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98.悪役令嬢の秘密 1

テンプレな“真実の愛”のイジメ疑惑追求から始まった、エリザベスと周囲のお話—



※※※※ 『100回記念SS』についてのお知らせ※※※※


ご覧いただいてる皆さまへ


 ご愛読いただき、誠にありがとうございます。


 皆さまのおかげで、100回まで連載を続けることができました。


 遅ればせながらですが、100回記念SSのキャラのご希望があれば、募集したいと思います。


 キャラだけでも結構ですし、『このキャラのいつのころ、この場面』なども受付ます。

 例:皇妃陛下の帝立学園時代、エリザベスの幼少期(お母さまが生きていたころ)など。

 

 ※ご注意※

 内容については、作者にお任せとなります。

 ご希望に沿わなかった場合はご容赦ください。


 応募方法は、『活動報告』の『100回記念SSのキャラ募集について』のコメントに投稿ください。

 期限は、7月31日23:59までです。

 ご応募、お待ちしています。


 これからも、どうかよろしくお願いします。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



エリザベスの幸せと、その周囲を描きたいと思い書いている連載版です。

ルイスとの新生活としては、これで36歩目。

引き続き、ゆるふわ設定。R15は保険です。矛盾はお見逃しください。



「エリーに話しておきたいことがあるんだ」



 ルイスの執務室で、人払いの上、切り出された。

 いつも以上に真剣な眼差しに、重要性を悟る。

 ソファーで相対していた私は、丹田に力を込め、静かに深呼吸する。



「心の準備はできたわ。どうぞ」


 ルイスの方が数瞬、迷う。珍しい。


 頭を軽く振った後、切り出した内容は、確かに重要かつ、意外性もあり、ただこの邸宅の由来を考えれば、充分あり得ることだった。


「改修工事中にわかったの?」


「ああ、最初は煉瓦の壁に問題があったウィスキー貯蔵庫だった。

捜索の結果、見つかったのは庭園の記念碑だ。

あとは……」



 ソファーから立ち上がったルイスが、壁に埋め込み式のレール棚を何回かすべらせる。

 そして現れた壁面の複雑な寄木細工をいくつかずらすと、レバーが出てきた。


 それを引くと、ギギギッという音と共に、ぽっかりとした空間が現れる。



そう、隠された抜け道だった。



 この邸宅は数代前の皇弟殿下が持ち主だった。

亡くなった後、継承する者もなく、帝室管理の名の下にかなり荒れていた。

 それをルイスが私と婚姻し臣籍降下する際、帝都邸(タウンハウス)とするため、皇帝陛下より貰い受けたのだ。


「陛下から何か聞いてたの?」


「いや、何も。たぶん陛下も知らないだろう。

知ってたら伝えるか、たぶん下賜(かし)されなかっただろう」


 皇帝陛下の性格ならそうだろう。

 この抜け道が、皇城、もしくは安全地帯と思われる場所へ通じている可能性が高いと、簡単に予測できる。


「実際、入ってみたの?」


「途中までね。縦梯子(たてはしご)が腐食してる部分があって、縄梯子で降りた。通路はあったが、その先は確認していない。

ウォルフと検討中だ」


「ウォルフ騎士団長はご存じだったの?」



 抜け道は皇城が落城まで追い詰められた時、最後の最後に使われる、命綱のような存在だ。

 帝室を守護する騎士団長が、極秘とすべき代々の申し送り事項になっていても不思議ではない。


 それに、この邸宅の改修工事は、ウォルフ騎士団長から帝室御用達の建築業者を強く勧められ、というか命じられた。

 少しお高かったが、この邸宅は元々その建築業者が建てており、図面も残っていたので、そのまま受け入れた経緯があった。



「いや、知らなかった。可能性があるとは思ってはいたが、その代は国内外の政情も安定していたから、2割に満たないだろうと思ってたって言ってたよ」


 そう説明したルイスは、レバーを元に戻すと、棚の奥に封印した。

 まるで白昼夢を見ているようだ、と思った時、何かが(ひらめ)いた。


 あの寄木細工は、伯父様・タンド公爵の執務室にもあった。秘密の金庫となっていたが、それだけではない可能性もあるだろう。

 タンド公爵家は帝国建国時からの名家であり、下賜(かし)された邸宅も改修工事は重ねたが、基本は当時のままだと伯母様から聞かされた記憶があった。


 だが、ルイスには言わない。

 タンド公爵家当主の極秘事項なら、伯父様は絶対に洩らさない。ならば言っても意味をなさない。



「だからあの建築業者だったわけね?」


「ああ、途中から急がせたのもこれが理由だ。

色々言われたり思われたけど、ちょうどいいから、そのままにしといたんだ」


 ん?ちょうどいいって、どちらだろう?

 どちらかだけだと、どちらでも問題がありそうなので、棚上げしておこう。


「そんな理由があったのね。

ルー様、私に話してよかったの?

形ばかりとはいえ、王国の第一王女よ?」


「エリーに話す許可は、ウォルフにも取った。

エリーはエヴルー“両公爵”で、この邸宅の共同権利者だ。知る権利も義務もある」


「では安全性の確認が取れたら、私も一度は検分できるの?」



 心中湧き起こった興味は、心底に強く押さえ込む。人並みの冒険心はくすぐられるが、今はふさわしくない。

 真面目な話、どこに通じているかだけ知っていても、避難通路がどういう状態か知らなければ、無事に辿り着けない可能性もあるためだ。



 ルイスは思いっきり渋い顔をした。

 私を危険な目に合わせたくない気持ちが、ルイスは非常に強い。

 毒殺未遂とかもろもろのせいだ。


 でも、こればかりは譲れない。

 知らないことで、万一の時の危険性は高まる。

 ルイスが共に行動できない可能性も当然ある。

 女子どもと一緒かもしれない。

 いくら記憶力の良い私でも、図面を見せられ、『これを元に実際に行け』と言われても、無理難題に近かった。

 長い沈黙の後、ため息を吐き答える。



「…………ふう。エリーならそう言うと覚悟はしていた。

この抜け道を使うかは、調査結果次第だ。

落盤していて、使い物にならない可能性もある。

立梯子(たてばしご)が危険になっていたようにね」


「三箇所以外、出入り口は見つかっていないの?」


「今のところは。可能な調査はした。

全て把握してるのは帝室だ。

これを機に、整備するか潰すか放置するか、決めるだろう」


「現在の状況は把握できたわ。ありがとう、ルー様」


 ルイスが『あれ?』という顔をする。

 少し子どもっぽくて可愛い。

 そういうの、私やウォルフ騎士団長の前だけで、お得感がいっぱいだ。

 普段のきりっとしてる時の差で、きゅんきゅんしちゃうんですけど。


 おそらく好奇心旺盛な私が、あっさりと引き下がったためだろう。

 私にも自制心というものはあるのです。



「意外?」


「ああ。いや、さすが公爵閣下だと思っただけだ」


「私よりもここをほいほい下賜(かし)しちゃった皇帝陛下の方が問題よ。

全てをきちんと把握してらっしゃらない可能性が高いわ」


「たぶんな。報告しても『気付くか試したんだ』とか言いそうだけどね」


「まあ、実際の管理は騎士団長でしょうね。

ウォルフ騎士団長も知らなかったとすると、別の目的もあり得るわ。

でもここでこれ以上、討議しても類推以上のものは出てこないでしょう。

上の判断にお任せします。それしかできないもの。

誓紙は必要?」


 この帝国と帝室の安全管理に関わる極秘事項を、決して口にしない誓いを形にするか、念のため確認する。


「不要だ」


 即答だ。この信頼が嬉しい。


「了解」


 私はルイスがよく使う騎士団風の答えを返す。

 それを聞いたルイスは『まいったなあ』という風な笑顔を向けてくれた。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜



「ルイスはああは言ったけど、ウォルフ騎士団長には伝えておいて正解よね」



 私は自分の執務室で、書類を確認しつつ、同時進行で考えていた。


 出勤するルイスを笑顔で送り出す際、「こっちはルイス、こちらはウォルフ騎士団長宛てに」と渡した、午後の休憩用の差入れのバスケットに、手紙を入れておいた。

 差入れは初めてではなく何回もしているので、ルイスもいつも通り受け取ってくれた。


 封筒は二重にし各々封を固く閉じ、宛名をはっきり書いておけば、万一見つかってもルイスは絶対に開封しないまま、騎士団長に渡すだろう。

 そういう人なのだ。

 念のため保険もしておいたのでなおさらだろう。


 ウォルフ騎士団長は、ルイスと立場も違えば、私との関係性も違う。

 ルイスと団長の関係を万一でも損ねたくなかった。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 これに関してはひとまず置いておいて、問題は近々出仕する皇女母殿下についてだ。


 皇妃陛下を通して、皇女母殿下の主侍医に問い合わせたところ、診断書と皇妃陛下からのお手紙が返ってきた。



 まず診断書を読むと、やはり気鬱(きうつ)の傾向が非常に強かった、とある。

 主因は皇太子の死亡だが、他にも要因はあり、皇太子の葬儀の際、皇女母殿下を“殉死”させようと、襲ってきた幼馴染についてだった。

 襲撃の動機について、皇女母殿下には『悲しみが深すぎて、錯乱したようです』としか伝えていない。


 面会を希望していたにも関わらず、皇女母殿下自身の体調が、受け答えに耐えられると自信が持てる前に、『獄中で“病死”した』と知らされた。

 しかし信じられない気持ちが強い。


 帝室に嫁ぐ前の皇太子妃教育で、“そういったこと”についても学んではいた。

 また、夫の死と重なる、謎だらけの行動と、口封じにしか思えない“病死”に、皇城の、帝室の闇を感じる。

 さらにアルトゥール王子が私にやらかした件でも、騙されて巻き込まれ、信頼する侍女長も去った。

 カトリーヌ嫡孫皇女殿下がいなければ、帝室と離縁し、実家に帰っていただろう。


 カトリーヌ嫡孫皇女殿下の存在が、さまざまな意味で、皇女母殿下を持ち(こた)えさせていた。

 服用していたお薬も記載されている。

 内容と合致し、なるほど、と納得もする。


 であれば、喪明けの褒賞祝賀会やタンド侯爵家祝賀会での、あの復活ぶりも、皇城舞踏会や新年の儀で見せた時と同様、一時的なものなのか?

 そう思いつつ、皇妃陛下からのお手紙を読む。



 そこには、まずは『エヴルー“両公爵”を信用した上で伝える』と書いてあった。



 皇妃陛下は、喪明けの褒賞祝賀会前に、皇女母殿下と面会した、と書かれていた。

 そして、あの『変革』の発表と、第五皇子殿下が立太子することを知らせた。


 次々代の帝位についても、カトリーヌ嫡孫皇女殿下に約束されたものではなく、第五皇子殿下の子女達とカトリーヌ殿下の中から、優秀な資質のある者が選ばれるだろう、と説明したとある。


 最初はショックを受けていた皇女母殿下だったが、『皇妃教育に通じる皇太子妃教育を思い出してほしい』という言葉に、はっとした表情だったと記されていた。


 皇妃であれば、自分のお腹を痛めた子でなくとも、政治状況と資質があれば、別腹の子が立太子されることを受け入れなければならない。

 その子が帝位に就くことを、帝室のため、帝国のために喜び、継承者として育てなければならない、大きな義務があった。


 つまり、血筋に頼り何もせず、無意味に過ごしても、帝位に就けはしない。

 カトリーヌ嫡孫皇女殿下を帝位に就ける、もしくは、ふさわしい地位か結婚を手に入れるためには、今から動き出さなければ、と皇妃陛下は(さと)した。


 その上での、皇女母殿下、第五皇子、第四皇子の“人的三角形”だった訳だ。

 これも本人に種明かしはされていた。


 帝室内の序列は、立太子するまでは、皇女母殿下、第五皇子、第四皇子であり、

 立太子後は、皇太子となる第五皇子、皇女母殿下、第四皇子である。


 ただし、二人にとっては、皇女母殿下は義姉であり、カトリーヌ嫡孫皇女殿下は姪に当たる。

 今の良好な関係を保てれば、義姉として尊敬され、一定の発言権を獲得できるだろう。

 カトリーヌ殿下に対しても、よほどのことがない限り、初めての姪は可愛がる可能性は高い。

 実際、現在は可愛がっている。

 皇妃陛下も初孫のカトリーヌ嫡孫皇女殿下は、無条件で可愛い。


 第五皇子が帝位についた時、自分の子女と同等の愛情、もしくは好意を得ていれば、帝位争いでの問題は本人の資質と、政情を安定できる後ろ盾だ。


 本人の資質は、帝室が雇用する良質な教師の元、自分で努力するよう育てるしかない。


 後ろ盾については、皇女母殿下の兄の侯爵家は、この度の『変革』の序列変動で、侯爵家の中では序列第一位となった。


 あとは焦らず、少しずつ、確実に“味方”を増やしていくこと、勢力争いではなく、カトリーヌ嫡孫皇女殿下自身の“味方”という意味である。

 マルガレーテ皇女殿下に、中立七家の後ろ盾を得たように。


 今、後宮内で、


『マルガレーテ皇女殿下は、“陽の皇女”、

カトリーヌ嫡孫皇女殿下は、“影の皇女”だ。

紋章を見れば一目瞭然。

華やかな蘭に、(はかな)い鈴蘭だ』


などと言う、不埒者(ふらちもの)が出てきていると記されていた。


 確認次第、厳罰に処しているが、皇妃陛下は自分が後宮を治める間は、ルイスのような子どもを、もう二度と出したくない。

初孫をあんな目に合わせたくはない。

どうか、力を貸してほしい。


 そう話したところ、目に力が宿り、以前の皇太子妃殿下時代よりも、しっかりとした光が宿ったという。

 『もしよければ、“友人”として、これからも交流し、皇女母殿下を支えてあげてほしい』と、手紙では結ばれていた。



 なるほど。

 それで喪明けの褒賞祝賀会やタンド公爵家での、あの態度か、と納得した。


 無理もない。

 皇太子の死に同じように痛手を受け、出産を経た皇妃陛下から、非常に強く気合いを入れられ激励を受けたわけだ。


 それも、血肉を分け命懸けで産んだ子どものためだ。

 自分の子どもの未来がかかっているなら、普通の母親ならなんでもするだろう。


 ましてや、“陽の皇女”“影の皇女”と呼んでるなんて、本当にくだらなくて趣味が悪い。

 

 鈴蘭は可憐で愛らしいし、蘭は華やかで(あで)やかだ。

 どちらにも魅力はあるし、その美しさは比べられるものでもない。

 花言葉も、鈴蘭は『幸福』『再び幸せが訪れる』『純粋』、蘭の花言葉は、『優雅』『美しい淑女』で、どちらも素敵だ。


 それに鈴蘭は可愛く見えて、毒がある。

 こんなことを言って馬鹿にしてる人間は、洩れなく味わってみればいい、と思ったところで、『はた』と気づく。


 皇太子は、まさか、“コレ”が理由で、我が娘の紋章に選んでないよね。

 内心、冷や汗がたらたらだ。


 気持ちを切り替え本題に戻ろう。

 声に出して考えをまとめる。



「あの復活はこういう内幕だった訳ですか……。

エヴルー“両公爵”としては中立派だから、後ろ盾は難しいでしょう。

できるのは、ハーブ調合係兼友人として、良い関係を保つこと。

それでご満足いただけないなら、残念ながらハーブ調合係も辞退かな……」


 皇女母殿下が、皇妃陛下の『あとは焦らず、少しずつ、確実に“味方”を増やしていくこと』という言葉の意味を、正しく理解している事を祈る。

 とりあえず診断書とお手紙は金庫にしまう。


 そして、第五皇子と第四皇子から注文を受け、エヴルーに伝達してからの、早速の返信、『ぬいぐるみの見本作りのサンプルデザイン候補と企画案』に、わくわくしながら、目を通したのだった。


ご清覧、ありがとうございました。

エリザベスと周囲の今後を書き続けたい、と思った拙作です。


誤字報告、感謝です。参考にさせていただきます。

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悪役令嬢エリザベスの幸せ
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