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115.悪役令嬢の“無敵”説

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—



エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。

ルイスとの新生活としては、これで53歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。



「いつもありがとう、エリー閣下」



 閲兵式(えっぺいしき)から、2日後—


 皇女母殿下のもとへ出仕し、定めた手順を踏み、ハーブティーを調合する。


 皇妃陛下と面会した皇女母殿下が、『娘のカトリーヌ嫡孫皇女殿下のために』と、非常に強く気合いを入れられ、激励を受けてから、約2ヶ月が経った。


 気鬱(きうつ)から一転した、前向きな気持ちは、持続しているようだ。

 実際、一昨日の閲兵式(えっぺいしき)でも、帝室の一員として、立派に振る舞っていらした。


 しかし、眠る前に不意に不安になり、色々考えこんだり、眠れなくなるという訴えだった。


「焦らず少しずつ参りましょう。お子様の前ではなるべく笑顔。ですが、なるべくです。ご無理はしないように」と、気持ちに寄り添う。


 侍医や侍女長と協議し、侍医の薬と併用しても、問題ないレシピを決めた。


 前回同様二種類だが、皇女母殿下のご様子に合わせ、少しずつ調合を変える。


 気分のいい朝や、公務の前など、気持ちを明るく整え、やる気を高める効能のものを

 一方で、眠る前には、気持ちを落ち着かせ眠りを誘う効能のレシピを提案し、了解をもらう。

 試飲でもご満足いただき、ほっとする。



「わずかでもお役に立てば、幸いでございます。皇女母殿下」


「兄まで、一昨日の閲兵式(えっぺいしき)祝賀会にご招待くださり、感謝しています」


「いえ、当家こそご出席いただき、感謝しております。

ようやく産声(うぶごえ)を上げた騎士団でございます。皆様に見守っていただければ、幸いです」


「あら、でしたら、カトリーヌとほぼ同い年になるのかしら?」


「さようでございますね。

カトリーヌ殿下の方が7ヶ月ほど、お年上でございます」


「早いものね。そうそう、マルガレーテ様との姿絵は、本当に愛らしかったわ。

皇妃陛下とドレスを選んで、とても楽しかったの。いい気分転換だったわ」


 皇女母殿下が自然な微笑みを浮かべる。


 タンド公爵家夫人たる伯母様と皇妃陛下の仕切りで、『カトリーヌ嫡孫皇女殿下とマルガレーテ第一皇女殿下の姿絵』の計画も着々と進んでいた。

 “陽の皇女”“影の皇女”の噂を蹴散らすためだ。


 今日、皇妃陛下のお部屋で、姿絵の原画を披露する段取りとなっていた。



「後ほど拝見させていただけるのが楽しみです。

両殿下とも、これからますます愛らしくお美しくなられることでしょう。

いい記念、いい思い出でございます」


「そうね。これを機に、カトリーヌだけの肖像画も、成長ごとに頼もうと思うの。

この子が大人になったら、なかなか会えなくなる日もくるでしょう。

手元にあれば、こんな時もあったのね、と懐かしく思えるわ。

私にはもうあの()しかいないのだもの……」


「皇女母殿下……」


 “ごっつん防止リュック”を背負い、乳母と遊ぶカトリーヌ殿下を切なそうに見つめる。

 カトリーヌ殿下の将来は、後継者に選ばれこの国の女帝となるか、国内外いずれかに嫁がれるかだ。

 いずれにせよ、成長すれば親離れし、皇女母殿下と距離ができるのは確実だ。


 私は、「そんなことはない」となど軽々しく言うつもりがなかった。

 皇女母殿下から、ただ聞いてほしいという雰囲気を感じ、受け止めるに留める。


 と同時に、父ラッセル公爵が、自分の肖像画を幼い時から描かせていたのは、皇女母殿下と同じ心持ちだったのか、とも思い、故国の父を懐かしく思い出していた。


「ごめんなさいね。ついこんなことを考えてしまうのよ……」


「いえ、お子様を持つ方々を見ていると、“親心”と申すものでございましょう」


「親心、そうね……。

ただ、皇妃陛下が与えてくださる公務がいい気晴らしになっているの。

上司が皇妃陛下なんですもの。

絶対に手は抜けないわ」


「さようでございますか。何よりのことと存じます。

手抜きといえば、カトリーヌ殿下はまもなく『はいはい』を始められるでしょう。

すっかりご準備は整ってらっしゃるようで、素晴らしいと存じます」


 『はいはい』が始まると、あらゆるところで、衝突事故が起こりうる。

 ケガをしそうな家具や壁の角に、布地や素材などを用いた薄手の衝突緩衝材を巻きつけたり、貼り付けたりしていた。

 どうしても洗練さなどは損ねるため、表の布地は上品な色や花柄などを選び、雰囲気を和らげている。


「いろんな助言をありがとう。エリー閣下。

そういえば、例の“三毛猫のぬいぐるみ”なのだけど……」



 “三毛猫のぬいぐるみ”とは、“アレ”こと、皇太子、つまり皇女母殿下の亡くなった夫の、誕生時の身長と体重を模したものである。

 “アレ”はルイスに歪んだ憎悪を抱き、毒殺を謀り未遂となり、ルイスが愛する私も同様の目にあい、他にもルイス乳母を始め、多数の被害者がいた。

 皇帝陛下の裁可で、病気を装い毒を賜った。


 皇女母殿下と皇妃陛下には一切伝えてない。

 そのため、亡き夫を(いた)む皇女母殿下から、娘と自分のお守り代わりに、と縁起の良い“オスの三毛猫のぬいぐるみ”の注文だった。


 私にかかる精神的負荷を心配した、マーサと伯母様のタンド公爵夫人が色々と協力してくれ、エヴルーで書き起こした10枚の型紙を皇女母殿下に渡した。

 三毛の黒と茶色系の柄と色を、皇女母殿下が書き込んでいただけるところまで進んでいるはずだ。


 覚悟はしていたが、『出た』、と思わず緊張が走りそうになる。

 皇女母殿下に悟られ、不審がられては面倒なことになる。

 丹田に力を込め、ゆっくりと静かに深呼吸し、優しい微笑みを(たも)つ。


「はい、あのぬいぐるみでございますね。

型紙に色を塗ってくださるところまで進んだ、と伯母・タンド公爵夫人から、引き継ぎを受けております」


「その柄が上手くいかなくて、茶色の色も迷ってしまいますの。

あの方の髪や瞳の色を取り入れたいのだけど……」


 うん、出来上がったら、ますます近寄りたくないわ。

 今は私心(ししん)は抑えて実務優先です。

 これは、“アレ”ではなく、“亡き皇太子殿下”に関わるお仕事です。

 分けて考えるのよ、エリザベス。



「色合いは肖像画を描いた宮廷画家に、ご相談されてはいかがでしょう。

描いた色を水彩絵の具で作ってもらい、それを用いて描かれてみては?」


「なるほど。それは良い考えだわ。柄も可愛いものを描こうとしても難しくて。

エリー閣下。猫の絵なんて、ご存知ないわよね」


 なかなか、こだわりがあるらしい。

 ご夫婦仲は良かったものね。

 “アレ”でなければ、皆が幸せだったのに。

 と、いけない。お仕事だ、お仕事です。


「そちらも宮廷画家にご相談されてみてはいかがでしょう。

画家はさまざまな題材を、モチーフにして、研鑽(けんさん)を積み技術を鍛えます。


画家同士の横のつながりで、猫好きで描いている、猫をモチーフに練習していた、といった、情報を知っているかもしれません。

デッサン画や練習帳があれば、借り受けてご参考になさるのも方法かと。


あとは、宮廷画家に型紙に従い、何パターンか猫の下絵を描いてもらい、皇女母殿下がお好みのように、手直しなさるのもよろしいかと存じます」


「そうね。自力でできなければ、やってみるわ。

エリー閣下は絵がお得意なのかしら」


「いえ、私は鑑賞専門です。知識だけは王妃教育で学び、視察で美術館などに参りました」


「そうよね。さすがに描くのはご趣味でもないと、皆様、されないものね」


 実はガッツリやらされて、デッサン画はおろか、王妃陛下の肖像画の油絵まで描かされたとかは、絶対に言わない。


 自分の心を守るためにも、“皇太子殿下の三毛猫”には、なるべく距離を置いていたかった。

 ここで癒しを求めて、話題を変える。



「えぇ、さようでございますね。

皇女母殿下、カトリーヌ殿下が私に興味をお持ちになったようですので、お相手を務めてもよろしいでしょうか」


「あら、まあ。さっきは人見知りで、つれなくしていたのに。

よかったら、お願いしますわ。

なるべく、色んな方から愛されてほしいの」


「では失礼します。

カトリーヌ殿下、ごきげんようでちゅ。

今日はなにがお気に入りでちょうか?」


 最初に挨拶(あいさつ)した時は、人見知りをされたので、無理せず、私と皇女母殿下の関係を見せていた。

 どうやら安心してくださったらしい。


 赤ちゃん言葉で話しかけ、布製の鈴がなるラトル(ガラガラ)を色んな方向に振ったり、いないいないばあカシュルカシュルガァオをしたり、布製のボールを転がしたり、一緒に遊ぶと、本当に愛らしい。


 皇女母殿下も途中から加わり、愛らしいカトリーヌ殿下の仕草に笑ってくださった。


「皇女母殿下、そろそろお時間ですので、失礼させていただきます」


「あら、もうこんな時間。それではまた後ほど」


「はい。皇妃陛下のお部屋で。ごきげんよう」


 私は深いお辞儀(カーテシー)をすると、皇女母殿下の御前から下がり、控えていたマーサの心遣いを受けながら、タンド公爵家が下賜(かし)されている部屋で二人で昼食を摂った。



 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜



「本当にご迷惑をおかけしたわ。

あの二人、いいえ、陛下にもきちんとお説教はしたの。

適切な連絡をありがとう。エリー閣下」


「とんでもないことでございます、皇妃陛下」




 皇妃陛下の(もと)に出仕したところ、ご挨拶(あいさつ)の後、閲兵式(えっぺいしき)祝賀会の、第五皇子殿下と第四皇子殿下のお忍びを持ち出されたのだ。


 私としては、皇妃陛下がしっかり(しつけ)をしてくだされば充分なので、恐縮しきりである。



「後できちんと()びをさせます。

皇族に臣下への謝罪が許されていないのは、身分もありますが、『謝罪するような事をしない』、という前提だからです。

社交界デビューしても、まだまだ半人前だもの。

適切に導かないといけないわ」


「皇妃陛下。実は昨日、両殿下からお手紙を頂戴しております。

充分反省なさったようでございます」


「あら、まあ。きちんとしたのね。陛下からは?」


 迷ったが、嘘をついてもすぐにバレてしまう。

 がんばれ、皇帝陛下。

 念願の贈り物、ピンクダイヤモンドのティアラへの道は、まだ遠そうです。


「…………ございません」


「本当にもう。あの子達のお手本にならなければいけないのに。あの方ときたら……」


「『人をもって(かがみ)となす』とも申します。

両殿下のお手紙を拝見し、私は皇妃陛下のお導きで充分なように感じました」


「そう言ってくださって、ありがたいわ。エリー閣下」


「とんでもないことでございます。

それでは、記録書を拝見させていただきます」


 私は段取りに従い、皇妃陛下の体調を確認すると、侍女長や侍医達と協議する。

 産後女性特有のお悩みがまだ残り、また年齢のお悩みが出てきているようだった。

 お若く見える皇妃陛下でも、懐妊・出産の影響はとても大きい。


 二つの女性特有のお悩みに効能のあるレシピと、気分を落ち着かせる効能のレシピ2種類を調整し提案する。

 侍医達の許可を得た上で、ハーブのレシピを調合し、試飲も無事にすませた。


 こちらでも、“リュック”を背負ったマルガレーテ殿下と遊ばせていただいていると、第五皇子殿下と第四皇子殿下が、お時間よりも早めにお越しになった。

 先触れもあり、きちんとマナーを守られていらっしゃる。

 私は深いお辞儀(カーテシー)をして、ご挨拶(あいさつ)する。



「帝国の輝ける星たる第五皇子殿下、第四皇子殿下。

先日はご来臨くださり、また丁重(ていちょう)なお手紙をくださり、お心遣い、感謝いたします」


 両殿下も騎士礼を取り、神妙な態度だ。


「エリー閣下。先日、大変失礼なことをしたにも関わらず、受け入れてくださって、ありがとうございました。

ルイス閣下もお疲れのところ、佩刀(はいとう)を説明してくださったり、送り届けていただき、感謝しています。

どうかよろしくお伝えください」


「エリー閣下。礼を欠いた行いをした私に、ていねいな対応、痛み入ります。

今後はあのようなことはいたしません。

ルイス閣下にも本当にお世話をおかけしました。

深く御礼申し上げます」


 お手紙にもあったが、臣下に謝らない、()びの方法も学ばれたようで、充分だろう。


「はい、お気持ちは充分伝わりました。臣下の身に取り、光栄でございます。ルイスにはきちんと申し伝えます。

皇妃陛下、そろそろ……」


「そうね。形を変えた謝罪はこれくらいにいたしましょう。

二人とも、『帝国の輝ける星たる』という呼称を美辞麗句(びじれいく)にしてはなりません。

それにふさわしい態度を取るのです。


いつもいつもだと息抜きも必要でしょうが、迷惑をかけない方法でやりましょう。

皇帝陛下を真似してはなりませんよ。


そしてあのような“お忍び”をしたからには、他の臣下からも色々誘われるでしょうが、『皇妃に指導された、反省し二度としないと誓った』と言っておきなさい。

人を見る目を養う、とても良い機会です。

忠臣とご機嫌取りの見分け方を学べるでしょう」


「はい、母上。肝に銘じます」

「はい、義母上(ははうえ)。悲しませるようなことはいたしません」


 皇妃陛下は軽やかに、ぱしんと一度両手を鳴らす。


「なら、このお話はここまでで。

皇女母殿下がいらっしゃるまで、マルガレーテと遊んでくれるかしら?」


「はい、母上。マギー。お兄ちゃまだよ」

「はい、義母上(ははうえ)。マギー。今日も可愛いね」


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜



 私はその間、調合室で待たせていたマーサに手伝ってもらい、納入品を並べていく。

 皇妃陛下は早速手に取り、質問をなさる。

 皇女母殿下もカトリーヌ殿下とお越しになって、どこかわくわくした雰囲気だ。


 カトリーヌ・マルガレーテ両殿下は、乳母や侍女達と遊んでいただく。

 その間に、両殿下のお母様である皇妃陛下、皇女母殿下、叔父と兄である第五皇子・第四皇子両殿下に、納入品を説明していく。



「こちらが、カトリーヌ・マルガレーテ両殿下のお誕生時の重さと身長の、猫とうさぎのぬいぐるみです。

皇妃陛下、皇女母殿下。お手にとってお確かめください」


 各々にご注文の品をお渡しする。

皇妃陛下へは、繋ぎ目なく編んだタイプの、うさぎのぬいぐるみ、お色はオレンジっぽい茶色だ。

 皇女母殿下は、手足を動かせる型紙に合わせて編んだタイプの、猫のぬいぐるみで、お色は白だった。


 いずれもエヴルーのレース編み工房で、糸を変え、繊細かつ丈夫に編み上げた。

 肌触りも抱き心地も自信のある、逸品(いっぴん)だ。



「まあ、明るくて綺麗な色。肌触りも、この独特の感触も良いわ。癒されるわね〜」


「なんて綺麗な白猫ちゃんでしょう。

手足をこんなに動かせるなんて。カトリーヌの愛称、キティ(=子猫)にぴったり。

やっぱり猫ちゃんにしてよかったわ。

エリー閣下。この()にあうドレスを注文してもいいかしら?」


「あら、皇女母殿下。とても素敵なお考えだこと。

エリー閣下。私もこの()にドレスを作ってあげたいわ」


 お二人ともすっかり童心に、いや幼い少女に帰られたようで愛らしく、楽しそうだ。

 と同時に、これは大きなチャンスだ。


「実はカタログをお持ちしています」


 マーサがさっと用意した二冊は、マダム・サラの乳幼児用ドレスのデザイン集だ。

 エヴルーでの会議でも、同じ意見が多かったため、依頼しておいた。

 マダム・サラも、新たな世界を楽しんでいる。


「まあ、どれも素敵。これはじっくり選ばないと」


「私はこのピンクの花柄にしますわ。白にも似合うし、模様も気に入りましたわ。

エリー閣下、よろしくね」


 皇妃陛下が迷い、皇女母殿下が即決した。

 意外性が面白い。


「ご注文は承りました。

皇女母殿下の白猫のサイズに合わせて調製いたします。

マーサ、ご注文書を作成してください。

第五皇子殿下、第四皇子殿下。

お二人のご注文の品はこちらです」


 繋ぎ目のないタイプと手足を動かせる型紙タイプ、2つのタイプ、サイズは小型と中型、うさぎと猫、それぞれ計4種類ずつだ。


 小型は今の手に胴体が握れるサイズ、中型はその後もしばらく楽しめる少し大きめのサイズとした。

 また、手足を動かせる型紙タイプの、小型と中型のうさぎには、“プウプウ笛”が、猫には鈴が入っている。


 これら4種類ずつ、カトリーヌ殿下には猫を、マルガレーテ殿下にはうさぎを贈られる。


 さらに、カトリーヌ殿下には中型の“プウプウ”うさぎを、マルガレーテ殿下にも、中型の鈴の音の猫を加えていた。


 色は、黒や白、優しい色合いのピンク、水色、ラベンダー色、ミントグリーン、ベージュ、鮮やかなレモン色、オレンジ色、青など、全て違う。


 第五皇子殿下も第四皇子殿下も、一つひとつ持って触って、手足を動かせるうさぎの“プウプウ笛”も猫の鈴も、押したり振って鳴らして、しっかり確かめている。

 抜けのない検品作業だ。



「うん、どれも可愛いし、肌触りも触感も色も、僕は満足しました。音もきちんと出てます」


「僕も編み目が(そろ)ってて、本当に気持ちいいです。音もどちらも可愛いし、聞いてて楽しいと思います」


「では、プレゼントボックスをご用意しましたので、お二人で入れて、渡して差し上げてください」



 ここでマーサが、大きな布袋から、厚紙細工(カルトナージュ)で作られた、白の地色に鈴蘭を、オレンジの地色に蘭を散りばめたボックスを出す。

 厚紙細工(カルトナージュ)は、“中立七家”中の家の特産品だ。

 マーサがリストを見ていて、思いついてくれた。

 ありがとう、マーサ。

 


「この箱は紙でできていますが丈夫で、角は丸く、お怪我が少ないようにしております。

さあ、どうぞ」


「この紙の箱も可愛いなあ。あ、大きなぬいぐるみの色に合わせてるんだ」


「さようでございます。第五皇子殿下」


「うん、箱もぬいぐるみも可愛いです。どっちも引き立て合ってます」


「ありがとうございます、第四皇子殿下」


 お二人は緊張の面持ちで、皇妃陛下と皇女母殿下の前に立つ。


「僕達から、姪御ちゃんと妹ちゃんへのプレゼントです」


「元気に楽しく遊んでください。時々、二人で仲良く遊べますように」


 皇妃陛下は蘭模様のオレンジ色のボックスを、皇女母殿下は鈴蘭模様の白のボックスを、嬉しそうに受け取る。


「二人のお兄様からのプレゼント、喜んでいただきます。

本当にありがとう」


「二人の叔父様からの、何よりのプレゼントです。

ありがとうございます。大切に遊びますね」


「皇女母殿下。まずは一人ずつで遊ばせましょうか。

どれが自分のか、わからなくなってしまいますものね」


「さようでございますね、皇妃陛下」


「そうそう。二人の姿絵の原画が出来上がったのよ。

こんな感じなの」


 披露された絵には、各々、鈴蘭と蘭の小さな花束の刺繍を散らした、淡いペパーミントグリーンのベビードレスを着て、ソファーに並んで座る、カトリーヌ・マルガレーテ両殿下が描かれていた。


 そっくりなおふたりは、同色のレースのヘアバンドをして、ご機嫌でにっこり笑っている。

 実物のおふたりも、“ごっつん防止リュック”を背負って、仲良くきゃっきゃ、遊んでいた。



「まあ、なんて愛らしいんでしょう」


「母上、姪御ちゃんも妹ちゃんも、どっちもこのドレス、似合ってますね」


義母上(ははうえ)、本当に天使みたいに可愛いです」


「皇妃陛下。素晴らしい姿絵の原画でございます。

以前、仰った通り、可愛さに勝てるものも、この世の中には中々ございません。

『可愛さは無敵』でございましょう」


 私の『可愛さは無敵』に、全員が(うなず)く。


「『可愛さは無敵』、本当ね」


「えぇ、本当に癒されますわ」


「うん。『可愛さは無敵』だと思う。なんでも言うこと聞きたくなっちゃうよ」


「第五皇子殿下。それはせっかくの可愛さを我儘(わがまま)にしちゃいます。

互いに叔父として兄として、気持ちは分かりますけど、心も可愛く育てましょう」


「この年齢の無垢な可愛さは、大人に守って育ててもらうため、という医学上の説があるそうですが、理論も吹き飛ばしてしまう破壊力がございますわ。

可愛らしい、今この時を、充分に()でさせていただきましょう」


 私も含めて、五人五様(ごにんごよう)、姿絵と実物にしばし癒されていた。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。


この『悪役令嬢エリザベスの幸せ』の世界を借りて、

夏季の期間限定企画「夏のホラー2024」「テーマはうわさ」に参加させていただいています。

夏っぽい、怪談仕立てのお話です。


【ここだけの話】

https://ncode.syosetu.com/n7906jj/


お盆になっても猛暑が続いています。

残暑お見舞い代わりに、よかったらお楽しみください。

ヽ(´ー`)


誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

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悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
[良い点] これくらいの年の子供は動きが不安定なので写真より絵のほうが可愛らしいかもしれないですね。うーん可愛い…!!
[一言] >二人とも、『帝国の輝ける星たる』という呼称を美辞麗句(びじれいく)にしてはなりません。 エリーの中では、皇帝陛下の『帝国の輝ける太陽』は美辞麗句になりつつあるんだろうな〜と。 ホント、そ…
[良い点]  エリザベスさんの弁え方もしかり、線引きの明確さ、ぶれないように気持ちを立て直そうとする姿に、こちらも背筋がピッとします。  誠にありがとうございます♢  ピタ○ラ●イッチ! なるほど面…
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