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6/10

6話・守ったのになぜ

・前回のあらすじ


 ゴール地点に地雷があった。



 ぶっつけ本番ながらも九分九厘うまくいっていたはずだった。

 しかし事態は急転化を迎えている。


 一世一代の口説き文句が最後の最後でまさかの超NGワードに触れてしまい、ふりだしに戻るどころか、奈落の底へ叩き落されてしまった。

 パティシエの努力が生み出した塔のように巨大なケーキをお客様の元に運んでいたら足をつまづいて一巻の終わりという心境である。 



「言い訳してもいい?」


「したところで納得すると思いますか?」


 うん、思わない。


「やり過ぎたのは否定しない。でも、馬鹿にはしなかった。本当だよ。そこだけは理解してほしい」


「もてあそんで楽しんだくせに」


「そうだね、楽しかった」


 言うや否や、綾羽ちゃんの背後から、可視化するほどの勢いで殺意が炎のように吹きあがった。


「結果はどうあれ、自分と勝負できる『誰か』がいるなんて思ったこともなかったから、ついはしゃいでしまったんだ」


 真摯な言葉。


 綾羽ファイアーの勢いが弱まる。

 ランダムに振られていたギロチンの動きが止まった。


 ここからが正念場だぞ、僕。

 自分ならやればできる。全身全霊で篭絡するんだ。


「……嬉しかったんだよね。あのレベルまで自分を磨いてる子がいたなんて。正直、偶然の出会いじゃなくて必然だったのかなって疑いたくなるくらい、運命的だった」

 

 畳みかける。


「君にとってそれは、ぬぐえないトラウマなのかもしれない。でも、僕には、いまだに色あせない大事な思い出なんだ。綾羽ちゃんが、魅力的で元気いっぱいで気高かった、キラキラ輝く宝石みたいな笑顔を向けてくれた、あのほんの短い時間がね」


 ここで、あえて黙って反応を待つ。





「……ホントに?」



 ………………………………やった!

 ついに食いついてきた!


 諦めないで頑張り続ければ、きっと願いは叶う。

 若者や夢追い人への無責任な焚き付けに過ぎない言葉だと思ってたけど、案外そうでもないんだなぁ……。


「嘘かどうか知りたいなら、こっちを見てよ」

 

 その誘いを受けて、綾羽ちゃんがうつむき加減の顔をあげ、僕の目を見る。

 不安と期待の入り混じった瞳。


 どうか信じさせてほしいとすがり付くような彼女の視線を、真っ向から受け止める。

 ここまできたら、余計な小細工はいらない。

 ただ、目を合わせ、綾羽ちゃんのささくれた心を慈しんであげるだけだ。



 そうしていると、綾羽ちゃんが顔をそらし、


「……あげる」



「え?」


「許すかどうかは別として……せーる君のこと、信じてあげるね」


 そう言うと、綾羽ちゃんはそらしていた顔をこっちに向ける。

 嬉しそうな、それでいて困ったような笑みを見せてくれた。



 よし、よしよしよしよし!


 勝った!

 ついに綾羽ちゃんを倒したぞ!


 歓喜する僕の脳内で、伝説的なボクシング映画で使われていたあの勝利BGMが大音量で流される。

 感無量だ。

 ただ、許してくれなかったのが、喉に刺さった小骨のようにひっかかるが……それは不発弾ではなく、しけって使い物にならなくなった花火だと願いたい。


「信じてくれて嬉しいよ。やっぱり綾羽ちゃんは、怒ってはいても、僕に優しいんだね」


「こら、もう喉元過ぎたの? すぐそうやってからかうんだから」


「ははっ」


「悪戯っぽいところは治らないのね、もう」


 そうやって和やかに軽口の叩きあいをしてると、やっと小便小僧が応援を引き連れてきたらしい。

 いくつもの種類の足音が近づいてきた。





「ご無事でしたか」


 建物の外からようやく駆けつけてきた男性の一人が、特に目立った外傷のない私を見て、安堵のため息をつく。


「余計な心配をかけましたね。ところで風間君は?」


「ご安心ください。今は建物の外でご家族と連絡を取られています。携帯越しにだいぶ絞られているようですが……っと、これは失言でした」


 まあ、仲間をほっといて逃げれば、それくらいのお灸を据えられて然るべきか。


「そうですか、朗報をありがとう」


 洋館内にただよう澱んだ邪気の浄化や、大きな赤ちゃんとなった賤ヶ岳先輩の搬送といった後始末が始まりだした。

 私もこれで自宅へ戻ることにする。


 つくづく激動の夜だった。


「本当にお怪我はありませんか?」


 白いフードですっぽり身を包んだ女性が、そう尋ねてきた。

 見ればわかることなのだが、聞かない訳にもいかないのが仕事というものだ。


「あのくらいの邪鬼を相手に、怪我などするはずがありません……と、言いたいところですが、彼が助けてくれなかったら少し危ういところでした」


「彼とは?」


 一同が怪訝な顔をする。


「? 見てわかりませんか? 先ほどから、ここに──」


 と言って、私は首をかしげる術者の方々に聖流君を紹介すべく、彼のほうに手を向けたのだが。



「…………せーる?」



 ──全く私に感知させることなく、彼はいつの間にか忽然と消えていた。



 ……はぁ。

 せめて何か一言くらい、言って立ち去りなさいよね、馬鹿せーる。


 それと…………守ってくれて、ありがと。

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[良い点] のほほんとした感じが最高 [一言] 続きはまだなのでしょうか?
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