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135.悪役令嬢の療養公表

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


※※※※※※※書籍化・予約開始のご案内※※※※※※※※


ご覧いただいてる皆さまへ


 ご愛読いただき、誠にありがとうございます。


このたび、ツギクル様より、『悪役令嬢エリザベスの幸せ』を書籍化していただくこととなり、Amazon様などで予約開始となりました。

【ツギクルブックス様公式HP】

https://books.tugikuru.jp/202412-akuyakureijyo-30836/


 これもひとえに読者の皆様のおかげで、心より御礼申し上げます。


 この度の書籍化は、『エリザベスの幸せな未来を読みたい』と思い、応援してくださっている読者様あってこそです。

本当にありがとうございます。


 エリー達の歩みを、作者も共に一歩一歩、書いていこうと思います。


 こちらでも、書籍でも、気軽に楽しんでいただければ、幸いです。

 これからも、どうかよろしくお願いします。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。

ルイスと小さな小さな家族との生活としては、12歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。


 1周忌礼拝を控えた3日前—


 私が食後に新聞を取り上げた時、ある見出しが視界に飛び込んできた。



『エヴルー“両公爵”エリザベス閣下、国難に身を(てい)し倒れる!』



 何、これ?聞いてない、と記事に目を走らせる。

 虚偽はないが、随分と脚色され、美談に仕立て上げられている。


 私の功績を(たた)え、こう結んでいた。


『そのために過労となり療養中で、皇太子殿下の1周忌に参列できないことを非常に悔やんでいる。

皇帝陛下と皇妃陛下からも、お見舞いの言葉を贈られた。

記者は国民の一人として、帝室の藩屏(はんぺい)たるエリザベス閣下の回復を願う』


 

「ふう、すっごく大袈裟(おおげさ)に書いたものね。びっくりしたわ」


「ちょうどようございます、エリー様。

堂々とお休みになれます。皇帝陛下と皇妃陛下のお墨付きですもの。

誰にも邪魔はできませんわ」


「マーサ、気のせいだけど、嬉しそうね」


「はい、お気のせいでございます」


 悪阻(つわり)が終わり安定期を迎えるまで、“籠城戦(ろうじょうせん)”は続くが、新しい局面に入ったのは確かだ。

 マーサはそれを喜んでくれている。

 ありがとう、マーサ。苦しい時に支えてくれて、大好きよ。



 他の新聞を読んでも、扱いの大小はあれ、ほぼ同じ論調だった。

 国難への切り込み隊長、もしくは先陣を仰せつかり奮戦、後を託して撤退って感じだなあ、と思っていると、ルイスが現れた。


 すももなどを食べて落ち着いた朝食後に、顔を出すというパターンに、このごろは定着している。

 それでもダメな時はダメなのだが——



 朝の挨拶を交わした後、早速紙面に目をやる。


「なかなか、いい記事じゃないか?」


「からかってるでしょ?」


「嘘は書いてない。これで堂々と療養できる」


「『療養に集中するため面会謝絶、お見舞いの品は辞退』って載せてくれてるけど、来る人、届くものはあるでしょうね……」


「まあ、来ても守衛が丁寧に追い返すさ。贈り物も同様」


「もう届いちゃてるけど……」



 視線の先には、皇妃陛下がまとめてくださった、帝室からのお見舞いの品があった。

 皇妃陛下お勧めの老舗果物店やパティスリー、レストランなどの商品券だ。

 驚いたことに、額が書かれていない、特別小切手方式だった。

 お手紙では優しい心遣いのお言葉の後、お茶目に結ばれていた。


『療養明けにこれで、お好きなものをお好きなだけどうぞ。ただし食べ過ぎには注意してね。

愛しいエヴルーの我が娘、エリー。お大事に』


 エヴルーでの里帰り中、ルイスに母上と呼んでもらうよう、『母が亡くなって、そう呼べる方がいなくなって、少し寂しかったので、お義母様(かあさま)と呼んでいいか』と、私もお願いした。


 その時のことを覚えていて、今も大切に思ってくださっているのだ、と心が温かくなる。


 しかし、悪阻(つわり)明けの開放感の時に、この特別小切手式商品券とは、嬉しくも恐ろしい。



「あれは別格だ。俺もエリーと一緒に美味しいものが食べられると楽しみにしてる。

“食いしん坊”のエリーの復活が、待ち遠しいよ」


「適切な体重の範囲内でね。

気をつけて、行ってらっしゃい」


「ああ、行ってくる。エリーも気をつけて」


 ルイスは私の手を取り、ぎゅっと握ってくれた後、甲に唇を落とし、出勤していった。


 その所作は、洗練された騎士のもので、見惚れるほどかっこいい。

 第一、帝国騎士団の騎士服も黒で似合っている。


 本人は暑くなってきたこの時期、「涼しいエヴルー騎士団の騎士服を着てたいよ」と愚痴っていた。

 汗疹(あせも)対策にもなるミントウォーターや、日焼け止めクリーム、蜂蜜塩オレンジなどはすっかり定着し、エヴルー商会のお得意様だが、帝国騎士団伝統の騎士服改革は難しいだろう。



 お見舞いの品は、伯母様からいち早く知らせた“中立七家”からも届いていた。

 やはり、滋養にいい食品が多く、ルイスに食べてもらっている。激務の身にはありがたく私も感謝していた。


 エヴルーからもお見舞いの手紙が届いていた。

 領 地 邸(カントリーハウス)の使用人を代表してアーサーから、そして天使の聖女修道院の院長様を始めとしたシスターや子ども達からだ。


 アーサーの手紙には、『小麦の収穫が終わった地域から、その内、初等学校ごとにまとめた手紙が届くでしょう』とあり、微笑ましく思う。

 地区代表者との話し合いで、『初等学校など不要』と言われた日が嘘のようだ。


 また天使の聖女修道院では、皆で力を合わせ、雑穀食推進に取り組むと、院長様のお手紙にはあった。

 通常の食事だけでなく、商品であるクッキーや焼き菓子なども、多くの協力者達と改良を続けているという。



『私どもの清貧の暮らしを活かせ、また子どもの反応は正直です。

エヴルーの領 地 邸(カントリーハウス)の料理人の方々とも相談し、美味しく食べられるものを近々、お目にかけられるでしょう。

昔、保護し無事に成長した子ども達も協力してくれています。

エリー様と南部の人々のため、神のお導きの下、私どもで出来ることをいたします』


 目頭(めがしら)が熱くなる。


 二十数年前の南部の紛争時、街道に立たれて呼びかけられた院長様は、胸を痛めているに違いない。

 また努力される姿勢は高潔な宗教者だった。

 しばらくお会いできていないが、心が洗われる思いがした。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 優しいお見舞いのお手紙が届く中、体調の良好な合間に、 帝都邸(タウンハウス)の執事長から、報告と進言があった。


 手紙は親しい方々を皮切りに、新聞報道を見た儀礼的なものが多数届いており、リストのみ報告し、侍女達の代筆で返事をする、という報告だった。

 適切な処理に私は同意する。


 進言は帝室からの手紙の扱いについてだった。


 帝室からは、皆様、第四皇子母の側室様からも、そして、なんと皇帝陛下からもさらっと一筆あったのだ。



「皇帝陛下は文面を書かれることは、ほぼございません。サインだけでなく、文面まで皇帝陛下直筆とは、エヴルー公爵家の家宝となる貴重な文書です。

内容もエリー様を慰労されたもので、ご子孫に伝えても何ら問題はございません。

別途、保管されますよう、謹んで申し上げます」


 うん、珍しいことするなあ、とは思ったんだよね。

 ほぼ皇妃陛下に、『思いやりがあるだろう』アピールしたくてのことだろうけど、確かに貴重は貴重だ。

 執事長の言う通り、皇帝陛下の手紙のほとんどが書記官任せで、サインのみがほとんどなのだ。



「では、そういう貴重な文書の保管についての専門家を呼んで対処するように。

場所は図書室を見てもらって、不適切なら、療養明けにでも、図書室の一部を改築しましょう。

それまでは預かっていて。私の手元に置いて、汚損したら大変でしょう」


 ノリと勢いで渡された佩刀(はいとう)を思い出す。

 皇帝陛下絡みは、何でも家宝になるらしい。



「かしこまりました。

実はもう一通、第五皇子殿下のお手紙も、次代の皇帝陛下の若きころに、重臣へお見舞いに書かれたもので、歴史的に貴重なものとなる見込みが高く……」


「では、同様に……」


 第五皇子殿下からのお手紙は、明るく真面目なお人柄に、かつ、少年期独特の若さはありながらも、心遣いが伝わってくる文章だった。

 手元に置いておきたかったのだが仕方ない。


 今、ふと思い出したものがあった。

 王国の国王陛下からのお手紙だ。同様に直筆で、何通かある。


「あの……。隣国の、義父上(ちちうえ)、国王陛下からの手紙もあって、お見舞いの手紙もあるんだけど……」


「…………ご同様でございます。エリー様のご判断で、機密上、問題があるもの以外は、お渡し願いたく……」



 うん、エヴルー公爵家への忠誠心からだもんね。

 私もルイスも、こういうの、(うと)くてごめんなさい。

 そういえば図書館に行った時、数代前の皇帝や近隣諸国の国王、国主達の直筆文書とか展示されてたっけ。


「……よろしくね。頼りにしてます。執事長」

「かしこまりました」


 執事長が数通を(うやうや)しく持って退室した後、『やっぱり社交的には“珍獣”化して、帝室との関わりも最低限にしよう』と思ったのだった。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 翌朝——


 最初の新聞報道で、『これで堂々と休める』とほっとした私は、羞恥で打ちのめされていた。


 私についての報道が続いていたのだ。

 それも、なんというか、『お願いだから勘弁してください』という文言が並んでいる。


 『憂国の美しき“両公爵”、エリザベス閣下』に始まり、

 “熱射障害”とその対策、麻布の緊急輸入から、『知恵の泉』や『知恵と戦略の女神の申し子』。

 “シリアリス(穀物)”の命名と、エヴルー領が先進的な農政により、今年も豊作を見込めることから、『豊穣の女神に愛されし者』など——


 もう面と向かって言われたなら、背中どころか全身がかゆくなること間違いない。

 体調が許すなら、今すぐエヴルーに引きこもりたいくらいだ。


 出勤前に訪ねてきたルイスにも見せる。

 そのすまさそうな表情からピンとくる。



「ねぇ、これ、ひょっとして、ウォルフ団長閣下から、手を回してる?」


「…………ごめん。穀類メニューの不満を逸らすのに、ちょうどいい。

受け入れやすくもなるって言われて……」


「…………そう」



 さすが、“人喰い”ウォルフ——

 こう言われたら、ルイスが反対できないのを知ってのことだ。

 「この美辞麗句、全部あなたにお返しします」

と抗議したいところだが、そうもいかない。



「……わかったわ。でも今日だけで充分でしょう。

伝言をお願い。

『明日もやるなら、私を敵に回します。ルイスの大切なあなたでも容赦はしません』って、伝えてくれる?」


「……絶対伝えるし、もうやらせない。

こんなの、俺だけで充分だったのに……」



 そうだ。

 ルイスもこうして報道され、『英雄』と持ち上げられ、事実との違いにも苦しんだのだ。

 今の私の気持ちを一番よくわかってくれてるだろう。

 それにこれには、ルイスに伝えていない意図が見える。


 こういう風に(まつ)りあげるには、私以外に最も適した方がいらっしゃる。

 そう、皇妃陛下だ。


 だが南部の件が厳しくなった際には、評判が落ちるリスクがある。

 不満が一気に帝室に向けられる。


 エヴルー“両公爵”家には、ルイス、という『南部紛争の英雄』という保険もある。

 用意していた正論としても、『帝室の藩屏(はんぺい)として壁になるのは当然』ということで選択したのだろう。


 また、この穴があったら隠れたいような“名声”は、遠からず王国にも届くだろう。


 『第一王女でもある私を、帝国では国民ともども、大切にしていますよ』という意味以外に、『非常に豊かな才知をいただきました』とも取れる。

 ドラコ提督のお返しだ。


 ウォルフ騎士団長も、皇帝陛下の懐刀なんだなあ、としみじみ思った後、ルイスに微笑みかける。



「ありがとう、ルー様。頼りにしてるわ。

そう、『エヴァ様にもお願いしますから』って伝えてくださる?」


 騎士団婦人会会長の騎士団長夫人・エヴァンゼリン様とも、定期的な婦人会への差し入れと共に、すっかりお手紙友達になっている。

 今回もすぐに丁寧なお見舞いのお手紙をいただいていた。

 ウォルフ騎士団長の愛妻家ぶりは有名で、家では頭が上がらないそうだ。喜んで尽くしていらっしゃる。

 長年、小姓をしていたルイスが言うのだ。間違いない。


「ああ。ウォルフにはそれが一番効くな」


「うふっ、そうでしょう?

もう気にしないで、気をつけていってらっしゃい。御武運を」


「ああ、エリーも気をつけて。今日は特に、早め早めに休むように。マーサもよろしく頼む」


「はい、かしこまりました」



 この伝言を聴いたウォルフ騎士団長は戦々恐々としていたが、ほとぼりが覚め、すっかり油断していた私の療養明けに、制裁が待っていた。


 帝国北部で冬場に身体を温めるために用いられている激辛調味料を、わからないよう中心部に仕込んだ肉団子入り冷製スープで、しっかり味わっていただいた。

 口内から胃がヒリヒリと焼けつき、涙目になっているウォルフは、「過労だけならまだしも、妊婦に何やってるんですか。それでも騎士ですか」から始まり、じっくりお説教された。


 さらに追い討ちをかけるように、私の預かり知らぬところでも動いた方もいた。

 お父さまだ。

 ウォルフ騎士団長宛てに、伯父様タンド公爵経由でお手紙が届いたらしい。


『策もろくに練らず、安易に我が愛娘(まなむすめ)を使うのは()めてもらおうか。

さもなくば里帰り出産とさせていただき、お腹の子ともども引き取らせていただく。

ルイス閣下の血も引き、非常に賢く美しく優秀だろう。我がラッセル公爵家の跡取りにふさわしい。

帝国ではエヴルー公爵は一人いれば、充分と見受けられる』


 この恫喝(どうかつ)を外交的な美辞麗句で通告されたウォルフ騎士団長は、伯父様監修の()び状を送り、懐刀同士の駆け引きは、ひとまずはお父さまに軍配が上がった。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。


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悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
お父様、怖いvvv やりますね! まぁそういう話題って庶民からしたら盛り上がる話だから読者には喜ばれるし、基本はいい話だからされて悪いの?ってなりますもんね… 辛いものって痛みなので、記憶にものすごく…
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