表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/207

104.悪役令嬢の授業

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—



※ルイス視点です。



エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。

ルイスとの新生活としては、これで42歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。


【ルイス視点】


 エリーの推測を元に、捜査が再開されたが、容疑者を二人とも確保するためには、困難を極めた。

 何しろ捜索場所が天井と床だ。


 すぐにウォルフの指示で、捜索場所を床に絞る。

 天井側と異なり、容疑者がひょいと出てきて、『あら、こんにちは』の鉢合わせの可能性が低いためだ。

 

 張り込み兼、床の“仕掛け”捜査は慎重、かつ地道に続けられた。


 一人の確保なら、“上の旧道”に張り込みをかければいいだけだ。

 それに比べ、はるかに神経を使い、本当に難しかった。

 

 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜



 あの日、エリーは帝立図書館から借りられて、遅れて持ってきた、帝都内部の等高線の地図の情報を加えて計算し直した。


 これにより、“新道”は、二本の“旧道”に空間的に挟まれた位置を通っている可能性が高まった、と俺とウォルフは説明を受けた。


 さらにウォルフからこの部屋に入れるメンバーに、再度の説明を依頼される。

 エリーは俺に相談の上、快諾した。

 帝都邸(タウンハウス)に安全に住むためには、ここを放置する訳にはいかない。



 招集をかけられたメンバーは皆、披露宴や他の機会でエリーと面識はある。

 それでも“エリオット”を一目見て、エリーと見抜けた者はほとんどいなかった。

 ウォルフが説明すると、大なり小なり驚きの表情を浮かべる。


 エヴルー“両公爵”であり、女性であるエリザベスが捜査に協力し、容疑者に疑われないためとはいえ、エリオットという騎士に変装している。

 そこまでして帝国騎士団本部を訪問した事実に、感銘を覚えているメンバーも多いようだ。


 再度の説明にメンバー達は驚きつつも納得し、捜査方針と手法に討議の目的は移行した。


 何しろ“新道”と二本の“旧道”との位置関係が、横方向ではなく、縦方向の可能性が高いとのエリーの推測だったためだ。



「これはあくまでも私見ですが、皇弟殿下が“形だけ”を追求したなら、“一方通行”の仕掛けが考えられます」


「エリー閣下。“一方通行”とはどういう意味でしょうか?」


 参謀部の先輩が質問する。


「二本の“旧道”は“新道”を挟み、多少幅のある上と下の空間にあると仮定します。

つまり、“上の旧道”、“中の新道”、“下の旧道”です。

“一方通行”とは、この“上”から“下”への移動です。


皇弟殿下の構築申請時、今まで繋がっていなかった、この“上の旧道”から、“下の旧道”が、一応つながりますよ、という利点は、長所として売り込めただろう、ということです」


 エリーが黒板にわかりやすい立体的な図を描いて、指し示しながら説明する。

 まるで帝立学園の授業だ。


 それこそ“形式上”、帝立学園に短期留学し、最短記録で卒業した淑女科で、『ぜひ、講師を』と要望されたのがわかる雰囲気だった。


「たとえ実態が“形式上”の“通り抜け”であっても、皇弟殿下は申請時には悟らせないようにした、と思われます。


また、“一方通行”は“中の新道”の滞在時間をより短くする仕掛けとも言えます。

皇弟殿下が使用していた当時は、“中の新道”を“通過ポイント”にしてしまっていたんです。


“旧道”の地図に掲載されていなかった理由も、これで説明がつきます。

検分した結果、女性などが利用できず、実際の避難路としては使えない、と判断された可能性が高く、地図には載せなかったと推察されます」


 ここで、「おお〜」「なるほど」といった声が起こる。

 夫としては誇らしくもあるが、この明晰な頭脳が利用されないかと心配にもなってくる。


「つまり、現在ここを利用している容疑者は、上方向から現れて、“中の新道”にある“隠し部屋”を使用し、下方向へ逃げている可能性が高いかと推察します。


“形式上”申請を通せばよかった皇弟殿下は、より複雑で、“通過”が増える“下から上”への仕掛けは、作ってはいないでしょう。

私からの説明は以上です。

ご清聴、ありがとうございました」


 エリーが心臓に右手を当て騎士礼を取ると、自然発生的に拍手が起こる。

 少しでも光明が見えた、という皆の喜びの表現だった。


〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜



「ルイス閣下。自分も馬でよかったと思います。

その方が騎士らしいです」



 馬車に乗り騎士団本部を出発してすぐに、エリーがやや不満気に(つぶや)く。


「エリー。二人っきりの時は、エリーとして話してほしい。

まだしばらく一緒の時間は少ないままだろう。

ダメか?」


 俺の正直な気持ちだった。



 先ほどの“授業”を受けた、参謀部を中心とした騎士団員は、エリオットことエリーの分析を聞いた後、しばらく興奮していた。


 エリーがエリオットに変装していたこともあり、騎士団員同士でよくやる、『お前、すごいぞ』という、称賛(しょうさん)抱擁(ほうよう)をしかねない勢いだった。


「いや、素晴らしい推測だ!」

「よくぞ、思いつかれた!」


 とっさにエリーを囲い込んで守った俺は、口々に()められながら、背中や肩をエリーの代わりにバシバシ叩かれていた。

 皆、捜査の見通しが立った喜びに興奮しており、エリーがやられたらアザができたこと間違いなしだ。


 いくら男装しているとはいえ、誰が愛妻を他の男に触れられたいと思うか、という心境で、すぐにウォルフが割って入ってくれて本当に助かった。

 そしてそのまま、エヴルー帝都邸(タウンハウス)へ送るように言ってくれたのだ。



 「二人っきりの時は」という俺の言葉に、エリーはうっすら首筋を染め、小さく(うなず)く。

 たとえ騎士姿だろうと可憐で可愛い。

 ずっと抱きしめていたいくらいだ。


「はい、ルー様。ごめんなさい。

私も2週間も離れてて、とっても寂しかったわ。

ウチの皆の安全はもちろんだけど、ルー様を守りたくて頑張ったの。

だってルー様の執務室に通じるところに、あんなものがあるなんて絶対に嫌だったの」


 俺はその健気な、俺への想いが詰まった言葉を聞いた途端、エリーを抱き上げ膝の上に乗せ抱きしめていた。


「ルー様?!」


「このままもう少し。屋敷に着くまで。このままで。

エリー、お願いだ」


 少し抵抗していたエリーも、俺の切ない切れ切れの嘆願を聞いて力を緩める。

 それどころか両手を回し、背中を優しく撫でてくれる。


「ルー様。本部に泊まり込みする時は教えてね。

着替えと差し入れを持っていくわ」


「わかった。エリーも明日、“予定通りのエリー”が帰邸したら、タンド公爵家へ行くんだよ」


 万一の時のために、と俺はエリーに避難しておくように説得していた。


「はい、『皇妃陛下にお渡しするお日にちが迫ってる、マルガレーテ皇女殿下の木工細工の打ち合わせとか色々あって』って理由にするわ。

マーサにもついて来てもらうつもり。

今回、訓練速度の夜の騎行だったから、エヴルーに置いてきて、たぶん傷つけちゃったから……」


 エリーが悲しそうに少し(うつむ)く。

 きっと本意ではなかっただろうに、マーサを思いやるエリーの頭を優しく撫でる。


 だが、カツラ越しだと、いつもの感触と違う。

 あの、(つや)やかな、それこそマーサが丁寧(ていねい)に手入れしている、美しい金髪の手触りが懐かしかった。


「そうか……。エリーは優しいな。マーサは大丈夫だ。

きっと理解してくれている」


「ありがとう、ルー様。

捜査はエヴルー騎士団と帝国騎士団の合同集中訓練を名目にするんでしょ?」


「ああ。“新道”での捜査が中心になるからね」


「ルー様が帝都邸(タウンハウス)泊まりの時は帰っちゃダメ?」


帝都邸(タウンハウス)泊まりでも、たぶん騎士団棟だぞ」


「エリオットなら一緒にいられるでしょう?」


「………………」


 俺はにっこりご機嫌で見つめてくる残酷な天使の前に、屈服すべきか、抵抗すべきか、本気で悩む。


 今朝の仮眠時は疲れ果て、起床後にウォルフと約束もあるエリーに、絶対手出しはできなかった。


 俺もやっと会えた幸福感に包まれ、久しぶりにぐっすり眠った。

 しかし今夜以降は訳が違ってくる。

 主に俺の側の理由でだ。


 理性と煩悩がせめぎ合っている内に、帝都邸(タウンハウス)に到着し、この問題は無事に棚上げになったのだった。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜



 翌日から、帝都邸(タウンハウス)の俺の執務室は、指揮所、兼、更衣室、兼、休憩室と化していた。


 ここで騎士服から特製の黒い目出し帽、黒づくめの作業着に着替え、“新道”へ降りていく。

 この帽子と作業着は、我が家の侍女やメイド達の特製だ。

 メイドや侍女のお仕着せの黒い服を解いて、大至急で作ってくれたらしい。


 侍女長は、「黒い服、もしくは生地を大量購入すれば、どこから洩れるか分かりません、とのご指示です」と、にこやかに説明した。


 誰の心遣いか、すぐに分かる。

 客室を解放し、捜査員の食事・睡眠体制も万全だ。



 こんな苦労も実ってか、“新道”の床の探査を始めて3日目で、“仕掛け”を見つけた。


 エリーの予想通り、成人男性1人が通れる通路で、“下の旧道”につながっていた。

 ドレス姿の女性は、絶対に入れない空間で、途中、一般的な少年少女には厳しい角度に変化していた。


 通れなくもないが、安全ではない。

 子どもを連れた女性は、まず無理だろう。

 “緊急避難路”としての抜け道の地図には、これでは載せられないだろう。


 ここ以外に“仕掛け”はあるかと、念のために探索を続けたが見つからなかった。


 “仕掛け”には周囲に似せた色で塗った鉄板を、紐を引けば、塞ぐように設置しておく。

 こうすれば袋のネズミで、容疑者は逃げようが無い。


 さらに、騎士団本部の抜け道から、“下の旧道”に人員を配置しておく。

 万一、“新道”で取り逃しても、ここで確保できる。二重の網だ。


 あとは、容疑者が二人(そろ)って来るのを待つだけだ。



 それから4日後の深夜—


 待ちに待った機会が訪れた。


 気配を消して待っていた俺達の耳に、小さな音が響いた。

 闇に紛れた気配は、“隠し部屋”がある壁の向こうから聞こえる。


 隣りの先輩と(うなず)きあう。


 そこから、約1時間後、もう一つの気配が増え、“新道”の通路に、細い光の筋が差す。



—あと少しだ。今は我慢の時だ。


 俺達が“隠し部屋”をはさんで、左右に分かれ、待ち受けていると、“隠し部屋”から今までに無い大きな声が聞こえてきた。


 二人で言い争っているようだ。


 『さて、どうする?契機か?』と思っていると、“隠し部屋”のある壁が大きく開く。

 光が灯ったまま開けるとは、今まで無かった動きだ。



「お返しください!それ以上は決してなりません!」


「うるさい!黙れ!命令するな!放っておいてくれ!」


「殿下!御命に関わりま」


 激しい言い争いの中、俺は聞いてはいけない言葉を聞いたと思った瞬間、掛け声を上げる。



「今だ!確保せよッ!」



 強者(つわもの)の騎士達が二人に飛び掛かる。

 一人はすぐに制圧できたが、二人目は抵抗が中々激しい。


 俺は二人目の腹部に思いっきり蹴りを入れ、うめいたところで、(あご)を強打する。

 コイツはなるべく早く、仕留める必要があったためだ。


 昏倒しかけたところに、すかさず後ろ手に縛り上げる。

 猿ぐつわをかませ、強制的に黙らせ、自分がかぶっていた目出し帽を(かぶ)せ、目隠しをする。

 もう一人も同様に捕縛し、目と口を(ふさ)ぎ顔を隠す。


「どこから連行する?」


「屋敷からだろう。滑車で吊るすぞ」


「こっちは太めだな。ギリギリか」


 連行する手段を検討していると、不意に“隠し部屋”からの明かりが消え、声が上がる。



「おい!見てみろよ!」

「なんだ?あれは?!」



 開かれたままの“隠し部屋”には、闇の中で、妖しく幻想的な光を(まと)う大小のキノコが、ガラスの水槽に入れられ、ずらりと並んでいた。



ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。


誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

★、ブックマーク、いいね、感想など励みになります。

よかったらお願いします(*´人`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★ 書籍、電子書籍と共に12月7日発売★書籍版公式HPはこちらです★

悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
[良い点]  いつもご更新&ご返信下さり誠にありがとうございますです♢ [気になる点]  はえっ?!  もしかして、○ジッ○マ○シ○○ームのようなものの、自家栽培? とか? ひ〜!  次回ご更新にドキ…
[一言] >「殿下!御命に関わりま」 殿下って……さっそく王族(皇族?)の名を騙る不届き者が現れましたね。 これは、4/3殺しにしなければ(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ