【コミカライズ】愚か者の婚約破棄
善良な話を書いていたら『膿』が溜まりました。
「僕は君と婚約破棄するよ、ルージェリッタ」
マキナス王太子殿下が黒髪を靡かせ、氷色の目を眇め、冷たい眼差しで私ーールージェリッタ・エルリアス公爵令嬢へと告げる。
学園の卒業パーティ、その開催の音頭となる始まりの言葉の前のことだった。
ーー呆れた。こんな愚か者だとは思いませんでしたわ、マキナス王太子殿下が。
私はマキナス殿下の隣に不安げな顔で立っている、桃色の髪の女子生徒を見やる。
ココ・フリーシアダース。令嬢ではない。ただのココーー平民だ。
平民の彼女がここに立っているのは、学園が五年前から平民の入学も許したから。
それからーーこの国の秩序は乱れていると言っても過言ではない。
だから私のような、古い秩序を叩き込んだ、公爵令嬢が王太子殿下と婚約することになっていたのに。
「お言葉ですが、殿下」
私は背筋を伸ばし、堂々と王太子に言い返す。
「その子に私は礼儀作法を教えて差し上げただけです」
「礼儀作法……か」
冷ややかな眼差しで王太子は見下す。
彼は愚かにも、私の言葉が何も刺さっていないらしい。
私は確かに、ココに対して厳しかったかもしれない。しかしそれは平民がこの学園に入るための禊のようなものだ。
貴族社会の秩序を乱さず、学園の秩序を乱さず、学業だけに専念して卒業していくのが平民のあるべき姿だ。
逸脱は、妃教育を受けてきた私には見逃せない。
ココは何かを思い出したのか、顔を青ざめさせ口元を覆う。王太子は彼女を気遣うように背に手を回す。
軟弱なーー彼女を蔑む私に向かい、王太子は私を睨んで言った。
「貴族だらけの学園で、堂々と大勢の目の前で、身分の低い平民の彼女に……王太子の婚約者である公爵令嬢の君が真正面から正論で斬ることは、君のいう礼儀作法違反ではないのか?」
「それは……」
わからない。王太子が言っている意味がわからない。
礼儀作法違反を、教えてやることは上の立場の人間としての優しさだ。
なのに、どうして。
ーーああ、愚か者だから。この王太子も、ココも。
「ルージェリッタ。君が人前でココ嬢に恥をかかせた結果、君の取り巻きの貴族令嬢たちも次々と彼女を嘲笑うようになった。全ての挙動に冷笑を浴びせられ、顔色を伺うようになった」
「……それは……」
「それが、君が妃教育を受け、公爵令嬢としての矜持を持って行うべきことなのかと聞いている」
「……」
私だって公爵令嬢として頑張ってきた。それなのに、甘えている平民が悪い。
だっていずれ、弁えずに痛い目に遭うのは彼女なのだから。
だが、私の言葉が愚かな王太子にとどくだろうか?
私は唇を噛み締め、次の言葉を探す。
王太子は目を眇めて、皮肉を浮かべて笑った。
「自分は王太子妃としてマナーを学び、努力をしてきたのにという顔をしているな」
「っ……!」
「……僕のことを、愚か者だと思っているのだろう?」
見透かされてひゅっと息を呑む。
王太子は淡々と、嫌味なほど落ち着いて話を続ける。
「君が努力をし、立派なものを得てきたのは認めよう。尊敬に値する。しかし、それだけだ。努力したからといって、実力があるからといって、自分より愚か者だと決めつけた人間を、人前でなじっていい理由にはならない。正論で相手の尊厳を踏み躙っていい理由にはならない」
「……殿下……」
平民女ははあはあと、わざとらしい苦しそうな声をあげて涙目になっている。
王太子がいたわるような目を向けて、侍女に何かを命じた。
彼女は袋を口にして、何かをしているようだ。呼吸だろうか?
みっともない。苦しくても、どんなに辛くても、表に出すのは恥なのに!!
王太子はまた、冷たい目で私を見据えた。
「……君に問う。妃として最も大切なものはなんだ」
「国王陛下のために尽くす、立派な妃であることです。子をなし、社交界を取りまとめ、外交をーー」
「残念だよ」
言葉を遮り、王太子は首を横に振った。
「え」
「王妃たるものーーいや、王族たるもの、最も尊重すべきは国民だ。国民を守るため、外交に励み、社交界の秩序を守り、子を儲けて王家を存続させる。それが王族の義務だ」
「あ……しかし……私は間違っておりません」
「仮に無学な民が、敬愛を込めてきみに汚れた手を差し出した時。君は膝を折り、スカートを汚し、その手を取れるか?」
私は一瞬、言葉に窮した。
王太子は目を眇めたーー失望するように。
「その顔が全ての証拠だ。……そもそも妃教育というのは最低限以上は必要はない」
「なっ……!?」
「政治家でもなければ国王でもない、学者でもない、妃は子供を産むのが仕事だ。家柄と健康な肉体さえあれば、妃としては合格点だ」
「あ……」
「妃教育以上に妃となる婦人に必要なのは……健康と、人の心を掴むことだよ」
唇を振るわせる私。
青ざめた平民女が、口元を袋で覆ったまま微笑んだような気がした。
この女は、調子が悪いふりをしているんだ。
気づいた私は、カッとなって叫んだ。
「かわいこぶっているだけです! そんな女、男に媚びることしか能はありません!」
「君に見えている世界では、そうなんだね」
「周りの女子学生みんなから嫌われています! その女は!」
「それは公爵令嬢の君が嫌っているからだろう? ……彼女が本当に、女子学生から嫌われているのなら……すでに学園にいないと思わないのかい?」
ハッとして周りを見回す。そっと目を逸らす女子学生たち。
その中で、一人が震えながら声を上げた。
「私は……毎日いじめられても、絶対登校をやめなかった彼女を尊敬してます!」
次々と声が上がっていく。
「力になってあげたくて……私たち、自宅に招いて定期的に勉強会をしていました」
「だって平民なんだから、貴族と同じ事をいきなりできるわけないんだもの。それを放っておいて笑うなんて……貴族がやるべきことではないと思ったのです」
「実は私も……」
「彼女、いじめていた私が謝った時、許してくれたんです。……でも、公爵令嬢の前でそんなことを言ったら……」
「私も……」
次々と上がる、彼女を擁護する声。自分を非難する声。
ざわざわとした有象無象の言葉に、追い詰められていく。
最初は控えめだった皆の言葉が、どんどん鋭く、厳しくなる。
「妃教育を受けているからって、少し厳しすぎます! 未来の妃なら絶対生徒会に入らないといけないって、他の女子学生を辞退させたり……」
「そ、それは……私が国のためを思って……!」
「国のため、王太子のためと言って、わがままを通すのはやめてください!」
「そうだ!」
「そうだ!」
「あ……」
王太子の絶対零度の眼差しが、私を貫いた。
「『男に媚びるしか能がない』……君の言葉が本当だとしても、誰の心も掴めない令嬢より、よほど有能だと思わないか」
返す言葉もない。
だって何を言ったとしても、この状況は、己で己の墓穴を掘るだけだ。
王太子は冷淡に宣言した。
「僕は君と婚約破棄する。解消にしないのは、君のこれまでの努力への礼儀だ。責は王家が引き受けようーー今までよくやってくれた。破棄だから後日、破棄費用を請求するようエルリアス公爵にも話は通している」
「全ては事後報告、ということなのですね……?」
「君はただの婚約者でしかない。官僚候補でも、優秀な学生でもないーーただの高慢な令嬢でしかないからな」
そして、と付け加え、王太子は平民に跪いた。
あろうことか。あの、平民女に。
「僕と結婚してください」
「な……!?」
熱の籠った、真剣なプロポーズ。
常軌を逸した王太子の行動に、私ははしたなくも叫んだ。
「じょ、冗談じゃないわ! なんで!? 王太子も言ったじゃない! 家柄が大事って!家柄なんて何もない、ただの田舎の農場育ちの女が、何で」
私の悲鳴じみた叫びはホール全体に響き渡る。
きんきんと反響して、私の心を深々と刺し貫いた。
場は静寂していたーー私以外は。
王太子が淡々と言う。
「王家には祖父の代より病気が引き継がれている。王宮に平民の血を混ぜることは、王家の存続のためにも必要なことだと決定した」
「な……な……」
「そもそもーー彼女は平民だが、北部大農園の娘だ。北部の裕福な人々の心を掴むには大事だ」
「な……で、でも政治の後ろ盾は!? 貴族議会は?!」
靴音が響く。
黒髪をなびかせ、王太子の友人ーーロベルト・デスメント公爵令息が姿を表した。
彼は王太子と平民女ごときに胸に手を当て恭しく辞儀をすると、私ににっこりと微笑んだ。
「第二の親として、我が父の公爵家が養女に迎えます。彼女はすでに僕の義理の妹です」
公爵令息の姿を見て、平民女は、ほっとしたように微笑む。
見つめ合う二人は、ようやく巡り会えた生き別れの兄妹かとみまごうほどに親密に見えた。
「王太子と結婚するために、わざわざ養女にですって……? この国は世も末だわ」
「世も末なのは君の想像力のなさだ」
王太子は呆れたふうに言う。
「彼女の実家の所有する大農園で品種改良された林檎、その成分を使った薬品が、王家の病にも効くとして研究が進んでいる」
「な……そんな、出来すぎているわ」
「できすぎている? 平民でこの学園に入学できるだけの才女の実家が、ただの凡愚なわけがないだろう。……血筋頼りでこの学園に入学できた、どこぞの貴族とは違う」
「なっ……」
王太子と義兄となった公爵令息で両脇を固めた平民女。
桃色の下品な髪色。王家にふさわしくない、小柄でコルセットをつけたこともない肉体。
あまりにも不恰好で、場にそぐわない、愚かな女。
それが、全ての人々の目の前で、王太子に膝をつかせている。
「さあ、……どうか、僕の心を受け取ってくれるかい?」
王太子は懇願する。
平民女は袋を口から離すと、王太子のプロポーズに答えるように、見事な辞儀を返した。
「あ……」
今まで私が見たこともない、あまりにも完璧な、堂々たる辞儀だった。
ーー嘘でしょ?
ーーあれだけ、辞儀も挨拶もできない、田舎者の平民女、だったのに……?
王太子に選ばれし彼女は、頬を少し赤らめ、恥ずかしそうに美しく微笑んだ。
「私でよろしければ……謹んでお受けいたします」
そして彼女に、温かな拍手が響き渡る。
私は涙を流していた。
「どうして。……どうして、こんな屈辱的なことを……」
膝からくずおれた。泣いた。
そして平民女と手を取り合う、王太子に縋った。
「殿下。私が悪いのならば、そうおっしゃっていただければ改めましたのに。どうして、こんな、人前で恥をかかせるのですか?」
王太子は笑った。
爽やかに。
「な? 自分がやってきたことの愚かさ、ようやく身に染みてわかったかい」
◇◇◇
その後、ルージェリッタ・エルリアス公爵令嬢は泣き叫び、引きずられながらホールを後にした。
卒業記念パーティは無事に王太子と新たな婚約者の祝福の場となり、皆はすっかり盛り上がった。
ルージェリッタのことは皆忘れ、浮かれ騒いでいる。
私ーーココ・フリーシアダース改めココウェット・デスメント公爵息女は、王太子と共に学園の休憩室へと入った。二人きりになった途端、王太子は私を熱く抱擁して労った。
「怖かっただろう、ココ。よくがんばったね」
「ううん……ありがとう。殿下」
私はルージェリッタの苛烈ないじめにより、人前に出ると否応なく過呼吸を起こしてしまう。
王太子は断罪の場に立ち会わなくても良いと言ってくれていたが、健気な私は立ち会うと言った。私は奪う側、その責任として、ルージェリッタ様と向き合わなければならないんですーーと言って。
だってあのクソ女が青ざめて断罪されていく姿なんて、見ないと勿体無いじゃない。
「ココ。すまないが僕は挨拶がある。君はここでゆっくり休憩してくれ」
「わかりました。でも大丈夫。少し休んだら……すぐに私も手続きに取り掛かります」
「健気だ。愛しい僕のココ」
王太子は私の手の甲に口付けると、名残惜しそうに部屋を後にした。
今後の忙しい手続きや準備のためだ。
王太子が去った後、私は伸びをしてやりきった息を吐いた。
「はー……終わった終わった」
ロングソファーにどっかりと座り、パンプスを放り投げ、足を組んで肘をつく。
「ふふ……よくがんばったわあ、あたし」
私は冷たい目で笑う。全てはーー愚か者への復讐であり、野心の成就だった。
「ざまあをやるのは高貴な令嬢様の専売特許じゃないのよ、今時は」
私も、最初はごくごく真っ当な、夢を抱いて学園にやってきた無邪気な平民女だった。
しかしルージェリッタとその取り巻きに「教育」と称して徹底的に虐められ、同じ平民仲間だった友達が次々に学園を後にして以来、野心と復讐心に火がついた。やってくれるじゃねえか、と。
彼女の生家の教育方針、人生のモットー。
ーー人事を尽くして天命を待つ。やられたら徹底的に尊厳をむしりとれ。
彼女はいじめられたその瞬間から、全てをルージェリッタ公爵令嬢から奪い取ることを決めた。
もちろん、ただの一介の平民娘には無謀な挑戦だった。
しかし裸一貫から成り上がった父の厳しさ溢れた教育により、彼女はとことんまで負けず嫌いで野心家で、奪う側の猛獣に育っていた。
「なぁにが妃候補様よ。なぁにが貴族よ。平民風情が、よ。同じ学園で学ぶような社会になってんだから、風向きは変わってんのよ、ばぁか」
自分はルージェリッタがバカにする通り、どうせ失うものがない平民だ。
ここを追放されようが、どうなろうが、少なくとも地元に帰ればどうにかなる。しかし貴族はそうはいかない。
その身動きの取れなさを利用した。そして練習台にしたのだ。人心掌握の。
「そもそも王家なんて、別に妃なんてなんだっていいと思ってんのよ。特に血が濃くなりすぎて、病弱な子供ばっかりが生まれては死んでるんだから。ここは農家育ちのタフな体よ、ふふ」
私はケラケラと笑う。
当然、魔術で防音と施錠はバッチリだ。
現代では魔術師以外の行使は禁忌となっている魔術も、田舎では民間療法や土着宗教と一緒に断片が散りばめられている。それらをかき集めて、王都の学園で図書館で資料を当たりまくればーーこれくらいは、当たり前のようにできるようになった。
王太子にちゃっかり『実は魔術が使えるんです』と了解をとっているので、これくらいならお目溢しもバッチリだ。
「公爵令嬢ですって! 妃候補ですって! 笑っちゃう。ただの繁殖用のメスと変わりないのに。まあそれを言っちゃうと、王太子殿下も私も変わんないんだけどね。……結局あの女、周りの言葉に騙されていたのね。綺麗事を素直に受け止めていたのね。その間違いを、気づかせてくれる人はいなかったのね……ふふ。可愛い人」
故郷では家畜の世話をしていた私には、貴族は全て繁殖用の存在にしか見えない。あちらは平民を家畜と思っているようだけど、お互い様だ。
私は何も失うものがない無敵さで、とにかく人に嫌われないように意識した。心がまだ柔らかい学生たちの罪悪感や正義感をくすぐった。そして公爵令嬢を意図的につけ上がらせ、「ココちゃん可哀相」の材料にした。
王太子を籠絡するのは簡単だった。
どんなにかしこまっていても、所詮彼も健康的な男子。体は正直だ。
密室に閉じ込めて「出られませんね」なんてへへへ、と笑っておけば、自然と勝手に、自分がオスであることを思い出す。
ーー間違いを犯してしまった人間が次にすることは何か。己の暴走の正当化だ。
自分は王太子だ。その場の空気に流されて腰を振ったりしない。
自分は何も間違っていない。王太子なのだから、間違いのはずはない。
そうだ、僕は平民ちゃんを愛していたから抱いたんだ。
これは真実の愛だ。
そう思ってしまえば、後は簡単。
自分にとって不都合な女は邪魔になるし、正当化のために私をなんとか妃にしたいと画策するだろう。
私は王家の病の情報を集め、その病の薬草を地元でとにかく作ってもらった。
地元では数世代前の王侯貴族が魔女狩りで迫害した女薬師の末裔が脈々と残っている。彼女たちの知恵を借りれば、王家の病の回復法も一発だった。
そして、王家は王家として、平民女とデキてしまった息子が『とち狂った』と思いたくない。
無事に健康に育った貴重な一粒種、大切な大切な王太子殿下だ。
その息子さんが選んだのが、健康で明るく実家も太く、薬まで持ってくる平民女ならーールージェリッタなんて、用済みだ。
根回しのおかげで、学園での彼女の悪評は貴族社会でも広まっていた。
評判が下がってきたルージェリッタ公爵令嬢が妃になるのも、色々とまずい状態に至っていた。
「『人は正論では動かない。正しい情報でも動かないーー』」
私は、地元の教会の神官が屋敷での飲み会で管を巻いていた内容を誦じる。
「『信じたいものを信じる。愛したいものを愛する。そのためなら、黒も白になる。理屈だって簡単に変わる』……そのために宗教があるんだって、神官様が一番言っちゃいけないことよね」
もちろん、これで将来120%安泰なんて思っちゃいない。
私は、あの愚か者とは違うのだから。
これからは平民初の王太子妃になるにあたって、辛いことも多いだろう。
決まってしまったからには、馬鹿にしてきた辛い妃教育も待ち受けている。
平民の田舎育ちとして、いびりだってそれなりにあるだろう。
けれど私は不思議と怖くない。元々はどうせ農家の平民の娘。何も失うものがないのだから。
「人事を尽くして、天命を待つーーよ」
どこまでもチャレンジして、やってみるしかない。
両親だって己の手腕一つで、大農園の主人になったんだから。
「ココ」
ドアが控えめにノックされる。
私は足をおろして膝を揃え、にっこりと美少女スマイルを作って「どうぞ」と言う。
顔を出したのは騎士の子息、デイビスだった。
「そろそろ……良いだろうか」
デイビスはガタイが良くて短く刈り込んだ赤毛が印象的な、けれど瞳はオドオドとした可愛らしい男だった。
彼の窺うような眼差しに、私はにっこりと笑う。
「ええ、そろそろ行っていいわよ。あなたが兄に後継として勝つために、ルージェリッタ公爵令嬢をたらし込む必要があったのは知ってるから」
「ありがとうココ。……俺が後継になったからには、君の後ろ盾になるよ」
「頼もしいわ」
彼は去っていった。きっともうすぐ、パーティ会場の片隅で泣きじゃくる失意のルージェリッタ公爵令嬢の元に、都合の良い溺愛の騎士令息がやってくるだろう。しっかりラブロマンスに落ちて、私に対する怨嗟を忘れてほしい。
「うまくやれよ、デイビスくん?」
私は心からの激励をその背中に向け、誰も見ていない場所で手を振った。
入れ違いにこちらに早足でやってくる足音は、愛しの王太子様だ。
「殿下……!」
私は立ち上がり、徹底的に叩き込んだ姿勢をとる。
開く扉に向けて、か弱く可憐な美少女スマイルで微笑んだ。
「どうなさったのですか、王太子殿下?」
「デイビスがこちらに来たから、不安になったんだ」
「嫉妬してくださるのですか? 殿下」
「当然だ。……君はとても魅力的で聡明な女の子なんだから」
「ああ、殿下……」
私を抱きしめる王太子。
私は背中に腕を回し、高貴な香りのする体臭を、肺いっぱいになるまで吸い込んで答えた。
「私はあなただけのものですわ。王太子殿下ーー」
もしよろしければ……!
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また『ハリボテ聖女』
『婚約破棄だ、発情聖女』2巻とコミカライズ1巻
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