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つまらない嘘

作者: 雉白書屋

 え、ちょっと、待って、なんですか。誰ですか。何のよ……ひと、人違いです。私、ちょっと急ぐんで。

 ……なんですか? しつこいです。え? 別にどこ行ったっていいじゃないですか……。友達のところに行くんですよ。ついてこないでください。人呼びますよ。え? ああ、はい、まあ。私ですけど、なんですか? え? 記者の方? でもなんで、ああ、あの件ですか、まあそれしかありませんよね。嫌なんですけど……ああ、はい。歩きながらでいいですか? はい。

 

 それで、私のことって知ってます? いや、あのエイプリルフールの件の前から。私のこと知ってました? 知りませんよね。まあね、ほとんど無名の声優ですからね。え? 声優ですよ……。まあ、あの件で有名にはなりましたけど、え? いや、別に嬉しそうにしてなんかないですよ。反省して……まあ、はい。いや、別に私のせいじゃありませんけど反省みたいなのはしてますよ。当然です。

 え、ああ、知ってたんですね。そう、調べたんですか。ええ、まあ、はい。母にね、そうアイドルになりなさいって、ええ。子供の頃に。それで一応芸能界にね。


 それでなんですか? 話? どうして嘘を吐いたか? そんなの別に不思議なことじゃないでしょ。ほら、芸能人がよく吐くじゃないですか。エイプリルフールに嘘を、しょーもないやつを。

『実はこの度、私、彼と結婚しましたぁ』や『実は隠し子がいました』ってSNSに犬と一緒にいる写真をあげたり『俳優を引退し、陶芸家になります!』だの『ダンスグループに加入します』だのファンが驚いたりショック受けちゃうんじゃないかなぁってあの自惚れが、え? いや、別に批判してるわけじゃないですよ嫌だなぁ。

 まあ、そういうわけで私もほら新人とはいえ、声優で芸能人ですから、吐いたわけです。先輩方を見習ってね。ファンサービスですよ。

 え、新人ですよ……ん、内容? 知ってるでしょ。ああ、それであってますよ。


【大地震! こわーい! みんなだいじょーびゅ?】


 びゅってははははっ、若いですね。まあ今も若いですけど。はい? ええ、批判ね。来ましたよたくさん。炎上ですよ炎上。不謹慎だって。自撮りと一緒にあげたのがマズかったみたいですね。

 で、これが何です? ん? それ、ああ、その次の年の。


【バス事故だって! ショック!】


 これも尋常じゃないくらい叩かれましたねぇ……。

 え? どうしてまた嘘をって? あはは、前に炎上した時、その、ちょっと気分良くなっちゃって。ほら、注目浴びるのって気持ちいいじゃないですか。

 まあでも、事務所に言われて一年間、大人しく活動していたわけですし、そろそろいいかなって。それにほら、またかよ! って具合に、みんなに面白がってもらえるかなって。

 ん? ああ、それは一昨年のですね。


【駐車場で火事! たいへーん!】


 はい、またも不謹慎ネタでした。で、ああ。それは去年のですね。


【ママン、死んじゃった……かなし】


 これはみんなから心配されましたねぇ。でもやっぱり不謹慎だって怒られもしました。

 でも身内ですよ? ええ、それでも怒る人いるんですねぇ。よその家庭の話だっていうのにね。

 ふぅー……あ、疲れません? 大丈夫ですか? もう帰ったら……え? どうしてやめないか? まあ、なんやかんや言って、みんな楽しみにしてると思うんですよね。記者さんもそうでしょう? 

 

 だって……ここまで全部実現してるんですもん。


 うふふ、すごいんですよ。ファンレターとかが。預言者だ! ってまあ記者の方なら知ってますよね。ネットで噂になってるの。

 それでそう、ああ今年の、と言うか今日のですよね。夜になってもまだ何も言ってないからそれをわざわざ聞きに来たんですよね? え? どうやったも何も偶然ですよ。私に予知能力とか、もちろん地震とか起こせるわけないじゃないですか。それにあのSNSは日付をいじるとかはできませんから捏造でもないですよ。

 だから……そう、やっぱり私に特別な力があったりして。なんて。でもそうですねぇ、今年は何にしましょうかねぇ、まだ何も……。

  

 ……え? 私が母を? なんでそんなことする必要があるんですか。注目を集めたいからってそんなことするはずが、ああ。そう、知ってたんですか。前の私のことを。でもああ、母が……そう、売り込みね。というか小金稼ぎね。あの人はほーっんと昔からそう。それで私のことを調べたんですね。

 で、母はなんて? 私の娘は預言者とでも? え? ああ、最初はそう。でもそうですか、ふふっ怯えていたんですか。あは、あははははははは! え? ああ、それはね……あれ? なんです、あれ……ほら、あそこ見て、そう…………ふぅ、あーあはは。はぁーあ……あ、まだ生きてるんですか。まあでも、まさに虫の息。臭そう。塞いであげますね。


 ほんと、人の家庭の事情も知らない癖に偉そうにずけずけとこの口は……。

 悪い母親もいるんですよ? アイドル……私をジュニアアイドルにして、おっさんに……ん? ああ、火事は偶然ですよ。勿論、その前の二つもね。でもほら、言うじゃないですか。偶然も三回? 続くとそれは必然とか運命とか、そう、運命だと思ったんです。これはメッセージだって。母を……ね。ん? ああ、今年のエイプリルフールは……。


 【大変! 記者さん、階段から落ちて死んじゃった!】


 なんてね、さすがに二度目は警察に疑われちゃいますもんね。

 ああここ、知らないビルですし、一緒に来たことは誰にも見られてないと思うので私とは無関係に死んでてください。……どうしようか悩んでいたけどSNSも芸能界もおしまい。すっぱり辞めます。

 ああ、これで私ももう大人に、つまらない嘘をつく大人になりますね……。

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