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110.悪役令嬢の気分転換

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


※日常回です。


※※※※※※※※※※ご注意※※※※※※※※※※※※※

本日2話更新予定(本編1話と小話1話同時更新)です。


本編の更新は『110.悪役令嬢の気分転換』

小話の更新は、『100回記念SS ⑤胡桃(くるみ)入りのマフィン』

こちらは本編の110話です。

読み飛ばしにお気をつけください。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。

ルイスとの新生活としては、これで48歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。



「ルイスの愛情に溺れるかと思ったわ……」


「夫婦ご円満で何よりでございますが、ルイス様に少しご配慮いただきませんと、夜のドレスが……」




 朝食後、ルイスは名残惜しそうに出勤した。


「エヴルーにエリーと共に行くためだ。

絶対に定時で帰る。

アーサーとエリーのお陰でかなり減ったとはいえ、俺の決裁の書類も、エヴルー騎士団もある」


 やっと凛々しい閣下の顔を取り戻してくれた夫を微笑んで見送ると、全身筋肉痛の私は、効能のあるハーブを調合したハーバルバスにゆっくり浸かる。


「ドレスの件は、今度言っておくわ……」


 夜のドレスは露出度が高い。

 お化粧のカバー無しに着られないほどにしたルイスには、絶対にお仕置きが必要だ。


 そろそろ、この帝都邸(タウンハウス)のお披露目パーティーの日程も決めなければ、というところの、“抜け道”事案だったのだ。

 この影響で、ルイスの執務室とクレーオス先生の研究室も改築する。

 また、お披露目の日程が延期されるのは確実だった。


 湯上がりに、マーサがマッサージと共に、クレーオス先生処方の薬用クリームも、ていねいに塗りこんでくれる。

 爽やかなスーッとする香りが独特で、うっとり眠りそうになる。



「エリー様。少しお休みなさいませ」


「マーサ、ありがとう。

でも、帝都邸(タウンハウス)の仕事も少し溜まってるの。

エヴルーに戻る前に、すっきりさせて行くわ。

どれもそれほど難しくはないのよ。

気分転換にちょうどいいわ」


 伯母様に預ける、皇妃陛下と皇女母殿下の“御愛用御礼”の契約書類がある。

 商会との打ち合わせや、木工細工や“七家”の夫人達との集まりもある。

 そうそう休んではいられない状況だった。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


「おっ!色男!肌艶、いいぞ!」


 ウォルフ騎士団長がルイスの肩を叩き、声をかける。

 他意はない、明るい笑顔だ。

 だが、どういう意味か、ルイスは知っている。


 エリーに巡り逢う以前は、自分には絶対に縁のない言葉だと思っていた。

 ルイスには、「おかげさまで」などとのろける気は一切ない。

 エリーを想像させるのも、絶対に嫌だった。

 流すのが最適だ。


「おはようございます。昨日は休みをいただき、ありがとうございました」


「ルーが神妙だと、その後がこわいこわい。

おっ、そうだ、“アイツ”の処分が決まった」



 最後は耳元で(ささや)き、『ついて来い』と言わんばかりに、首を振る。

ルイスが後からついていき、団長室で人払いする。



「オレトスは、全記録抹消の上、両脚を切断し、地下牢に“永年(えいねん)留置”に決まった。

身柄の責任は侍医長殿が負う。

怒りが凄まじくてな。これからは、世のため人のために、薬や治療方法の試験体とする」


「そうですか……」



 ルイスは(こぶし)をぎゅっと握りしめる。

乳母は命を奪われたのに、“アイツ”は死を免れるのか、と静かな怒りが込み上げる。

 何よりもエリーを苦しめた毒を、嬉々として作っていたヤツなのだ。



「侍医長殿自身も責任を取り、辞任するとまで仰ったのだが、陛下が強く慰留された。

3年間は給与を全て返納される。

お前やエリー閣下を始めとした、被害者を考えると、即処刑が相応しかったんだが、責任者は侍医長殿だ。力及ばず、すまなかった」


 ウォルフがルイスに向かい謝罪する。


「いえ、それが上の判断なら、俺は従うまでです。

しかし、侍医長殿がそこまで責任をお感じになるとは」


「二十数年前の南部の紛争に医師として参加した功労で、侍医として召し上げたが、あの性格だ。

第二皇子母のご側室のお守りをさせていけば良い、と当時の侍医長が判断し、自分もそのままにした。

就任した際、改めて調べるべきだったと、深く悔いておられた」


「過去は変えられません。ただ絶対に逃亡されないよう、監視は厳重に願います」


「もちろんだ。逃げられない状態にはするがな。

話はこれまでだ。

お、よかったら持ってけ。お前、好きだろう」


 差し入れの中から、胡桃(くるみ)入りマフィンを数個取り出し、紙袋に入れて渡す。

 ウォルフの妻、ゲール夫人エヴァンゼリンの手作りで、小姓時代からのルイスの好物だった。


 とある理由で、ゲール家に一時期預けられた際、ルイスがマフィン作りを教わったこともある、思い出の味だ。


「ありがとうございます。夫人にもよろしくお伝えください」


「ああ、伝えておくよ。

今度、エリー閣下と一緒に遊びに来るといい。

婦人会の“洗礼”は終わったんだ。うるさく言う者も少ないだろう」


「エリーと相談して、お返事します。

では、失礼します」


 ルイスは懐かしい味を抱えて敬礼し、退室した。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜



 ルイスは鬼気迫る集中力で、訓練と書類作成をすませると、定時と同時に皇城を出る。

 本当は馬で通いたかったが、エヴルー“両公爵”の一人で、閣下と呼ばれる身となったからには、保安上、馬車となる。


 エリザベスにあれだけくどいほど、『護衛を離すな』と言っている身からすると、模範を示さねばならない。

 またエヴルー公爵領騎士団の団長として、団員の技量を確認する意味もあった。


 エヴルー公爵家帝都邸(タウンハウス)に到着し、玄関ホールに入ると、使用人達が出迎えてくれる。



『おかえりなさいませ、ルイス様』


「いま戻った。皆、ご苦労」


 その中に期待した愛妻の顔がなかったことに、内心がっかりする。


 しかし、それを露骨に出すのは、主人(あるじ)としていかがなものかと思い返し、きりっとした顔つきで執事長に(たず)ねる。


 それに、昨日から今朝にかけて、無理をさせた自覚はあった。

 ひょっとして、寝込んでいるだろうか。

 同僚や先輩から聞かされていたが、自分もやってしまうとは、痛恨の極みだ。



「エリーはどうした?」


「エリー様は音楽室においでです。

お帰りをお知らせしようとしたのですが、マーサ殿に()められまして……」


 そういえば、聞くと言ったマーサの諫言(かんげん)もまだ聞いていない。

 今朝の態度はいつもと変わらなかったが、やはり聞かねばならないな、と思い、音楽室へ向かうと、ドアの前にマーサが立っていた。


 マーサから静かに歩み寄り、(ささや)き声で話す。


「おかえりなさいませ、ルイス様。

エリー様はただいま、ピアノのレッスン中でございます。

真剣なご様子にお声をかけられず、失礼いたしました」


「なるほど。そういうことか」



 マーサがドアをそっと細く開ける。

 その隙間から覗くと、鍵盤に向かう凛とした背中が見えた。

 ピンと張り詰めた空気が伝わってくる。

 ルイスの耳には違いが分からないが、エリザベスは納得し難いようで、何度も同じフレーズを繰り返し、リズムを変え、速さを変え、練習を繰り返す。


『これは剣技の訓練と一緒だな。それにしても、マーサが言う通りの集中力だ』


 ようやく納得したのか、そのフレーズを何度か弾き通すと、背中にも嬉しさが現れる。


 時計に気付き、「あら、ルー様。まだ帰ってこないのかしら」と鍵盤を拭き、蓋を閉めると、立ち上がる。


 そこで、ドアを大きく開いた、ルイスやマーサと目が合う。


「ルー様。おかえりなさいませ。お疲れ様でした。

声をかけてくれればよかったのに。

マーサ。先触れが来たら教えてちょうだいって、頼んでたでしょう」


「ただいま、エリー。いや、いいものを見せてもらったよ。

マーサを叱らないように。俺と同意見だったからね」


「同意見って?」


「真剣な様子が、凛として綺麗で、声かけを躊躇(ちゅうちょ)したんだよ。

エリーだって俺の訓練の時、しばらく見守ってくれてる時があるだろう?

あれと一緒だ」


「そう。ちょっと恥ずかしいけど、()めてくれてありがとう。

お腹が空いたでしょう。夕食にしましょう」


「ああ、着替えてくるよ。奥様、お手をどうぞ」


「愛しの旦那様、ありがとう」


 ルイスはエリザベスからの右頬への接吻を嬉しそうに受けると、愛妻をエスコートし、部屋へ向かった。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 クレーオス先生も加わった夕食の席上の話題は、私の王妃教育についてだった。


「音楽の専門は声楽にピアノ、ヴァイオリン。

初心者クラスはオーケストラで扱うような楽器をほぼって。

それって普通か?」


 ルイスはかなり呆れ気味で、事情を知っているクレーオス先生も同意している。


「普通ではございませんのお」


「ほら。楽器ってどれが自分に合うか、分からないでしょう?

声楽とピアノは必須だったの。

あと一つをどれにするかで、『じゃあ。全部、一通り試してみましょうか』って仰られたのよね」


 楽器は好き嫌いもあるが、体形や手指の長さ、唇の形などで、向き不向きがある。

 だから、ある意味正しいのだが、だったら音出し程度で十分だろうに、初級の教本までやらされたのだ。

 指揮も理論と実践をやった。

 幼心(おさなごころ)に、『私は音楽家になるの?』と思ったくらいだ。


「まあ、それでいろんな先生がたともお知り合いになれたから、王国で共演する時は楽だったわ」


「姫君のチャリティーコンサートは人気がありましたぞ。(わし)も聴きに参りましたわ」


「もうこれくらいにしましょう。昔取った杵柄(きねづか)になってますもの」


「いや、エリーの演奏は心がこう、洗われるというか、心地いいんだ。また聞かせてほしい」


 ルイスが帝国でもチャリティーコンサートをやればいい、と言い出す前に話題を変える。


「ルー様のお願いなら、喜んでお受けしますわ。

そうだわ。

エヴルー騎士団の正式認可ってまだ下りないのかしら?」


「ああ、エリーに伝え忘れてた。すまない。

明後日には下りる予定だ。

だから、今度のエヴルー行きではみっちり鍛えるつもりだ。

陛下の閲兵式(えっぺいしき)があるからな」


 これは少しショックだった。

 でも大変だった中、必須でない私が抜けてしまったのだろう。

 これからのことも考え、気持ちは伝えておく。


「……そうだったの。ちょっと、寂しいかな」


「悪かった。色々起こってる最中だったが、失念していいことじゃない。反省してる」


 見るからにしゅんとしてしまったルイスに、励ますよう声をかける。


「了解。ごめんなさい。寂しいと言っても、ほんのちょっぴりよ。

閲兵式(えっぺいしき)、とても楽しみにしてますわ」


「姫君は顧問として参加されるのかの?

それとも観覧席にいなさるのかのお?」


 クレーオス先生の言葉に、目から(うろこ)だった。


「そうだわ。顧問で参加でもいいのよね?」


「ダメだ。俺の集中に問題が生じる。

エリーの実力は知ってるが、一糸乱れぬ閲兵式(えっぺいしき)の訓練をしていると、他の職務が出来なくなるぞ」


 ルイスの言う通り、時間は足りなくなるだろう。

 王国の騎士団で経験したが、一糸乱れぬ動きは本当に難しい。

 ここはプロとしてのルイスの判断に従うしかない。


「了解です。だったら観覧席での服装、どうしようかしら。

伯母様に相談してみます。

タンド公爵家の伯父様の時、どうなさったか」


 代替わりの団長交代でも、閲兵式(えっぺいしき)は行われる。

 念のため聞いておきたかった。

 エヴルー騎士団として、記念すべき最初の晴れ舞台で、ルイスに恥をかかせられない。


「姫君は凛々しくても、美しくても、ようお似合いじゃ。

楽しみにしてますぞ」


「ありがとうございます、クレーオス先生」


「ゔ……。先生のなめらかな会話と社交力を尊敬します。

俺も同じことを思ってるんですが、すぐに出てこなくて……」


「ルー様は今のままで大丈夫。これ以上、モテたら困るもの」


「姫君。ルイス様は姫君限定で社交力を上げたいんじゃよ。

そうじゃなあ。(わし)は必要に迫られてじゃの。

医師も会話力が必要なんじゃよ。

意識を失っていなければ、患者から症状を聞き出さねばならない時がとても多いじゃろう?」


「なるほど。それで鍛えられたと」


「そういう訳じゃ。あとは慣れですな、慣れ。

侍医になってからは、社交読本を一通り頭に入れて、家族相手に繰り返しておったら、出るようになりましたわ。

ルイス様も姫君相手に練習されるがよい」


 私とルイスは顔を見合わせ、どちらともなく赤くなってしまう。

 こういう風に照れてしまうルイスも大好きで、きゅんきゅんしちゃうけど、ここは何かひと言決めて欲しかったな、と思う欲張りな私もいた。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 気分転換にクレーオス先生に誘われ、ビリヤードを楽しんだ後、ハーバルバスでゆったりし、寝室へ赴く。

 ルイスは先に来て待っていたが、また髪の毛がかなり濡れている。

 本当にこういうとこ、ワンコみたいだなあ、と思いながら、タオルで髪を乾かす。ついでに肩も揉みほぐす。



「エリーに触れてもらえると、すごく楽になるんだ」


「嬉しい。私も好きよ。でも風邪を引かない程度にね」


「ははッ、それは言えてる。

その時は、あの犬のぬいぐるみを抱きしめて、あったまっとくよ」


「自分で乾かすのを第一選択にしてください。

はい、終わり。

それに、ルー様がどうしてあのぬいぐるみを抱きしめるの?」


 あれは元々懐妊中の女性のためだ。

 まあ、言うなれば、縦に長い犬型クッションで、私もテストし、体重が分散され気持ちよく眠れた。


「エリーの匂いがするから」


 ぽんっと音がするほど、私は瞬間的に首筋を真っ赤に染めてしまう。


 え?私、そんなに匂うの?そんなに抱きしめてた?

 焦ってる私を、ルイスが背後から抱きしめ、髪に顔を埋める。

 こういう行動といい、さっきの発言といい、ルイスのワンコ度が上がってる。

 可愛くてきゅんきゅんしちゃうから、いいんですけど。


「ふう。いい香りだ。落ち着く。ハーブとエリーの匂いが混ざって、とてもいい香りなんだ」


「ルー様も素敵な香りがするのよ。こうしてると、二人の香りが重なっていって、私は好き」


そう、安らいで、でも心臓はトクトク、少し高鳴って、ルイスの心拍とも重なっていく。

 ルイスは昨日とは別人のように落ち着いている。

 この上なく優しい、言葉がいらない世界へ踏み入れながら、テーブルの上に3枚の識別票(シグナキュラム)が置かれた。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。


この『悪役令嬢エリザベスの幸せ』の世界を借りて、

小説投稿サイト「小説家になろう」様が主催する、夏季の期間限定企画「夏のホラー、テーマはうわさ」に参加させていただいています。

夏っぽい、怪談仕立てのお話です。


【ここだけの話】

https://ncode.syosetu.com/n7906jj/


暑熱が続く中、もしよかったらお楽しみくださいヽ(´ー`)


誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

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悪役令嬢エリザベスの幸せ
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