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小話 8 100回記念SS⑦マーサ、ひとりがたり

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—



 ※※※※※ 『100回記念SS』の掲載について※※※※※


ご覧いただいてる皆さまへ


 ご愛読いただき、誠にありがとうございます。

 皆さまのおかげで、100回を越え、連載を続けさせていただいています。


 こちらは『100回記念SS』の7作品目で、本編の番外編です。

 『マーサの話』についてですが、内容については、作者にお任せとなっています。


これからもよろしくお願いいたします。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



※※※※※※※※※※ご注意※※※※※※※※※※※※※


本日は2話更新(本編1話と小話1話)しています。

本編の更新は『116.悪役令嬢の夫の“家族”』で、

小話の更新は、『小話 8 100回記念SS⑦マーサ、ひとりがたり』です。


こちらは、『小話 8』です。

前話、『116.悪役令嬢の夫の“家族”』の読み飛ばしにお気をつけください。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。





 お久しぶりでございます、クレーオス先生。


 アンジェラ様の主治医になってくださった先生と、こんな形で再びお会いできるとは思ってもみませんでした。

 神は思いもよらないことを、私の人生にお与えになります。


 なぜ、王国に戻らなかったか、とお聞きになりますか?


 えぇ、長患いだった母を最期を看取り、王国のアンジェラ様の元へ戻るため、身辺整理をしていた時に、アンジェラ様の訃報が届いたのでございます……。



 もう、私は魂の抜け殻のようになりました。


 母の看病もアンジェラ様が背中を押してくださいました。

 そのことに後悔はございません。


 しかし、恩人でもあり、私の主人(あるじ)だったアンジェラ様が天に召され、何をしていいのかもわからず、ひたすら、母とアンジェラ様の冥福を祈るのみで、飲食もままならない状態でした。



 アンジェラ様は私の恩人であり、ただおひとりの主人(あるじ)と心に定めたお方でございました。



 そこに、一通の手紙が届いたのでございます。


 王国のラッセル公爵様、アンジェラ様の旦那様でございます。

 改めて、母の死を(いた)み、私を思いやる言葉の後、『妻の遺品を整理していたら、私宛の手紙が出てきたので送る』と短く書かれておりました。


 ここで私は自分の無礼に初めて気づきました。


 アンジェラ様のご家族へ、お悔やみの手紙さえ出していなかったのです。


 まずはアンジェラ様のお手紙を読んでから書こうと、封を切りました。


 かなり病状が悪化されていたのか、弱々しい筆致で(つづ)られていたのは、私を(いたわ)る言葉、そして、ご自分の死についてでした。



 『マーサ。私はまもなく天に召されるでしょう』



 私はしばらくこれ以上読めず、号泣してしまいました。


 なぜ、なぜ、やっと幸せな生活を送れるようになったアンジェラ様が、天に召されなければならないのか。


 本当に命というものは、どんなに祈っても、残酷なほど奪われていきます。


 父も、兄もそうでした。

 あ、失礼しました。取り乱してしまいました。


 アンジェラ様のお手紙のお話でしたね。


 アンジェラ様は私を深く思ってくださり、『マーサ自身のために、これからの人生を送るように』と書いていらっしゃいました。


 『マーサが共にいなければ、夫・ラッセル公爵様の申し出、離れでの生活を受け入れることもなく、全く別の人生だったでしょう。私を幸せに導いてくれたのはマーサです。深く感謝します』とのお言葉もあり、『マーサは家族同然で、離れていても愛しています』ともございました。


 もう、それだけで身の(ほま)れで、私の人生に誇りを与えてくれました。


 常日頃から仰ってくれていたのです。


 「マーサ、大好き。ありがとう」と。



 あら、先生の仰る通り、エリー様もよく仰いますね。

 本当に、私こそありがたいことでございます。



 ただ、その手紙を受け取り、私は途方に暮れました。



 『自分のために生きてほしい』という願いを、どう叶えて差し上げればよいのか。



『それは違うじゃろお、最初の主体から間違っとる』


 もう、仰せの通りにございます。

 当時の私はそれも分からず、悩みに悩んだ末、天使の聖女修道院の院長様に、ご相談申し上げたのです。


 同じご指摘を、ゆっくり、ゆっくりと私に(さと)してくださいました。



 しかし、呆然としたのです。

 『私自身のために生きる』ということが、全くどういう生き方か、見当がつきませんでした。

 それだけ、『アンジェラ様のために』という目標だけになっていました。

 私の生活の中心は、離れていても主人(あるじ)であるアンジェラ様で、自分自身の入る余地さえ、全くなかったのです。



 うふふ、そうですね。

 エリー様の“滅私奉公癖”は、そのころの私にはとやかく言えなかったでしょう。



 院長様は、『まずはお悔やみの手紙を書いて、体調を取り戻してから、この先のことはゆっくり考えればいいのではないか。その身体では王国への旅は無理だ。まずは療養をして、健康な身体を取り戻しましょう』と仰ってくださいました。


 幸いにもラッセル公爵様が、非常に潤沢(じゅんたく)な生活資金をご用意くださっておりましたので、母の死後も余裕がございました。


 遅ればせながら、お悔やみの手紙を書き送り、療養しながら、『自分のために生きること』を考えておりました。


 哲学のようだ?

 とんでもないことでございます。

 そんな高尚なことでは、ございません。


 私がまず考えたのは、院長様の仰る通り、『療養して、健康な身体を取り戻すこと』でした。

 これは自分のためでございましょう?


 アンジェラ様の訃報以降、『ただ食べればいい』と、パンをかじり、水か、たまに売られている牛乳を沸かして飲む、という簡素すぎる、栄養の偏った食事をしておりました。


 それは弱ってしまうわい?

 もう返す言葉もございません。


 それからはバランスを考え、体に負担のかけない程度の料理をするようにしました。


 すると、身体は正直でございますね。

 みるみる、健康を取り戻したのでございます。

 そうすると、身体がうずうずしてきたのです。


 働きたい、と。



 生まれながらの働き者、ですか?

 まあ、お()めくださり、ありがとうございます。


 そこで、また院長様に相談したのです。


 入会し、修道院を(つい)住処(すみか)にしようとしたと?


 半分、当たり、でございます。


 できたら、と思いましたが、院長先生がそのような理由で、入会を許すはずもございません。


 『エヴルー伯爵家で、使用人を探しています。急に人が辞めて困っているようです。あそこなら、あなたの知り合いもいます。いかがでしょう』と教えてくださりました。

 それだけでなく、紹介状も書いてくださったのです。


 王国のラッセル公爵家に戻ることは、考えていなかったのか?


 そうですね。

 考えたこともございました。


 ただ私はアンジェラ様が亡くなった衝撃の余りとはいえ、お悔やみのお手紙も非常に遅れ、大きな不義理をしています。


 またその当時、アンジェラ様の代わりに、忘れ形見のお嬢様にお仕えする気には、どうしてもなれませんでした。


 エリー様が時折仰る言葉をお借りすれば、『アンジェラ様はアンジェラ様、お嬢様はお嬢様』でございますね。

 薄情かもしれませんが、その時の私にとっては、全く別のお方でございました。


 またそれでよかったかもしれないと思うのです。

 お話には聞きましたが、王国のあの王妃様のようになっていたかもしれません。


 アンジェラ様の身代わりとして、面立ちのそっくりなエリー様に、『アンジェラ様のように』と、勝手な主人(あるじ)像を押し付けていたかもしれません。

 アンジェラ様もそれは決して望まれていなかったでしょう。



 院長様の紹介状を持って訪ねたエヴルー伯爵家領 地 邸(カントリーハウス)は、懐かしくもありましたし、少し肩身が狭く感じました。

 母の看病に帰国した最初に挨拶(あいさつ)に行ったきり、顔を出していなかったためです。


 面接は代官兼家令のアーサーでした。

 王国でのことは聞かれず、私の健康状態と使用人としてのスキルを確認されました。


 充分ということで侍女として採用されました。

 ただし、人手不足なので、大変申し訳ないが、メイドの仕事も、と頼まれ引き受けました。


 身体を動かしていた方が、何も考えずに楽だったのでございます。

 ずるうございましょう?


 え?ずるくはない。

 無心で身体を動かしていた方が、良い考えが浮かぶことが多い。


 クレーオス先生は、人生経験が豊富でいらっしゃいますね。


 そんな感じで働いている時、知ったのでございます。

 ラッセル公爵様が、タンド公爵様と交渉し、アンジェラ様が亡くなった後、エヴルー伯爵の爵位も領地も、今まではタンド公爵家に戻るところを、忘れがたみのお嬢様に相続させている。


 正直驚きました。

 従属爵位は亡くなれば、本家に戻るものでございますのに、やり手のラッセル公爵様でございます。

 ただ財産目当てとも思えないし、何のためだろう、とも思っていました。


 ただ私には思いもつかないことを考えるお方でございます。

 何か理由があるのだろうが、私はここで働くだけだ、と最後には思いました。


 働きたいから働く。


 アンジェラ様の仰った、『自分のために』かどうかはわかりませんが、やりがいもあり、使用人仲間とも気心が知れ、楽しくもありました。

 また、自分の時間、と言うのでしょうか。

 ささやかながら、休日や眠る前のひと時、読書や刺繍、音楽も楽しめるようになったのでございます。


 恋愛や結婚は?、でございますか。


 先生もはっきり仰いますね。

 いえ、よろしゅうございます。

 人生の大きな出来事でございますし、『結婚は女の幸せ』なんて、今でも申しますし、昔はもっと言われました。


 ただ私は、アンジェラ様の“天使効果”の心酔者の人達を見て、接して、話してもいます。

 人の愛情というものが、よく分からなくなっておりました。

 ラッセル公爵様の愛情は、全く別で、それは素晴らしいものでしたが、其々の極端を見てしまったのでしょう。


 また、家族離散の経験からも、何かを得て失うくらいなら、今の仕事仲間や院長様達で充分、と思っていました。

 見合い話も、交際の申し込みも、『いずれは修道院へ入会するつもりなので』と断りました。


 ほぼ毎週通っていたので、『それなら』とすぐに信じていただけました。

 神様も呆れていたでしょう。


 そんなことはない。極力誰も傷つけず、賢い?


 クレーオス先生?お世辞を言っても、これ以上のマドレーヌは出てまいりません。

 近ごろ、少しお召し上がり過ぎでございますよ。


 それこそ良き妻になる資質があった?


 まあ、口うるささを()めてくださり、ありがとうございます。

 でも、妻になりたい、お付き合いしたい、と思うほどの方は、現れなかったということでございます。


 そうそう、独身仲間のアーサーがおりました。

 互いに付き合えば、結婚すれば、と言われたこともありますが、二人して、『仕事があるので』と答えたのは、思わず笑ってしまいました。



 第二の故郷と思えるエヴルーでの、穏やかな日々—


 そこに、“移動”していらしたエリザベス様のお話はご存知でございましょう。


 あの“鳩”が知らせてきた、“移動日”よりかなり前に、ラッセル公爵様から連絡はございました。


 『娘がエヴルーに行くかもしれない。準備をよろしく頼む』との内容でした。


 エリー様の心が折れてしまったころのことでございましょう。

 最初は療養のおつもりだったのかもしれません。


 え?違う?

 最初から“移動”する計画だった?


 確かに厳しすぎる王妃教育に、帝王教育までされた上、王国の内情を深く知ったエリー様は、ああやって“移動”するしか、自由になる道はなかったのかもしれません。


 

 最初にエリー様にお会いした時は、驚きました。


 無理に無理を重ねた国境までの旅程は、まさに『馬を飛ばし続けてきた』ものでした。

 帝国内に入っても、新領地を知るために、ご無理を重ね、貴族令嬢としては、肌も髪もボロボロの状態でした。


 私はエヴルーに到着する前の、最後の宿までお迎えに行き、とっておきの美容プランでお手入れいたしました。

 翌朝には見違えるようにお美しくなられていて、本当に素晴らしゅうございました。


 緑の瞳に合わせた上品なデイドレスと宝飾が、とてもよくお似合いな、凛とした、本当に麗しい貴婦人でいらっしゃいました。


 初めてお会いした時は、アンジェラ様によく似た面立ちに心中驚きましたが、“天使効果”もお持ちでなく、全く違う方だとすぐに思えました。


 さようでございますね。

 どちらかと言うと、お父上のラッセル公爵様に似てらっしゃるように思います。

 ただお優しさや、凛とした美しさは、アンジェラ様譲りとも言えましょう。


 クレーオス先生もそう思われますか。

 独りよがりでなくて、ようございました。


 アーサーから聞きましたが、エヴルー伯爵家内や領地のことは、ほぼ把握なさってるとのことでした。

 本当に努力家で、深い教養を持ち、賢い方でいらっしゃいます。


 エヴルー伯爵家領 地 邸(カントリーハウス)に、主人(あるじ)として初めて足を踏み入れた時から誇り高く、お優しいお方でございました。


 専属侍女として、後ろに控えていても、使用人達との面談は、短いながらも実に丁寧で、皆、誠実なお人柄に触れ、安心し、これからも働き続けたいと申しておりました。


 重ねすぎた無理が祟り、翌朝から1週間寝込まれた間に、私はすっかり、エリー様が人間としても、主人(あるじ)としても、好ましくなっておりました。


 とにかくお人柄でございましょう

 明るく前向きで誠実で思いやりがあって、ご自分に厳しくも、人にはお優しゅうございます。

 

 あの王妃教育に歪まずによかったと?


 お父上のラッセル公爵様の愛情が、大きいかと思います。

 今は王国と帝国に別れてお暮らしですが、実に強い結びつきでいらっしゃいます。


 ラッセル公爵様が、アンジェラ様とのお子様を大切に育てない訳がございません。

 掌中(しょうちゅう)(たま)と申すのでしょう。

 本当に魅力的で、悪役令嬢と言われたお姿を、私は想像もできません。


 あれは酷く厳しすぎる王妃教育の仕打ちに便乗した、前婚約者の浮気相手の仲間が仕組んだ噂だったと。


 さようでございましょうね。

 そのようなところから、“移動”してきて、本当にようございました。


 まあ、エヴルーで出逢われたルイス様に一目惚れされ、エリー様も相思相愛となられて、お忙しい中でも、お幸せそうでございます。


 色々、ありすぎましたが……。



 え?(わし)がやって来るまでの、そこのところをもっと詳しく?

 特に相思相愛になるまで?



 いやでございますよ、クレーオス先生。

 これでもエリー様の専属侍女でございます。

 それは是非、エリー様かルイス様、ご本人からお聞きくださいませ。


 あら、エリー様がお呼びでございます。

 それでは失礼いたします。

 ごきげんよう。



ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作の小話、番外編です。


前話は、『116.悪役令嬢の夫の“家族”』です。

読み飛ばしにお気をつけください。



また、この『悪役令嬢エリザベスの幸せ』の世界を借りて、

小説投稿サイト「小説家になろう」様が主催する、夏季の期間限定企画「夏のホラー、テーマはうわさ」に参加させていただいています。

夏っぽい、怪談仕立てのお話です。


【ここだけの話】

https://ncode.syosetu.com/n7906jj/


暑熱が続く中、もしよかったらお楽しみください。

ヽ(´ー`)


誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

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悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
[一言] マーサにはバリキャリシゴデキウーマンを感じる…とは思っていましたがまさにそんな感じでした。初プロジェクトを介護で離職してから抜け殻になり、転職して特技を活かしてキャリアの再構築…と思えば、ま…
[良い点] クレーオス先生と話していてもマーサらしい! そしてクレーオス先生は仙人みたいな感じなのに時々俗っぽいのが魅力を増していますね。 エリザベスの恋愛話をマーサから聞こうとするなんてマドレーヌは…
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