ」
「ありがとうございます……。伯母様……」
最後に少しだけ、瞳が潤んでしまう。
「さ、顔を拭いて。お茶でも飲みましょう」
温かい濡れタオルで顔を拭き、紅茶でひと心地つくと、気持ちが落ち着いてきた。
伯母様がゆっくり問いかける。
「エリー。これからする質問で、嫌なことや気分が悪くなることがあったら、すぐに言ってね」
「はい、伯母様」
私の了解を取ると、ゆっくり話し始める、
「ねぇ、エリー。あなたが今、一番選びたくないのは、どれかしら?
1つ、皇太子殿下の側室になる。
2つ、皇太子殿下の配下の妻になる。
3つ、お見合い申込の中から、条件が最もいい人を選んで結婚する。
4つ、ルイス殿下の申し出を受ける。
ゆっくり考えてみて?」
伯母様の言葉に反し、私は食い気味に即答する。
落ち着いていた心に、怒りが込み上げてくる。
「皇太子殿下の側室です。絶対に嫌です。
自分も嫌ですし、何よりあんなお綺麗で優しそうな皇太子妃殿下を、自分が原因で悩ませるのも、すっごく嫌です。絶対に嫌」
ここでは言えないが、後宮の側室がたに悩んでらっしゃる皇妃陛下の原因に、酷似した存在になりたくなかった。
「それにものすごく酷使されそうで、働き潰されそうです。嫌です」
これも本音だ。皇太子殿下の優しそうな見かけに騙されてはいけない。
「わかったわ。次に嫌なのは?」
「皇太子殿下の配下です。結局、酷使されます。絶対、信頼なんかできません」
「次に嫌なのは?」
「……今後の社交もありますし、お見合いの申込みには、一応全部、目は通しました。
伯母様が『保留』を勧めた方もいました。
でも皇太子殿下のお話をしたら、恐らく配下になるか、向こうから辞退になると思います。
権力にすり寄るか、危うきに近寄らず。
どちらかだと思います」
伯母様はしばらく考えた後、結果を口にした。
「なるほど。今上げた中で、残った選択肢はルイス殿下ってことね」
伯母様の前で、ルイス殿下への、信と不信を口にしてしまう。
「……護るって言ってくれました。
ただ、無理をさせちゃうんじゃないかって。
逆に、また裏切られちゃうんじゃないかって。
皇太子殿下に、『口説いてこい』って言われたと言ってました。
信じて裏切られるのが、恐いんです」
「そうね。馬鹿正直ね。『口説いてこい』って言われたって。
でも、これを後で、皇太子殿下から、『『自分が口説いてこい』って言ったから、結婚を申し込んだんだ』って聞いたら、エリーはどう感じたと思う?」
伯母様の切り口は意外だった。
こういう見方もあるし、皇太子殿下は、いざという時のカードとして切ってきそうだ。
「それは……。とてもショックで、信じられなくなると、思います」
「だったら、すぐにエリーに言ったのは、馬鹿正直とも言うけど、『誠実』とも言うんじゃないかしら?」
「誠実……」
アルトゥール殿下との十年間を思い出す。
あれはもう過ぎ去った過去だ。
ルイス殿下と、アルトゥール殿下は違う。
「でもルイス殿下もしたたかよね?
愛してるエリーで、ご自分の縁談避けにしようとしてるんだもの。
その点は、皇族的にも計算されてる。
あなたも縁談避け、皇太子殿下避けになる。
そこは対等な関係ね」
「対等……」
確かにそうだ。ルイス殿下にも利はある。
不本意な結婚を押し付けられない。
恐らくは、必要以上に皇太子殿下の手駒にはなりたくないのだ。
「あとは、貴女を愛している、といった言葉が、本当かどうか。貴女だけじゃなく、私達も信じられるものか。
だって大切な貴女に、たとえ形式的な結婚でも申し込んできたんだもの。
エリーを傷つけたら、絶対に許さないわ」
「伯母様……」
伯母様の決意に、胸が熱くなる。
こんなに大切に思ってくださるなんて。
縁を結んでくれたお母さまが、手を差し伸べてくれている気がした。
「あとは、縁談抜きでも、皇太子殿下が諦めるような対策を考えましょう」
「ありがとうございます、伯母様。
あの、天使の聖女修道院へ入るのは、無理でしょうか?」
私の問いかけに、伯母様は苦しげに応える。
「……あちらは帝室の保護が篤いでしょう?
院長様は人格者だから、受け入れようとするでしょう。
そうしたら、恐らく院長様を交代させて、妨害しようとするでしょうね……」
「…………」
Bプラン、ダメか…。そうだよね……。毒殺の後始末のような埋葬もしてるんだもの。
「エリー。しばらく休みましょう。ゆっくり入浴でもして、ベッドで横になってなさい。
今、マーサを呼ぶわ」
私の様子を見て、労わってくださる伯母様。
お母さまが生きてくださってたら、こんな感じだったんだろうか。
「ありがとうございます……」
私はマーサに付き添われ、ラベンダーのハーバルバスに浸かり、しばしの眠りに就いた。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書きたい、と思った拙作です。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
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