105.悪役令嬢の主治医 2
テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—
※最初のみルイス視点です。
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流血など、一部残酷でデリケートな描写があります。
閲覧には充分にご注意ください。
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また、本日3話更新予定(本編2話17時同時更新、小話1話は21時ごろ)です。
本編の更新は『105.悪役令嬢の主治医(2)』『106.悪役令嬢の主治医(3)』で、これは105話です。
読み飛ばしにお気をつけください。
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エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。
ルイスとの新生活としては、これで43歩目。
引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。
【ルイス視点】
そこにいたのは、“幽霊”だった。
まだ意識が戻らない内に、地下牢に放り込み、すぐにウォルフが駆けつける。
「あ゛〜、なんだってまためんどくさいことに。
物理で切っちまうか」
「気持ちはわかるが、入れ替わった方の救出があるだろう?」
「あっちもまともな状態とは思えんぞ。まともならすぐにバレるからな」
「…………それでもだ」
ウォルフは俺の答えに頭を左五指でガシガシかくと、大きく深呼吸する。
「とりあえず、このまま見張れ。
おそらく薬切れしたら、喚き散らすだろう。
外すとうるさくて敵わん。
人間、3日間は飲み食いしなくても死なん」
「3日の内に処遇を決めるのか?」
「決めるだろう。即、首が吹っ飛んでも、何の不思議はない。
“今いる”方の状態を確かめて、処遇を決めるには充分だ」
「了解」
二人の部下に『絶対に油断するな。俺とウォルフ以外、誰も近寄らせるな』と厳命し、地上へと出る。
ちょうど朝陽が昇るタイミングだった。
清々しい光に、禍々しい夢を見た気分だ。
俺の部屋から繋がるところにアイツがいたなんて、と思うだけでゾッとする。
エリー達、屋敷の皆が無事でいたことが奇跡に思えた。
ヤツのあの様子だと、まともな供述ができる可能性は少ない。
—やっと、確実に、終わる。
俺は突然現れた夢魔をこの剣で仕留め、滅する覚悟を決めた。
息が白い。
今ごろはまだ温かいベッドの中だろうか。
俺の最愛を想いつつ、事件の後処理に騒がしい本部の建物へ入った。
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【エリザベス視点】
「きれい……。話には聞いたことはありましたが、見るのは初めてですわ。あ、いえ、初めてです」
「エリオット殿。お気をつけなさい。
きのこの中には、飛んでいる胞子でさえ危険なものもある。布を鼻と口に当て、手袋もするように」
「はい。マックス殿」
容疑者確保当日—
目覚めた後、一報を聞いた私は、はやる心を抑えきれなかった。
マーサを説得し、現場検証に協力を求められたクレーオス先生と共に、“隠し部屋”にいる。
二人とも目立たないように、エヴルーの騎士姿で、カツラもそのまま使っている。
私は薄茶色の巻き毛がかった短髪、クレーオス先生は黒長髪にお髭をきれいに剃っていた。相変わらずお若く見える。
きのこの発光を確認した後、照明を元に戻す。
マックスことクレーオス先生は、担当騎士と話しながら、記録簿やノートに目を通している。
そして棚にあった古いファイルを見つけた途端、表情が変わった。
いつもは穏和な優しい眼が、信じられないものを見たかのように驚きで見開いた後、冷たく険しい光を宿し、周囲の空気がずんと冷える。
いや、凍った。
こんなことは初めてだった。
「エリオット殿。悪いが少し時間がかかりそうだ。
閣下の執務室で待っていてほしい」
私に指示しながらファイルを取る手もわずかに震えている。
「了解です」
それ以外の答えは、受け付けない雰囲気だ。
視線はファイルにまとめられた内容に釘付けで、部屋を出る時ちらっと振り返ると、その棚の他の記録も次々にめくっていた。
1時間後—
“新道”から上がって来たマックスことクレーオス先生は、穏やかさを取り戻したように見えた。
ただ同じく上がって来た現場検証担当の騎士と、ずっと小声で話をしている。
大人しく待っていると、笑顔を向けて呼びかけてきた。
「エリオット殿。私は本部に行くことになった。
貴殿はどうされる?」
「マックス殿。許されるならご一緒させてください」
私はあの眼光の鋭さを見せたマックスことクレーオス先生を、逆に放っておけなくなっていた。
普段は全く感じない激情を見せていたからこそ、側にいなければならない、と固く決意する。
先生は現場検証担当の騎士とまたしばらく話した後、小さく頷き、私の元に来る。
「エリオット殿は自分の助手ということにしました。それらしく振る舞ってください」
「はっ、了解です。マックス先生」
結局マックス殿から先生になったなあ、と思いつつ、現場検証担当の騎士が戻る馬車に同乗し、警護の騎士と共に騎士団本部に登城した。
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「で、どうして、エリオット殿がここにいるんだ?」
本日2回目の冷気と冷たい目を、ルイスから思いっきり浴びたところで、ピシッと背筋を伸ばす。
「ルイス閣下!マックス先生の助手としてです!」
ここで現場検証担当の騎士が、ルイスに何ごとか囁くと、ルイスの顔色がはっきり変わった。
「……それでいらしたのか?」
「はい、容疑者本人との面会を希望され、控室にいらっしゃいます。
また、あの“隠し部屋”にあった記録なども、簡易ですが、どういうものかご説明してくださいました。
マックス先生ご自身は容疑者を知っている、と仰っています。
こちらの助手のエリオット殿が、マックス先生とご自分の身元は、ルイス参謀が保証してくださると仰せでして……」
「マックス先生の身元は保証する。俺の妻の主治医で、王国の侍医長を務めていらした。
訳あって今はあの姿をしてらっしゃる」
「さようでしたか。それであの威厳と迫力をお持ちだったのですね」
ルイスの顔に疑問が浮かぶ。いつものクレーオス先生と違いすぎたためだろう。
そこに私が発言した。
「そうなんです。マックス先生は素晴らしい方で、ご自分の助手としての同行を認めてくださいました。
自分は供述記録を書けると思います。
面会に立ち会わせてください」
「それは助かります。供述記録、取らなきゃいけないんですが、この騒ぎで人員が出払っていて。
ルイス参謀。マックス先生が助手と認める方ならよろしいですよね?」
この担当者は私をエヴルー“両公爵”のエリザベスとは知らない。
ルイスは苦虫を噛み潰したような顔で、仕方なさそうに頷く。
「……了解した。ただし俺も立ち会う」
「ルイス参謀もですか。では、お願いします」
書記官を得たことでほくほく顔の担当者と共に、マックス先生ことクレーオス先生が待つ控室経由で、取り調べ室に向かった。
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確保された内の1名は、やや背の低い老年に入りかけと思われる男性だった。
私は思わず声を上げそうになる自分を、心中に押し込め、書記官の席に座る。
ルイスが男性の前に座った。
「面会したい」と話していたマックスことクレーオス先生は、現場検証の担当者と共に壁際に立っていた。
「氏名を述べよ」
「……マキシミリアン・オレトスです。
ルイス閣下、私をご存知でしょう?」
ルイスは冷静な面持ちを崩さず質問を続ける。
「職業を述べよ」
「恐れ多くも、皇帝陛下を始めとした帝室の方々のお脈を取っております」
ルイスの態度が不快だったのか、取り澄ました口調に変わるが、ルイスは全く相手にしない。
「つまり医師だな」
切って捨てたルイスにオレトスが激昂する。
「医師は医師でも侍医ですぞ!帝室の侍医です!」
「侍医は侍医でも、第二皇子母の側室様付きのな。
で?その侍医が?側室様がいる離宮でなくて、あそこで何をしていたんだ?」
切り返したルイスは早速本題に入ると、オレトスの口が閉じられる。
「………………」
「黙秘か。まあいい。お前の残した記録で、お前の罪も明らかになるだろう。
読み解いてくださる方がいらっしゃるからな」
「……あのノートを読める者はいない。
私が、私しか分からないように書いてるんだ!」
「だそうですよ、マックス先生?」
ルイスがマックスことクレーオス先生に呼びかけると、席を立つ。
先生に椅子を勧めそのまま交代すると、先生は座り、黙ってこの侍医と見つめあう。
先に言葉を発したのは侍医の方だった。
「お、お前は、マックス・リュカ!どうしてここに?!」
「ああ。縁に導かれて、ここにいる。
いや、お前が殺した兄妹の魂に導かれてここにいるのだろう」
「?!?!」 「?!」「?!」「………」
オレトスは先生の言葉を聞くやいなや、ガタガタと震え始める。
私とルイスは驚きを内心に押し込め、私は筆記を続け、ルイスは二人を観察している。
現場担当者は、先生から聞いていたのか、落ち着いて見守っていた。
私は記録しながらも、心中は大きく揺れ動いていた。
兄妹って?!
クレーオス先生から聞いた、あの“天使効果”を治そうとした、先生の親友だった、お兄さんと妹さんをこの人が殺したの?!
「な、何を、バカな……。私は何も知らない!」
「ほう?私の親友の研究資料と記録を、全て持っていてもか?!
一部に生々しい血痕の跡があってもか?!」
「あ、あれは私の研究成果だ!血は…血は…、たまたま怪我をして、そうだ!私の血だ!」
「相変わらず、あほうだな。
私が持っている、親友の手紙の筆跡と比べれば、すぐに判明する。
血については、どういう状況で出血したのか?」
「そ、そんなの、ナイフで、自分の手をつい、切ってしまっただけだ!」
「だそうです。現場検証担当者殿?」
「そうですか。侍医殿。その時、ノートはどこにありましたか?手元ですか?」
「て、手元だったと思う」
「だったら違いますね。血痕の形でどういう状況か、ある程度は分かるんですよ。
我々は殺人事件のプロです。舐めてもらっては困る」
マックス先生ことクレーオス先生と、現場検証担当者に論理的にやり込められ、オレトスの顔色は青くなる一方だ。
「…………」
「また黙秘か。南部の紛争へ従軍に行ったと聞いて、少しはマシになったと思ったが、相変わらずお前は栄達に取り憑かれているな。
戦場で何人殺した?!」
様子を見ていた先生は侮蔑の目を向け、口調も厳しく最後は驚くべき発言をした。
オレトスは明らかに動揺する。
「い、いったい、何を証拠に言いがかりを!」
「『他人を不幸にする不治の病なら、本人が望んでいるんだ。楽にしてやった方がいい』などと、あの兄妹に暴言を吐いたヤツが、医薬の足りない戦場で何もしなかったはずがない!
実際、お前の筆跡の研究ノートは、毒薬や神経毒ばかりではないか!」
クレーオス先生の怒りの一喝が室内に響き渡る。
「う、……う……。あ、あれは、私が悪いんじゃない。命じられて、やらされてたんだ」
「どこの誰に!」
「もういない!自分だけ、さっさと死んだ!名誉に包まれて!
国民からも弔われ、同情されて!
あんな恐ろしい……子供の時から…、あんな…、化け物に…、逆らえる者は…、誰もい」
オレトスは興奮して怒鳴ってから、一転、小声でブツブツ呟き始める。
その様子を見守っていたルイスが、侍医の口をその手でいきなり塞いだ。
現場検証担当者が驚き尋ねる。
「ルイス参謀!何をされるのですか?!」
「第一級秘匿条項に関わるんだ。大至急、ウォルフを呼んできてくれ」
「は、はい!了解ですッ!」
呼ばれてきた騎士団長が聴取に立ち会い、なぜか私は筆記官のままだった。
取調べ役をルイスと交代したクレーオス先生もそのままに、この侍医と先生の言葉を書き綴った。
ご清覧、ありがとうございました。
エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。
誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。
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