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102.悪役令嬢の解読

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—


※※※※※※※※※※お知らせ※※※※※※※※※※※※


※7月27日から、100回記念SSのキャラの募集をしています。

詳細を『活動報告』の『100回記念SSのキャラ募集について』でご確認の上、コメントにてご応募ください。

 期限は、本日7月31日23:59までです。

 ご応募、お待ちしています。

 これからもよろしくお願いいたします。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。

ルイスとの新生活としては、これで40歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。



『最愛のエリーへ


 帝都に戻ってこないでほしい。

 できれば、エヴルー騎士団の拠点にいてほしい。

 理由は今は話せない。


  我が最愛を()い慕うルイスより』




 私は執務室で、ルイスからのこの三通目の手紙に目を通すやいなや、今回のエヴルー滞在中の残務を補佐官達に割り振り、処理を命じる。

 量はさほどでもなく、私の決裁を必要とするものもない。

 前倒しでやっててよかった、と思いつつ、アーサーの元へ向かった。


 全幅の信頼を置いているアーサーは、予定になかった訪問でも、いつもと変わらぬ微笑みで迎えてくれる。

 補佐官達を人払いをした上で、三通目の手紙を手渡す。

 一通目も二通目もアーサーには見せていた。



「なるほど。さらに“段階”が変わった、ということですね」


「そのようね」



 私とルイスの手紙のやり取りには、非常時に備えてルールを決めている。

 ルイスは一通目から警戒状態である旨を伝えてきており、今回は全5段階中の第3段階の文言が含まれていた。

 

 しかも『来ること』を希望されている。

 ルイスの意志だけではない。

 恐らくは騎士団の職務絡みだ。

 エヴルー公爵領騎士団と連携関係にある、騎士団の依頼を断れるはずもない。



「エリー様はどうなさるおつもりですか」


 私はにこやかに微笑み答える。


「帝都に戻るわ。

“段階が変わった”今、エヴルー公爵家に下手な注目を集めたくないの。

私が戻らないと、すぐに噂が立ってしまうでしょう。

皇妃陛下とお約束している出仕があるの。

エヴルーに帰ったまま、皇妃陛下の元に出仕しない理由はそれほどないでしょう?

病気もいつまで使えるか。

不治の病人か、妊婦か、謀反人(むほんにん)にされてしまうわ」


「その三択は中々ですな」


「でしょう?消して回るのが大変なのばかり。

アーサー、安心して。

帝都邸(タウンハウス)が、指定された騎士団棟でも危険なら、タンド公爵邸に避難するわ」


 抜け道の件を大まかに説明したアーサーは、微笑んで応える。


「かしこまりました。では予定通りに?」


「いえ、私は変装して馬で先行するわ。

“今は話せない理由”を、“予定”の前に、しっかり把握しておきたいの。

エヴルー騎士団は訓練で、帝都まで行き来してるでしょう。

それに紛れて、今夜の夜行組と一緒に発つわ。

目立たないカツラと騎士団の制服の用意をお願い。

早馬の返し文は今書くわ」


 私は便箋に素早く(つづ)る。

 願い通り、駆けつけると想いを込めて。



『最愛のルイスへ


 了解。

 くれぐれも気をつけて。


  我が最愛を恋慕うエリーより』



 封筒に入れ封をすると、アーサーに渡す。



「お願いね。口頭で伝えてくれたら、先触れにもなってちょうどいいわ」


「かしこまりました。

“予定通りに帝都へ向かわれる”エリー様もご用意いたします。マーサはそちらで?」


「マーサには訓練速度の馬は無理だわ。

“予定のエリー”に疑いを持たれないためにも、マーサは付いててもらわないと」


「クレーオス先生は?」


「先生も予定通り」


 コンコココン!


 アーサーの執務室のドアにノック音が響き、話題にしていたクレーオス先生がちょこんと顔を覗かせる。


「すまんのお。アーサー殿。ちょっとだけいいかの?

姫君を探しておって。お、いらしたわ」


 ひょいひょいとした動きで入室してくると、無邪気に笑いかけてくる。


「クレーオスせん」


「姫君。(わし)は一緒に行けるぞよ。エヴルーに来てから毎日乗っとった。

おかげで全盛期を取り戻せたわい」


 先生の読みと申し出は驚くべきものだった。


「どうして、それを?」


「姫君の執務室に行ったら、補佐官殿が教えてくれたんじゃ。

ルイス様からの手紙を受け取ってすぐに、残った仕事の割り振りをされて、アーサー殿の元へ向かったとな。

何のためか?普通に帰るなら、こんなことはせんじゃろ?」


「“緊急道路”を訓練速度で参ります。

万一、落馬なさってはお生命の危険があります」


「今夜の星月夜なら、大丈夫かと思うがな。

そうじゃ。副団長殿に聞いていただこう。

ご指導願ったので、よくご存知のはずじゃ」


 エヴルー騎士団には、副団長が二人いる。

 領 地 邸(カントリーハウス)帝都邸(タウンハウス)に一人ずつ配置していた。


 クレーオス先生が仰るのは、ここ領 地 邸(カントリーハウス)の副団長のことだ。

 侍従にすぐに呼びにやるが、その間も先生は楽しそうに、『変装したい』とアーサー相手に語る。


「アーサー殿。後で髭剃(ひげそ)りを貸してくだされ。

これはさすがに邪魔になるでの」


 白く長いお(ひげ)を楽しそうに触れる。

 幼いころ、リボンを結んであげたいと言ったこともある思い出のお(ひげ)だ。


「先生。整えるのではなく、全て()られるなら、腕の良い執事がおります」


「ふぉっふぉっふぉっ……。それはありがたい。

取っといてもらって、(ひげ)有り変装も楽しめるわい。

髪もカツラか染めるかせねばな」


「カツラがよろしいかと。ご用意いたします。

お色と長さは?」


「少し長めの黒で頼む。今は真っ白じゃが、昔は黒々として、ルイス様のようじゃったんじゃ。

姫君、()れてはなりませぬぞ」


「先生。お医者様の腕前と人格には()れておりますが、夫としてはルイスが一番です」


 アーサーは、先生の乗馬の件を耳に入れてたのだろうか。

 この領 地 邸(カントリーハウス)で知らないことがなさそうな風格だ。

 さっさと用意の話を進めていく。

 本気で付いてこようとし、かつ、いつもの調子の先生に、内心少し戸惑っていると、副団長が来てくれた。

 (いた)わった上での私の確認には即答だった。


「エリザベス顧問閣下。クレーオス先生なら、ご心配はないと存じます。ただし馬は選びます」


 私はエヴルー騎士団の顧問に遇されている。

 暫定的だが、戦闘時以外の平常時の命令系統では、騎士団長と副団長の間だった。


「そうそう。クィントゥスなら大丈夫じゃよ。

副団長殿。あの仔なら帝都までは行けるじゃろ?」


「はい、軽々と」


「という訳じゃ。姫君。準備をしましょうぞ。

あ、その前にマーサ殿を説得せねばならぬのう」


 アーサーが副団長に、冷静に警戒状態の変化と指示を伝える傍で、私は一番の難敵を思い出していた。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜



 予定を変更し、今日の真夜中に変装して、領 地 邸(カントリーハウス)を馬で立つので、支度をお願い、とマーサに頼むと、予測通りの答えがピシッと返ってきた。



「私も参ります」


 私もここは妥協できない。マーサの乗馬技術では無理なためだ。


「今回、マーサは連れて行けません。夜の訓練速度の騎行なの。無理です。

大切なマーサに怪我はさせられないわ」


「そうまでして行かれる理由は、ご説明いただけませんか?」


「私もわからないの。ルイスも今は理由は言えないって。それを確かめるためにも行くの」


「では、帝都は危ないということではないのですか?

そんな状況で、ルイス様がエリー様を呼ばれるとは思えないのですが」


「そこは互いの状況判断の違いね。

私は行かなければならないと判断し、アーサーも同意したわ。

心配かけてごめんなさいね、マーサ。

でもいつもやってる夜間訓練に混ざるから、危険性は低いの。

エヴルー騎士団の騎士達もいるから、大丈夫よ」


 アーサーが同意したと聞き表情を変えたマーサは、しばし考えた後、お辞儀(カーテシー)をして受け入れてくれる。


「………………かしこまりました」


「マーサは予定通りの馬車で帰ってきて。

“予定通りのエリー”と一緒にね。アーサーが手配してくれるわ。よろしくね」


「……承知いたしました」


 私は()えて明るくいつも通りに振る舞う。


「支度をお願い。カツラをかぶらなきゃいけないから、この髪をまとめるの、マーサじゃないと無理なのよ」


 マーサもここでやっといつもの表情に戻ってくれる。


「では、明後日まで持たせるようにいたします。

入浴をお先になさいましょう」


「ありがとう、マーサ」


 しっかり洗いあげてくれ、ケアした髪を綺麗にまとめ、カツラに見えないようにセットしてくれる。


 姿見の中には、よくいる薄茶色の巻き毛がかった短髪に緑の瞳の、少し小柄なエヴルー騎士団の騎士が立っていた。


「うん、男役は久しぶりだわ。どう、マーサ?」


「若き騎士にきちんと見えます。ご令嬢方を惑わしませんように」


「それはないわ。背が低めだもの。

そういえば、クレーオス先生は、騎士服、着られたかしら?」


「姫君〜。(わし)の騎士姿はどんなもんじゃい?」


 ノック音と共に現れた、黒長髪にお(ひげ)のないクレーオス先生は、思わず二度見するほど若返り、壮年の騎士に見えた。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 夕食をしっかり食べ馬の準備をすると、出発の時間だ。

 1年で最も寒さが厳しい季節だ。

 寒さ対策を徹底していく。

 薄手の直方体が配布される。中に発熱体が入っており、触れると手袋越しでも温かい。

 防寒帽も深目に被り、耳を隠す。マフラーも厚手だ。


 人も馬も息が白い。

 私の牝馬は今までにも度々乗っており、(たてがみ)を優しく撫でる。

 今はエヴルー騎士団の騎士、男として振る舞う。


「今夜はよろしく。自分を乗せて、無事に連れて行って欲しい。

待ってる人がいるんだ」


 今日の夜間訓練は6名だ。

 同行する班長、副班長、他騎士2名を紹介される。

 私はエリオットという偽名、クレーオス先生はお名前のマクシミリアンの愛称、マックスと呼ばれる。


 月が中空に昇るころ、私とクレーオス先生を前後2名ずつで守り、領 地 邸(カントリーハウス)を出発した。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 “緊急道路”は快適だった。

 クレーオス先生が仰った通り、星月夜に照らされた道が、小麦畑の中をまっすぐに続く。


 先生の後ろに着いたが、副団長の言う通り、乗馬の腕は確かだった。

 お若い時の帝国との行き来も、乗り合い馬車ではなく、馬だったのか、とも思う。


 いけない、集中だ、集中。

 行軍中は気を抜くと事故になりかねない。

 距離を取っているとはいえ、この速度での回避はどうしても畑に踏み入れる。

 用地を買収した上に、迷惑をかけたくなかった。


 視界の隅に確認できる家々は、すでにほとんどが眠りについている。

 月の光に照らされた、麦畑の中の集落はこじんまりと身を寄せ合っており、童話の挿絵(さしえ)に出てくる風景にも見えた。


 街道との合流地点付近の広く取った付属の敷地に、一頭ずつ入っていき、馬体の確認を命じられる。


「エリオット殿。異常はないか」

「はっ、ありません」

「マックス殿、異常はないか」

「はっ、ございません」


 私が敬礼して答える一方、クレーオス先生は心臓に右手を当てる騎士礼で答える。


 先生はいつもとは全く違う、声と口調で、こんな声も出せるのか、と改めて思う。

 人は見かけによらぬもの、と言うが、見かけからして違うのだ。

 いつもの白い短髪に白いお(ひげ)から、(ひげ)無しと黒長髪にしただけで、こうも別人になるものかと思う。

 男気というか、凛々しさと渋さを感じる風貌だ。

 『でも惚れませんよ』と内心突っ込んでおく。


 ここまで来ると、帝都方面の空はうっすら明るく見える。

 花街を中心とした“不夜城”のためだろう。

 ルイスは少しでも眠ってくれてるといいな、と願う。

 

 街道に入る前に注意喚起される。


「街道には夜間通行している一般人だけではない者もいる。

事故防止、任務完遂のためにも充分注意するように。

速度を緩めるが長距離だ。集中を持続させろ。

では、出発!」


『はっ!』


班長の言葉に応える敬礼で気合いを入れ直し、私は馬にまたがった。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 帝都の壁門の一つに辿り着いたのは、ちょうど開門時刻、少し後だった。


 待ち時間もさほどなく、さすが無駄のない行軍だ。

 ただし騎馬にとっては、帝都に入ってからの方が気が抜けない。

 すでに朝の早い職種の活動が始まっているためだ。

 壁門通過の際、街灯に照らされた、市場に向かう荷台に積まれた朝採れ冬野菜が美味しそう、と一瞬逸れた注意を引き締め、帝都邸(タウンハウス)を目指す。


 馬上から改めて見ると、皇城を背景にした、エヴルー騎士団の拠点の火の見(やぐら)は一際目を引く。

 エヴルー公爵家の白地の紋章旗も、(あかつき)の空にはためいていた。


 正門から入り騎士団棟の前で下馬すると、待ちかまえていた騎士達が駆けつける。



「エリー閣下は?エリー閣下は、どちらですか?

ルイス閣下が先ほどからお待ちです」


「はいっ!ここです。しばらくは騎士のエリオットでお願いします!」


 私が挙手すると、同行者5名以外は『えッ?』という顔をする。


 『そうだよねぇ』と思っていると、その人垣をかき分けてきた、黒短髪の懐かしい人の青い眼差しに捉えられた瞬間、いきなり抱きしめられた。


 ルイスの香りに包まれる。

 久しぶりのルイスだ。会いたかった。



「エリー!おかえり!無事でよかった!」


「ただいま、ルー様。っと、いけない。

ルイス閣下、エリオット団員、エヴルーより、ただいま帰着しました!

敬礼したいから、離してー!」



 夜明け前の空に響く私の嘆願に、周囲はどっと笑いに包まれた。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。


誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

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悪役令嬢エリザベスの幸せ
― 新着の感想 ―
[良い点] マーサのエリザベス第一主義が良いですね。 本気の騎馬を訓練しそう。 ダミーのエリザベスがマーサと到着するまではエリオットな訳ですね。 敬礼したいエリザベスは可愛いですね。
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