107.悪役令嬢の受注
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
※少々長めです。
エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。
ルイスとの新生活としては、これで45歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
「赤ちゃんの存在は、本当に癒されますわ」
皇妃陛下の元で、生後6ヶ月を迎えられたマルガレーテ第一皇女殿下を抱いた実感だ。
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我がエヴルー公爵帝都邸の抜け道に関する事件は、“あの”皇太子の、“置き土産、総決算特別販売会”のように、密度が濃すぎるものだった。
それから一夜明けての出仕である。
昨日、聴取が終わり、筆記をしたエヴルーの騎士姿に変装した私を気遣い、ウォルフ騎士団長は、短い時間だが、ルイスと二人っきりにしてくれた。
ルイスはエリオットというエヴルーの騎士に男装した私を、優しく抱きしめる。
私もルイスに両腕を回し、背中をしっかり撫でる。
しっかりした騎士服を通しても、この想いが伝わるように—
しばらくの抱擁の後、離れたルイスは、大きな両手で、私の両頬を包んだ。
青い瞳は、思いやりと愛情に満ちていた。
「エリー。当事者とはいえ、聞くだけでも大変だろうに、筆記まで……。辛くなかったか?」
「辛くない、と言ったら嘘になるわね。
でも、私は大丈夫よ。クレーオス先生も付いててくださるもの。
ルイスの方が心配だわ」
“あの”、因縁深い第二皇子の“処分”と関わらなければならないのだ。
ルイスはそこから逃げないだろう。
自分の中で、ケジメをつけるために。
「終わったら、エリーに癒してもらうよ。
だから、エリーこそ、マーサやタンド公爵家の皆に癒してもらうといい」
「ありがとう。ルイスにたくさん分けられるよう、癒されてるわね」
「ああ、そうするといい。クレーオス先生にはもう少し御協力いただくことになるだろう。
護衛は連れてきてるね」
「えぇ、約束だし、安心して働いてほしいの」
ルイスの顔が近づいてきて、カツラの薄茶色の前髪をかき分けると、額にそっと唇を落とす。
「俺の愛するエリー、待っててほしい。いつでも想ってる」
「私の愛するルー様。待ってるわ。なるべく身体には気をつけてね」
私は背伸びすると、ルイスの右頬の傷痕にそっと唇を寄せる。
ルイスが生きようとした証だ。
今、過去と向き合い、前を向くため、立ち向かおうとしているルイスへの、心を込めた応援だった。
「がんばって」とは口には出さない。
ルイスは今まで充分すぎるほど、がんばってきたのだから。
与えられた時間は、あっという間で、私は護衛と共に、仮住まい中のタンド公爵家へ向かった。
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ルイスは私の疲労を危ぶんでいたが、身体はさておき、心は全く別の世界を求めていた。
ルイス達は事件の後処理に追われているのに、本当にごめんなさい。
クレーオス先生も、過去の兄妹さん達の事件の確認やその他色々で、“マックス”として騎士団本部でまだ協力しているのに、申し訳ありません。
これもお約束していたお仕事なので、許してください。
ルイスはあの事情聴取の後も、やはり騎士団本部に泊まり込みとなり会えていない。
この出仕前に、着替えと差し入れと手紙を預けてきていた。
本部まで同道したクレーオス先生は、「姫君には必要な時間じゃよ。儂は職業上、人の生き死にと修羅場には慣れておる。気兼ねなしに行ってきなされ」と、優しい微笑みで、送り出してくださった。
『検死に役立つ医学講座』という名目で来ているため、いつもの短い白髪に、付け髭となった長く白いお髭で、どこか安心した。
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いつものように、今の皇妃陛下の体調に合わせ、侍医達の許可を得た上で、ハーブのレシピを調合し、試飲も無事にすませる。
前回提案した、産後女性特有のお悩みに効能のあるレシピと、気分を落ち着かせる効能のレシピ2種類を微調整したものだ。
その後のマルガレーテ殿下との時間は、悪夢のような人生の聴取から一転した世界での、優しさに満ちた触れ合いだった。
その柔らかさと清らかさ、注がれてた愛情が伝わってくる健やかさ、そしてその表情—
きゃっきゃと無邪気に笑う笑顔は、何よりも可愛い。
“いないいないばあ”をしても、ちょっとしたびっくり目の後、大層喜んでくださる。
周囲の侍女達もだ。
だが、油断していると、今は興味を持ったものを、手で、口で、確認したくなる時期でもある。
顔を手で触れる時も、容赦ない。
油断すると目が危ないので、王妃教育での慰問の際は伊達メガネを掛けていたほどだ。
今はラトルを持っていただくが、振り回すという技術もお持ちである。
そこは布製なので、避けきれずに当たっても、ダメージは小さい。
ご自分に当ててしまっても同様なので、安全性は高いと言えよう。
「まあ、マルガレーテはエリー閣下がお気に入りなのね。私に似たのかしら」
「恐れ入ります、皇妃陛下。
お気に召していただけたなら、幸いです。
こんな愛らしいお子様に懐いていただけるだけで、光栄ですわ」
「本当に幸せそうね。そういえば……」
先月、カトリーヌ嫡孫皇女殿下を連れた皇女母殿下をご招待されたという。
小さな叔母と姪同士、二人仲良く遊ばれたらしい。
その時に、“ごっつん防止リュック”をカトリーヌ殿下が背負われていて、お座りで背後に倒れられた時に、実際に役立っていたと話される。
「やはり、聞くより見た方がわかりやすいわ。
マルガレーテの“リュック”もできたかしら」
「はい、お持ちいたしました。マルガレーテ殿下、失礼します」
マルガレーテ殿下を乳母に受け渡す。
そして、私の後ろに控えていたマーサが、侍女長にリボンを掛けた紙包を手渡す。
その包みから出てきた布製品は、カトリーヌ殿下のリュックと同じ紺色で、外形は8の字形、大小の二つのクッションのような円形が繋がっている。
下の円形には満月が大きく刺繍され、その曲線の一部に沿って、白い蘭の花と緑の葉が満月の内側に描かれているデザインだ。
まるで満月が蘭を抱いているようである。
上の少し小さめ円形部分は真ん中が空いており、蝶々のひらひらと羽ばたく輪が、色鮮やかに刺されていた。
下の円形にはサッシュベルトが三つ付いており、長さが調節できる金具が付いている。
月と蘭は、皇妃陛下とマルガレーテ殿下を、蝶は『永遠』『復活』を意味する縁起物で、エヴルーで刺繍した。
紺の地色も含め、カトリーヌ殿下との“お揃い”を意識している。
「あら、素敵。
特にこの、満月と蘭は美しいわ。
デザインは誰が考えたのかしら?」
「はい、マダム・サラとタンド公爵夫人、そして私でございます」
「そう、さすがマダム・サラねえ。
公爵夫人もエリー閣下も趣味がいいし、洗練されてること。
ねえ、この満月と蘭、私とマルガレーテの紋章にしてもよいかしら」
「…………光栄にございます」
私は内心驚く。
皇妃陛下、お抱えのデザイナーの領分だからだ。
私の間合いで悟った皇妃陛下は、和やかに微笑む。
「正式なものではなく、あくまでも私的なものよ。
私が話すから大丈夫。
誰がデザインしたかは、私も話さないわ」
賢いお方である。
マダム・サラが帝室に認められるのは嬉しいが、皇妃陛下お抱えの大御所デザイナーとは、人気はともかく、まだキャリアが違う。
できれば、共存関係でいたいのだ。
「お心遣い、ありがとうございます。
私どもも“見守らせて”いただきます」
口には絶対出しません、と言うことだ。
この美しいデザインを使っていただけるだけで、ありがたい。
そして、この“リュックのお揃い”で、“陽の皇女”“影の皇女”という噂を打ち消す根拠を、また一つ得ることにもなる。
「そうだわ。“姿絵”の件も、皇女母殿下にお話ししたら、とても喜んでらしたの。
今度、画家を呼んで描かせる予定なのよ。
玩具の“カトリーヌ・マルガレーテ両殿下ご愛用”も同意してくださって、問題ないわ。
皇帝陛下にも、マルガレーテとカトリーヌ殿下、“交代に”顔を見に行くようにお伝えしました。
今のところ、順調よ。うふふ」
「皇妃陛下、誠にありがとうございます」
皇女母殿下の間に入ってくださって、本当にありがたい。
また皇妃陛下はこの上なくご機嫌だ。
今の後宮内の皇帝陛下を制御していただくには、皇妃陛下が一番だ。
納入したリュックもきちんと装着でき、周囲に『可愛い』と言われたマルガレーテ皇女殿下は、おねむの時間となった。
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そこに第五皇子殿下と第四皇子殿下、皇女母殿下とカトリーヌ嫡孫皇女殿下がお出でになる。
受洗式の時に依頼されたぬいぐるみの試作品をご覧いただける場を、皇妃陛下がご提供くださったのだ。
第五皇子のお部屋に、第四皇子がお越しになって、私が訪問し、お二人にご覧いただく、という方法もあったが、ある事ない事言われるのが皇城だ。
皇妃陛下の元、お二人と皇女母殿下とカトリーヌ殿下に来ていただき、披露するのが一番で、揉めた時にも、皇妃陛下や皇女母殿下が仲裁に入ってくださりやすい。
さらに既婚・子持ちの侍女も多いので、意見をもらえるという利点だらけだ。
互いに儀礼的な挨拶を交わした後、早速、試作品のお披露目、という本題に入る。
皇女母殿下は以前より肌艶もよく、表情も明るい。カトリーヌ殿下は、乳母の腕の中で、すやすやとお休みだった。
第五皇子は年齢相応に興味津々のご様子で、第四皇子は理知的で少し落ち着かれた雰囲気だ。
マーサが私に、カトリーヌ・マルガレーテ両殿下のための試作品を入れた籠を渡す。
「こちらが、猫とうさぎのぬいぐるみの試作品でございます。
全部で12種類、ご用意いたしました。
まず、……」
皇妃陛下、皇女母殿下、第五皇子殿下、第四皇子殿下の前に、私は一つずつ、うさぎと猫の試作品を並べていく。
全て本物に近い明るめの毛色で、統一した。
色見本も4冊、用意してある。
ぬいぐるみのタイプは2種類だ。
1つは、手足も含め、全体をつなぎめなく立体的に編み、工夫した詰め物で、抱きしめたり握った時、独特の触感がする。
2つ目は、従来の人形のように、型紙に合わせて部分を編んだ後に、各々に詰め物をし編み合わせ、さらに金具などを使って、手足を動かせるようにしてある。
サイズは3種類ある。
一番大きなぬいぐるみは、お二人の生まれた時の体重と身長に合わせた。
他にも、今の手に胴体が握れるサイズ、その後もしばらく楽しめる少し大きめのサイズと、2つのタイプごとにサイズが3種類ある。
つまり、猫とうさぎはそれぞれ6種類だ。
特色としては、音が出るものが含まれている。
猫では、一番と二番目に小さな型紙タイプに、工夫された鈴が入っており、振ると可愛い音色で鳴る。
うさぎでは、一番と二番目に小さな型紙タイプの胴体に、“プウプウ笛”が入っていた。
“プウプウ笛”は皮革でできており、押すと音が出る。
それがうさぎの喜ぶ声、『プウプウ』音に似せている、と伝えると、うさぎを推している第五皇子は大喜びだ。
猫を推していた第四皇子も、私が押して実際に音を出すと、興味を持ったようだ。
「どうぞ、手に取ってお試しください。
いろんなご意見をいただければ、ありがたく存じます」
皇妃陛下がすぐに、一番大きな繋ぎ目のないうさぎのぬいぐるみを抱っこし、握ったり撫でたり、手触りを確かめる。
「この大きなサイズ、生まれた時の体重と身長って素敵ね。大切な思い出ですもの」
皇女母殿下は、同じサイズで手足を動かせる型紙タイプの猫を手に取り優しく撫でる。
「私もカトリーヌを産んだ時の喜びを思い出しておりました」
「僕もいいな、って思いました」
「僕もです」
「猫かうさぎか、全部つながってるか、手足が動くかは、これはもう、好みよねぇ」
「そうですね。どちらも愛らしくて、とても悩ましいですわ……」
「僕はうさぎで、全部つながってる方が、抱きしめても、ふにゃあって柔らかくて好きです」
「私は猫で、手足が動く方が面白いかなって思います。
ごっこ遊びとか、しやすそうです」
皇妃陛下の意見に、皇女母殿下、第五皇子、第四皇子が同意し、また意見を言う。
それでも頷きあい、基本は同じ考えだったことが嬉しそうだった。
お三人とも、ぬいぐるみを手で持っては、撫でて、握って、音を鳴らし、確かめながら、感想を言い合い、楽しそうだ。
肌触りは全員良好で、皇妃陛下が「私も欲しいくらいだわ」と仰る。
そのうち、皇帝陛下からご注文が入るんだろうなあ。
私も説明し、さらに質問を受ける。
これらのやり取りは、控えているマーサが書き取ってくれていた。
「押して音の出る、“プウプウ笛”、楽しうございますね」
「皇女母殿下もそう思われますか?
私もそう思います。猫にもあればいいのに」
「“にゃあにゃあ笛”?“みいみい笛”?
どっちも音を出すのは難しいそうだ。
エリー閣下を困らせちゃうと、ルイス兄上に叱られちゃうよ」
ふざけての冗談だろうが、どう伝わるのか分からないのが後宮だ。しっかり否定をし、開発しようとしたができなかった旨は説明する。
「そんなことはございません、第五皇子殿下。
ただ、現在の私どもの技術では、今のところは、“にゃあにゃあ笛”や“みいみい笛”も、残念ながらご無理です。
猫の鳴き声を再現しようと、製作者も努力してくれたのですが……」
そこに皇妃陛下が助け舟を出してくださる。
ありがとうございます、皇妃陛下。
「二人ともがんばって努力している方に、無い物ねだりはしないようにね。
皇族の言葉は重いのですよ。不条理な無理を言ってはなりません」
「はい、母上」「失礼しました、義母上」
ほう、これは。
第四皇子がたとえ私的でも、皇妃陛下を“義母上呼び”していることに、心中少々驚く。
二人の間は礼儀はあるが、親密そうだった。
注意されても、素直に受け入れている。
「この鈴の音も、猫の首輪につけている鈴のようで愛らしいわ。
でも困ったわねえ。うさぎも猫も、全部可愛いんですもの」
「本当に。私は動物でしたら、猫の方が好きですが、ぬいぐるみにすると、どちらも迷いますわ」
皇妃陛下が右手を右頬に当てて、皇女母殿下は“プウプウ笛”の出る小さなウサギのぬいぐるみを手に悩んでいる。
すると、第五皇子が、良いことを思いついた、とばかりに意気込んで述べる。
「母上。皇女母殿下。
欲張りかもしれませんが、一番大きいもの以外は、八種類あってもいいと思います。
うさぎだけじゃなく、猫も楽しいんです。
こう、全部をつなぎ目なく編んでる猫は、独特のぷにいって柔らかい感触が楽しいですし、つなぎめがあって、鈴の音がするのも面白いです。
色もいろいろ作れるし、全部違ったら、それだけで楽しそうです」
「あ、そうだね。お花畑みたいで綺麗そうだ」
第四皇子も同意したところで、皇妃陛下が背筋を伸ばし、二人に言い聞かせる。
「第五皇子殿下、第四皇子殿下。
私達の生活は、国民の血税で成り立っているのです。
無駄遣いはいけません。
カトリーヌかマルガレーテ、どちらかに、猫かうさぎを割り当てて、一緒に遊ぶ時は貸し借りしあう。
もしくは、猫とうさぎを混ぜましょう。
皇女母殿下はいかがでしょうか?」
「そうですね。私も全種類はさすがに多過ぎるかと存じます」
「お二人とも。よろしいですか」
「申し訳ありません。母上」
「考え違いをいたしました。義母上」
さすが、皇妃陛下だ。
皇帝陛下なら、「全部で12種類あげれば、悩まずにすむじゃないか」とか言って、お買い上げになりそうだ。
ただ盛り上がっていただけに、しゅんとした皇子達の姿は少し可哀想に思えた。
「わかってくれればいいのです。そんなに落ち込まないように。
ただ甘い言葉で贅沢や怪しげな事を囁く者は、あなた達の人生には、これからいくらでも現れるでしょう。
よく気をつけましょうね」
ああ、皇帝陛下。
ピンクダイヤモンドでティアラを作れる日は、いつ訪れるんでしょうか。
褒賞祝賀会でも、皇妃陛下がエンペラー・ハイシルクのドレスに合わせたのは、ご成婚時のダイヤモンドのパリュールでしたものね。
がんばってください、と心中、遠い目だ。
「はい、母上」「義母上、心します」
凛とした雰囲気から一転、皇妃陛下は二人の皇子に優しく微笑みかける。
「二人とも、贈り物の品物としては、このぬいぐるみは気に入ったのでしょう?」
「母上、とてもいいと思います」
「義母上、私もこれで遊んでくれたら嬉しいです」
ここで、皇妃陛下は皇女母殿下にも、柔らかな雰囲気で尋ねる。
「皇女母殿下は、猫とうさぎ、どちらがお気に召しましたか?」
「そうですね。私はやはり猫に惹かれます。
ただ、“プウプウ笛”があるうさぎも一つあれば、娘も喜ぶかな、と思いました」
「まあ、私は逆にうさぎが好ましく思いましたが、鈴の音の猫には心惹かれましたの。
マルガレーテは音の出る玩具が、このごろ気に入っているようなのです。
では、こうしませんこと?」
皇妃陛下のご提案で、カトリーヌ殿下とマルガレーテ殿下のご誕生時の体重と身長に合わせた大きなサイズは、母親であるお二人が決める。
それ以外のサイズは、カトリーヌ殿下には猫を、マルガレーテ殿下にはうさぎを、2つのタイプどちらも選び、4種類ずつ揃える。
さらに、カトリーヌ殿下には“プウプウ”うさぎを、マルガレーテ殿下には鈴の音の猫を、どちらかのサイズ1種類ずつ加え、互いに6種類と決めた。
三人も「なるほど」と同意する。
「第五皇子殿下、第四皇子殿下。
あなた達には猫とうさぎ、それぞれの小さなサイズ4種類の色と、音の出るうさぎと猫のサイズと色をお任せします。
妹と姪にふさわしい、可愛らしいものを選んでくださいね。
皇女母殿下。大きなサイズの猫とうさぎを決めましょうか」
「はい、母上」「はい、義母上」
「はい、皇妃陛下」
そこから楽しい相談が始まった。
皇妃陛下と皇女母殿下は、比較的早く、互いに手を取ったぬいぐるみに決めた。
皇妃陛下は繋ぎ目のないタイプの、うさぎのぬいぐるみ、お色はオレンジっぽい茶色、
皇女母殿下は、手足を動かせる型紙タイプの、猫のぬいぐるみで、お色は白だった。
目は宝石や貴石も選べるようになっているが、誤飲事故防止に、お小さい皇女殿下お二人が、もう少し大きくなるまで、刺繍タイプをお勧めし了承された。
第五皇子殿下と第四皇子殿下は、音の出るうさぎと猫のサイズは2番目を、ぬいぐるみは全て違う色を選ばれた。
黒や白、優しい色合いのピンク、水色、ラベンダー色、ミントグリーン、ベージュ、鮮やかなレモン色、オレンジ色、青など、色とりどりだ。
目はやはり誤飲防止に、刺繍を用いる。その糸の色も決めた。
これならどれかはお気に召すだろう。
ご注文を承ったところで、ティータイムとなる。
皇妃陛下が愛飲されている、リラックスタイム用のハーブティーと、皇城の焼き菓子やサンドイッチが出てきて、皆、ほっとひと息入れていた。
そこに皇女母殿下が、「実はエリー閣下にお願いがあって……」と切り出される。
「こんなこと、変かしら、とも思ったのですが、皇太子殿下のお誕生の時の身長と体重のぬいぐるみを作っていただきたいのです。
タイプは手足が動く、カトリーヌと同じもので、三毛猫のような色合いをお願いしたくて……。
その、オスの三毛猫はとても縁起が良く、幸福を運んでくれると言います。
私達親娘のお守り代わりにしたいのです……」
皇女母殿下は、とても賢い方だ。
亡き夫を貞淑に恋い慕い、この注文をされたのだろうが、それだけではない。
この二つの猫のぬいぐるみが納入されれば、美談として新聞も取り上げ、広まっていくだろう。
『カトリーヌ嫡孫皇女殿下は、誕生後すぐに亡くなった父親に今も見守られ、健気にすくすくとお育ちで』といったイメージが形成されていくだろう。
これは、『カトリーヌ殿下ご愛用』や販促用姿絵と、交換条件だな、と改めて思う。
適切な距離を保った相互協力関係は、こちらとしても、ありがたい。
しかし、よりにもよって、“あの”、皇太子の身代わりのぬいぐるみのご注文——
感情的には、速攻、「無理です、お受けできかねます」と言いたかった。
しかし、皇妃陛下を始めとし、第五皇子殿下も、第四皇子殿下、そして並いる侍女達までもが、亡き夫を想い、娘のために、という注文に感動していた。
断れるはずもなく、ありがたく受注させていただく。
「かしこまりました。三毛猫も色んなタイプがいると聞き及んでおります。
皇女母殿下に色の配置などをご指定していただければ、ありがたく存じます」
「私、そんなに絵が上手でないけれど、大丈夫かしら?」
「型紙の元になる展開図に、黒と茶系のお色をご記入いただければ、と思います」
「それなら、できそうだわ。
エリー閣下。願いを叶えてくださってありがとう」
「いえ、とんでもないことでございます」
ここは絶対に怪しまれてはならない。
私は感情の諸々を心底深くに押し込め、貴族的微笑みを浮かべ、周囲の雰囲気に相応しく神妙に、ご注文を承った。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
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